【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第446話【温情と追放】

「お義母さん待って。彼女は今、お父さんの子供を妊娠してるの」

 

「……………………………………………………なに?」

 

 レミーベールからとんでもない一言が出てきて、さすがのカティアも長い沈黙からやっと声を出した。

 

「アグリスのお腹に赤ちゃんがいるの」

 

「赤、ちゃん……?」

 

 レミーベールはアグリスのお腹を指差している。

 アグリスがゼクードの子供を身籠った?

 あのゼクードがアグリスに手を出した?

 

 たしかに女にダラしないところはあるにはあるが、そんな下品なことをする男ではない。

 当のアグリスもどこか弁解を諦めているような顔をしている。

 

 察するにこれはレミーベールが勘違いしている可能性が高い。

 

「コイツはたしかに罪人だが、お腹の赤ちゃんに罪はねぇ」

 

「は、はぁ……」

 

 ……どうやらレイゼ女王もアグリスの妊娠を信じているようだ。

 まったく……ゼクードはああ見えてかなり一途な男なんだがな。

 

「で、だからアグリスを助けたんですか?」

 

 カティアが聞くとレイゼは首を振った。

 

「逆だ。助けられたのはオレたちの方なんだよ」

 

「え?」

 

「コイツがオレたちを牢から出してくれた。コイツがいなかったらオレたちはまだ牢の中に居ただろうな」

 

 それこそ妊娠の件より信じられなかった。

 アグリスの動機が分からん。

 何なんだコイツは?

 

 カティアは怪訝な顔でアグリスを見ると、その彼女と目が合った。

 

「聞いたでしょ? 私が命懸けで助けたんだから」

 

「馬鹿者が……それでお前の罪が消えるわけではないんだぞ。この尻軽女め」

 

「なっ! 尻軽ってなによ!」

 

「お前の目的はなんだ? レグから何かしらの指示を受けているんじゃないだろうな? 例えばここ【ヨコアナ】の場所を探れとか」

 

「そんなわけないでしょ! 私はレグに忘れられたの! だから……ゼクードのとこに戻ろうと思ったのよ」

 

「さすが竜の心臓で動いてるヤツは言うことが違うな。尻軽な上に図々しい。恥を知れ外道が」

 

「この! 言わせておけば!」

 

 今にも取っ組み合いが始まりそうなカティアとアグリス。

 そんな二人に割って入ったのはレミーベールだった。

 

「やめて二人とも! こんなところでケンカしないで!」

 

「レミー……コイツは敵だ。またすぐ裏切るぞ。今ここで処分した方がいい」

 

「だからお腹にお父さんとの赤ちゃんがいるんだってば!」

 

「それはお前の勘違いだ」

 

「え?」っとレミーベール。

「どういうことだ?」っとレイゼ。

 

「レイゼ女王。ゼクードはそんな下品な男ではありません。あいつがそんな姿を見せるのは私やローエ・フランの前だけです。ああ見えて一途な男なんですよ」

 

 カティアの意外な言葉にレミーベールとレイゼが目を丸くした。 

 そんな二人にカティアは続ける。

 

「あと時間的にもかなり無理があります。私はすぐにゼクードと合流しました。その前にアグリスも居ましたが、その時に手を出していたとしても、さすがに妊娠の発覚が早すぎます。まだ一週間ほどしか経ってないはずです」

 

「え!? じゃあアグリスあなた……妊娠してるのは嘘なの!?」

 

 驚愕するレミーベールにアグリスは呆れ顔で答える。

 

「嘘じゃないけど、ゼクードとは関係ないって言ったでしょ」

 

「なんで嘘つくのよ!」

 

「アンタが勝手に勘違いしたんでしょうが!」

 

「じゃあそのお腹の子は誰との子なのよ!」

 

「だからドレスだってば!」

 

 ん? 

 ドレス?

 ドレスって女じゃなかったか?

 

 そういえばゼクードが言ってたな。

 アグリスとドレスが一緒に全裸で寝てたって。

 しかし女同士で子作りは不可能だ。

 

 しかもあの時に種を仕込まれたと言うのなら妊娠の発覚はそれこそ早すぎる。 

 妊娠がそもそも嘘なんじゃないだろうか?

 何もかも辻褄が合わない。

 

 全ては助かりたい一心でついた嘘なのでは?

 

「おいアグリス……お前本当は妊娠なんてしてないだろ?」

 

「え?」

 

「何もかもに辻褄が合わん。妊娠したと嘘をついて女王様とレミーを味方につけた。違うか?」

 

「ああ? てめぇそれ本当なのかこの野郎?」

 

 レイゼに睨まれたアグリスは冷や汗を流しながら必死に首を振った。

 

「ち、違うの! 妊娠してるのは本当なの!」

 

「じゃあ誰との子なんだそりゃあ? ゼクードじゃねぇんなら誰なんだよ? またレグだのドレスだの言うのは無しだぜ?」

 

「……っ!」

 

 先にレイゼにレグとドレスを封じられ、アグリスはいよいよ何も返せなくなった。

 

 誰もがアグリスを疑いの目で見る中、しばらく沈黙した。

 すると意を決したようにアグリスは顔を上げ、口を開いてきた。

 

「本当に……ドレスとの子供なの」

 

 全員が呆れた。

 溜めに溜めた言葉がそれとは。

 あまりに惨めな嘘をつくアグリスに、カティアは憐れむ目を向けた。

 

「またそれか。命が惜しいのは分かるがもう少しマシな嘘をつけ」

 

「本当なのよ!」

 

「女同士で子を成せるか馬鹿者! ふざけるのも大概にしろ!」

 

