【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第96話【ハーレムのメリット・デメリット】

 グロリアたちを寝かせたローエは、愛しい我が子たちの寝顔を見た。

 

 どっかのスケベ父親に似て女性に懐っこいカーティス。

 誰にでも笑顔を見せる母親似のレミーベール。

 そして誰に似たのかどこか気が強い我が子グロリア。

 

 みんな生まれた肚は違えど、種は同じの兄妹だ。

 

 今でこそみんな愛しい。

 今でこそは。

 

 ローエはグロリアたちに優しくキスをしてから椅子に座った。

 テーブルにあるエールを手にして、ゆっくりとそれを飲む。

 

 カティアはゼクードと夜伽に。

 フランベールは姉リリーベールの様子を見に行った。

 

 久しぶりに一人になったが、話し相手がいないというのは寂しいものである。

 

 寂しいからカティアとゼクードのところに乱入でもしようか?

 こんなことを考えるほどには、自分は今このハーレム生活に慣れてしまっている。

 

 そもそも子供たちを置いて移動などできないのだが。

 

 ふぅ、と息を付いてテーブルにエールを置くと、扉がノックされた。

 

 子供たちが寝ているのを配慮してくれているのか、控えめなノックだった。

 

 誰だろう?

 こんな時間に。

 

「はい?」

 

 ローエは扉の前まで歩み、小さめの声でノックに答えた。

 

「お姉さま。ワタシです」

 

 妹リーネの声だった。

 ローエは扉を開けて、彼女を迎える。

 

「どうしたのこんな時間に?」

 

 優しく問うとリーネこそ嬉しそうに頬を赤く染め始めた。

 

「実は話したいことがあって。今、良いですか?」

 

 顔を見れば分かるほどにご機嫌で、何か良いことがあったのだと察することができた。

 姉としては気になる。

 

「良いですわよ。でもあまり大声では喋れませんからね?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 それならばとローエは可愛い妹を部屋に案内した。

 テーブルと椅子をできるだけグロリアたちから離して置く。

 

 リーネが椅子に座ると、ローエはエールを用意して彼女の分もテーブルに置いた。

 

「お姉さまありがとう」

 

「いいえ。ちょうど退屈してましたの。どうしたの話って?」

 

 久しぶりの姉妹水入らずの会話だ。

 ローエ自身もこの機会はなかなか嬉しかったりする。

 

「お姉さま。実はですね」

 

 満面の笑みで焦らしてくる。

 そんなリーネが可愛くて、ローエは小さく笑う。

 

「ふふ、本当にどうしたの? 相当嬉しいことがあったみたいですわね?」

 

「はい! ワタシついにグリータさんの彼女になりました!」

 

 小さな声なのに、なんとも言えない衝撃と迫力があった。

 だがローエは、リーネがグリータに好意を持っていたことは知っていた。

 そもそもリーネ自身がそう言っていたから。

 

「あら! やっと想いが届いたんですのね。良かったですわ」

 

 言ってエールを飲む。

 

「はい! あとレィナさんも一緒に彼女になりました!」

 

 ローエはエールを盛大に吹いた。

 今度は本当の本当に衝撃と迫力があった。

 小さな声なのに衝撃のハーレム発言である。

 

 まさかリーネまでそっちの道を選ぶなんて。

 

「レィナさんと一緒に告白したんです。無理矢理攻めたらなんとかなりました!」

 

「む、無理矢理……」

 

 この子、ときどき行動が大胆になる。

 無理矢理攻めたって、どう言うことなんだろう?

 

「あとは結婚して、子供を産んで、お姉さまみたいな素敵な家庭を築きたいです!」

 

 心底嬉しそうに眼を輝かせながらリーネは言った。

 

 今の発言からしてリーネがハーレムの道へ走ったのは姉である自分のせいだろう。

 でなければ、自分と同じ価値観を持つリーネがハーレムを良しとするはずがない。

 

「リーネ」

 

「はい?」

 

「大丈夫なんですの?」

 

 その問い掛けの意味を察したらしいリーネは、意外にも芯のある瞳で頷いてきた。

 

「大丈夫です。自分で決めたことですから」

 

「そう」とローエは押し黙るしかなかった。

 腹を括っているのなら、姉とはいえ口を出すことはない。

 ならば逆に、ハーレムの一人になっている自分から助言をしようか。

 

「……ならハーレムのメリットとデメリットを教えておきますわ」

 

「メリットとデメリット?」

 

「そう。まずはメリットから。ハーレムのメリットは何より育児や家事を分担できることですわ。体調が悪いときなどは助けてもらえるのも利点ですわね」

 

「なるほど!」

 

「特に育児に関しては本当に大きなメリットですわ。これを助けてもらえるだけでもかなり楽になりますもの」

 

 カティアとフランベールがいるおかげで寝不足になったことがない。

 

 

「義兄さんは育児を手伝わないの?」

 

「いいえ。バカみたいに手伝ってきますわ。ただ何をやらせても下手くそなので、みんなで阻止してますの」

 

 夫ゼクードの育児に対する姿勢は本物で、狩りから帰って来てもすぐに手伝ってくれる。

 疲れているはずなのに、だ。

 

 この時は本当に珍しいタイプの男性だと改めて思ったものである。

 仕事の疲れを誤魔化して育児を手伝う男性は、実はかなり少ないのが現実だからだ。 

 

 ただそんな優しいお父さんであるゼクードだが、とにもかくにも不器用なのだ。

 

 布でグロリアたちをクルクル巻きにしてあげるだけなのに、力加減を誤って身動き一つできないほと縛ったり。

 

 フランベールが沸かしたお風呂でも、体を布で拭いてあげるだけなのに泣かしたり。

 

