【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「いないイナァ~イ……ばぁ~!」
ゼクードの変顔にグロリアとレミーベールの娘二人は笑ってくれたのだが、やはり息子カーティスはまったく笑わない。
それどころか飽きたらしく、プイッとそっぽ向いてカティアの豊満な胸に顔をうずめた。
あんなに深々と顔をうめやがって!
それ俺専用のオッパイだからな!
──すると、カーティスは横目で俺を見てニヤリと笑った。
な、なにぃ……!?
カティアの胸を独占している。
そんな優越感を見せつけてくる。
残念だが今はオレ専用のオッパイだと、その顔が訴えていた。
あ、あ、あんのガキぃ! マセてやがる!
誰に似たんだホントに!
親の顔が見てみたいわ!
「カ、カーティスお前な! 自分の母ちゃんの胸なんか独占してもな! 大人になったら恥ずかしくて死にたくなる思い出と化すんだぞ!」
「いきなり何言ってるんだお前……」
カーティスを抱っこしてるカティアに怪訝な顔をされた。
彼女に抱かれているカーティスはチラッと俺を見てフッと笑う。
どう見ても冷笑だ。
初めて俺に見せてくれた笑顔がこれかよ!
なんだこの一歳児!
「いやだってさ! カーティスがオッパイを独占──」
「なにがオッパイだ阿呆。それより国王さまに報告はしてきたんだろうな?」
「──……え?」
「──……お前まさか、またレィナやグリータに押し付けて来たんじゃないだろうな?」
「いぃ、いやいやいや押し付けたっていうか、ほ、報告なんて誰がやっても同じだし、ほらね?」
「バカ者おおおおおおおおっ!」
ドゴンッ!
「ぶほぉっ!?」
愛妻の腹パンが見事に決まった。
鎧越しなのに死ぬほど痛かった。
※
「いったぁ……カティアさんに怒られた。カティアさん厳し過ぎだよぉ……」
「100%あなたが悪いですわよ」
呆れて言ったのは妻のローエだった。
彼女の隣には妻のフランベールも座っている。
今いるのは鉱山内に設けられた食堂だ。
広い空間を削って物を置くテーブルや椅子などを配置して使っている。
中央には川も流れていて、空気の流動もあり心地いい空間となっている。
光はもちろんロウソクだけ。
子供の面倒は一時的にカティアに任せ、先に晩御飯を食べてしまおうと三人でここへ来た。
他の騎士たちも好きなテーブルに腰掛けて晩御飯にありついている。
晩飯のドラゴンステーキは今日も美味しい。
「子供が可愛いのは分かるけど、ゼクードくんはもうフォルス家の顔なんだから、そのへんはしっかりしないとダメだよ?」
フランベールにも言われて、さすがに俺も頷く。
「すみません……以後、気を付けます」
あとでグリータに謝っておくか。
たしかに子供が可愛すぎて、どうしてもすぐに顔を見たくなる。
そのせいで仕事を疎かにしていたところは確かにあった。
反省せねば。
「反省したならいいですわ。それより偵察の結果はどうですの?」
「ああ。やっぱり南の奥にディザスタードラゴンの巣がある可能性は高いね。ドラゴンの密度が違う」
「ならそこに戦力を集中させて突破するしかないかな?」
フランベールがそう言うので俺は「いや」と首を振った。
「奥にどれだけのドラゴンがいるかも分からない。新種が現れる可能性だってある。迂闊な攻めはできないよ」
「まだ情報が足りないってこと?」
俺はフランベールに頷き、口に含んだドラゴンステーキを飲み込む。
「ああ。もっと奥まで偵察してみる必要がある」
かなり危険だけど、偵察とはそもそもが危険な任務なんだ。
だけどもっと『敵の情報』『敵の位置』『地域の情報』なんかを明確にしていかないと、返り討ちに合う可能性がある。
国王さまもそこは俺と同じ考えで、今回は徹底的に情報収集を優先している。
