【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「ではそれぞれの役割を確認します。射手はフランベール・フォルスさん。【気】はカーティスさんかネオ。【限界突破付加(オーバーエンチャント)】はレイゼ女王。今のところはこの編成になります」
シエルグリスの大臣リベカが話をまとめた。
それを聞いたリイドは小さく頷いて口を開く。
「バリスタの編成はそれで完璧だと思います。本当の問題はここからです。いくらフランベールさんでもレグに気づかれている状態で狙撃を成功させるのは難しいでしょう。ヤツの気を引く何かが必要です」
「ふむ……狙撃を成功させるための囮役か」
アスレイが腕を組みつつ顎を撫でた。
リイドは「はい」とだけ返して続ける。
「これは一番危険な役割です。なにせ弱体化前のレグを正面から相手することになりますからね。できればこれこそゼクードさんに頼みたかった役割なのですが……」
「確かにな。ヤツと戦えるほどの騎士はゼクードさん・カーティス・ネオ。この三人しかいない」
アスレイがそう言うとレイゼが続いた。
「内二人は現在重傷でまともに動けない。当のゼクードは生還できるかも怪しい。フランベールさんなら一秒レグを止めてくれりゃ当ててくれるだろうが……ネオやゼクード以外の騎士だと逆に一秒でやられちまうだろうからな」
「だが誰かがやらねばならない。防御に秀でた騎士はいないか?」
「私がやろう」
アスレイの問いに答えたのは奥から現れたカティアだった。
「カティアくん!?」っとガイスが驚く。
「夫と息子の代わり……とまでは言えないが、防御ならば私の専門だ。任せてくれ」
確かに大盾を使いこなす彼女ならばレグの猛攻を一時は凌げる。
長時間の戦闘を考慮してないこの作戦ならば、彼女の防御力は誰よりもアテになる。
「よし。ではあなたに一任しよう。他に問題はあるか? リイド」
アスレイが即決し、聞かれたリイドはまだ顔を険しくしたまま話した。
「これが最後の問題です。弱体化したレグにはもちろんトドメを刺す必要があります」
「トドメを刺す騎士が必要ということだな」
「それもそうなのですが、まずこのレグがどれだけ弱体化するか分からない。そこが問題なんです。弱体化してようやくゼクードさん並の戦闘力だったらどのみち勝てません」
「まぁそこは分かんねぇよな。弱体化するかも賭けだし」
レイゼに言われてリイドは頷く。
「はい。ですがこれを言い出したらキリがない。弱体化しなかった時はもう我々の負けでしょう。そうなった時は諦めるしかありません」
潔い言葉を発しつつ、しかし誰もリイドの言葉を否定しなかった。
その通りだと、みんな腹は括っているらしい。
「ふむ……では弱体化する前提で話を進めよう。この件はどうするリイド?」
「はい陛下。狙撃が成功してレグの体内で矢が破裂すれば、さすがのレグも怯むはずです。その隙に大きな一撃を叩き込む騎士が欲しいです」
「大きな一撃? 魔法大砲ではダメなのか?」
「ダメです。バリスタと違って範囲が広いので、直前までレグと肉薄しているであろうカティアさんの撤退が間に合わない可能性があります。逆に言うと、カティアさんが撤退するだけの時間をレグにも与えてしまうので、一秒でも隙を潰したいのです」
「なるほど……だから騎士による一撃なのか。しかしなぜ一撃を加える必要があるんだ? 弱体化を確認してからでも良いのではないか?」
「この一撃はその弱体化を促進するためのものですよ陛下」
「促進?」
「我々のやろうとしていることはヤツを病気にして弱らせようと言うわけですから、体力を奪うことはそれだけ弱体化する可能性を上げてくれます」
「そういうことか。なるほど、ほんの少しでも勝つ可能性を上げるための一撃というわけだな」
