【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
セレンに加速を促して早めにヨコアナに着いた。
草原にカモフラージュされたヨコアナへの入り口が遥か遠くに見える。
わざわざ遠くから降りたのは扉の見張りに誤解されないようにするためだ。
地上の見張りから見ればドラゴン形態のセレンしか見えず、どう見てもドラゴンの襲撃にしか映らないからだ。
ゼクードが先行してセレンから降りると他の仲間たちも次々と地に足を踏みしめていく。
最後にドレスが地を踏むとゼクードは口を開いた。
「ドレス。お前はここで待ってろ」
「え? どうしてですか?」
「記憶がないから教えておくが、お前は過去に罪を犯した罪人なんだ。そんなお前がいきなり入ってきたらパニックになるだろう?」
「はぁ……でもアグリスさんが中に」
「そのアグリスも牢屋に捕まってるかもしれない」
「なら私も牢屋に入ります。アグリスさんの側に居てあげたいんです」
側に居てあげたい、か。
それがコイツの本心なのか、それとも種を付けた母体を守るためだけの言葉なのかは解らないが……
悪いがもうドレスをアグリスに会わせるわけにはいかない。
お前はもう俺に使い捨てにされるだけの存在だ。
悪く思うなよ。
「……わかった。とりあえずお前のことをみんなに話してからだ。もしかしたらすぐにはアグリスに会えないかもしれないけどそこは我慢しろよ?」
「なぜすぐ会えないんですか?」
「アグリスが牢屋に入れられてたらの話だ。もし本当に牢屋に入れられてたらお前の働き次第で解放されるだろう」
「働き?」
「アグリスを牢屋から出してほしければレグを倒すのを手伝えって言われる可能性があるってこと。そうなったらちゃんと働けってこと。わかったか?」
「わかりました。アグリスさんを救えるなら好きに使ってください」
「……じゃあここで待機してろよ」
「はい」
あくまでゼクードはアグリスが牢屋に捕まってること前提で話した。
もしこれから入るヨコアナでアグリスが図々しく普通に居座ってたら……その時は奥に呼び込んで、アグリスの心臓を潰す。
アグリスを生かしておく理由はない。
生かしておけばドラゴンを出産してしまう。
そのドラゴンがレグに食われたらヤツをパワーアップさせてしまう。
仮に食われなくてもその生まれたドラゴンが人間に牙を向く恐れもある。
生まれたてのドラゴンが弱いなんてことはない。
それを俺はナイトに教えられている。
だからアグリスとはもうお別れだ。
もっと別の形で会えていたら、まぁ友達くらいにはなれてたかもな。
「……。それからグロリアと母さん。悪いけどナイトとリィと一緒に二人も待機しててくれ」
「だと思った。大丈夫よ。任せて」
案外とすんなりグロリアは承諾してくれた。
グロリア的にもまだローエと対面する心構えが出来ていないのだろう。
「頼む。すぐにみんなに説明してくるから」
「いいのよ。わたしのことは気にしないでゼクード」
セレンもすぐに承諾してくれた。
母さんも自分の身体がいつ暴走するか分からないから、カレンティアたちには近づかないと言っていた。
だからもともとヨコアナに入る気はあまりなかったようだ。
母さんとグロリアが正気を失わないと断言できれば、もっと家族と近くで住むことができるのに。
それを証明する手立てがない。
……いや、今はレグに集中しよう。
ゼクードは片手を上げてそれをセレンの返事にし、レィナとミオンを連れてヨコアナの扉へ向かう。
すると見張りの騎士が扉を開けて迎えてくれた。
「ゼクードさん! 良かったご無事で!」
「ああ。心配かけたな。国王さまは?」
「こちらです!」
扉を潜ってヨコアナの奥へ。
見慣れた鉱山の内装。
吹き抜けになった鉱山の中心。
空気の籠もった廊下を抜け、水の流れる音がする広間へついた。
ゼクードは案内してくれている見張りの騎士をいったん待たせて振り返る。
「ミオンさん。レィナちゃん。国王さまへの報告は俺がやる。二人はみんなに顔を見せてきて、あと俺の帰還を告げてほしい」
「わかったわ」
「お義兄様。カティアお姉様たちにも報告しておきます」
「ありがとう。お願いするよ」
ミオンとレィナと別れ、ゼクードはそのまま奥の簡易【王の間】に案内された。
道中で何人もの騎士たちを見たが、みんなゼクードを見て「え!? え!?」と戸惑い、英雄の帰還を目の当たりにして歓喜の声を上げ始めていった。
みんな絶望のあまり気力を失っていたみたいだが、俺が帰還することで復活して良かった。
そう思ってる間に部屋に着いた。
そこではアスレイ陛下とレミーベール。
他にも何人かの騎士たちが揃ってテーブルを囲んでいた。
何やら会議をしているみたいだが、声をかける前に先にアスレイ陛下かゼクードに気づいた。
「おお! ゼクード殿!」
「え? あ! お父さん! ぇ……っ!?」
「陛下。ご心配をお掛けしました。レミーも」
ゼクードの帰還に【王の間】に集まったみんながおお! と歓喜の声を上げた。
その声音の跳ね上がり具合は凄まじく、よほどみんな精神的に疲弊していたのが分かった。