A級ドラゴンこそ姿を消したが、S級ドラゴンどもはその数を日に日に増やしている。
人間よりも繁殖が早い。
もたもたしていたら、圧倒的な数の前に蹂躙されてしまう。
二年前のように。
こっちの戦力はみな精鋭のS級騎士以上ばかりになったのだが、数は100ほどしかいない。
だがS級ドラゴンどもはその倍以上の数を揃えているだろう。
偵察任務で確認したS級ドラゴンの数と、味方が確認したS級ドラゴンの数を合わせれば約1000はいる。
100対1000で正面からぶつかれば、間違いなく俺達が負ける。10倍も戦力差があるんだ。
当然だろう。
しかもその1000という数はリザードマンやブルードラゴンだけの総数である。
その1000の壁を突破してもその先にはディザスタードラゴンがいる。
もしかしたら新手のドラゴンもいるかもしれない。
これだけ戦力差がある以上、やはり偵察による情報が俺たちの命綱であり、勝敗を握っている。
疎かには決してできない。
「あとみんなも気づいてると思うんだが【黒いS級ドラゴン】と【超大型ドラゴン】が二年前のあのとき以来まったく姿を見なくなっただろ? これが不思議でならないんだ」
「ええ。それはわたくしも気になってましたわ」
「だろ? もしかしたら南の奥地にいるかもしれない。そう考えると、今のところ分かってる敵の戦力は1000だけど、本当はもっともっといるんじゃないかって、不安になるんだ」
「なるほど」
フランベールが納得したように頷く。
「みんなで攻撃に出るには、まだまだ情報が足りないってことですわね」
ローエも納得してくれたようで、自分のドラゴンステーキを食べ始めた。
そう……だけど、モタモタもしてられないんだよなぁ。
敵の数が増えてきている上に、奴らはここ【ヨコアナ】の場所を把握しつつあるようなのだ。
最近やたらここの近辺にドラゴンが現れるのがその証拠である。
早く攻撃に出ないと勝てるものも勝てなくなる。
なにか作戦を考えないと。
「ゼクードくん。ご飯が終わったらカティアさんにご飯持ってってあげてね」
「え……お、俺がですか!?」
「そうだよ? ご飯持ってってあげて、そこで仕事のことも反省したって、ちゃんと謝るの」
フランベールが言うとローエまで。
「それがいいですわ。夫婦のギスギスは子供にも伝わりますもの。早めに解消してほしいものですわね」
「……りょ、了解です」
カティア……許してくれるかな?
※
食事を終えた俺は一足先に部屋に戻った。
ドラゴンステーキを持ってカティアのもとへ急ぐ。
「カティア」
いつからか呼び捨てになった年上の嫁だが、カティアに至っては『いい加減「さん付け」はやめろ』と注意されたから呼び捨てになった。
そのまま流れでローエとフランベールも呼び捨てになった。
もう夫婦だから分からんでもないが、今でもたまにさん付けしそうにはなる。
ゼクードは扉を開けると、当のカティアは子供たちと石ころ遊びで相手をしてやっているところだった。
グロリアやレミーベール。
あのカーティスさえ楽しそうにキャッキャッしている。
俺がやるとカーティスが沈黙する。
「カティア」
「ん?」
ようやく俺の声に気づいて振り向いてくれた。
「ゼクードか。食事はもう済んだのか?」
あれ?
思ったより怒ってない?
よかった。
「済んだよ。あとこれ、カティアの分、どぉっ!?」
地面のくぼみに足を取られて転けそうになった。
慌てて手を振ったせいで、皿に乗せたドラゴンステーキが吹き飛ぶ。
ベチャ!
油っぽい液体音が響いた。
体勢を整えた俺は、嫌な予感がしつつ前を見た。
カティアの顔面に平べったいドラゴンステーキが見事に付着していた。
あ……、
ごめんみんな、
死んだわ、俺