遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第27話【失烙印(しつらくいん)

龍淵(リュウエン)が突如として氷水(ヒスイ)の楽園に襲撃を仕掛けて来た事で、氷水底(ヒスイテイ)イニオン・クレイドルは騒然となり、氷水帝(ヒスイテイ)コスモクロアも迎撃の為に出ていった。

 

残されたのは、エジルとエクレシア、そしてアルバスことアルビオンだけである。

 

誰がどう考えても危機的な状況であるが、ここで更に状況を悪化させる存在がイニオン・クレイドルに現れた。

 

そう。ホールの向こう側からやってきた少年アルベルである。

 

「いやいや、役に立つものだね。裏切者もさ。まさかこんなにあっさり見つかるとは思わなかったよ。エクレシア」

 

初対面だというのに、馴れ馴れしく名前を呼ぶその少年に、エクレシアは警戒しつつも、何故か酷く懐かしい様な感覚も覚えていた。

 

胸の奥で何かが騒いでいる様な気がする。

 

エクレシアはエジルを守る様に抱きしめながら、ジッとアルベルを見つめた。

 

「うーん。まだ思い出せないのかな。母上の言った通り……か、少し寂しいね」

 

アルベルが一人で納得しながら寂しげに呟いた言葉に、エクレシアは思わず走り寄って抱きしめたい衝動に駆られたが、エクレシアは自分の中から生まれた謎の感情を何とか首を振る事で振り払うのだった。

 

「まぁ、でも良いか。連れて帰ってから考えれば良い問題だ」

 

アルベルは仮面の奥で笑いながらそう結論を出すと、エジルを抱きしめているエクレシアに向かって歩き出した。

 

しかし、それ以上は進ませないとアルバスが立ちふさがる。

 

「……何のつもりだ? 名無し。お前に用はない」

 

アルバスは唸り声を上げながらアルベルを睨みつけ、その大きな体でエクレシアとエジルをアルベルから見えない様にと隠すのだった。

 

「邪魔をするなよ、名無し。今はお前に構ってやる様な気分じゃないんだ」

 

アルベルから放たれる強大な圧力が、アルバスによって遮断された事で自分を取り戻し、動ける様になったエジルは、エクレシアの腕を掴んで叫ぶ。

 

「エクレシア! 早く逃げて! 奴らは【烙印の使徒(らくいんのしと)】だ。空の向こうから来た……モンスターだ」

 

「え? でも……」

 

「アイツは、危険だ。アイツに付いていったら、エクレシアは大事なものを無くしちゃう!」

 

「大事なモノ……」

 

エクレシアの頭には姉であるフルルドリスや、テオ、アディン、シュライグやフェリジットら鉄獣戦線(トライブリゲード)の者達が浮かび。

 

さらにキット、サルガスやロッキー達《スプリガンズ》の事、最近出会ったばかりだが、既に親交を深めているコスモクロアやエジル、氷水(ヒスイ)の者達だってそうだ。

 

そして何よりもアルバスである。

 

大事な物を無くしてしまうのが怖いからと逃げ出せば、今ここにある大事な物を失ってしまうとエクレシアは心を決めた。

 

未だ相剣(そうけん)という頂には届いていないが、その輝く魂は今ここに顕現(けんげん)する。

 

「私も、戦います。大切な人を護る為に! 大切な場所を護る為に!!」

 

『んご!? な、なんだ!? 光ってる!?』

 

「っ!? その声! ロッキーちゃんですか!?」

 

『おー! 俺だロッキーだ!』

 

エクレシアがキットから託された戦槌から飛び出してきた黒い円形の生物はスプリガンズ・ロッキーであり、《スプリガンズ》の特性により何か物に入り込んで内部からそれを操る事が出来るのだが、どうやらゴルゴンダを離れた時から忍び込んでいた様だった。

 

そして、ロッキーがエクレシアの戦槌に入り込んでいた事で、戦槌は想定された以上の力を発揮しながら黄金に輝く。

 

まるでエクレシアの精神をそのまま反映する様に。

 

「いきましょう! ロッキーちゃん!」

 

『あぁ!』

 

エクレシアは戦槌を構えて、アルバス、ロッキーと共にアルベルを見据える。

 

 

 

だが、エクレシアが参戦した事で戦局は好転するどころか悪化してしまった。

 

