遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第1章
第1話【二人の聖女(ふたりのせいじょ)


《深淵》と呼ばれる大陸の極北。

 

人が住むのに適さぬその場所に、大きな発展を遂げた国があった。

 

教導国家(きょうどうこっか)ドラグマ】

 

天空に開いたホールという名の大穴から、多くの資源や奇跡と呼ばれる力を手に入れ、彼らは幸福で、平穏な生活を送っていた。

 

そう。幸福で平穏な生活である。

 

《深淵》という大陸は、資源が乏しく、多くの国や勢力が少ない資源を奪い合いながら生きているのだ。

 

しかし、ドラグマはその様な争いをする必要が無い。

 

何故なら十分に満ち足りた資源がそこにあるからだ。

 

故に彼らは争いのない世界で穏やかに、静かに暮らしていく事が出来た。

 

だが、彼らは慈悲深い神を信仰する国家であり、その国に住まう者達である。

 

争いの絶えぬ大陸の中で、自分たちだけが幸福であればよいとは思わず、彼らが得ている幸福を大陸の全てに広めていこうとした。

 

神の偉大さ、そして慈悲深さを、あらゆる人に伝えていこうとしたのだ。

 

 

 

しかし、神が差し伸べた救いの手は払いのけられた。

 

 

 

傲慢で、欲深で、争う事しか知らぬ野蛮な者達は、ドラグマの神を邪神と切り捨て、その手に武器を持った。

 

そんな彼らに、ドラグマの信徒たちは言葉を尽くした。

 

だが、野蛮な者達は止まらず、それどころかドラグマの本国にまで侵攻しようとしてきたのである。

 

この危機に、ドラグマの最高指導者である【教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)】の判断は早かった。

 

ドラグマ唯一の武装勢力《教導騎士団》を動かしたのである。

 

争いのない国ドラグマを守るために存在する《教導騎士団》は、神へと繋がる神像【教導枢機(きょうどうすうき)テトラドラグマ】から国民へと与えられる奇跡を発現する力《聖痕》の中で、より大きな奇跡を得た者達が所属する騎士団であり、まさに正義を体現した者たちである。

 

そしてこの時より《教導騎士団》と野蛮な者達との争いは始まり……今もなお、その争いは続いている。

 

 

 

神歴1762年

 

教導国家ドラグマの中心、聖都にて一人の少女が深くフードを被りながら物珍しそうに市場を見渡していた。

 

少女の名前はエクレシア。

 

ドラグマにおいては知らぬ者の居ない有名人であるのだが、愛らしい顔や、長く美しい金色の髪、そして額に刻まれた聖痕さえ見つからなければ、道行く誰もが彼女をエクレシアとは気づかない。

 

故に、エクレシアは久しぶりの外出を楽しみながら、活気にあふれた市場を歩くのだった。

 

「安いよ! 安いよー!」

 

「そこのお兄さん! 見てっておくれよ!」

 

「このネックレスはウチの職人が丹精込めて作った自信作だ!」

 

ネックレスという言葉に、エクレシアは少女らしく反応し、呼び込みをしている店へと向かって行った。

 

そして、店先に並んでいる商品を順番に眺めてゆく。

 

エクレシアが気になったのは二つの商品だ。

 

一つは赤い宝石の付いたネックレス。

 

そしてもう一つは白い宝石の付いた指輪だ。

 

どちらも美しい加工がされており、エクレシアはキラキラと輝いた瞳でそれらを見つめるのだった。

 

「お客さん。興味あるのかい?」

 

「……っ!」

 

エクレシアは声を出さない様に気を付けながら大きく首を縦に振った。

 

その反応は顔が見えていなくとも可愛らしく、店主は笑顔を浮かべながら値段をエクレシアに告げるのだった。

 

しかし、値段を聞いてエクレシアはピシッと固まってしまう。

 

何故なら、エクレシアは騎士団から抜け出してくる事に意識を集中しており、財布を忘れてきてしまったからだ。

 

お金が無ければ買い物は出来ない。

 

教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)に拾われ、箱入り娘の様に育ったエクレシアでも、この程度は知っている。

 

故にエクレシアは折角出会えた宝物を台に戻し、立ち去ろうとした。

 

無論ここでエクレシアが自らの正体を教えれば、この宝物を手に入れる事も出来ただろうが、その様な行為をエクレシアは望まない。

 

だからこそ、エクレシアは何もせずこの場を去って、部屋で憧れを噛みしめるつもりであった。

 

