【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第85話【徹底的に皆殺しの竜軍】

 A級ドラゴンの群れ。

 その奥に、青い竜の群れがあった。

 

 その隣には、ドラゴンマンのような二足歩行の赤いドラゴンが群れを成して迫ってきている。

 その数は十~二十を優に越える。

 

 総司令は望遠鏡を落とした。

 あまりの絶望的な光景に、全身の戦慄がおさまらない。

 

「終わりだ……」

 

 この世の終わりを見た気がして、総司令は力なく呟いた。

 

 そしてその呟きは、現実のものとなる。

 

 S級ドラゴンの群れから光が発せられた。

 

 赤い光と青い光だ。

 

 その光はあまりにも大量で、何が飛んできたのかを把握するのに少し掛かった。

 

 総司令は膝から崩れ、ただ呆然と空を見上げた。

 

 赤い光は火球。

 青い光は氷塊。

 

 S級ドラゴンの群れによる遠距離攻撃。

 

 避けろという方が無理なほどの広範囲。

 

「そ、総司令えええええ!」

 

 迫り来る死の飛来物に部下たちが気づき、悲鳴を上げた。

 

 その悲鳴は火球と氷塊の弾雨によってかき消され、総司令の意識も激しい衝撃と共に消滅した。

 

 

 誰もいなくなった城の武器庫に、俺とカティアさんは来ていた。

 超大型ドラゴン戦で武器を失って、代わりの物を探しているのだが。

 

「ちょうどいいのはあったか?」

 

「いや、ないです」

 

 俺はため息混じりに言った。

 ロングブレードを探しているのだが、それらしい武器はない。

 

 そんな人気ない武器だったかな?

 それとも全部持ってかれたか?

 

「カティアさんこそ、それでイイんですか?」

 

 カティアさんが握るのは火薬機関のない普通のランスだ。

 大盾は以前からの物だが、ランスだけは違う。

 

「良くないさ。だがバスターランサーなんてじゃじゃ馬。探すだけ無駄だろう」

 

「ですよね」

 

 扱いにくさで有名な武器だ。

 メインで使ってるのなんてカティアさん以外見たことがない。

 探すだけ無駄なのはごもっともなのだ。

 

 俺のロングブレードがないのにバスターランサーがあったら、それこそ驚きである。

 

「それより早くしろ。ドラゴンは待ってはくれないんだ」

 

「じゃあこれで」

 

 仕方なく残っている武器のグレートソードに手を伸ばした。

 どう見てもデカ過ぎるし、重そう。

 俺の身長を越えているせいで肩に背負うしかない。

 

 やれやれとグレートソードの柄を握ると、ほぼ同時に爆発音と地鳴りが起きた。

 

「な、なんだ!?」

 

 揺れで膝をついたカティアさんが驚く。

 外からの音だ。

 しかも立て続けにまた爆発音と地鳴りが起きる。

 外で何が起きているんだ?

 

 嫌な予感がして、俺はグレートソードを担いで武器庫の外へ出た。

 カティアさんも俺に続く。

 するとまた爆発音が轟いた。

 いよいよ街の方から人間の悲鳴が聞こえてくる。

 

 まさか、もうドラゴンがこんな街中まで侵入したのか!?

 

 ──その俺の予想は外れていた。

 外れているとわかったのは、空を見たからだった。

 

 空から大量の火球と氷塊の雨が乱れ飛んで来ていた。

 爆発音と地鳴りの正体はこれか!

 

「な、これは!?」

 

 カティアさんもすぐに気づいた様子だった。

 この火球と氷塊の攻撃は見たことがある。

 

 火球は赤いドラゴンマンのブレス。

 氷塊は青いドラゴンの背中の氷山。

 

 やつらの超遠距離攻撃だ。

 

 なんてことだ!

 やつらは、生きていたのか!

 しかもこの【エルガンディ王国】全土を攻撃する攻撃広範の大きさ。

 タイミング。

 火球と氷塊の数。

 

 一匹や二匹で出来る攻撃範囲じゃない。

 やつらは複数いる!

 

 S級ドラゴンが、複数なんて……!

 

 確信したその直後に、俺とカティアさんのところに氷塊が降ってきた。

 

 これは直撃コースだと直感的に分かり、俺とカティアさんは同時に避けた。

 

 地面に氷塊が突き刺さる。

 しかし次の瞬間、その氷塊に火球が重なって大爆発を起こした。

 氷塊はコナゴナに砕け散り、爆風に押された大きな破片がカティアの頭部を直撃した。

 

「カティアさん!」

 

 頭を強打したカティアは倒れた。

 

「カティアさん! カティアさん!」

 

 返事はない。

 気を失っている。

 その倒れた彼女に、またも火球が迫る。

 

 まずい!

 

「カティアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 無我に叫び、俺は夢中でカティアの元へ駆けた。

 そこに火球が落ち、間もなく大爆発を起こし、さらに立て続けに氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊火球氷塊……………――――――― 

 

 

 レィナはなんとか鉱山へと続く地下への穴にたどり着いていた。

 小さな山のふもとにある地下への穴には木製の扉がある。

 避難民の何人かと協力し、その扉を持ち上げた。

 

「さぁ入って! 奥へ逃げるのよ!」

 

 避難民を急かし、扉を潜らせて地下へ送る。

 

「この地下の道をまっすぐ歩いて! そうすれば鉱山へ着くから!」

 

 それだけ伝えて、レィナは扉の前で待機する。

 ルージ領の避難民が地下へすべて逃げ込むと、今度は別の領地の避難民たちがやってきた。

 

 その先頭には見覚えのある女の子がいた。

 

