【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第447話【みんなで立ち向かうために】

【ヨコアナ】を追い出されたアグリスは、真っ暗闇の外を孤独に歩いた。

 涙で濡れた目元を拭いながら鼻をすする。

 夜空を見上げると、無責任に綺麗な星たちが見えた。

 

 いつかディアマード家のみんなと見た夜空だった。

 あの時はお父様とお母様たち。

 そしてレグやドレスたちと楽しく談話しながら見ていた。

 

 今は……一人孤独に見上げている。

 もはや帰る場所もなく、頼れる身内もいない。

 

 なんとかエルガンディに縋ろうとしたが、カティアやレイゼは自分を殺す気だった。

 しかもあのグリータという男に凄まじい殺気で怒鳴られ、恐怖で身が凍った。

 

 なぜあのグリータという男はあんなにも自分に殺気を?

 自分はあの男に何かをした覚えはない。

 それだけ仲間想いの男なのかもしれないが。

 

「ドレス……」

 

 最後の寄辺である彼女の名を呟いた。

 彼女もゼクードと同じくエルガンディ王国に残って戦っている。

 あれからかなりの時間が経過しているがドレスとゼクードは無事なのだろうか?

 

 ヨコアナからエルガンディまではそんなに遠くない。

 今から向かえば、もしかしたら助けられるかもしれない。

 でも……レグにはレミーベールたちを逃がしたことがバレている。

 

 エルガンディに向かってまたレグと遭遇したら殺されるかもしれない。

 

 ……いや、でもレグは自分を貴重な【竜ノ苗床】だと言っていたから殺されることはないかもしれない。

 

 それにもしかしたらゼクードとドレスを助けられるかもしれないし、ゼクードを助けられたらヨコアナに戻るのを許してくれるかもしれない。

 

 あのグリータの口ぶりからして最高戦力であるゼクードを帰還させたことが減罪に繋がっていた。

 ならばもう一度ゼクードを救出してやれば!

 

「……っ! もうこれしかないわ!」

 

 新たなる希望を見出したアグリスはドラゴンへ変身し、翼を広げてエルガンディへ急行した。

 

 

 重傷だったネオはヨコアナの医療室に運ばれ、そこで手当てを受けて安静にしていた。

 するとネオは誰かの気配を感じ、両手にぬくもりも感じて目を開けた。

 

 まどろみが視界を覆っていたが、次第に透き通っていった。

 見慣れない天井にはランプが垂れており、石が埋め込まれた土の壁が見える。

 

 ベッドで横になっているネオを二人の影が覗いていた。

 それは幼馴染のロジェールとエルジーだった。

 目を覚ましたネオに二人は安堵したように顔が明るくなる。

 

「ネオ……大丈夫?」

 

 ネオの右手を握りながらロジェールが言ってきた。

 エルジーもネオの左手を握りながら聞いてきた。

 

「大丈夫ですかネオ?」

 

 手から伝わるぬくもりはこの二人のものだったらしい。

 二人の手はビックリするほど柔らかく、ロジェールとエルジーが女の子であることをネオに思い出させた。

 

 そうだった……こいつら女だったな……

 なんて柔らかい手だ……

 鍛錬が足りてないんじゃないか?

 

 明らかに場違いな感想を抱きつつ「ああ、大丈夫だ」と掠れる声で返した。

 全身が痛いはずなのに、エルジーとロジェールの手のぬくもり、そして甘い女の香りを感じて痛みが和らいでいる気がする。 

 不思議と悪くない気分だった。

 

「無事で良かったよネオ。本当に……」

 

 ロジェールが涙目になりながら言ってきた。

 大袈裟だなと思いつつ、エルジーも涙目になっているのに気づいてギョッとなった。

 

「本当に……良かった……あなたが生きていて……」

 

 ネオを挟んで両脇のロジェールとエルジーが涙を流す。

 ネオにとっては異常事態だった。

 なんでこいつらはこんなに泣いているんだ?

 

「……大袈裟だな。そんなに、泣くほどのことか……?」

 

 本当に大袈裟な幼馴染二人に呆れながら言うと、エルジーが口を開いてきた。

 

「あなたがレグにやられた時……目の前が真っ暗になりました。あの時はあなたが死んでしまった様に見えたんです。それが辛くて、怖くて、悲しくて……どうにかなってしまいそうでした」

 

 あのエルジーが大粒の涙をポロポロと零しながら伝えてきた。

 左手を握る彼女の手がキュッと強くなる。

 それが彼女の言葉が本当であることを伝えていた。

 するとロジェールの手もネオの右手を強く握ってきた。

 ロジェールもまた涙を隠さない。

 

「これからレグに支配されるとか、そんなのじゃなくて、ネオが死んじゃうのがあのとき一番怖かった……」

 

 ……いったいどうしたのだこの二人は?

 僕が死ぬことが一番怖かった?

