【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第69話【柱の二人】

 ローエ・マクシアは指定された城の【謁見の間】へやって来ていた。

 そこはドラゴンの攻撃で屋根が半壊し、空が一望できるようになっている。

 今はひどくさっぱりした虚空に見えた。

 

 風通しの良いそこでは各領地の貴族たちが集まっており、口々に何かをざわめいている。

 ローエはただ黙ったまま、その中の一人として立っていた。

 

 父と母が先刻のドラゴンの襲撃に巻き込まれ死亡し、必然的に【マクシア家】の長女であるローエが代表としてここへ呼ばれた。

 

 両親の死を悲しむ間もなく、いきなり父に代わって領地の代表とされた。

 頭の整理が追いつかなくてパニックになりそうだった。

 

 でも両親の死に泣きじゃくるリーネや必死に励ますセルディス。

 先行きに不安を抱えながらも救助活動をがんばる領民たち。

 そんな彼らを見ていたら、弱音など吐いてはいられなかった。

 

 こんな時こそ【マクシア家】の長女たる自分はしっかりせねばならないと思う。

 でもその反面……あまりにも突然だった両親の死が悲しすぎて、涙が込み上がりそうになっている自分もいた。

 

 嫌いではない。

 むしろ大切に愛していた両親だ。

 その二人を一度に失って悲しむなというのが無理である。

 

 でも時と場合がそれを許してくれない。

 こんなところで泣き喚けば【マクシア家】の恥となるだろう。

 今は耐えるしかないのだ。

 

 ──ゼクードに会いたい。

 ──カティアに会いたい。

 ──フランベールに会いたい。

 

 押さえ込んでいる悲しみからか、ローエはそう思った。

 

 甘えん坊ですわと内心で苦笑していると、国王さまがやってきて玉座の前に立った。

 その国王さまの左右には大臣と、あのガイス隊長までいた。

 挨拶にでも来ていたのだろうか?

 

「みんな。よく集まってくれた」

 

 その国王さまの表情は事態の深刻さを訴えるほど真剣で、鋭い眼光がローエや貴族たちに息を呑ませた。

 

「事態は一刻を争う。手短に話そう。できるだけの救助活動を終えたら、明日の昼までにここ【エルガンディ王国】を放棄する!」

 

「な……」

「は……ぇ?」

 

 突然の国王さまの御言葉に貴族たちは戸惑いの声を上げた。

 ローエも一時的に驚いたが【超大型ドラゴン】とここを襲ったドラゴンの脅威を思えば仕方ないと思えた。

 

「各領地の領民を誘導し、我々は【ミスリル鉱山】に避難する」

 

 ローエとガイスを除くこの場の全員が驚愕してどよめく。

 その中で一人だけ

 

「ふざけないで!」

 

 と、カン高い怒声を発した女性がいた。

 

「家を捨てて洞窟暮らしですって!? なんで私がそんな目に遭わなきゃならないの!」

 

 怒りのままに叫びながら、その女は国王さまの前に出てきた。

 

 あの女は? とローエは怪訝な目で彼女を見る。

 

 銀髪の長身の女だった。

 傲慢さが窺え、女性らしからぬ目付きの悪さが露呈している。

 機嫌が悪いのもあるのだろうが、まぁ無愛想である。

 まだあのカティアの方がよほど愛嬌があるのだろう。

 

 見た目は装飾豊かなドレス状の衣服を着ており、

 鎧姿のローエとは見事に対照的だった。

 

「き、君! 国王さまになんて口を──」

 

 ガイスが言い欠けて、それを国王さまが片手で制した。

 

「お前は誰だ?」

 

 国王さまに問われた女はキッと目付きを鋭くした。

 

「【フラム家】の三女リリーベール・フラム」

 

【フラム家】!?

 うそ!

 まさか、あんな優しさの欠片も無さそうな女がフランベールの身内!?

 

 信じられない。

 ぜんぜん似てないし。

 あ、それは腹違いのせいだろうか?

 いや、でも、これは酷い。

 

「そうかあのフランベール・フラムの……。悪いが洞窟暮らしに変更はない」

 

「ふざけないで!!」

 

「話を聞け」

 

「そっちが聞きなさいよ!」

 

「これは命令だっ!!!」

 

 断固として拒否を許さない国王さまの本気の怒声が轟いた。

 この場にいる全員が驚き、さすがのリリーベールもビクついて一歩後ずさった。

 

「な、なにが命令よ! こっちは税を払ってるのよ! 領地を認めて守護するって契約でしょ!? なのにその領地どころか国を捨てて洞窟に逃げようなんてあんまりよ!」

 

 下がったと思ったら前にまた出てきたリリーベール。

 今にも国王さまに掴み掛かりそうな勢いだった彼女を、ローエは羽交い締めにして止めた。

 

「お止めなさいあなた!」

「ちょ、何よあんた! 離して!」

 

 暴れて抵抗してくるリリーベールだったが所詮は非力な女。

 S級騎士であるローエにとっては同じ女でも赤ちゃん同然の抵抗だった。

 

「今は大人しく国王さまの話を聞きなさい!」

「!? あんたその格好!? やだ離して! 異端が伝染るでしょっ!」

 

 異端が伝染るっ!?

