【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「あっはっはっはっはっは! やってやったわ! さいっこうね! ほらアンタの最愛の妻が死んだわよ! ざまぁみろってなぁあああっ!!」
「アグリス……きさまぁあああああああああああ!」
こいつだけは……殺す!
わずかにあったアグリスへの情は消え去り、本物の殺意だけがゼクードの腹の底に熱として湧いた。
ピンクの瞳をギラつかせたゼクードは【ブラックホール】を展開。
セレンの血で強化された【ブラックホール】は翼で空を飛ぶアグリスを捉えて引き寄せる。
「な!?」
【ブラックホール】の吸引力に抗うアグリスだがあまりの吸引力に一気に降下させられゼクードに足を掴まれた。
ゼクードの手が熱によってジュウッと焼けていくが構わない。
怒りのままに引き寄せる。
「離せこの野郎!」
「逃がすか! 死に損ないが!」
罵倒を叩きつけ合い、なおアグリスは空へ逃げようとした。
だがゼクードの怪力からは逃れられず、引っ張り合いの末、ついにアグリスの足が引き千切れた。
「いっ! ぎぁああっ!」
痛みで悲鳴を上げながらもアグリスは無理矢理上昇して距離を取った。足はすぐ炎によって再生し、アグリスは地上にいるゼクードを見る。しかしそこにゼクードはいなかった。
「【真・竜斬り・轟】!」
「え!?」
ゼクードは背後にいた。
空中なのにいつの間に背後に!?
そう思ったのも一瞬で、後頭部にゼクードの一撃をモロに受けた。
刃が溶けた長剣の一撃はやはり鈍器のそれで、打撃によりアグリスの脳が激しく揺れる。
地上に叩き落されたアグリスはなんとか立ち上がったが、視界がグラつき、まっすぐ立つことさえ困難になってフラついていた。
「こ、この……よくも……」
さすがのドラグーンたるアグリスでも、力技である【真・竜斬り・轟】を後頭部に受ければダメージも大きかった。
今にも意識が飛びそうになっているアグリスは、そのせいか発している熱が弱くなっていった。
今なら斬撃を叩き込める! っと地上に着地したゼクードは思ったが、肝心の武器が鈍器になってしまっている。
サバイバルナイフも鞘から抜けないからきっと中で溶けている。
せっかくのチャンスを活かせないのか?
辺りを見渡したゼクードは【エリザの矢】を見つけた。
先ほどレグに止められ捨てられたヤツだ。
ゼクードは溶け切って使い物にならなくった長剣を捨て、その【エリザの矢】を拾い上げてアグリスに接近する。
肉薄するゼクードを見たアグリスは片手をドラゴンの形状に変異させ爪をがむしゃらに振り回してきた。
「ドレスを返して!」
「黙れ! ディアマードの残党が!」
しかし弱っているアグリスの攻撃はゼクードにとってあまりにも遅かった。
簡単に捌かれたアグリスはゼクードに【エリザの矢】を首に突き立てられた。
「うぐっ!」
やったか!? とゼクードはアグリスから離れて経過を見守った。
アグリスに突き刺さった【エリザの矢】は彼女の血で溶け、内包していたエリザの黒い血がアグリスに流れ込む。
しかしその黒い血は炎によって浄化され、アグリスと同じ赤い血に戻された。
「な……に!?」
「……残念だったわね。私にはこんなもの効かない。私の竜の心臓は全てを浄化する。浄化と再生の力を持った【炎竜の心臓】よ!」
【炎竜の心臓】だと?
昔いたあのレッドドラゴンみたいなヤツか?
まさか【エリザの矢】が効かないとは。
浄化と再生の力か。
だからやたらと再生が速いのか。
ドラゴンってのはとことん理解不能な能力を持ってやがる。
親父はこんなのどうやって倒したんだ?