 何故だ?

 僕よりもゼクードさんやカーティスがやられてしまうことの方がよっぽど怖いだろうに。

 

「だからネオが生きてて本当に良かった。死んじゃってたら……わたし……わたし……」

 

 ロジェールは涙声でネオの胸に自分の頬を乗せた。

 ネオのぬくもりを確かめるように。

 さすがに驚いたネオだが、エルジーまで同じことをしてきた。

 

「ぉ、おい……」

 

「私もネオが生きてて本当に嬉しいです。どうか……少しだけ、このままでいることを、許してください……ネオ」

 

「ど、どうしたんだお前たち? 変だぞ? いつもと違う」

 

 ネオがそう言うと、ロジェールはゆっくりとした口調で返した。

 

「いつもと違う……か。そうだね……今まではただの友達だと思ってたから」

 

 ロジェールの言葉にエルジーも小さく頷く。

 

「違いますね。今の私たちは……ネオ……あなたの事が……――――」

 

 

「おいみんな! たった今アスレイ陛下が救出された! ここヨコアナに帰還されたらしい!」

 

 ヨコアナにある武器庫に飛び込んできたのはアルベールだった。

 その声を向けられたのはバリスタをイジるリイドと、その兄弟のレグナ。

 他にもランプに照らされた数名の騎士たちがいて、みんなアルベールの言葉に驚いて視線を集中させる。

 

「マジかよ! 他は? カーティスとネオは!?」

 

 レグナが聞くとアルベールは頷いて返した。

 

「共に帰還した。瀕死の重傷だが一命は取り留めた。いま医務室に運ばれて安静にしている」

 

「父さんや陛下たちに怪我は?」っとリイド。

 

「ない。聞けばゼクードさんがエルガンディに帰還して、あのレグを引き付けてくれたらしい。おかげでみんな無傷でエルガンディを脱出できたそうだ」

 

「ゼクードさんが帰還してたのか! 良かった〜! それならまだ希望は持てそうだな!」

 

 数名の騎士たちの一人ローグが嬉しそうに拳を握った。

 しかし「どうだろうな……」というアルベールの暗い返しに「どうしたんだ?」とローグは聞き返す。

 

「グリータ団長が言っていた。そのゼクードさんは今この瞬間もレグと戦っているらしい。いくらゼクードさんでもあのレグを振り切れるとは思えない。無事に生還できる可能性は極めて低い、と……」

 

「あの親父が? 嘘だろ?『ゼクードなら何とかしてくれる!』ってすぐ思考停止になるあの親父だぜ?」

 

「レグナ。父さんは凄く冷静だよ。今回ばかりはゼクードさんだけじゃどうにもならないって分かってるんだ。ネオとカーティスがやられた時点で結論は出てるんだからね」

 

 またもバリスタ弄りを再開したリイドが言う。

 言われたレグナは「ちげぇねぇ」と肩を竦めた。

 そしてまだ傷の治り切っていない身体を椅子に座らせる。

 

 リイドもまだ傷は完治していないのだが、レグが現れ、カーティスとネオがやられてからすぐにこのバリスタをイジり出した。

 

「お前はそのバリスタで何しようってんだ?」

 

 レグナの問いに「バリスタは調整中」とリイドは即答した。

 果たして、彼の片手に特殊な形をしたバリスタの矢が握られていた。

 リイドはそれを高らかに持ち上げ、アルベールやローグたちの視線を集める。

 

「この【エリザの矢】は母さんに頼んで作ってもらったオリハルコンの特注品。矢の内部に【エリザの血】が内臓されていて、これが敵に当たると内部で【エリザの血】が破裂するんだ」

 

「なるほど。それでレグに【エリザの血】を撃ち込んで弱体化させる、と。また凄いのを考えたなリイド」

 

 アルベールが腕を組みながら感心した。

 リイドはニコッと笑顔で返し、矢を下げてバリスタの調整に戻った。そして言う。

 

「設計図さえ作れば母さんは何でも錬成してくれるからね。頼りになる母さんだよ。本当に」

 

 リイドの母リーネはオリハルコンを錬成できる希少な錬金術師。

 彼女に頼めばどんなものでも錬成できる。

 特に設計図さえあればイメージの助けとなり、要望通りの部品も錬成してくれる。

 

「でもよ。その……なんだ……【エリザの矢】? オリハルコン製ならどうやって破裂させるんだ? そもそもどうやって当てるんだそれ? あんな目で追えねぇくらい速い相手に」

 

 レグナが問題点を口にすると、武器庫の扉が開いた。

 

「それは私が説明しよう」

 

 中に入ってきたのはこの場に似つかわしくない上位人の面々だった。

 

 アスレイ陛下。

 レイゼ女王。

 リベカ大臣。

 ガイス領主。

 他の領主も二人。

 