 ドラゴンを狩ることに関してはエキスパートだが、

 赤ちゃんを泣かせることに関してもエキスパートだった。

 

 ゼクード自身も悪気なく真面目だから余計に質が悪い。

 

「……やらないじゃなくて、やらせないだったんですね」

 

「そうよ。ま、メリットはこのくらいにして、デメリットを説明しますわ」

 

「お願いします」

 

「ハーレムの最大のデメリットは、決して満たされない部分があることですわ」

 

「満たされない、部分?」

 

 ローエは頷く。

 

「あなたはわたくしと同じ両親の元で育ったから、きっといつか感じるはずですわ。でもこれは、ハーレムの一人に甘んじるなら乗り越えなくてはいけない」

 

「それって……」

 

「分かるの?」

 

「……はい。決して『自分だけを愛してもらえないこと』ですよね?」

 

 胸にスゥッと入ってくるリーネの言葉。

 さすがである。

 腹を括ってるだけのことはあるなと、感心さえした。

 

「さすがリーネですわ。その通りよ」

 

「ワタシもずっと悩んでました。グリータさんのことが好きで、でもレィナさんもグリータさんのことが好きで、どうしようか本当に……悩んでました」

 

「そう……どうして決心したの?」

 

「お姉さまが幸せそうだったからです。お姉さまを見ていたら、ハーレムも悪くないのかもって、思えたんです」

 

 なるほど。

 でもきっと、それだけではないはず。

 自分と同じ理由が、もう一つあるはずだ。

 

「本当にそれだけ?」

 

「え?」

 

「それだけが動機じゃないはずですわ。あなたを本当にハーレムへ踏み切らせたのは、もう1つ理由があるはずですわよ?」

 

「もう一つの、理由……?」

 

 リーネは首を傾げた。

 分からない、というより気づいていないのだろう。

 自分と同じ価値観を持っていたなら、最終的に決め手になったのは男ではないはずなのだ。

 

「リーネ。あなたはレィナさんのことも好き?」

 

「へ!?」

 

「レィナさんのことも愛してる?」

 

「あ、愛!? なんで!? レィナさん関係ないじゃないですか! レィナさん女ですよ!?」

 

 顔を赤くして慌て出すリーネ。

 彼女が声を大きくしたのでローエはシ~と口元に指を立てた。

 赤ちゃんたちが寝ていることを思い出したリーネはハッとなって口を閉じる。

 

「……そうね。でもねリーネ。そこが大切なんですわよ?」

 

「え?」

 

「同じ男性を愛してるからハーレムではないの。そんなのは当たり前で前提条件ですわ。本当に大切なのはその先──」

 

『まさかお前と本当に家族になるとはな。これで死ぬまで一緒とは、とんだ腐れ縁だな』

 

『ローエさんありがとう。ふふ、なにが? って顔してるね。ハーレムに……ううん。家族になってくれて本当にありがとうってこと。カティアさんも言ってたよ?『ローエが来てくれて嬉しいって』だから改めてお礼を言いたくなったの。こんな状況だけどわたし、すごく幸せだから』

 

 カティアとフランベール。

 鉱山に追いやられた生活の中でもハーレムに幸せを感じて、自分という一人の女に感謝さえしてくる。

 

 そんな彼女たちだからこそ、ゼクードと同じく愛することができた。

 

 男とか女とか、そんなレベルの話ではない。

 

「ハーレムのデメリットを乗り越えるには、同じハーレム仲間を愛する必要がありますの」

 

 あくまで自分たちが築いているのはハーレムだと思っている。

 それはカティアやフランベールも同じらしく、彼女たちも迂闊に一夫多妻などとは言わない。

 

 一夫多妻の妻を名乗るには、自分たちは強すぎるのだ。

 一人でも生けていけるのだ。

 自分も、カティアも、フランベールも。

 

 本当に助けが必要だった女性たちにこそ、この一夫多妻の妻という名は相応しく。

 カティアの父やフランベールの父がそうしたように、一夫多妻の善意を、イメージを悪くするわけにはいかない。

 

 好きで集まっている我々こそ、ハーレムの名に相応しいし、そうでなくてはいけないとさえ思っている。

 

 だから自分たちのことはハーレムと呼び続ける。

 たとえ低俗と呼ばれようとも、それは甘んじて受け入れるしかない。

 

 過去の善意を汚すわけにはいかないからだ。

 

「ハーレム仲間を……愛する……」

 

「わたくしも最初はそれができなくて苦悩しましたわ。覚悟は、していたつもりだったんですけど……」

 

「お姉さま……」

 

「ハーレムで本当に大切なことは、同じ妻を愛し、許せることですわ。これだけは絶対に、覚えておきなさいね?」

 

 リーネになら、それができると思ったから助言した。

 優しいこの子なら、自分より遥かに上手くやれるはず。

 カティアの妹レィナも凄く良い子だから、不可能ではない。

 

 ハーレムの道を選ぶのならば、自分と同じくらい幸せになってほしい。

 そんな姉の想いはリーネに伝わったようで、彼女は微笑んで、それでも真剣な顔で頷いてきた。

 

「ありがとうお姉さま。……やってみます」

 

 椅子から立ち上がって、リーネは扉の方へ歩く。

 それは、更なる決心を感じさせる背中だった。

 扉を開けて振り返り「おやすみなさい」と手を振る。

 

「おやすみ」とローエも手を振って返した。

 

 扉を閉めて、リーネはどこかへ去った。

 グリータの部屋か。

 それともレィナの部屋か。

 

 どちらにせよ、あの子の気持ちは揺るがないだろう。

 心配してないと言えば嘘になるが、あの子なら大丈夫。

 

 わたくしにも出来たのだから。

 きっと。

 

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