【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第84話【情け容赦なし】

 レィナは女子供だらけの領民を連れて、いよいよ東側の城壁から外へ出た。

 胸壁からしか覗いたことのない草原に、生まれて初めて足を踏み入れた。

 

 でも、感動している場合じゃない。

 草原には味方の騎士たち雄叫びとドラゴンの咆哮が至るところで響いている。

 狩りではない、決死の防衛戦が繰り広げられている。

 

 火球の爆発音が連続するこの草原を、今から突っ切らねばならない。

 

 その先頭を、まさか自分がやることになるとは思わなかった。

 父クロイツァーがやることになっていたはずなのに、いきなりこんな大役を任されて……。

 

「こ、ここを突っ切るのですか?」

 

 レィナの真後ろにいた領民の一人が、恐怖に満ちた声を聞かせてきた。

 見れば後ろのみんなも震えている。

 レィナ自身も正直、震えていた。

 

 こんなの、怖いに決まっている。

 いつ火球がすっ飛んで来るか分からないし、いつ防衛線を突破されてこっちにドラゴンが来るか分からないのだから。

 

 父クロイツァーもいない。

 姉のカティアもいない。

 グリータも……いない。

 

 頼れるのは、誰もいない。

 自分が頼られる側だから。

 

 今の自分は領主の代理。

 父の代わりにここにいる。

 怖いとか、言ってられない!

 

「突っ切るわ! みんな覚悟を決めて! いくわよ!」

 

 自分に言い聞かせるようにレィナは叫んだ。

 そして一歩、鉱山へ向けて歩み出す。

 領民たちもレィナに続いた。

 

 進行速度は遅い。

 やや駆け足程度だ。

 子供を抱えた女性や、老婆や、小さな子供。

 それらをまとめて移動させるとなると、どうしても遅くなる。

 

 一歩、また一歩と草原を進んでいく。

 鉱山へのルートは頭に入っている。

 地図も貰った。

 

 このまま真っ直ぐ進めば、鉱山へたどり着く。

 

 しかし、進めば進むほど火球の爆発音が大きくなり、騎士たちの声やドラゴンの咆哮も大きくなってくる。

 

 黙視できるところで二つの勢力が攻防を繰り広げている。

 そのど真ん中をいま、通過しようとしている。

 

 爆音が鳴るたびに後ろの領民たちがヒィッと悲鳴を上げている。

 

 それでも前に進む。

 ここで立ち止まれば死ぬだけだから。

 

 進行ルートは味方の騎士たちのおかげで確保されている。

 群れの壁を崩し、見事な一本道を作っている。

 しかし。

 

「あっ!?」

 

 嘘でしょ!?

 

 進行ルート先に、討ち漏らしらしき一匹のA級ドラゴンがいた。

 赤い鱗に覆われた三メートルの化け物だ。

 こんなに近くで生のドラゴンを見たのは初めてである。

 

「ド、ドラゴンよ!」

 

 後ろの領民が気づき、悲鳴に近い声を上げる。

 

 ドラゴンはこちらに気づき、咆哮してまっすぐ突撃してきた!

 

 うそ!

 こっちに来る!

 

「いやあああああ!」

「こないでえええ!」

「誰か! 誰かああああ!」

 

 後ろの領民たちも悲鳴を上げて、列を崩して逃げようとする。

 その言葉に脳を叩かれて、レィナは咄嗟に双剣を抜刀して叫んでいた。

 

「列を乱さないで! アタシが壁になる!」

 

 アタシがやらなきゃ!

 

 実戦経験はない。

 ましてやA級ドラゴンの相手など。

 

 でも、戦えるのは自分しかいない!

 やるしか、ない!

 せめて……せめて壁にならないと!

 

 大口開けて迫り来るドラゴン。

 その剥き出しの牙が目に入り、レィナは全身が戦慄する感覚を覚えた。

 

 刹那!

 A級ドラゴンが何者かによって吹き飛ばされた。

 

「え……!?」

 

 何が起きたのか、レィナは分からなかった。

 少しして冷静になり、近くに見覚えのある男性が立っていた。

 それにようやく気づく。

 

 ハンマーを持った長身の男性。

 彼はたしか、リーネと一緒にいた執事の男性だ。

 

「セ、セルディスさん!」

 

「ご無事ですねレィナ様。さ、お急ぎください」

 

「ありがとうございます!」

 

 言ってレィナは進行を再開する。

 

「みんな! 行くわよ!」

 

 言いながら思う。

 あんな大きなドラゴンを一撃で吹き飛ばしてしまうなんて。

 なんてパワーなんだろう。

 

 自分より遥かに年上で、もはや老体なのに……凄い。

 

 グリータの時にも思った。

 やはり男の騎士たちはみんな強い。

 

 そんなことを思いながら前進していると、またも二匹のドラゴンがこちらに気づいて向かって来ていた。

 

 しかし、そこへすでに向かっていたセルディスが二匹のドラゴンと対峙する。

 

