【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第72話【リーネとレィナ】

 レィナは瓦礫だらけの街を歩いていた。

 月明かりだけが頼りの暗闇の中、小さく溜め息を吐く。

 

「こんな時までケンカしないでよ……」

 

 その呟きは父クロイツァーと姉カティアに対する愚痴だった。

 

 残っていた部屋で睡眠をとっていたが、庭の方で姉が父に何かを言っている声が聞こえた。

「幸せなはずない」とか「愛さなければならなかった」とか。

 

 会話内容で、たぶん死んだお母様や姉妹たちのことだろうと察した。

 カティアとクロイツァーは顔を合わせればケンカばかりしていたから、今回もそうなのだろう。

 

 自分も父クロイツァーは嫌いだが、いま揉めるのはやめてほしい本当に。

 

 ドラゴンの襲撃や、王国放棄や、家族の死など、様々な事件が立て続けに起きて疲れきっていたレィナには、

 この聞き慣れた父と姉の口論を無視して寝る余裕はなかった。

 

 だから静かな場所で一息吐きたいと思い、部屋を出て今に至る。

 

 しかし街の無惨な姿を再び見ると、結局は気が滅入っている自分がいた。

 

 雷に撃たれて丸焦げになったお母様や姉妹たち。

 竜巻に巻き込まれて壁に激突して死亡したお母様もいた。

 

 あの地獄のような光景を思い出しそうになる。

 軽くトラウマになっているのだろう。

 なんで自分だけ助かったのか、今でも不思議なくらいなのだから。

 

「あの……」

 

「!?」

 

 不意に誰かに話し掛けられたレィナは慌てて声の方へ振り向いた。

 そこには月光に照らされた金髪が美しい小柄な少女が立っていた。

 自分と同じくらいの女の子だ。

 

「あれ? あんた前に……」

 

 見たことがある少女だ。

 執事を連れていた少女で名前は確か……リーネだったか?

 

「こんばんはレィナさん」

 

「こ、こんばんは」

 

 自己紹介した覚えはないが名前は知られていたようだ。

 こんな時間に何をやっているんだろう?

 

「えっと……リーネだっけ?」

 

「ぁ、そうです。覚えててくれたんですね」

 

「え? うん、まぁ……」

 

 覚えてたっていうか、誰かがリーネと呼んでいたのを思い出したというか。まぁなんでもいいや。

 

「あの、どうされたんですかこんな時間に」

 

 こっちのセリフを取られた。

 とはいえ、今はもう深夜。

 女の子が外を彷徨く時間ではない。

 

「べつに。ちょっと風に当たりに来ただけよ。あんたは?」

 

「あ、ワタシも一緒です! なんか怖くて、身体の震えがずっと止まらなくて、気を紛らわそうと風に当たりに来ました。あの良かったら、一緒に歩きませんか?」

 

「……え?」

 

 思わず耳を疑った。

 この少女は自分の装備を見て気づかないのだろうか?

 

 革の鎧から薄っぺらいが鉄製の鎧に変更して装備し、さらに腰には本物の双剣を垂らしている。

 レィナが騎士であることを示しているのだ。

 

 騎士であるということは【攻撃魔法】が使えるということにもなる。

 女の身で。

 つまりは異端だ。

 

 見たところリーネは騎士ではなく普通の女の子だ。

 白と緑の服装がそれを現している。

 普通の女の子であるリーネには、レィナが異端に見えるはずなのだが。

 

「夜一人で歩くのって思ったより怖くて……その、レィナさんが一緒ならいいなって思ったんです。レィナさん騎士みたいですし、何かあっても安心かなぁって……」

 

 は?

 

「あんた……アタシが騎士だって分かってて声掛けたの?」

 

「え? はい」

 

 聞かれたリーネは見事なほどキョトンとしていた。

 あ、もしかしてこの子、何も知らないアホの子なのかも。

 

「アタシは【攻撃魔法】が使えるのよ? わかってんの?」

 

「ぇ、え? はい。わかってます。そりゃあ騎士ですし……」

 

 困惑しているのはリーネの方だった。

 なぜそんなことを聞いてくるのか。

 本気で分かってないようなのである。

 

 女が【攻撃魔法】を使うことに疑問を持たないなんて。

 いったいどんな育ち方をしたのやら。

 よく分かんないけど、知らないなら別に知らせなくてもいいか。

 今はギャーギャー言われたくない気分だし。

 

「……ま、いいわ。何とも思わないなら別に」

 

「あの、魔法が使えるのって、なにかマズイんですか? ワタシ【錬金術】が使えるんですが……」

 

 うん【錬金術】なんて女性しか覚醒しないから。

 この子ほんとうに無知なのね。

 

「いや魔法がマズイとかじゃなくって……女が【攻撃魔法】を持ってることが一般的に変なの」

 

 しまった。

 口を滑らせて言ってしまった。

 わざわざ自分で敵を増やす真似をするなんて。

 

「え、そうなんですか? ワタシのお姉さまは普通に【攻撃魔法】使ってますよ?」

 

 ──ん?