「レィナさん!」

 

「リーネ! 良かった無事で!」

 

 彼女が無事だったことに歓喜して両手を握る。

 

「はい! グリータさんが協力してくれたおかげです」

 

 言われてようやく彼の存在に気づいた。

 リーネの後ろを歩く騎士の男グリータだ。

 

 彼もまた無事だったんだ。

 良かった。

 

 そう安堵するも「あんた、生きてたんだ」と言ってしまってた。

 嬉しいのに、なんでこんな言い方してしまうのか。自分は。

 

「なんとかな」

 

 当のグリータは気にした素振りもなく、ため息を吐くだけだった。

 それを見て、なんとなくホッとする。

 

 リーネとグリータに会えて、心に余裕が出てきた気がした。

 嬉しいと感じていると遠くの【エルガンディ王国】から爆発音が聞こえてきた。

 

 見れば【エルガンディ王国】から黒煙が上がっていた。

 遠すぎてよく見えないが、光が王国の城壁を越えて降り注いでいる。

 

「なに、あれ!?」

 

 レィナは思わず声をあげた。

 王国の黒煙は、あの光が原因か?

 

「エ、エルガンディが……!」

 

 リーネが目を見開き、口を押さえる。

 

「マジかよ……どこまでやりゃ気が済むんだドラゴンのやつら!」

 

 グリータもこの光景に怒りを吐き捨てた。

 

 あの光は、ドラゴンの火球?

 あんな長距離まで飛ばせるなんて……。

 

 父クロイツァーは外にいた。

 でもカティア姉さまは?

 

 嫌な汗が全身から吹き出る。

 

「あ! レィナさん! グリータさん! あれを!」

 

 突如リーネが指を差して叫んだ。

 見やれば、一人の騎士がこちらに向かって走って来ていた。

 騎士の状態は満身創痍で、血だらけである。

 

 戦列を離れたのか?

 なぜこんな端まで?

 

 見れば足取りがおかしい。

 まっすぐ走れていない。

 両手を前に出し、フラフラとこちらにやってくる。

 

「目が、目が見えねぇ! 熱い! た、助けて! だれか助けて!」

 

 目をやられたらしいその騎士の背後には、A級ドラゴンの姿があった。

 

「バ、バカ! ドラゴン連れてこっち来んなよ!」

 

 言ったのはグリータだった。

 それを聞いたレィナは彼を睨む。

 

「なに最低なこと言ってんのよ! 助けるわよ!」

 

「はぁ!? お前もバカか! A級ドラゴンだぞ! オレ達で勝てるわけねぇだろ!」

 

「わかってるわよそんなこと! でもあの人がやられたらどのみちこっちに気づいてドラゴンは来るわよ! その時どうするのよ!」

 

「それは……っ!」

 

 正論を吐かれて口ごもったグリータは、慌てて避難民の列に声を掛け始めた。

 

「だ、 誰かいねぇのか! オイ! A級ドラゴンを倒せるやつ! 残ってねぇのかよ!」

 

 ──そんな彼の姿を見て、レィナは彼に対する熱が一気に冷める感覚を覚えた。

 

 避難民たちはグリータの言葉に困惑している。

 避難で精神的にいっぱいいっぱいの女子供たちに、何をしているのこいつは?

 

「な、なんだよその目は! オレに行けってのかよ! オレは、オレはC級騎士だぞ! オレに死ねってのかよ! お前ら──」

 

 レィナはグリータの頬に平手を叩きつけた。

 それ以上は聞くに耐えられなかったから。

 

「最っ低!」

 

 あの時はカッコよかったのに!

 

 胸の奥で怒りと幻滅の苛立ちが混ざり、それが最低という言葉になって溢れた。

 

「アタシが食い止めるわ! みんなは急いで地下へ逃げて!」

 

 レィナは駆けた。

 

「あ、レィナさん! 一人じゃ!」というリーネの言葉を背に。

 

 しかしその時すでに、目をやられた騎士は食われていた。

 

 

 レィナにビンタされた頬を押さえ、グリータは呆然としていた。

 女の子に殴られたのは生まれて初めてだ。

 

 こんなに痛いのか。ビンタって。

 誰だよ女の子は非力だって言ったやつ。

 

 なんでオレが怒られるんだよ。

 勝てるわけないのは事実じゃねぇか。

 

 A級ドラゴンがこっちに来たら、地下へ逃げて扉を閉めりゃいいだろうが。

 

 後から来る避難民?

 

 そんな、そんなの……知るかよ……オレだって怖いんだよ!

 

 死にたくねぇんだよ……

 

「グ、グリータさん、あの……」

 

 避難民たちが次々と地下へ進むなか、リーネはまだ残っていた。

 グリータは頬を押さえながら、彼女を見る。

 

 コイツもオレに行けって言うのか……

 

「そ、その武器を、貸してください!」

 

 ──は?

 

「私、代わりに戦います!」

 

「何言ってんだよあんたまで!」

 

「レィナさんは、初めて出来た友達なんです!」

 

 そ、そんな理由で死ぬ気かよ!?

 

「お願いです! 武器を貸してください! グリータさんは避難民のみなさんと地下へ!」

 

 なんだよどいつもこいつも!

 こんなの、脅迫じゃねぇか……

 

「グリータさん!」

 

「わかったよ! オレが行きゃいいんだろ!」

 

 人間ひとりまともに相手できないくらい弱いくせに!

 どいつもこいつも!

 

「え!?」

 

「食われて死んだら化けて出てやるからな!」

 

 情けないと思いつつもそう叫び、グリータは駆けた。

 片手剣を抜刀し、レィナの元へ急ぐ。

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