「へ、陛下!?」っとレグナ。 

「女王さま! 母さん!」っとローグ。

「ご無事で何よりです!」っとアルベール。

 

「ああ。心配かけてすまなかったな。それよりレグの件だが、ヤツはここヨコアナで迎え撃つ」

 

「ここで!?」

 

 驚くみんなを代表してアルベールが言うと、アスレイは深く頷いてみせた。

 

「グリータ団長らにも話はつけた。そしてレグを誘き寄せる餌も撒いた。いつか必ずヤツはここへ来るだろう。敵を懐に入れるのは非常に危険だが、広い場所での戦闘はヤツの有利にしかならない。一本道の狭い場所に誘い込んでヤツのスピードを殺し、リミッターを外した魔法大砲の最大火力を叩き込む」

 

 そこまで言い切り、しかしアスレイはバリスタに目をやった。

 

「……そのつもりだったが、リイド。グリータ団長から聞いたが、何かしらの案があるそうだな?」

 

「はい陛下。その作戦にはこれを使ってください。【エリザの矢】です」

 

 立ち上がったリイドが【エリザの矢】を見せる。

 

「うむ。魔法大砲よりもそちらの【エリザの矢】の方が勝てる可能性がありそうだな」

 

「はい。しかし問題も山積みです。この【エリザの矢】はバリスタで撃つことになります。当然、弾速は大砲に比べてかなり遅くなります。それをあのレグにどうやって当てるか」

 

「ふむ……優秀な狙撃手が必要だな」

 

「ならフランベールさん一択だろうな。あの人なら絶対に外さねぇ」

 

 レイゼが自信満々にフランベールを推した。

 フランベールの狙撃技術の高さは聞いたことがある。

 アスレイもこれにはすぐ納得して頷いた。

 

「では彼女に一任しよう。伝えておいてくれ。……他の問題点は? リイド」

 

「レグの竜鱗を突破するだけの貫通力が必要です。当てるだけではダメなんです。当てて、突き刺さって、そのまま矢を破裂させ、ヤツの体内に【エリザの血】を流し込む。そこまでしてようやくレグ討伐への第一歩が踏めます」

 

「貫通力か。具体的に何が必要なんだ?」

 

「より洗練された【気】です陛下。それもカーティスやネオ……それこそゼクードさん並の……いや、それ以上の【気】が必要ですね」

 

「そんな! 現時点でゼクードさん以上の【気】なんて誰も使えませんよ」

 

 リベカが言うとリイドはすぐに返した。

 

「その通りです。ですので【気】はカーティスかネオかに担当してもらいます。彼らの回復を待ちましょう」

 

「おいおいリイド。それじゃ問題が解決してねぇぞ? カーティスとネオの【気】でもレグの竜鱗は抜けないだろ? 現に効いてなかったんだしよ。二人の斬撃」

 

「わかってるよレグナ。ですから陛下。闇魔法の使い手を一人用意して欲しいです」

 

「闇魔法の使い手? まさか……【限界突破付加(オーバーエンチャント)】か!?」

 

「はい。この【気】を纏わせ、さらにその上に【限界突破付加(オーバーエンチャント)】を重ねます。これは【エリザの矢】を破裂させるためにも必要な過程なんです。オリハルコンでも数秒しか持たずに壊れるのがこの【限界突破付加(オーバーエンチャント)】の弱点ですが、今回に限ってはそれが強みになります」

 

「なるほど。エンチャントの負荷で壊れるのを逆に利用するのか。考えたな」

「リイドおまえ頭いいなぁ!」

 

 アスレイとローグに褒められ、どこかくすぐったそうに苦笑するリイド。

 

「問題は闇魔法の使い手ですね」っとリベカがレイゼを見ながら言った。

 するとレイゼは顎を撫でつつ天井を見ながら苦悩する。

 

「闇魔法の使い手かぁ。女の魔法使いより希少だからなぁアレ」

 

 真面目に悩むレイゼにどこか呆れるリベカ。

 そんな二人を見つつ他の領主が口を開いた。

 

「そうですね。エルガンディだと過去にゼクードさんの他に二人ほど闇魔法使いの男性が居ました。しかし彼らは人類の壁となって……」

 

 つまりエルガンディには闇魔法使いはゼクードしかいない。

 そのゼクードは今この瞬間にもレグと戦っていて生還の希望も薄い。

 

 みんなが希望を失いかけたその時、リベカがついに声を上げた。

 

「シエルグリスでも残念ながら男性の闇魔法使いはいません。しかし女性ならば一人だけいます」

 

 リベカの視線はレイゼに向けられる。

 その視線を受けたレイゼは一瞬ポカンとした。

 そしてハッとなる。

 

「え、オレか!? え? オレしかいないの? シエルグリスに? もう一人くらいいるだろ!?」

 

「いないから言ってるんですよ」

 

 溜息混じりにリベカは返した。

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