 ドラゴンのかみつきを華麗に避け、その頭を踏みつけハンマーによる叩きつけを放つ。

 頭部を強打されたドラゴンは、たったの一撃で動かなくなった。

 

 続けて襲い来る二匹目のドラゴンも、回転を乗せたフルスイングの一撃にてあっさり頭部の原型を無くす。

 

 あっという間に二匹。

 やっぱり凄い。

 

 他の周りで戦っている騎士たちも、A級ドラゴンの群れに遅れを取ってはいない。

 

 中でもレィナの目に止まったのは──他でもない父クロイツァーの姿だった。

 

 戦っている。

 自分と同じ双剣を握って。

 

 父が無事だったことを心のどこかで安堵しながら、レィナはクロイツァーが相手取るドラゴンを見た。

 

 あきらかに他の個体とは別格のドラゴンを相手にしている。

 青い竜鱗の大きなドラゴンだ。

 全身が氷で覆い尽くされている。

 あれが例のS級ドラゴンというやつだろうか?

 

 あの巨体に似合わぬ俊敏な動き。

 目にも止まらぬ爪の振りかざし。

 地面を抉る超威力のブレス。

 

 なんて化け物なんだ。

 カティアお姉さまたちは、あんなものを相手にしていたのか。

 何もかもが凄すぎて、現実味が失せていく。 

 その感覚に拍車を掛けたのが、当のクロイツァーの剣技だった。

 

 敵の攻撃を掻い潜り、肉薄したクロイツァーは吼える。

 双剣を煌めかせ、無限にも見える剣閃を放つ。

 それをまともに受けたS級ドラゴンは全身の氷を剥がされ、さらには竜鱗をも貫通し、肉を断った。

 

 鮮血がドラゴンの全身から薔薇のように吹き荒れた。

 それは美しくも一瞬で、瞬く間に無惨な亡骸を残す。

 

 父の奥義【真紅の舞】だ。

 

 初めて見た。

 双剣を武器として選んだとき、一度だけ父に聞かされたことがある奥義。

 

 S級ドラゴンをあんなに簡単に。

 こんなに凄い剣技だったなんて。

 見ると聞くとでは大違いだ。

 

 あんな剣技、アタシが使えるようになるのだろうか?

 

「何をしているレィナ! 早く行け!」

 

 こちらに気づいていたらしい父クロイツァーと目が合い、怒鳴られた。

 ハッとなったレィナは慌てて「はい!」と返事をする。

 

 領民を引き連れてレィナは前進した。

 

 ……やはりいつもの父である。

 無愛想で、いつも命令口調で、優しいとこなんか何もない。

 無愛想なところは姉カティアとそっくりなのだが、カティアはまだ優しかった。

 

 父は優しくしてくれたことなんかない。

 そんな父が、今でも大嫌いだ。

 

 でも……さっきだけはカッコよく見えた。

 S級ドラゴンを圧倒するほどの、口だけではない本物の実力。

 

 自分もいつか、あの高みへ。

 目指せるか?

 女の身体で……。

 

 レィナは前進しながらクロイツァーに視線を向けた。

 すると意外にもクロイツァーはまだこちらを見ていた。

 思わぬ不意打ちで目が合った。

 

 レィナはまた怒鳴られると思い、急いで視線を前に戻す。

 

 ──もう一度、クロイツァーの方を見た。

 父はすでに、戦列に戻っていた。

 

 

「そ、総司令! 総司令っ!」

 

 それはゼクード率いる【ドラゴンキラー隊】が去って数分後のこと。

 城壁上にいる一人の部下が、悲鳴にも似た声でこちらを呼んでくる。

 

 現在はA級ドラゴンの進行を妨害するために、各自で城壁上から魔法を乱発している最中だ。

 交代して撃っているが、相手の数が圧倒的で妨害し切れていない。

 

 壊れたゲートを突破され、街への侵入を許すのはもはや時間の問題だった。

 

「総司令っ!」

 

 また呼ばれ、さすがに返事をする。

 

「どうした!」

 

 望遠鏡など覗いてないでお前も援護しろ!

 ……そう怒鳴ろうとしたが、部下の次の言葉がそれを消滅させた。

 

「S級ドラゴンの群れです!」

 

 ──S級ドラゴンの、群れ?

 

 耳を疑った。

 嘘だと信じたかった。

 そんなこと有り得ないと。

 

「何をバカなことを!」

 

 言って望遠鏡を引ったくると、総司令はそれを覗いた。

 

 A級ドラゴンの群れ。

 その奥に、青い竜の群れがあった。

 その更に奥には、ドラゴンマンのような二足歩行の赤いドラゴンが群れを成して迫ってきている。

 

 その数は十~二十を優に越える。

 

 総司令は望遠鏡を落とした。

 あまりの絶望的な光景に、全身の戦慄がおさまらない。

 

「終わりだ……」

 

 この世の終わりを見た気がして、総司令は力なく呟いた。

 

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