遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第15話【デスピアの導化(どうけ)アルベル】

白く清廉な世界から、血よりもなお濃い(あか)に染まった国で、ホールより来た少年アルベルは烙印劇城(らくいんげきじょう)デスピアの頂上に座りながら、世界を見下ろしていた。

 

そこに先日の様な狂乱も、嘲笑も、喜悦もなく……あるのは一つの孤独な魂だけであった。

 

「……空虚な街だ」

 

アルベルは彼女の色に染め上げたデスピアの街を見下ろしながら、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

そして壁に寄りかかりながら目を閉じて、過去に想いを馳せる。

 

 

 

ホールより来た少年アルベルは、ホールの向こう側にある白の世界で生まれ、育った。

 

父は偉大なる白の世界の竜王、白き竜王(アルバス)

 

母は、父が治める国で未来を見通す目を持った巫女クエム。

 

そんなクエムの才能に目を付けた白き竜王(アルバス)が仕掛けた政略結婚であったが、それでもクエムは生まれて来た子であるアルベルに深い愛情を持っていたし、父も偉大なる王としての姿をアルベルに見せていた。

 

だがそんな幸せな日々も、そう長くは続かなかった。

 

そう。アルベルは父の……竜王の力を受け継がなかったのだ。

 

彼は力を持たぬただ人として生まれてしまった。

 

せめて母の様な未来を見通す力を持っていれば、また何か違っただろうが、アルベルは真実何の力も持たず生まれた。

 

それを知った時に白き竜王(アルバス)がアルベルに向けた表情をアルベルは決して忘れる事は無いだろう。

 

『出来損ない』

 

言葉には出さずとも、白き竜王(アルバス)の言葉は確かにアルベルへ届いていた。

 

そして、それはクエムにも同じ様に届いていた。

 

だからこそクエムは、自らが腹を痛めて産んだ子に、その様な視線を向ける白き竜王(アルバス)が許せず、次の子をと求める白き竜王(アルバス)の目の前で……何よりも愛しい我が子の前で腹にナイフを突き刺し、壮絶な笑顔でソレを拒絶したのだった。

 

私の愛する子はアルベルだけだと。

 

お前の好きにはさせないと。

 

そう目で訴えるクエムに白き竜王(アルバス)は何も言えぬまま、思い通りにならぬ母と子に苛立ちを覚えてその場は立ち去った。

 

そして血に濡れた赤き体でクエムはアルベルに抱き着くのだった。

 

この事が王宮で広まり、民たちは力こそ発現していないが、いずれ王位はアルベルが継ぐのだろうと考えた。

 

 

 

だが。

 

だがしかし。

 

白き竜王(アルバス)はそう考えなかった。

 

 

 

白き竜王(アルバス)はクエムが使えぬと知ってから、国中にその手を広げ、少しでも力がある者を見つけては王の権威によって我が物とした。

 

そして幾人もの子を産ませ、それらに王の力が無い事を知ると、初めから居なかったとでも言うように王宮より排除するのだった。

 

そんな……暴走ともいう様な王の凶行に、民は王の乱心だと震え、国が混乱から荒廃する未来を予想した。

 

しかし、そんな国民の不安を払拭する様に未だ王子として王宮に居るアルベルの活躍は素晴らしかった。

 

特別な力が無くとも、王子として生まれたからには正しく民の為にあろうと心に決め、アルベルは多くの事を学び、自らを鍛え、決して妥協する事なく清く正しくあり続けた。

 

そんなアルベルを国民たちは支持し、アルベルもまた何も持たず生まれて来たが王になるべく、これからも歩み続ける……ハズであった。

 

一人の少年が生まれるまでは。

 

その少年に母はなく、そして父もない。

 

だが、少年を連れて来た女は満面の笑みでこう語った。

 

「貴方様の子でございます」と。

 

王は物乞いか何かかとその女の言葉を、その身と共に切り捨てようとしたが、次の瞬間その少年が見せた力に目を見開いた。

 

それは竜化と呼ばれる王の力。

 

白き竜王(アルバス)だけが使える。白き王の力だ。

 

もはやそれ以上何も語る必要は無い。

 

少年はすぐさま王宮へ迎え入れられた。

 