倒し方が分からないが、逃がす気にはなれない。
フランベールの仇を取りたい。
たとえ刺し違えても。
それに浄化と再生の力を持っているなら、アグリスの血を接種すれば、もしかしたらグロリアを人間に戻してやれるかもしれない。
そういう意味でもアグリスはここで倒したい。
何か……何か作戦はないか。
親父に出来て、俺に出来ないってことはねぇだろ。
考えろ!
溶けた長剣は捨てた。
サバイバルナイフは腰にある。でも抜けない。
鎧は溶けて肌にへばりついてやがる。
さっきから痛くて熱くて仕方ない。
セレンの血でドラグーンになっていなかったらとっくに死んでいた。
ならば魔法しかない。
炎には氷だろうが、その氷使いのフランベールが今さっき……
★
熱い……わたしは……死んだの?
フランベールは漠然とそう思った。
アグリスのブレスが迫ってきたところまでは覚えている。
そこから先は思考が止まって頭の中が真っ白になった。
回避できないと判断し、即座に身を強張らせてしまった。
目を閉じて反射的に顔を両手で守った。
しかし飛んできたのは熱風だけ。
それでもその熱量は凄まじく、髪やマントの先端がチリヂリと焦げていき、露出した肌の部分には火傷を負ってしまった。
だがその程度で済んだ。
それがあまりにも不自然で、フランベールはついに目を開けた。
するとそこには桃色の竜鱗に覆われたドラゴンがアグリスのブレスを受け止めてくれていた。
『フランベールさん! 大丈夫?』
その声はセレンのもので、ようやく漠然としていた意識が回復しフランベールは徐々に正気となった。
「お……お義母、様? ぁ、だ、大丈夫です! 助かりました!」
あのアグリスのブレスを受け切るなんて。
セレンの頑丈さは聞いていたがこれほどとは。
あんなブレスを人間が受けていれば灰になっていた。
セレンはフランベールの無事を聞いて『良かった』と心底安堵したように微笑し、そのまま人間の姿に戻った。
「フランベールさん。あなたはヨコアナへ。ここは危険です」
「それは……でも……」
たしかにセレンの言う通りなのだろう。
狙撃が失敗し、武器も損傷した今となってはフランベールが戦力になることはない。
ヨコアナへ撤退して身を隠すべきなのだが……
フランベールは遠くでアグリスと戦っているゼクードを見た。
ゼクードの様子がおかしいのだ。
見間違いでなければゼクードは変異している。
鎧が溶けて肉と一体化してしまっているのに、そこまで苦しそうでもない。
彼の片眼も治ってる。
さらに瞳の色もパープルからピンクに変わっている。
この症状はセレンに輸血されて蘇生したグロリアと同じだ。
……まさか、ゼクードくんも!?
「お義母様……ゼクードくんは……まさか……」
震える声でフランベールが問うと、セレンは身体を小さく震わせた。
「……ごめんなさい。ゼクードは一度、あのレグに殺されたの」
「!?」
「一度殺されて、そして……蘇生させた。わたしの血で……」
「そんな……ゼクードくんまで……」
グロリアに次いでゼクードまで人間では無くなってしまった。
だが不思議なことに、まだゼクードが生きているから、動いているから冷静でいられる自分がいた。
ショックなのは事実なのだが、目の前で動いているのが自分にとっては一番大切なのかもしれない。
「ごめんなさいフランベールさん。わたしは……」
「ぁ、謝らないでくださいお義母様。ゼクードくんがそのまま死んでいたらもっと大変なことになっていました」
やっとこれで合点がいった。
ゼクードはセレンの血でグロリアと同じくドラゴン化している。
だからあれだけの火傷を負っても動けるというわけだ。
「お祖母ちゃん! お義母さん! ちょっとコイツらをお願い」
いきなり現れたのはグロリアだった。
どうやら気絶したナイトを担いでここまで避難してきたようだ。
約ニメートルもあるナイトを軽々と担いで来るなんて、さすがはローエの娘である。
ドスンとナイトを地面に置いたグロリア。
そこにリィがナイトを心配そうに見つめる。
