遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第23話【氷水揺籃(ヒスイヨウラン)

氷水(ヒスイ)の住処である氷水底(ヒスイテイ)イニオン・クレイドルに潜り始めたエクレシアとアルバスであったが、水底にたどり着いても周囲は明るく、自由に泳ぎ回る魚や上層に見える氷水(ヒスイ)の家々がこの場所を幻想的な世界に変えていた。

 

そして、アクティに案内されるまま入った最奥の城ではキラキラと輝く光の粉が水に溶け、光を反射して、この世の物とは思えない美しい光景を作り出しているのだった。

 

エクレシアはそんな美しい世界に瞳を輝かせながら一歩一歩ゆっくり進んでいたが、城の最奥に居る氷水(ヒスイ)が待つ場所へ来た事で気持ちを引き締める。

 

「お客様を案内してきたわ。コスモクロア」

 

「そう……ありがとう。アクティ」

 

ゆったりと動き、微笑みを浮かべるその人を見た瞬間、エクレシアは母の様だと思った。

 

捨てられた子ゆえ、エクレシアは母の顔を知らぬが、コスモクロアを見ていると無性に母と甘えたくなってしまう。

 

そんな衝動がエクレシアの中に生まれる。

 

「はじめまして。私は【氷水帝(ヒスイテイ)コスモクロア】」

 

「あっ! は、はじめまして! 私はエクレシア! そして、こちらがアルバス君です」

 

「丁寧にありがとう。では、私もこの子を紹介させてちょうだいね」

 

コスモクロアはゆったりとした口調でそう言うと、コスモクロアの腕の中ですっかり寝てしまっている子供をエクレシア達に見せつつ語る。

 

「この子は【氷水(ヒスイ)のエジル】。まだ子供なのだけれど、いずれ氷水(ヒスイ)の主となる子よ」

 

「な、なるほど」

 

緊張し、ガチガチになっているエクレシアの答えにもコスモクロアは微笑み、静かに頷いた。

 

そして、美しい微笑みでエクレシアとアルバスを見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「エクレシア。私は貴女が来る時を待っておりました」

 

「え」

 

「貴女が生まれ落ちた日より、ずっと……」

 

「それは、なぜ」

 

「貴女が運命という名の鎖に縛られていたからです。何も起こらぬ世界であれば、貴女の中に眠る力が解き放たれ、世界は滅んでいたでしょう」

 

世界が滅ぶという言葉にエクレシアは明確に動揺し、アルバスを一瞬見た後、またコスモクロアへと視線を戻した。

 

「そう。アルバス。貴方がエクレシアの運命を変えた」

 

「っ!」

 

「アルベルとクエムという者達に気を付けなさい。あの者達はこの世界を汚す事に躊躇が無い」

 

「世界を汚す……?」

 

「そう。そして、彼らに対抗する為にも、あなた達に力を……」

 

「はい!」

 

承影(ショウエイ)の時と同様に、コスモクロアの言葉をエクレシアはイマイチ理解する事が出来なかったが、力が必要という事だけは理解した。

 

それ故に、コスモクロアから与えられる試練を乗り越えようと気合を入れるのだった。

 

しかし、コスモクロアはそんなエクレシアにクスっと笑うと、腕の中で眠っていたエジルを起こす事でエクレシアの気合への答えとするのだった。

 

「エジル」

 

「……? ふぇ? なぁに? かあさま」

 

「あなたの最初の試練です。エクレシアとアルバスの心を水鏡に示すのです」

 

「エクレシア? アルバス?」

 

エジルはたどたどしい言葉で二人の名を呟くと、エクレシアとアルバスを見て、首を傾げた。

 

「しらないひと」

 

「そう。相剣(そうけん)の主承影(ショウエイ)が呼んだ子供達よ」

 

「そうなんだ」

 

エジルはコスモクロアにしがみつきながらエクレシアとアルバスを見ていたが、小さな子供に見つめられて、ムクムクと聖女だった頃の気持ちが盛り上がったエクレシアが近くに寄りながら膝をついて微笑んだことで少しだけエクレシアに興味を示した。

 

そして、エクレシアはエジルの興味が自分に近づいた事を察し、声を掛ける。

 

「はじめまして。私はエクレシアと申します」

 

「えくれしあ」

 

