【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第54話【ハーレムについて】

 ローエはフランベールを連れて練兵場まで来た。

 そもそも今日はゼクード隊長がローエたちに【竜剣技】を教えてくれる日になっている。

 だが当のゼクードはあのとおり寝坊助(ねぼうすけ)なので、特訓は昼からとなっている。

 

 だからと言って、朝練を怠るわけにもいかない。

 ゼクードには遠く及ばない力量だが、それでもS級騎士なのだから。

 

「あ、やっぱり居ましたわ」

 

 練兵場の中心で立ち尽くす赤い騎士の姿が見えた。

 バスターランサーを背負ったその騎士は、すぐに友人のカティアだとわかった。

 

「カティアさん。おはよう」

 

「ローエか。おはよう」

 

 やっと来たか、と言わんばかりにカティアは待ちくたびれたような顔をこちらに向けてきた。

 よほど暇だったようである。

 

 ……まぁそれもそうだろう。

 練兵場にはカティア以外の人気はまったく無い。

 誰もいないのだから。 

 

 いつもならそのへんにカティアが時間潰しに相手した王国騎士たちが、ボコボコの山積みになってるはずなのだが。

 

 最近は街の復興作業で王国騎士たちも疲れているのだろう。

 練兵場には顔を出さなくなっている。

 

(朝来たらカティアにボコボコにされるせいもあるだろうが)

 

 と、ここでカティアがフランベールの存在に気づき目を丸くした。

 

「先生? おはようございます。珍しいですね」

 

「おはようカティアさん。今は騎士学校が止まってるから時間が空いてるの」

 

「そういう事ですか。ならばさっそく手合わせ願います」

 

「ちょっと待ってカティアさん。わたくしあなたに聞きたい事がありますの」

 

 割り込むようにローエが言った。

 

「なんだ?」

 

「あなた……ハーレムについてはどう思います?」

 

「いきなりなんだ!?」

 

「だってカティアさんあなた……母親が何人もいるのでしょう?」

 

「え? ぁ、ああ……いるにはいるが、あれはハーレムとは言わんだろう」

 

「どういう事ですの?」

 

「私の母も、他の母も……みんな過去のS級ドラゴンによって旦那や身寄りを亡くした女性たちだからだ」

 

「!」

 

 聞いて驚き、ローエはフランベールと顔を見合わせた。

 構わずカティアは続ける。

 

「比較的に裕福だった父は国からの指示もあって彼女たちを引き取ることになった。別に愛し合っていたわけじゃないらしい」

 

 そうだったのか……まさかカティアの父がまともな一夫多妻をやっている方だったとは。

 しかも国からの指示となると、たしかにハーレムと呼ぶのは相手に失礼かもしれない。

 

 ハーレムとは男が複数の女性を侍らせる、という意味が付きまとう。

 どうしても低俗なイメージがあるのだ。

 

 一夫多妻。

 普通にそう呼ぶべきだろう。

 

 それにしても国からそんな指示が出されるとは驚きだ。

 弱者への救済処置だったのだろう。

 貴族に一夫多妻が多いのは、このためだったのかもしれない。

 

 でも、わたくしのお父様は国からの指示を受けなかったのかしら?

 わたくしのお母様は一人だけですし……。

 

 拒否したのか。

 それともたまたま?

 今度聞いてみよう。

 

「外から見ればハーレムそのものだが、中身を見ればハーレムとは言い難い。みんな……生きるために仕方なく集まった女性ばかりだからな」

 

「そうだったんですのね……」

 

「ああ。今も父には感謝して尽くしているが、好きで一夫多妻をしてるわけじゃない。そこはやはり理解してやるべきだろう」

 

「そうですわね。ごめんなさい。変なこと聞いて……」

 

「べつに。……だがどうしたんだ急に? お前がハーレムなんて言葉を持ち出すなんて」

 

「それは、あの……か、仮に! 仮の話ですわよ?」

 

「? ……ああ」

 

「あなたとわたくしと先生がみんなゼクードを好きになって、みんなゼクードのお嫁さんになるとなったら、あなたはどう思います?」

 

 言われたカティアは腕を組んで「ああ」と納得したような声を上げる。

 