しかし、そんなエクレシアの手を握りながら、凛々しく美しい声を上げる者が現れた。

 

「店主。この二つ。頂こうか」

 

「……あ、貴女様は!」

 

アヤメ色の髪と、強い意思の秘めた瞳の凛々しいその人は、エクレシアにとって姉の様な存在であり、最も信頼する者であり、エクレシアを誰よりも大切に思っている……エクレシアと同じ聖女と呼ばれる女性であった。

 

「すまない。値段を教えて貰えるか? 店主」

 

聖女フルルドリスが突如現れたことで、動揺していた店主から値段を聞き出すと、その分の金銭を支払い、二つの宝物は無事エクレシアの手に収まった。

 

そして、フルルドリスはエクレシアの顔を隠していたフードを取ると、その顔に傷が無いかどうかを確かめて、頷く。

 

「どうやら問題ないようだな」

 

「……お姉様」

 

「なんだ。そんないじけた顔をするな。私の使命はお前を守る事なのだからな」

 

「分かっております」

 

「ふふ。その顔は分かっているという様な顔では無いな」

 

「だって、お姉様は過保護すぎますっ!」

 

「仕方ないだろう。私にとってエクレシアは聖女である前に大切な妹なのだからな」

 

クスリと笑いながらエクレシアの頬を撫でる女性は《教導騎士団》が一人【教導の騎士(ドラグマのきし)フルルドリス】

 

そして、フルルドリスに頬を撫でられながら僅かにつまらなそうな顔をしている少女は、奇跡の子、運命が導いた希代の聖女……【教導の聖女(ドラグマのせいじょ)エクレシア】

 

ドラグマに生きる民にとって未来を照らす希望の光であり、邪教徒から神に愛された地ドラグマを守る聖なる存在だ。

 

故に人々は彼女たちの存在を確認し、声を上げながらその周囲から離れてしまう。

 

聖女様方の邪魔をしてはいけない。

 

という考えと、二人の存在感に思わず距離を取ってしまった為だ。

 

そして、二人の近くから人が離れた事でフルルドリスはエクレシアの手を取りながら、開けた道を教会に向けて歩き始めるのだった。

 

 

 

教会へたどり着いたエクレシアは、聖女付きの女官に捕まり、そのまま聖女の部屋まで連行されてしまった。

 

そして、女官たちはエクレシアの服を悲鳴と共に剥ぎ取り、透き通る様な美しい服に着替えさせると、乱暴に結いた髪を悲鳴と共に解放し、丁寧に梳かしてゆくのだった。

 

エクレシアはそんな女官に小言を言われながら、聖女らしい姿へと変わってゆく。

 

美しく、輝く姿は聖女と呼ばれるにふさわしい姿であり、女官はその姿を見て満面の笑みで頷くのだった。

 

「エクレシア様。いかがでしょうか」

 

女官は鏡を手に、エクレシアの姿を映して是非を問うが、エクレシアは曖昧に笑うばかりだ。

 

しかしその様な反応はいつもの事なので、女官は特に気にする事なく、最後の仕上げをしてゆくのだった。

 

そして長い時間を掛けて、教会から抜け出す不良少女から希代の聖女に戻ったエクレシアは、自室を出て祈りの間へと向かう。

 

「失礼します」

 

「あぁ、戻りましたか。エクレシア」

 

「はい。申し訳ございません」

 

祈りの間にて、テトラドラグマに祈りを捧げていた顔を覆い隠す仮面を付けた男、教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)はエクレシアの声を聞き、柔らかい空気と声で応えた。

 

そんな教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)を見て安心した様に微笑み、エクレシアは聖女の礼をするのだった。

 

「その様子ではフルルドリスにはお説教をされた様ですね」

 

「……はい。お恥ずかしながら」

 

「まぁフルルドリスはエクレシアの事をとても大切に想っていますからね。仕方ないでしょう」

 

「ありがたい事です」

 

「ふふ。しかし、エクレシア。貴女ももう15歳ですからね。外の世界に興味を持つ事は自然な事ですよ」

 

「……はい」

 

「来年には我らの王が降臨されます。そうなれば、貴女もあの御方の元へ向かい神の世界へ行く事になりますからね。今の内に世界を見る事も良いでしょう」

 

教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)はキョトンとした顔で首を傾げるエクレシアの頭を撫でると、空へと視線を写し仮面の内側で笑うのだった。

 

エクレシアが作る希望に満ちた光を夢見て。




はい。
はじめましての方は、はじめまして。
全65話予定で進めてゆきます。

よろしくお願いします。
m(__)m
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