 

「え……なに?」

 

「ワタシのお姉さまはS級の女騎士なんです。風の【攻撃魔法】を使うんですよ」

 

 姉がS級の女騎士!?

 あ! そうだ! ローエ・マクシア!

 カティアお姉様のライバル!

 そうか! だからこの子!

 

「あんたそれ先に言いなさいよ!」

「ええええっ!?」

 

 

「なぁグリータ。結局『1年Aクラス』は何人無事だったんだ?」

 

 深夜の見張り番。

 ペアになったグリータにゼクードは聞いた。

 隣を歩く友人は露骨に顔を曇らせる。

 

「3人は無事だった。オレとお前を含めたら5人になる」

 

「そっか……」

 

 俺が発見したクラスメイトたちはみんなダメだった。

 31人もいたクラスメイトたちが、たった一度の襲撃で5人にまで減った。

 

 犠牲が出過ぎである。

 今になって彼らと過ごした日々を思い出してしまう。

 胸が痛い。本当に。

 

「でも、あの3人は──」

 

 グリータは夜空を見上げた。

 今にも泣きそうな声音で、残酷な現実を告げる。

 

「──もう武器は持てないって、医者に言われてた……」

 

「マジかよ……」

 

 奇跡的に生き残ったのに、騎士生命を断たれたということか。

 どれほど酷い怪我なのか、想像に難くない。

 

「先生には……」

 

「俺から言っとくよ」

 

「悪い……」

 

『1年Aクラス』の担任フランベール先生はまだこの事実を知らない。

 姉が牢屋に捕まったせいで【フラム家】の領地を代わりにまとめなくてはならなくなったせいだ。

 

 そこで代わりに『1年Aクラス』を任されたのが俺とグリータで、今に至るわけなのだが。

 想像以上に酷いものだった。

 

 これを伝えたときフランベール先生がどんな顔をするか。

 考えただけでもう胸が苦しくなる。

 

 なんて言おうか考えていると、暗い街の奥から女性らしき声が聞こえてきた。

 この気配は……二人分の気配だ。

 

「赤ちゃんに母乳をあげるのはみんな同じなのにさ。なんでこう大きかったり小さかったり差をつけたのか。これが分かんないのよね」

 

「そうですよね本当に。みんな同じでいいのになんでこうなのかなってワタシも思います。せめてお姉さまの半分くらいにはなりたいですワタシ……」

 

「大丈夫。アタシたちはこれからよ。自分で毎日揉んでマッサージすれば大きくなるわよ」

 

「で、でもお姉さまは勝手に大きくなったって……」

 

「…………アタシの姉さまもそう言ってた」

 

 二人は一緒に腹の底から大きな溜め息を吐いた。

 

 あれ?

 レィナさんにリーネさん?

 こんな時間に二人して散歩?

 

(あ! あの時の双剣使いだ。あいつらこんな時間になにしてんだ?)

 

(見た感じ散歩みたいだけど。友達だったんだあの二人)

 

 俺的にはこんな時間に散歩しているより、レィナさんとリーネさんに面識があったことに驚きだった。

 夕方のとき同じ場所にいたけど一言も会話がなかったから、友達でもなんでもないのだと思ってた。

 

(!)

 

 レィナさんとリーネさんの前方からもう一人の気配が近づいてくる。

 黒フードを被った細身で長身の人間だ。

 そいつは男と分かるシルエットで、どうにも嫌な気を感じる。

 

 んん?

 ちょっと待てよ。

 あの黒フード……どこかで見たような。

 

「よぉ待ちな」

 

「ん?」

「え?」

 

 呼び止められたレィナさんとリーネさんがようやく男の存在に気づいた。

 黒フードの男は笑いながら二人に近づいてくる。

 

「こんな時間に女二人で何してるんだ?」

 

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