「それは完全にハーレムだな」

 

「そう、ハーレムですわ。あなたはこのハーレムをどう思います?」

 

 再び問い質し、当のカティアは目を閉じて真剣に考え出した。

 彼女の答えがどんなものか、ローエとフランベールは肩を並べて息を呑みながら待った。

 

 そして数秒後、カティアは目を開ける。

 

「悪くないかもしれないな」

 

「へ!?」っとローエ。

「ほんと!? カティアさん!」っとフランベール。

 

「はい先生。良いと思いますよ。私たちはみんな【攻撃魔法】の異端揃いとなりますが、それが寧ろ良いでしょうね。お互いに理解があるからこそやりやすい。私たちの誰かが【攻撃魔法】持ちの女の子を産んでも、みんなその子の事を理解してやれる。長い目で見ても、とても良い家族構成ではないでしょうか?」

 

 フ、フランベール先生と同じ事を言ってる。

 というかわたくし、ハーレムについてどう思うか聞いたのに、これ完全に家族構成の評価になってますわ。

 

「そう! そうだよカティアさん! やっぱりそう思うよね!」

 

 子供みたいに興奮し出すフランベール先生が歓喜の声を上げた。

 もちろんローエは先生を片手で制する。

 

「先生ちょっと落ち着いて。あの、カティアさん? わたくしは家族構成の評価を聞きたいのではなく、ハーレムについてそもそもどう思ってるかを聞きたいのですわ」

 

「好きで集まってるなら別に良いんじゃないか?」

 

「あ、はい……」

 

 あまりに即答で、あまりに正論で返す言葉もなかった。

 やはり一夫多妻の家族を持っているカティアも、フランベールと同じ感覚を持っているようだ。

 

 ハーレムに抵抗を感じている自分は、ちょっと疎外感を感じずにはいられない。

 

「愛した男がたまたま同じだった。それだけの事だろう? ま、男を独り占めにしたいのなら話は別だがな」

 

「あなたはそういう願望ないんですの?」

 

「ないな。減るものならともかく、減るものじゃないんだ。男を取り合ってどうする。そんなの醜いだけだろう。何より子供が可哀想だ」

 

「……そうですわね」

 

 なんというか、カティアもフランベールもすでに子供のことを視野に入れて考えているのが凄い。

 

【攻撃魔法】という概念のせいで、女性同士で差別が起きている以上、こんな考え方になるのは仕方ないことなのだろう。

 

 同じ【攻撃魔法】を持った女性が側にいるだけでも心の持ちようはかなり違う。

 

 そういう意味では自分は、今までカティアに助けられていたのかもしれない。

 街では異端と罵られ女友達などできず、かと言って男だらけの騎士学校ではそれこそ友達なんて出来なかった。

 

 でも騎士学校で孤独を感じたことはあまりない。

 同い年で、同じ【攻撃魔法】を持っていて、ライバルだったカティアがいたからこそ……──ん?

 

 ……ん!?

 え!?

 

 ローエは下半身から、ある違和感を感じた。

 

 あ!?

 ちょ!?

 これって!

 

 

「あ、ちょ、ご、ごめんなさい! ちょっと御手洗いに行ってきますわ!」

 

「ん? ああ」

 

 カティアは返事をしてローエを見送った。

 

 なんだ?

 もの凄い勢いで走って行ったぞ?

 よほど我慢していたのか?

 そうならそうと早く言えばいいのに……。

 

「まったく。用ぐらい足してからここへ来い。バカ者が」

 

 呆れながら呟くと、向かいのフランベール先生がクスクスと笑った。

 

「まぁまぁカティアさん。そう言わないであげて。たぶんさっきのローエさんのは仕方ない方のだと思うから」

 

「仕方のない?」

 

 フランベールは頷く。

 

「うん。どうしても出てきちゃうのよ。それよりローエさんが戻るまで相手してくれる?」

 

 出てきちゃう?

 ……話が読めないが、まぁいい。

 

「望むところです。先生と手合わせするのは久しぶりですね」

 

「ふふ、そうだね。手加減しないよ?」

 

「もちろんです。お願いします」

 

 カティアとフランベールは互いに武器を展開し、構えた。

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