 こ、この女!

 

 床に叩きつけて殴ってやりたい衝動に駆られた。

 しかし。

 

「話の邪魔だ。ガイス隊長。その女を牢へ連れていけ」

 

「……了解です」

 

「な!? なんでよ!」

 

「今は個人のワガママを聞いている余裕はない。連れていけ」

 

 ローエから代わってガイスがリリーベールを拘束した。

 

「騎士が! 騎士がドラゴンどもを倒せば済む話じゃないの! なんのためにいるのよ騎士は! ねぇ!」

 

 その言葉を最後にリリーベールは【謁見の間】から連れ出されて行った。

 ドンと閉じられた扉の音が響き、貴族たちが震えて生唾を飲む。

 

 今の国王さまは、意に反する者を容赦なく叩く。

 そんな凄みと恐ろしさがあった。

 それだけ余裕がないということなのだろう。

 

「話を続けるぞ。先刻ゼクード率いる【ドラゴンキラー隊】が帰還した。残念だが【アークルム王国】も壊滅した」

 

 貴族たちみんながその事実に驚き、顔を青くした。

 国王さまは続ける。

 

「この大陸で残っているのは【エルガンディ王国】の我々のみである。このまま戦い続けても人類は絶滅するだろう」

 

「そ、そんな……」

「そんなに追い詰められていたなんて」

 と二人の貴族が絶望の声を発する。

 

「だから私は時間を稼ぐことにした」

 

 ローエや貴族たちの視線が国王さまに集中する。

 

「みんなも見たと思うが、ここを襲ったあのドラゴンは過去の【10年前の悪夢】ディザスタードラゴンだ」

 

【10年前の悪夢】という言葉に、ほとんどの貴族が畏怖した声を上げる。

 

「ディ、ディザスタードラゴンだと!?」

「バカな! あのドラゴンは討伐されたはずじゃ!?」

「やはり、そうだったのか!」

 

 口々にざわめく貴族たちだが、ローエも同じ感想だった。

【10年前の悪夢】なら両親に聞いている。

 ゼクードの父である英雄フォレッドが倒したことも。

 

 なのに、まさか、生きていたとは。

 

「組織的な動きを見せる今回のドラゴンどもは、裏にとんでもないリーダーを隠していたわけだ」

 

 嘆くように国王さまは一呼吸いれる。

 

「しかもよりによって奴がリーダーだった。相手が奴ならこれまでの戦いに筋が通る。奴なら知っているからな。城壁の中は最高の餌場(であることを。同時に攻略が楽でないことも身をもって知っている。人間の済む場所にはドラゴンと戦える【騎士】がいることを」

 

 そうか、とローエは得心した。

 竜巻や雷を操れるほどの圧倒的な力を持ちながらも、決して単体での行動には移らず、群を成し、おそらく部下であろうS級ドラゴンどもやA級ドラゴンどもを揃えて攻撃に出たのは【騎士】の存在が理由だった。

 

 考えてもみれば当然で、ひどく単純だが。

 それだけ今回のディザスタードラゴンは、人間の絶滅に本気だということにもなる。

 

「奴は力と数を揃えてやってきた。その脅威に今の我々では対抗できない。故にここをいったん捨てて、身を隠してみなで力をつける。それが、今の我々に残された生き残るための手段だ。私の案に反対する者はいるか?」

 

 リリーベールの件の後だ。

 反対する者など今さらいない。

 

 だけどみな、国王さまの説明に納得している者がほとんどのようだった。

 

「──……よし。ならば繰り返すぞ。明日の昼までに領民たちに避難の準備をさせろ。ドラゴンはいつ来るか分からない。領民の中に避難を拒否する者がいたら容赦なく見捨てろ」

 

 残酷な言葉だが、今の場合は仕方ないと思えた。

 

「生きる気のない弱者を連れて歩く余裕はない。生きる気のある強者だけを連れて我々は鉱山を目指す。いいな!」

 

「はいっ!」

 

 貴族たちが珍しくも声を揃えた。

 

 先ほどまで顔を青くしていた貴族たちが、今は気をしっかり持った光のある眼をしている。

 

 絶望的な状況では、このように力強く逞しいリーダーがみんなの希望となる。

 

 ゼクード・フォルスも同じだ。

 自分が正気を保ててるのは彼のおかげ。

 彼もまた、自分にとって大きな希望の光だ。

 

 そして国王さまもまた。

 大きな光である。

 

 ゼクードと国王さま。

 この二人がいればきっと、人類に困難はあれど敗北はない。

 きっと。

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