【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第63話【無責任な夜空】

 その後……

 

【アークルム王国】を脱出した俺達は、四体目のS級ドラゴンが街を蹂躙していく光景を眺めていた。

 

 城壁をも易々と破壊していくその巨体は、顔から尻尾まで70メートルはあるのではないだろうか。

 

 その超大型の身体を支える四肢から、背中の城のような甲殻までは約30メートルほどあるように見える。

 

 遠目での確認だから定かではないが、どのみちその比類なき巨体を疑うことはない。

 歩いているだけで厄災そのものだ。

 

「オレたちの故郷が……」

「くそぉ……ドラゴンどもめ……」

 

 生き残った騎士たちの嗚咽と掠れる声が耳に入る。

 

【アークルム王国】のS級騎士ガイス隊長もまた、悔しさ故に拳を握りしめていた。

 守れなかった何千人もの命を思って、ただ怒りに奮えながら。

 

「申し訳……ありません……っ!」

 

 膝から崩れたガイス隊長は地面を抉るように頭を打ち付けた。

 守れなかった何千人もの命に謝罪しながら……。

 

 震える彼の背中はとても哀れで、弱い騎士の末路を俺に教えてくれていた。

 

 

 人間という餌が多かったおかげか、乗ってきた馬たちは無事だった。

 家畜の被害は少ない方で、人数分の馬はなんとか確保した。

 

 残りは逃がし、みんなで馬を駆り【エルガンディ王国】を目指す。

 絶望と疲労が心身を蝕み、みなが寡黙に馬を駆る中で俺は考えた。

 

 四体いたS級ドラゴンも残りはあの超大型ドラゴン1匹のみ。

 だが人間側も4国あった王国が1国だけになってしまった。

 

 お互いに苦しい状態に見えるが、あの超大型ドラゴンを食い止める方法が思い付かないうえに、まだ5体目のドラゴンの存在もある。

 

 圧倒的に劣勢なのは俺たち人間の方だ。

 なんとかしないと、人間はドラゴンに負けてしまう。

 考えろ。

 打開策を。

 

 今回ばかりは【竜斬り】でどうにかなる相手じゃない。

 

 

 馬での移動とは言え、疲労の溜まった騎士たちに長時間の移動は酷だった。

 

 日も沈み始め、これ以上の移動は危険だと判断した俺たちは、近くの大岩にキャンプを設置することにした。

 

 辺りは草原で見晴らしが良いが、安全とはほど遠い場所である。

 大岩は隠れる場所にもならない、あくまでも即席の拠り所として選んだに過ぎない。

 

 みんな疲れ切っている。

 早く休ませてやりたいのだ。

 

 薪の用意をし、火を起こし、キャンプの設置をする。

 そうこうしている内に赤い空は、満天の星を輝かせた夜空へと変貌していた。

 

 安全な場所ではないから、みんなで交代して見張りをしている。

 

 今は俺とフランベール先生の番だ。

 

 中央の大岩付近では焚き火がパチパチと爆ぜ、夜空に煙を立ち上らせている。

 

 そこでは生き残った騎士たちやガイス隊長たちが焚き火を囲って死んだように眠っている。

 

 その中にはローエさんとカティアさんもいるが、彼女たちは薪をくべて焚き火を維持する係だ。

 

 俺の反対側を見張るのがフランベール先生で、これなら易々とドラゴンの奇襲を受けることはない。

 

 ないのだが、夜の冷え込みはなかなか鋭く、意外とキツイ。

 ミスリル製の鎧を容赦なく冷やしてくる。

 おかげで寒いったらありゃしない。

 焚き火に当たっていたいが、我慢できないほどでもないか。

 

「隊長」

 

 背後からローエさんの声が聞こえた。

 彼女は振り返った俺の隣までやってくる。

 

「交代しますわ。休んでください」

 

「俺はまだ大丈夫ですよ。先生と代わってあげてください」

 

「先生ならカティアさんが行きましたわ。わたくしも十分に休みましたから、隊長もしっかり休まないといけませんわよ」

 

 言いながらローエさんは俺の手を優しく握ってきた。

 焚き火でしっかり暖めて来たのだろう。

 外気で冷えきっていた俺の手は、彼女の手の熱に歓喜するように震え、気づけば握り返していた。

 

 あったかい……

 このままローエさんを抱き締めて、彼女の全身の温もりで暖まりたいほどだ。

 

「ほら、こんなに冷えてますわ。身体を冷やすのは毒ですわよ。早く焚き火に当たってお休みになって」

 

「ん……じゃあもう少しこのままで。ローエさんの手、暖かくて気持ち良いので」

 

 そう正直に言うと、ローエさんは一瞬キョトンとなり、すぐに優しく微笑んで「いいですわよ」と言ってくれた。

 