「はい。エクレシアです」

 

舌足らずな言葉にも、エクレシアは笑顔で自分の名を繰り返し、エジルを見つめる。

 

そしてエジルが警戒心を解き始めて来た頃、もう一歩踏み込むのだった。

 

「貴女のお名前を聞かせていただいても良いですか?」

 

「……エジルは、エジル!」

 

「エジルさんですか。よろしくお願いしますね」

 

「うん」

 

エジルは近くにあったエクレシアの袖を掴み、そのままエクレシアに体を預ける。

 

エクレシアは腕の中でジッと自分を見つめるエジルに笑顔を向けたまま、嬉しさを前面に出して声を上げた。

 

「か、かわいいですー!」

 

「エクレシア?」

 

「あ、ごめんなさい! エジルさんがあまりにも可愛くて、思わず声を上げてしまいました」

 

「かわいい、って、すきって事?」

 

「はい。そうです。エジルさんが大好きです。という事です!」

 

「そうなんだ」

 

エジルはエクレシアの答えに喜び、エクレシアに微笑みかけた。

 

「ありがとう。エクレシア」

 

「きゅ~!」

 

エクレシアは奇声を上げながらエジルを抱きしめ、エジルも直接触れたエクレシアの体から伝わる純粋で真っ直ぐな心を感じて、微笑みを浮かべながらエクレシアを抱き返すのだった。

 

 

 

それから、エクレシアはアルバスを紹介した後、コスモクロアの城の中で、すっかり懐かれたエジルと遊ぶ。

 

「じゃあエクレシアは外の世界から来たんだ」

 

「はい。ドラグマという国から来ました」

 

「うん。水を通して見えるよ。綺麗な国だね」

 

「はい!」

 

エクレシアはエジルの言葉に、旅立つ前のドラグマを思い出し笑う。

 

だが、そんなエクレシアを見て、エジルはやや困った顔をした。

 

何故ならエジルには見えているからだ。

 

世界中にある水を通して、かつてドラグマと呼ばれた国が水を通して見えているからだ。

 

現在のドラグマ……いや、デスピアの姿が。

 

もはやこの世界に、エクレシアの記憶にある様な美しい世界は無い。

 

「あ、でも鉄獣戦線(トライブリゲード)の方々の住んでいた場所も不思議がいっぱいで、とても面白かったですよ!」

 

「そうなんだ」

 

「はい! こう、とても大きな木がそのまま家になっているんですが、家と家の間を移動するのは木の上の方に作られた通路を通るんです!」

 

「それは凄いね……でも、怖そう」

 

「そうなんです! 私も最初は凄く怖くて、一歩も進めない……! って思ってたんですけど、アルバス君が手を握ってくれて、一緒に歩いてくれたんです!」

 

「ふふ。アルバスは優しいね」

 

「はい! アルバス君は優しいんです!」

 

両手を握りながらハッキリとそう言うエクレシアに、エジルはアルバスへと目を向け、その心を見る。

 

そこには、確かにエクレシアの言う通り、透き通る心がある様だった。

 

それを確認して、エジルはフッと微笑みを零すと、エクレシアの服を強く掴んで抱き着いた。

 

「エジルさん?」

 

「エクレシア」

 

「はい。何でしょうか」

 

「世界は、こわいね」

 

「……そうですね」

 

一瞬僅かにエクレシアの透き通った心に影が差した事を感じたエジルは、より強くエクレシアを抱きしめる。

 

世界に蠢く悪意を近くに感じて、それから逃げる様に……。

 

母であるコスモクロアとは違う、姉の様で妹の様な親しさを感じるエクレシアに縋りついて……。

 

 

 

だが、エジルはエクレシアに抱き着いたまま母の世界である氷水底(ヒスイテイ)イニオン・クレイドルを思い出し、自分を安心させる様に笑った。

 

それが現実逃避であることは理解していたとしても、彼女はまだ子供であるが故、母ならば、仲間たちが居るならば、そしてエクレシアやアルバスの様な人間たちが居るならば安全だと、目を逸らすのだ。

 

自分たちが住まう場所にまで手を伸ばし始めている悪の手から。

 

それが愚かな行為だと理解していても、何も知らぬ子供のままでいる為に。

 

静かに目を閉じた――。

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