「ふざけてない! 本当に本当なのよ! ドレスの身体は男になってた! 私……抱かれたの! ドレスに!」

 

 何を言い出すのかと思えば……

 今度はドレスの性転換か。

 想像力が豊かな女だなコイツは。

 

「ドレスは一回死んだみたいなの。でもレグに血を分けてもらって蘇生したらしいわ。それで身体が男に変異したみたいなの」

 

 アグリスの言葉にレミーベールが口を出す。

 

「本当に? あなたと一緒にいたドレスはどう見ても女の身体だったし、女の顔だったわよ?」

 

「外見はね。でも股間に付いてたのよ。男の……その、ァ、アレが」

 

 顔を真っ赤にして言うアグリスに、レミーベールも釣られて想像して赤くなった。

 レイゼとカティアは平然としていて赤くなどなっていない。

 むしろ溜息を吐いている。

 

「妄想妊娠野郎が。時間の無駄だな。なぁカティアさん。コイツはここで処分しといた方がいい」

 

「そうですね。レミー。大剣を貸してくれ」

 

 妄言に付き合ってられないとカティアはレミーベールに手を差し出した。

 それを見たアグリスは青ざめる。

 

「ちょ! ちょっと待って! 妊娠してるのは本当なのよ! せめてドレスの身体を確認してから判断してよ! そしたら嘘かどうか分かるでしょ!?」

 

「黙れ。そもそもお前を生かしておく理由が我々には無いんだ」

 

「そんな……!」

 

 レミーベールから大剣を譲り受けたカティアがアグリスに迫る。

 

「我々がエルガンディに帰還できたのはお前のおかげだ。そこだけは礼を言っておこう。だが! お前たちディアマード家がやったことは到底相殺仕切れない」

 

 一歩。

 また一歩と。

 カティアは大剣の切っ先を突きつけながらアグリスに肉薄していく。

 

 アグリスは後退った。

 すると間もなく背中に壁が当たった。

   

「や……やめて! 変身して暴れるわよ! いいの!?」

 

「やってみろ。変身する前にお前の首を落とす」

 

 すでにカティアの間合い。

 大剣のリーチも合わさって、カティアの言葉が嘘でないことが分かった。

 みなぎるカティアの殺気は本物で、見ているレイゼとレミーベールも助けてくれる様子はない。

 

 ダメだ……殺される……

 

 血の気が引いたその時。

 

「やめろ!」

 

 突如として響いた声。

 それは先程のグリータという男のものだった。

 アグリスを庇うようにカティアの前に立ち塞がったグリータ。

 そんな彼にカティアは驚く。

 

「グリータ団長!? なぜ庇うんです! そいつは敵で罪人ですよ!」

 

「そんなことは分かっている。だがここヨコアナで騒動を起こしてくれるな。みんな心身ともに疲弊しているんだ」

 

 グリータの言葉にレイゼが怪訝な顔をした。

 

「だったら尚の事だろ? こんな危険人物……処分しておいた方がいいぜグリータ団長。被害が出てからじゃ遅いんだぞ」

 

「……彼女のことは聞きました。最高戦力であるゼクードを帰還させたこと。エルガンディの指導者アスレイ陛下を救出したこと。この二つの事を踏まえ……アグリス・ディアマード。お前にはここから出て行ってもらう」

 

「え!?」

 

 アグリスが驚き、レイゼが前に出てくる。

 

「おいおい! 誰が決めたんだよそれ!」

 

「アスレイ陛下です。これが我々に出来る精一杯の対応だ。さっさと出ていけアグリス」

 

「ま、待ってよ! 出ていけって言ったって! 今さらどこに!? 他に行く宛なんてないわよ私!」

 

「ならば野垂れ死ね。それがお前の罪だ」

 

 あくまで冷酷にグリータは告げた。

 決してアグリスの味方をしているわけではないという声音。

 年上の男の睨みは凄まじく、凄みと迫力を見せられたアグリスは息を呑んだ。

 

「グリータ団長。お言葉ですが、この女は尻軽です。ここを追放されればまたレグの元に戻るだけでしょう。今ここで仕留めておくべきです」

 

「カティアさんの言うとおりだぜ団長」っとレイゼ。

 

「陛下に言ってください。……念のために言っておきますが陛下も彼女を許しているわけではありません。だが現状、ゼクードを帰還させ、陛下や女王を救出できるキッカケを作ったのは彼女です。逆転の芽が生えてきたのは彼女のおかげなのは間違いない。だから『殺すのは勘弁してやるから二度と我々の前に姿を現すな』ということだ。わかったか? アグリス・ディアマード」

 

「そ、そんな……」

 

「出口はあっちだ。今すぐ出て行け」

 

「で、でも……」

 

「早くしろ! 殺されたいのか! 陛下の温情があるうちに出ていけ!」

 

 グリータのとんでもない怒声にアグリスが全身をビクつかせた。

 彼のこんな怒声を聞いたのは初めてだったレイゼ・カティア・レミーベールも驚く。

 

 アグリスは何度か口をパクつかせたが声が出ず、涙目になりながらヨコアナの出口に手を掛けて外へと出て行った。

 

 罪人アグリスを見送ったレイゼは溜息を吐く。

 

「……いいのかよグリータ団長? あの尻軽女は絶対にレグのとこに戻ってヨコアナの場所を喋っちまうぜ?」

 

「それでいいんです。陛下もそれは予測済みです」

 

 グリータの返しにカティアは目を丸くした。

 

「どういうことです? 予測しているのなら何故?」

 

「その事について陛下から話があります。レグは『ここヨコアナで迎え撃つ』と」

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