【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第86話【ヘタレ現る!】

【エルガンディ王国】がS級ドラゴンどもの長距離攻撃を受けている。

 

 絶え間なく発射し続ける氷塊と火球は、まだ城壁内にいる逃げ遅れた人間を、無慈悲にも絶命させているだろう。

 

 クロイツァーは仲間たちとA級ドラゴンを倒しながら、その光景を目の当たりにさせられていた。

 

 背後で護衛対象の避難民が、断末魔を上げて死んでいっている。

 列を作って城壁の外へ出る瞬間を待っていた避難民たちが、今、焼かれ、潰されていっている。

 

 絶望という黒くて寒い感情が、全身を蝕んでいく。

 

 なにより今ここに、カティアがいない。

 

 少し前に合流した二人のS級女騎士はいる。

 

 ローエ・マクシア。

 フランベール・フラム。

 

 カティアと同じ部隊のはずの二人だけがここにいる。

 隊長のゼクードとカティアはいない。

 

 カティアとゼクードは武器を破損して別の武器を調達していると聞いたが、それはつまり、まだ街中にいるということ。

 

 街中は今、火の海になっている。

 血の海とさえ言える悲惨な状況になっているだろう。

【エルガンディ王国】の城壁から舞い上がる黒煙を見れば、そんなことはすぐにわかった。

 

「お待ち下さいお嬢様! どこへ行かれるのです!」

 

 いつも冷静なセルディスが珍しく声を荒げた。

 相手はあの【緑騎士】の女だ。

 

「決まってますわ! ゼクードとカティアさんを助けに行きますのよ!」

 

「いけません! S級ドラゴンの攻撃は続いています! いま戻ればお嬢様も巻き込まれますぞ!」

 

「お黙り! 仲間を見捨てるなんて、できるものですか!」

 

「お嬢様! いけません!」

 

 さすがに怒鳴るセルディスさえも避けて、ローエは戦線を離脱する。

 そのまま【エルガンディ王国】へ戻ろうとした。

 しかし、その彼女の行く手を阻んだのは、他でもないフランベールだった。

 

「待ってローエさん!」

 

「っ!? なんで!? なんで止めますの先生! ゼクードとカティアさんを助けにいかないと!」

 

「わかってる……わかってるよ……」

 

 フランベールの肩は震えていた。

 ローエが彼女の顔を見て、息を呑む。

 

 フランベールは滝のような涙を流し、震えながらもローエを止めた。

 

「でも見てローエさん……味方がもう、かなりやられてる」

 

「!」

 

「わたしたちがここを離れたら、被害はこんなものじゃ済まない……」

 

「でも……」

 

「まだ鉱山へ逃げてる避難民たちがいる。わたしたちはまず、あの人たちを無事に鉱山まで護衛しなきゃならない」

 

「でも先生! カティアとゼクードが!」

 

「わかってるよ! でも……あの二人なら、きっと大丈夫だよ……」

 

 大丈夫。

 なんの根拠もない、おそらくフランベール自身も大丈夫だとは思っていない、悲しい言葉だった。

 

 そしてクロイツァーも、カティアが無事だとは思えなかった。

 

 謝りたかったのに。

 また顔が見たかったのに。

 

 急激に戦う気力が萎えていくのがハッキリとわかった。

 まだ草原に出ていて無事だった避難民はたくさんいる。

 

 奴らを護衛しなければいけないのに。

 脱力してる場合じゃないのに。

 

「カティア……」

 

 泣きたかった。

 あのローエとか言う女騎士と同じで、今すぐにでも【エルガンディ王国】に戻ってカティアを探しに行きたい。

 

 だがそんな時間、A級ドラゴンどもが許すわけがなかった。

 倒しても倒しても出てくる。

 

 今もまた、クロイツァーの前には何匹かのA級ドラゴンが攻めてきた。

 

 それらを切り裂き、避難民の列には近付けせないようにする。

 

 今通っている避難民の列を見やれば、あの憎たらしい国王がいた。

 家族を連れて避難している。

 

 その国王と、クロイツァーは目が合った。

 

 なぜ奴がここにいて、カティアがここにいないのか。

 そんな八つ当たりにも近い黒い感情が沸き上がった。

 

 当の国王の眼はこちらを信じているそんな眼差しだった。

 ここは任せたと言わんばかりの、今はただただ忌々しい眼差しだ。

 

 クロイツァーは視線を逸らし、戦闘に集中する。

 

 カティアがいないのに、自分はなぜ戦っているのだろう?