「無事で良かったですゼクード殿! 実は我々はレグに対して作戦を見直していたところです。あなたが加わってくれればきっと勝てますよ!」
「作戦ですか? 説明をお願いします」
「待ってお父さん! その目……」
みんながゼクードの帰還に浮かれて気づかなかったのに、やはりレミーベールにはすぐにバレてしまった。
ジッと見られていたから最初から気づかれていたかもしれない
「え? あ! 本当だ片眼が治ってる! 眼の色もちょっと変わってませんか? なんかピンクっぽいっていうか……」っとアスレイ陛下。
「ああ、これについては後で説明します。それより先に作戦の説明を」
「待ってお父さん。先にお母さんたちに顔を見せてあげて。待ってるはずよ絶対に」
「レィナちゃんに任せてある。だから大丈夫だレミー。フランたちなら分かってくれるさ」
「そ、そうかな……」
「ん……まぁ、もし怒られたら庇ってくれよレミー」
「えぇ……」
とりあえず娘に保険を頼んだゼクード。
するとアスレイ陛下も笑いながら口を開いた。
「レィナ隊長もご無事ってことですね。良かった。グリータ団長も喜びますよ」
「彼女だけではありません。シエルグリスのミオンさんも無事です。娘のグロリアも。母のセレンも無事です」
「グロリアとお祖母ちゃんも! 良かった……」
妹と祖母の安否を知れて本当に嬉しそうな顔をするレミーベール。
それを見たアスレイ陛下も少し肩の荷が落ちたようにホッと一息ついてきた。
「みんな無事だったんですね。良かった……まだ天は我々を見捨ててはいませんね」
「おっしゃるとおりですね。では作戦の概要をお願いします」
あくまで仕事を最優先するゼクードに、アスレイはすぐに答えてくれた。
まずは【エリザの矢】のことを説明してくれた。
リイドが開発したものらしい。
通りで城の研究室にはなかった訳だ。
その【エリザの矢】をレグに撃ち込むための作戦。
それらの編成に射手がフランベール。
矢の強化にレイゼ。
矢に気を纏わせるのにカーティスかネオ。
バリスタの防衛にカティア。
レグへの追撃にローエ。
精鋭を惜しみなく使っている対レグへの編成だった。
なるほど。
俺やカーティス・ネオという戦力が居ないならこの作戦が最善だろう。
素晴らしい作戦だったが、一つだけ欠点があった。
それは――――
「――――アグリスを逃がした!?」
これだった。
てっきりアグリスはここヨコアナに居座っていると勝手に思っていた。
グリータたちと一緒に逃げているのを見掛けたから、図々しくヨコアナにいると踏んでいたのに。
「ええ。レグを誘き寄せる餌になってもらいました。ヤツは必ずここヨコアナの場所をレグに教えるでしょう」
「ではアグリスはもうここには居ないと?」
「はい。今ごろヤツはレグに泣きついている頃ではないでしょうか」
得意気に話すアスレイ陛下に苦笑するしかなかったゼクードは、腕を組んで考える。
マズイな。
アグリスがレグ側に戻ったとドレスが知ったら、アイツはまたそれを追い掛けて敵になる。
このままアグリスは捕まってると嘘をついても、ばったり戦場でアグリスと出くわしてその場でドレスが敵になる事態も考えられる。
「……だとしたらドレスはもう、始末した方がいいかもしれませんね」
ゼクードの言葉にレミーベールが反応した。
「ドレスって……あの金髪の? あの子も無事だったの?」
「ああ。なんだか知らんがレグと対立してた。たまたま鉢合わせて一緒に逃げて来たんだ。今ドレスはヨコアナの外に待機させてる。ナイトとリィも一緒だ」
「ナイトとリィ?」
「忘れたのかレミー? ほらセレンと戦う時に協力してくれたあのドラゴンたちだよ」
「ああ! あの時の!」
「ヴァルドレイクに飛ばされたグロリアを助けてくれたらしくてな。レグの脅威を説明してまた協力してもらうことになったんだ」
「あのドラゴンなら頼もしいね。お父さんと同じくらい強いし」
「アイツは俺より強いよ。レグと戦うなら強い味方は多い方がいい。……でもドレスはもうダメだな。アイツは絶対にアグリスの居るレグ側に付くはずだ」
「でも対立してるんでしょう?」
レミーベールの疑問にゼクードは首を振った。
「アイツにはもうそんなの関係ないみたいなんだ。とにかくアグリスの側にいる。それが今のドレスの行動軸らしい」
「そうなんだ……アグリスを逃がしたのは、愚策だったわね。ごめんなさいお父さん。余計なことをしちゃって……」
「ゼクード殿……本当に申し訳ないです……」
アスレイ陛下にまで頭を下げられてゼクードは慌ててフォローした。
「とんでもない! 陛下の作戦は少ない戦力で出来る素晴らしいものでした。俺やカーティスやネオを抜きにするならアレが最善の策だと思います」
「……そう言って頂けると救われます」
「お父さん。ドレスは……」
「俺が始末する。せめて一瞬で逝かせてやるさ。アイツやアグリスのおかげでここへ戻って来れたのは事実だからな。……いや、待てよ? 陛下。【エリザの矢】は何発あるんです?」
「今は一本ですが、血はまだありますので複数用意できると言っていました」
「なるほど。よし……なら」
【エリザの矢】がレグに本当に効くか分からない。
試しにドレスに使ってみるか。