「ナイトさん! しっかり!」っとセレンもナイトを揺さぶる。
そんな中フランベールはグロリアを見た。
「グ、グロリア……あなた……その腕!」
フランベールは目を疑った。
グロリアの腕がドラゴンのそれになっていた。
セレンがドラゴンの姿になっているのを何度も見ているのに何を今さらと自身で思ったが、何故か、凄くショックだった。
脳裏にローエの悲しむ顔が浮かんできて、なんとも言えない損失感が全身を襲う。
「あ、これ? ……悪いけどまだお母さんには言わないでね。きっと悲しむから」
「グロリア……」
「フォルス家もメチャメチャね。ドラゴンの心臓って碌なことないわ」
「……」
フランベールは何も答えなかった。
たしかにドラゴンの心臓が出てきてからフォルス家はメチャメチャになってきた気がする。
それもこれも全て…………いや、やめておこう。
少なくとも自分の夫ゼクードは今でもそれを払拭しようと戦っているはずだから。
妻である自分は、ただ信じてついていくだけ。
それにフォレッドの気持ちが分からないわけではない。
英雄だって人間だ。
絶望するし、孤独に勝てないこともある。
当たり前だ。
だけど彼はゼクードの生存を聞いて歓喜して泣いたという。
フランベールが彼を嫌いになれない理由がこれだ。
決してゼクードの父親だから、という簡単な理由じゃない。
子供のために泣ける人だったからだ。
セレンだって自分の孫を見捨てられなかった。
その気持ちだって理解できる。
自分もレミーベールに何かあったら、どんな手段を用いても助けようとする。
これから生まれてくるレミーベールの子供にも何かあったら自分はセレンと同じ行動を取るだろう。
みんな自分の子供ために動けるんだ。
親は子供を愛するべきだし、幸せを望むものだと思ってる。
少なくともフォルス家はみんなそう思ってるはずだ。
だからこそ……グロリアのドラゴン化が、あまりにも残酷で、ローエになんて伝えればいいのか分からなくなる。
「お義母さん。ナイトとリィをヨコアナへ避難させておいて。入り口付近まででいいから」
「あなたはどうするの?」
「お父さんを援護するわ。リィ! アタシにも歌を掛けて!」
リィは驚いた様子を見せたが、すぐに歌を歌い始めた。
リィの声はフランベールには聞こえないが、妙に心地良い歌声である。
「あのアグリスって女……炎ですぐに再生して何もダメージになってないわ。あのままじゃお父さんが体力切れで負けちゃう」
確かに遠くで戦っているアグリスを見ると、ゼクードの拳打も効いてそうに見えてすぐに回復しているみたいだ。
「じゃあ……どうするの? 斬撃?」っとフランベールが聞くとグロリアは首を振る。
「ううん。斬撃もダメみたい。ナイトの爪が効いてなかったってリィが言ってるわ」
「そんな……」
打撃も斬撃も効かないならいったいどうすれば?
「アグリスの強みはあの再生を助けている炎よ。あれを止めることさえできれば、お父さんは勝ってくれるはず」
グロリアは自信を持って言った。
ゼクードは確かにアグリスを押している。
騎士としての技量はやはりアグリスより数段上のようだ。
アグリスはレグより弱い。
だが『熱のバリア』と『炎の再生』が何より厄介だ。
ただでさえ再生を持っているドラグーンの回復力をさらに上げている『炎の再生』。
これさえ何とかなれば。
「あの再生を止める方法なんてあるの?」
「確信はまだないんだけど……これ」
ボッ! とグロリアの腕からピンクの炎が発生した。
え!? っとフランベールは内心で驚愕した。
グロリアは攻撃魔法を持ってないはずなのに。
まさかこれもドラゴン化の影響か。
隣のセレンもグロリアの炎を見て驚いている。
どうやら彼女も初見らしい。
「この炎を当てれば、もしかしたらアグリスの再生能力を殺すことができるかもしれないわ」
「そ、そうなの? どうして?」っとフランベール。
「メルセーヌと戦った時にこれを使ったらあっさり倒せたの。再生しない!? って言ってパニックになってたからやってみる価値はあるわ」