【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第93話【妻の務め】

 ドラゴンステーキの油だらけになった顔を洗い、カティアは部屋に戻ってきた。

 

「カティアごめん! ほんっとにごめんなさい!」

 

 入ってきたなり夫のゼクードが魂込めた土下座をしてきた。

 布を敷いただけのデコボコ床にゴンと額をぶつけている。

 

 その下がりきった頭を近くにいたグロリアとレミーベールが撫でる。

 しかし息子カーティスは父をペシペシと叩きまくる。

 嫌いなのか?

 

「もういいと言ってるだろ」

 

 娘たちは可愛いのだが、夫の方は正直見てられなかった。

 カティアは何故かひたすら父を叩くカーティスを抱き寄せて、そして続けた。

 

「ワザとじゃなかったことくらい見ればわかる。子供たちに当たらなかっただけ良かったさ」

 

「うん……ごめん」

 

 頭をゆっくり上げたゼクードが、グロリアとレミーベールを撫で返す。

 

「仕事の件も本当に反省したよ。ごめんなさい」

 

 本当に反省したかどうかなど、顔を見れば一発で分かる。

 そのゼクードの顔は、たしかに反省したそれだった。

 

「わかってくれればそれでいい。それより偵察の結果はどうだったんだ?」

 

 聞けば、ゼクードはすぐに説明してくれた。

 

「──なるほどな。まだ攻めるには情報が足りないか」

 

「うん。だけどモタモタもしてられないんだ」

 

「なに?」

 

「敵の数が増えている。俺たち人間よりも繁殖が早い。このままじゃ数で押しきられる」

 

 いくらSSS級になったとしても慢心しないか。

 我が夫ながら大したものだ。

 こいつの実力なら雑魚が増えたところで取るに足らないだろうに。

 

「……そんな危機感を持ってるなら、むしろ報告は自分で行くべきだったろう。国王さまと相談すべき問題だぞ。それは」

 

「ぉ、おっしゃる通りです……」

 

「……ゼクード。お前が本当に子供たちを愛しているのは分かる。伝わっている。私達も苦労して産んだ甲斐があったと言うものだ」

 

 胸に顔を擦り付けるカーティスを撫でながら、カティアはゼクードを見つめる。

 

「可愛くてしょうがないのもわかるさ。私達も同じなんだ。カーティスもグロリアもレミーも可愛くてしょうがない」

 

「カティア……」

 

「だからこそ仕事は真面目にやれゼクード。お前の今の仕事は人類の存続に関わっている。この子たちの未来が掛かってるんだ。それに──」

 

 ふと、今は亡き父クロイツァーを思い出した。

 我々を逃がすために散っていった老兵たち。

 

「──あまりにも多い犠牲の上に、我々は立っている」

 

 その言葉を最後にカティアもゼクードもしばらく沈黙した。

 

「……その通りだな」

 

 その沈黙を破ったのは他でもないゼクードだった。

 彼の顔を見れば、先ほどとは違って少し大人びた顔になっている。

 少なくともカティアにはそう見えた。

 

「ありがとうカティア。今から行ってくるよ。国王さまのところに。俺の感じている危機感だけでも伝えてくる」

 

 立ち上がったゼクードに、カティアは微笑んで頷いた。

 久しぶりに引き締まったゼクードの顔を見た気がする。

 

 ゼクードはグロリアとレミーベールをカティアの側に戻し、部屋の入り口へ歩いていく。

 その背中は、やはり頼もしい旦那の物。

 

「ゼクード」

 

「うん?」

 

 呼び止められたゼクードがこっちを見た。

 カティアは少し頬を赤らめながら口を開く。

 

「終わったら私の部屋に来い。……その、なんだ……たまには労ってやる」

 

「え、ホントに!?」

 

 ゼクードがこれでもないくらい顔を輝かせた。

 無理もないか、とカティアは思った。

 

 ゼクードの事はレィナやリーネからいろいろと聞いている。

 どうやらゼクードは、生き残りの女性からかなりモテているらしい。

 

 ハーレムに加えてほしいと、たくさんの女性に言い寄られているそうだ。

 だけどゼクードは『普通』の女性をハーレムに加えることを良しとしない。

 

 そのことごとくを断り、自分やローエやフランベールを大切にしてくれている。

『普通』と『異端』の女性が相容れぬのは、ゼクードもよく分かってくれている。

 

 だから今宵は、と思ったのだ。

 

 ゼクードから女性の自由を制限してしまっている以上、妻としては必要以上に満足させてやらねばならない部分が出てくる。

 

「ホ、ホントに良いのかカティア!?」

 

 あまりにも久しぶりなせいか、声が震えていた。

 たしかにゼクードと夜を共にしたのは二年前のあの日だけ。

 

 それ以降は、そんな暇がなかった。

 気づけば妊娠していて、余計それどころではなかった。

 

 どんなに欲求不満でも、女に不自由しなかったであろうその身で、他の女に手を出さなかったのは称賛に値するだろう。

 

 だから、妻の務めを果たそうと思った。

 

「ああ。……それで仲直りしよう」

 

 夫婦なのに気恥ずかしくなり、カティアは頬を掻いた。

 だがゼクードは本気で嬉しそうに目を輝かせていた。

 

「はい!」

 

 今日一番の素晴らしい返事だった。

 

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