「はい。ゼクードさんやカーティスたちがアテにできない以上、レグに攻撃を当てられるのはその矢が破裂したその時しかありません」
「感服したぞリイド。それでいこう。問題は騎士だが……」
アスレイが仲間たちを見回すと、やはりカティアが手を上げてきた。
「一撃の重さならローエですね。火力だけならアイツはゼクードより上です」
さらっとローエを作戦に参加させるカティアに、近くで聞いていたガイスが口を開いてきた。
「カティアくん……いいのか? 君たちはもう騎士を辞めると……」
「負けたら子育てどころではありませんからね。やりますよ」
★
レグは、ゼクードとドレスの死体を確認して空へ舞った。
二人とも内臓が飛び出るほど真っ二つになって死んでいた。
ドレスはもしかしたら生きているかもしれないが、ただの人間であるゼクードに助かる術はない。
まず助からないだろう。
ざまぁみるがいい。
オレをコケにした報いというヤツだ。
死んで空から見ているがいいゼクード。
お前の匂いがする者たちをこれから虐殺してやる。
カーティス。
レイゼ。
オフィーリア。
レミーベール。
ロジェール……は生かしておいてやろう。
アレは繁殖に使える。
認めたくはないが、お前の血はどうにも優秀なようだからな。
お前の血とオレの血が交ざった時、どれほどのドラゴンが生れてくるだろうな?
くっくっく!
今から楽しみで仕方がない。
お前という一番の脅威を最初に排除できたのは嬉しい誤算だった。
ゼクード・フォルス……ん?
いや……フォレッド・フォルスだったか?
記憶が混同しているな。
これも竜の心臓の影響か。
記憶の片隅にはヴァルドレイクという名が残っている。
しかし、今となっては誰の名なのだろう?
あのアグリスという苗床もどこか脳に引っかかる女だったが、どうにも思い出せん。
まぁいい。
どのみちオレにとってはその程度の存在だったのだろう。
アグリスはもうドレスに種付けされた哀れな竜ノ苗床。
あれさえ居れば、オレは無限に強くなれる。
雑魚をいくら捕食したところで力の足しにもならなかったが、上級ドラゴンの心臓を持つアグリスと、このオレの血によって蘇生しオレの遺伝子を持ったドレスとの子供ならば間違いなく最上級のドラゴンが生れてくるはず。
それを捕食すればオレは今よりさらに強くなる。
わざわざ希少な上級ドラゴンを探す手間も省ける。
何もしなくてもアグリスがどんどん子供を生む。
オレは強くなり続ける。
そしてオレに敵う者はいなくなり、オレは世界の大貴族…………いや、世界の王となる。
ゼクード亡き今、このオレを止めることはできん。
くっくっくっく!
待っていろ脆弱なる人間どもよ!
支配してやるぞ!
手始めにこのエルガンディを手中に収めようじゃないか。
当のエルガンディに帰還したレグはドラゴン形態から人間の姿に戻った。
そして色気のない石畳の道を歩く。
やはり、というべきか。
エルガンディの街には人の気配があまりに無さ過ぎる。
どの民家を開けても人っ子一人いない。
「どこに消えた。平民どもが……」
募る苛立ち。
エルガンディの城壁の周囲には下級ドラゴンどもを見張りに配置しているが、やはり戦闘をした痕跡はない。
誰にも発見されずにどうやってエルガンディから脱出したのだ?
そんな疑問を抱えながら歩くこと数分。
夜空の月光に照らされた一軒の館を前にレグは足を止めた。
「この館は……確かゼクードが潜んでいた館だな」
もう一度内部へ入り調査した。
すると地下へ通ずる階段があった。
「ほう……隠し階段か」
レグはここで納得した。
エルガンディに誰もいなくなったのは、この地下通路から外へ逃げたせいだと。
ならばとこの地下通路を使おうと考えたが、その地下通路はすでに岩が崩れて埋まってしまっていた。
火薬の匂いがするから逃げた後にオレが追ってこられないよう爆破したらしい。
「……やってくれたな平民どもが!」