名無しであった少年には、次代の王として次代の白き竜王(アルバス)の名が与えられ、少年は国民にも正統な王の後継者として受け入れられ。

 

どん底の様な生活をしていた少年は、たった一瞬の後に、煌びやかな世界の住民となったのだ。

 

必死に、王として相応しい者になろうと戦っていたアルベルを蹴落として。

 

 

 

だが、それでも……アルベルは少年に対して憎しみを抱くような事は無かった。

 

むしろ王という地位に対する執着も消え、ただ一人のアルベルとして生きていく事も良いかもしれない。なんて思うようになっていた。

 

何処か清々しい様な気持ちで居た事も確かだった。

 

だからか、新たな王がまだ幼いという事に不安を覚える臣下にも、自分が学んできた事で王を支えれば良いと言う程に余裕があった。

 

いや、冷静に考えればこれは諦めが生み出した虚ろな感情である事をアルベルもよく理解していた。

 

しかし、張りつめていた糸が切れてしまえばどうしようもないという事も、アルベルはよく分かっていた。

 

だからこのまませめて静かに生きていく事を願っていたというのに。

 

アルベルは、こんなどん底に落ちて、生まれて初めて……運命に出会ってしまったのだ。

 

少女の名は『カルテシア』

 

家族も友人もおらず、一人で生きて来たという少女は、その美しさから街で怪しげな者達に絡まれ、そこを偶然通りかかったアルベルによって救われたのだが……。

 

アルベルはカルテシアと共に過ごす日々の中で、この出会いを運命だと思うようになっていった。

 

そう。カルテシアという少女は一人で生きて来たというだけあり、大抵の事は器用にこなし、様々な事にもよく気が付いて、アルベルの足りぬ所を補う様に立ち回る。

 

カルテシアは拾われた礼だと言っていたが、その頬が朱に染まっている事や、クエムからの言を考えれば、感謝以上の何かがある事は確かだった。

 

そしてアルベルもまた、カルテシアの真っすぐで純粋で柔らかい心に、自分でも見ない様にしていた心の傷が少しずつ癒されていくのを感じ、二人で過ごす未来を考え始める様になっていった。

 

王にはなれなかった。

 

だが、愛する者と共に生きていく事が出来る。

 

アルベルはそんな世界に確かな喜びを覚えて、カルテシアやクエムがいる世界を守ろうと誓った。

 

どれほどの困難があろうとも、その先に確かな希望があったから……。

 

だが、世界はアルベルに優しくは無いのだ。

 

 

 

「……あぁ。どうやら少し、寝ていた様だね。随分と懐かしい夢を見ていた」

 

アルベルは頬に流れる涙をそのままに、立ち上がると小さく息を吐いた。

 

そして、デスピアの外に広がる世界に目を向けた。

 

どこまでも澄み切った空の空気は、アルベルにかつての穏やかな日々を思い出させる。

 

もう、この世界のどこにもない記憶の中だけに存在する幸せを。

 

「カルテシア。君が言うように世界は美しい。でもね。世界を美しいという君の心を理解出来ない者も確かに存在するんだよ」

 

アルベルは記憶の中で微笑む少女にそう告げると、クエムより受け取った力を解放する。

 

赫の烙印(あかのらくいん)

 

その力によってアルベルは人の姿から竜の姿へと変貌する。

 

まるでこの世界に落ちて来た名もなき少年と同じ様な力で……。

 

 

 

だが、それは白き竜王の力とは似て非なる力だ。

 

どれだけ白き竜王と同じ力に見えたとしても、違う力なのだ。

 

少なくとも、アルベルはそう考えている。

 

そしてアルベルは、自らを庇い命を落とした少女カルテシアが遺した赫の烙印(あかのらくいん)の力によって【赫灼竜(かくしゃくりゅう)マスカレイド】となり、空に向かって咆哮した。

 

怒りも憎しみも全て吐き出して、哀しみを纏い、絶望に打ち勝つ為に。

 

「……返してもらうぞ。呪われた白き竜王の子(アルバスのらくいん)。カルテシアは……エクレシアは僕の物だ」

 

そのドラゴンの双眼は遥か地平の向こうにいる少年と少女の姿を求めて、研ぎ澄まされた刃の様に輝くのだった。

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