 

 あまりの虚しさから、そんな気持ちになった。

 だが、レィナの存在が脳裏に浮かび、あの子のためにとクロイツァーは自分を奮い立たせた。

 

 

 目をやられた騎士は、レィナの救助も間に合わず、見るも無惨な血肉の残飯と化していた。

 

 あまりにもグロテスクで、見慣れていないレィナは吐き気さえ覚えた。

 だけど、吐いている場合ではないと気を保つ。

 

 あの騎士が食われた以上、A級ドラゴンは避難民の列に向かってくるだろう。

 奴にとってこれほどの御馳走はないだろうから。

 

 レィナは双剣を煌めかせ、A級ドラゴンに肉薄する。

 全身の筋肉が、緊張で硬直していく。

 初めての実戦が、まさかA級ドラゴン戦とは。

 

 あのグリータではないが、たしかに勝ち目なんてないだろう。

 勝てないのなら、囮になればいい。

 

 ひたすら動きまわって、無理な攻撃はしない。

 時間を稼げればいいんだ。

 

 A級ドラゴンがレィナに迫る。

 

「アタシだって!」

 

 レィナは双剣を強く握った。

 だが次の瞬間、A級ドラゴンのかみつきがレィナの肩をかすめた。

 同時に痛みが肩に走る。

 

「いっ!?」

 

 速い!

 

 レィナの動体視力では、A級ドラゴンの動きはあまりにも速かった。

 

 なんとか避けたが、革の鎧の肩当てが食いちぎられ、その牙はレィナの肩の肉をわずかに抉っていた。

 抉られた肩からブシュッと血が吹き出る。

 先程の痛みはこれか。

 

 かみつきを避けられたドラゴンは爪の薙ぎ払いを放つ。

 双剣をクロスさせて防御したレィナは、ドラゴンの凄まじい筋力により数メートルほど吹き飛ばされた。

 

「あぐっ!」

 

 草原に倒れて、武器を落としそうになる。

 吹き飛ばされた衝撃で全身が痛い。

 速くてパワーもある。

 

 こんなに強いなんて。

 カティア姉さまやクロイツァーは、これよりさらに強いS級ドラゴンを倒してるのに。

 

 今さらながら姉と父の凄まじさを理解したレィナは、なんとか起き上がろうとする。

 

 そんなレィナにすでに火球が飛来していた。

「ひっ!」と息を漏らし、死の恐怖で痛みが麻痺した身体をがむしゃらに前転させた。

 

 なんとか避けた火球は草原に直撃した爆発する。

 だが間もなく二発目の火球が飛来し、レィナは慌てて走った。

 

 全速力で走ると、肩の傷が傷んだ。

 息も一気に上がっていく。

 

 どうしよう。

 何もできない。

 囮にはなれてるけど、このままじゃアタシが持たない。

 

 そう思ってた矢先、レィナの動きを先読みしたらしいA級ドラゴンが火球をレィナの進む先に撃ち込んできた。

 

 目の前で火球は着弾し、爆発を起こした。

 

「ひあっ!」

 

 レィナは爆風に押されて倒れた。

 その倒れたレィナをA級ドラゴンは見逃さなかった。

 

 一気に間合いを詰めてきたドラゴンは、倒れたレィナを前足で逃げないように押さえつけてきた。

 

「かはっ!?」

 

 凄まじい力で押さえつけられ、まったく身動きできないどころか、幼く未熟なレィナの身体はその押さえつけの重量に耐えられず激痛を訴え出した。

 

「い、いいいぎ! 痛いっ! 痛いいいいっ!」

 

 死んじゃう……身体が潰れる、痛い、本当に痛い!

 

 堪えきれない涙が溢れた。

 ドラゴンがグパァと大口を開けて、レィナの顔を屠ろうとする。

 

「うぉおおおらあああああああああああああああああっ!」

 

 聞き覚えのある怒声が、レィナの耳を打った。

 

 目を開ければ、グリータがA級ドラゴンの首に飛び付いていた!

 

 A級ドラゴンは驚愕して暴れ出し、おかげでレィナは押さえつけから解放された。

 

 A級ドラゴンは首に抱きつくグリータを振り落とそうと、それこそがむしゃらに暴れ続けている。

 

「うおわあああああああああ! 暴れんなこの野郎! わ、ちょ、うわあああああ!」

 

 悲鳴を上げながらグリータは懸命にA級ドラゴンに張り付く。

 

 あいつ、なんでここに!?

 

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