【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
その後、クロイツァーさんは明日のため家に帰って行った。
一人残った俺は今もまだ、城壁の上で草原を眺めている。
夜の冷たい風が俺の頬を撫でた。
「女騎士は、最初からいない方がいい……か」
強くなるには男の数倍の努力が必要で、そのくせいつかは離脱する。
割りに合わない。
狩りは女性の得意分野ではないから。
男性は硬い筋肉の塊だ。
女性は柔らかい脂肪の塊だ。
でもそれらには理由があり、性別で分けられた役割があるからだ。
グゥの音もでないほど正論だ。
そんなことは分かっている。
クロイツァーさんの言いたいことは分かる。
そう考えるとローエさん・カティアさん・フランベール先生は本当に凄いな。
【攻撃魔法】という不幸を背負いながら、
鍛えるのにも苦労したであろう女性の身体で、
この国のトップクラスになっているのだから。
男の俺には想像もできない涙ぐましい努力があったはずだ。
もし彼女たちが男性だったならば、俺はとっくに抜かれていたかもしれない。
だから、そんな彼女たちの努力を無下にするような『女騎士など最初からいない方がいい』という発言には賛同できない。
するわけにはいかない。
たとえ誰がどう言おうと、俺はローエさん・カティアさん・フランベール先生を大切にするし、味方でいたい。
それにクロイツァーさんは女性を弱者として見ているが、俺に言わせれば、みんな弱者に見える。
過去に偉そうにしていた男の騎士たちも、所詮は父フォレッド頼りだったのなら女性と同じ弱者じゃないか。
大きく溜め息を吐くと、いきなり視界が真っ暗になった。
「えっ!?」
「だ~れだ?」
すぐに誰だか分かった。
目を覆う柔らかいふにふにした手。
心落ちつく優しい香り。
そして癒しのある声。
「フランベール先生」
「うん正解」
嬉しそうに言いながら、先生は俺の目から手を離した。
俺は振り向くと、そこには月夜の光で美しさを増したフランベール先生が立っていた。
ベージュの長髪が煌めいて、本当に美しい。
美しいけど、彼女の顔は、どこか悲しみの色を含ませている。
「ボ~ッとして隙だらけだよゼクードくん」
「すみません。油断しちゃいました」
あっさり背後を取られたのは事実なので、俺は苦笑して返した。
「まだ起きてたんですね」
「うん。ゼクードくんに会いたくて」
「え?」
あ、もしかして『1年Aクラス』のことを……
「……あの、先生。クラスの事なんですが」
「ん、大丈夫。……もう知ってるから、大丈夫だよ」
予想外の返事だった。
まさか知っていたとは。
誰から聞いたんだろう?
グリータか?
それとも自分で?
「先生……」
「酷いよね……みんな良い子だったのに、こんな結末……」
「……はい」
『1年Aクラス』の担任だったフランベール先生と、その生徒の一人だった俺には、あまりにも重い結末だった。
少し前に大乱闘してバカをやっていたのが、やけに懐かしく感じてしまう。
生徒たちの顔を思い出しているのか、フランベール先生は大粒の涙を溢す。
俺はそんなフランベール先生を慰めようと抱き締めた。
優しく頭を撫で、俺の胸で先生の涙を受け止めていく。
「ありがとうゼクードくん……こうして、泣きたかった……」
「いえ」
「わたし、家族はリリー姉さんだけ生き残って運が良いと思ってた。でも、クラスのみんなが、こんな……」
リリー姉さんとやらが誰かは分からないが、家族の被害に関しては、先生にとってそれほど深刻じゃなかったようだ。
でも自分の担任していたクラスが、ほぼ9割全滅し、生き残った生徒たちは俺とグリータのみ。
ほか三人は武器も持てないほどの重体。
それがよほど堪えたのだろう。
先生と生徒。
みんなが仲の良い、素晴らしいクラスであったことには変わりなかったのだから。
悲しみに暮れる彼女を、俺はしばらく抱き締めていた。
それから数分後……
「あの〜お二人さん? そろそろいいかしら?」
「ひゃあ!?」
フランベール先生が驚き、俺から離れた。
声を掛けてきたのはいつの間にか来ていたローエさんだった。
彼女の後ろにはカティアさんもいる。
「びっくりしたぁ。ローエさんもカティアさんも起きてたんだね」
「ええ。どうにも眠れなくてゼクードに会いに来たんですけれど、先生に先を越されてましたわ」
あ、ローエさんも俺に会いに来てたのか。
嬉しい。
「ぁ、そうだったんだ。そんな気を使わなくてもいいのに」
まったくだと思いつつ、俺はカティアさんを見る。
「カティアさんも起きてたんですね」
「ああ……私も、お前に会いたくてな」
あ、カティアさんまで俺に。
心の拠り所になるというのは、案外と嬉しいものだ。
「いろいろあって疲れたから、お前に慰めてもらおうと思って来たんだ。だが先生に先を越されてしまったな」
「ねぇ?」
笑うカティアさんとローエさんにフランベール先生は顔を赤くする。
「だ、だから別に遠慮しないで出てくればいいのに。んもぅ……」