 こんな時にイチャイチャしてる場合ではないのだが、キツイ時ほど人肌のぬくもりが恋しくなり、落ち着くのだ。

 不思議なものである。

 

 ローエさんは俺の手を優しく包み込んでくれながら、夜空を見上げた。

 

「綺麗ですわ……さっきまでの惨状が嘘のようですわね」

 

 言われて俺も夜空を見上げる。

 暗い空には無数の星たちが煌めき、青い光が川をつくっているように見えた。

 おかげで思ったより明るい。

 

 血の海と言っていい惨状だった【アークルム王国】を見たあとでは、ローエさんの言うとおり、今の青い夜空はやたら美しく見える。

 

「本当に、綺麗ですね……」

 

 綺麗だけど、あの星たちはそれだけでしかない。

 ただ光り続けるだけで、俺たち人間が滅びようが、ドラゴンどもが滅びようが関係ないのだろう。

 

 そんな無責任な星たちが、今は無性に羨ましく感じる。

 

「……隊長」

 

「はい?」

 

 ローエさんの俺の手を握る両手がキュッと強くなった。

 

「あの四体目の大きなドラゴン……倒せると思います?」

 

「!」

 

 思わず胸がドクンと鳴った。

 同じ不安を抱えていた衝撃によるものだろう。

 俺はローエさんを見た。

 

 当のローエさんは、いつの間にか視線を空から地面へと落としていた。

 

「わたくしは……正直、勝てる気がしませんわ。今回ばかりは……」

 

「ローエさん……」

 

「ごめんなさい。ガイス隊長にはあんなこと言いましたけど、わたくし……怖くて……」

 

「俺が居ても、ですか?」

 

「……」

 

 返事はなかった。

 俯いて、沈黙を通す。

 その態度が、返事を物語っていたのは容易に想像できた。

 

 それもそうだろう。

 先のアークルムでも俺が参戦したところで事態は好転しなかったのだから。

 

 それに今回ばかりは、俺が居ようが居まいが、何とかなる相手じゃない。

【竜斬り】だって通用しないだろう。

 

 ならばどうするか?

 一つだけ希望はあるが、それはちょっとガイス隊長や生き残りの騎士たちに聞かねばならないところもあるので即決はできない。

 

「あなたが居てくれるから……」

 

「え?」

 

「……隊長が居てくれるから、わたくしは今、正気を保ててるのですわ」

 

「ローエさん……」

 

「だってそうでしょう? 【エルガンディ王国】以外の国はもう滅んでしまったんですわよ? こんな状況で平然としていられる方がおかしいですわ」

 

 確かに。

 ざっくり人類が4分の1まで減ったと言えるから、とんでもない事である。

 今になって俺も怖くなってきた。

 

「わたくしだけじゃありませんわきっと。カティアさんも、先生も、あなたが居てくれるから……」

 

 こう言われてしまうと、俺も怖くなってきました、なんて言えなくなっちゃうなぁ。

 でも、まぁ、大切な彼女たちの心の寄り所になっているのなら、俺が怖がっている場合じゃないな。

 

「任せてくださいローエさん。俺はまだ諦めてません。なんとしてでも四体目のドラゴンを倒します」

 

「隊長……」

 

「俺だって、今は夢がありますから」

 

「え?」

 

「【大家族】が欲しいんです」

 

「だい、かぞく?」

 

「両親いませんからね俺。だからローエさんとカティアさんと先生には、たくさん子供を産んでほしいんですよ」

 

 その言葉にローエさんはほんのり頬を赤くした。

 

「……まぁ、これだけ人類が減った以上、子供を産むことに反対なんてしませんわ。今さらですもの」

 

 溜め息を吐くローエさん。

 

「でもいつの間にか、あなたの妻にわたくしも入ってますのね? もう少し考えさせてって言ってますのに……」

 

「もちろんですよ。言っておきますけど俺はローエさんを諦めるつもりはありません」

 

 俺は逃がさないように、ローエさんの両手を掴んだ。

 ローエさんはそれを決して振りほどこうとはしない。

 むしろ──

 

「同じ気持ちですわ隊長」

 

 俺の手を、握り返してきた。

 

「わたくしも、あなたを諦めることはできませんわ」

 

 そう告白され、返事をしようとした俺の唇にローエさんの唇が重なった。

 

 それは以前に断られた【約束のキス】そのものだった。

 ローエさん自らがキスをしてくれた。

 

 しばらく堪能して、ゆっくりと唇を離す。

 

「……決意してくれたんですね。ローエさん」

 

 俺の言葉に、ローエさんは赤くなった顔で小さく頷いた。

 

「あとはS級ドラゴンですわ。あれらを全滅させて、みんなで、幸せに暮らしましょう」

 

「もちろんです」と俺はローエさんを抱き締めた。

 いきなり抱き締められたローエさんは少し驚いたようだが、すぐに抱き締め返してくれた。

 

 

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