相剣軍師-龍淵は教導の大神祇官との密談を終えてから、相剣師達が住まう屋敷の中を歩き、弟子を探していた。
そして、ちょうど赤霄や泰阿との定例会議を終えた莫邪を発見し呼び止める。
「莫邪」
「師匠? 何かありましたか?」
「いや……なに」
龍淵は非常に珍しく笑みを浮かべながら莫邪へと手を伸ばす。
その瞬間、莫邪は何もしていないというのに、自らの相剣が顕現した事に驚き、目を見開いた。
「なっ!?」
「フン……久しく、忘れていたな」
龍淵は自らの手に握られている莫邪の相剣を眺めながら鼻を鳴らす。
「どうして……師匠」
「未熟者め。説明してやらねば理解出来んか」
「……っ」
「所詮は何の才も持たぬ者。何か目覚めれば使ってやっても良かったがな。所詮ゴミはどれだけ磨いてもゴミか」
龍淵は冷たく莫邪を見下ろすと、莫邪の相剣を振り上げた。
武器を奪われた莫邪に龍淵の攻撃を防ぐ手段はなく、このまま切り裂かれてしまうかと思われた。
だが、無意識に涙をこぼした莫邪を見て、龍淵は溜息を零すと、今莫邪の中にある疑問に答える事にした。
「全ては策略だ。心の全てを見せれば氷水の者達が私を警戒するだろう。故に、我が心を二つに分け野望を見えぬ様にしたのだ」
「……野望」
「そう。野望だ。だが……この先をお前に教える必要はない。ここで死ぬお前には……」
龍淵は振り上げた相剣を莫邪に振り下ろした。
が、その刃は莫邪を傷つける事はなく、ギリギリと飛び込んできた泰阿によって防がれる。
「っ!? な、何をしておられるのか! 龍淵殿!」
「泰阿か」
「屋敷の中でこの様な狼藉は……」
「お前と話している暇はない。失せろ」
龍淵は、左手に握った莫邪の相剣を泰阿の相剣と拮抗させたまま右手に、金色の相剣を生み出し、泰阿を斬り捨てた。
「泰阿!」
「……に、げろ……莫邪!……ぐっ」
龍淵に斬られ、血で白く美しい床を汚しながら、泰阿は莫邪に叫んだ。
しかし、その言葉を最期に泰阿は龍淵にトドメを刺されてしまった。
無様に、よろけながら走って逃げる莫邪を見て、龍淵はもはやここに用は無いと、床を砕きながら空へ跳び、そのまま大霊峰相剣門の最奥にある氷水たちの住まう場所、氷水底イニオン・クレイドルを目指すのだった。
大霊峰の雪解け水が集まり出来た巨大な透き通る湖に龍淵は飛び込むと、右手に金色に輝く相剣、そして左手に紫に輝く相剣を握りながら一気に水底まで突き抜けてゆく。
水面から降り注ぐ光が、平穏な氷水底イニオン・クレイドルを照らしていたが、龍淵が武器を手にしながら現れた事で騒然となり、慌ただしく氷水の者達が動き回っていた。
そして氷水を代表してアクティが武器を構えたまま動かない龍淵の前に立ち事情を聞く。
「龍淵。いったい誰の許可を得て、この地に、っ……え?」
「邪魔だ」
龍淵の前に立ち緊張しながら話しかけていたアクティであったが、直後、龍淵の刃によって切り裂かれ、水に戻ってゆく。
「なんて事を!?」
「コスモクロア! 龍淵が!」
「やれやれ。騒がしい事だな」
龍淵は慣れない武器を持ちながら、自分を警戒する氷水を見下ろし、傲慢に言葉を投げつける。
「エクレシアを差し出せ。そうすれば、お前たちを許してやろう」
「……エクレシアに何をするつもり!?」
再び人の姿を取り戻したアクティに龍淵は冷たい視線をぶつけた。
「下らん問いだな。それを知ったところでお前たちに出来る事は何も無い」
「そうね。私たちじゃあ貴方の相剣に対抗出来ないわ」
「分かっているのなら……」
「そう! 私たちなら……ね!!」
「龍淵!!!」
「っ!? 赤霄だと!?」
水面に激しく着水しながら飛び込んできた赤霄は刃を構えたまま空中を落下する様な速度で水底まで落ちてくると、そのまま龍淵に刃を振り下ろした。
だが、当然龍淵はその刃を右手の相剣で受け止める。
しかし、赤霄の攻撃に合わせて、氷水の者たちも攻撃を仕掛けてきた為、龍淵は体勢を崩してしまう。
「チッ」
「逃がさんぞ! 龍淵!」
赤霄は勢いのまま水底を破壊する勢いで相剣を振り下ろし、龍淵は上手くそれを受け流し、距離を取ろうとするが、氷水の者たちがそれをさせまいと攻撃を繰り返し、龍淵の居場所を制限する。
「何故裏切った! 何故泰阿を斬った! 龍淵!!」
「それを貴様に答える義理はない!」
両手に握られた相剣で赤霄の猛攻を受け流そうとする龍淵であったが、龍淵を集中させまいと氷水の攻撃は苛烈になり、受け流す事も厳しくなってゆく。
そして遂に、赤霄の攻撃によって龍淵は弾き飛ばされ、壁に激しく叩きつけられた。
「龍淵。降伏しろ。もはやお前に勝ち目はない」
「……勝ち目はない、か」
「あぁ。この状況ではもはやお前に出来る事は何もない」
「出来る事がない。勝ち目がない。屈服するしかない。その様な言葉は気が狂う程に聞いてきた言葉だ」
「龍淵……?」
龍淵は、赤霄の言葉にも答えぬまま立ち上がり、相剣を構えぬまま静かに水面へと視線を移した。
その奇妙な行動に、赤霄も氷水の者たちも警戒しながら、龍淵の先を待つ。
「俺は、空が好きだったんだよ。青い、どこまでも透き通る様な空が好きだったんだよ。赤霄。だから取り返したいと思ったんだ」
「青い空ならば、あるだろう。どこにでも」
「違う」
「っ」
「俺が愛した空は汚された……あの空に刻まれた呪いによって穢されたのだ」
「龍淵……!」
「俺は、全てを取り戻す。力を手に入れ、白の世界を滅ぼし、俺の愛した美しき世界を取り戻すのだ……!」
龍淵は目を見開き、両手の相剣を合わせ、世界を光で包み込んだ。
直視できない眩い光で覆われた氷水底イニオン・クレイドルは、次の瞬間光を切り裂く黒い閃光によって切り裂かれ、激しく水をかき回しながら崩れてゆく。
「龍淵!!」
「もはや俺は止まらん。赤霄。承影。お前たちの命を奪うとしても」
龍淵……いや【相剣大邪-七星龍淵】は漆黒に染まった相剣を振るい、赤霄を彼の相剣ごと斬り捨てた、
そして、水面からゆっくりと降りてくる相剣大公-承影へと視線を向ける。
「龍淵」
「承影」
静かに見つめ合う二人は、ボロボロの氷水底イニオン・クレイドルの中で見つめ合い、そしてぶつかるのだった。