何故なら、エクレシアを戦場に立たせるという行為そのものが、アルベルにとっての地雷だからだ。

 

特に白の烙印で竜化しているアルバスが隣に立っているというのが、アルベルの神経に障る。

 

「下等生物に、名無し。お前たち程度の存在が……誰の許可を得て! エクレシアの傍に存在している!!」

 

怒りはそのまま(あか)き波動となり、周囲の壁や柱を破壊しながら、エクレシア達に襲い掛かった。

 

そして、その憎しみは物理的な力となり、まずはアルバスを捕まえる。

 

巨大なドラゴンであるアルバスを容易く拘束したその(あか)き力は、アルバスを絞め殺そうと強くきつくアルバスを責め立てた。

 

「アルバス君!」

 

「エクレシア!!」

 

「っ!」

 

アルバスを助けようと戦槌を振りかぶったエクレシアにアルベルが怒りの声をぶつけると、エクレシアは怯えたように固まってしまった。

 

恐怖。

 

エクレシアの顔が恐怖に染まり、先ほどまで感じていたアルベルへの親しみなどは全て押し流されて消えてしまう。

 

「君が居るべき場所はそんな奴の隣じゃない。この僕の隣だ。分かるだろう?」

 

「……分からない、です」

 

「エクレシア!!」

 

「わ、わたし、私は……」

 

アルベルが放っている(あか)き波動はエクレシアの心を貫いて、ドラグマを出て孤独を感じていた時の事を強く思い出させていた。

 

砂漠で独り、空に浮かぶ月を見上げていた時の事を思い出していた。

 

しかし、アルベルの拘束を引きちぎり、咆哮を上げるアルバスを見て、エクレシアの胸に愛情という名の火が灯る。

 

今日という日まで、共に歩み、共に生きて来たアルバスとの日々が蘇った。

 

「私は、貴方とは行けません」

 

「エクレシア……!」

 

「だって、私は……アルバス君の事が、好きだから! 一緒に居たいのはアルバス君なんです!!」

 

その叫びに、アルベルは生まれてから感じて来た様々な怒りを全て過去に変えてしまう様な激しい憤怒を感じた。

 

出来る事ならば、今すぐこの世界の全てを焼き尽くしてしまう様な怒りの炎が吹き上がる。

 

「……エクレシア! 本当に君は、変わらないな。カルテシアであった時から……僕の心をかき乱して、壊して! 本当に悪い女だ」

 

「カルテ、シア?」

 

「だが、全て許そう。王となる僕には、それだけの度量が必要だ。分かっている。分かっているとも……」

 

アルベルは深い呼吸を繰り返しながら、何とか自分の中にある怒りの炎をコントロールし、その憎しみをエクレシアから憎むべき存在へと向ける。

 

かつてアルベルは、アルバスに全てを奪われた。

 

信じていた未来の世界を壊された。

 

玉座も、家族も、他の全てを捨ててでも手に入れたかった小さな幸せも……!!

 

そして、地上に降りてきて、ようやく全てが始まるのだと思えば、愛した女の生まれ変わりの傍にはまたアルバスだ。

 

「……本当にお前は、僕の世界に邪魔だな。名無し」

 

何度もそう呼ぶことで、エクレシアもアルベルが呼ぶ名無しという存在がアルバスの事だと何となく察しがついていた。

 

もしかしたら、記憶喪失になったのではなく、初めから名前が無かったのかもしれない。

 

なんて、今この戦場においては必要のない事を考えながらも、エクレシアはアルベルからアルバスを守る様に一番前に出て戦槌を構えた。

 

だが、その姿は……。

 

白き竜王の子を庇い、真っすぐに襲撃者であるアルベルを見据えるその姿は……、アルベルにとって最大の地雷であった。

 

 

 

故に――

 

アルベルはもはや自分でも制御出来ない様な激しい怒りに身を任せ赫の烙印(あかのらくいん)を解き放った。

 

そして、イニオン・クレイドルを破壊しながら赫灼竜(かくしゃくりゅう)マスカレイドは黒衣竜(くろごりゅう)アルビオンに吠える。

 

「なっ!?」

 

「エクレシア……!」

 

二匹の強大なドラゴンがぶつかり合い、争う事で、イニオン・クレイドルは崩壊してゆく。

 

そんな中、エジルは必死に瓦礫を避けながらエクレシアに抱き着くと、その体を氷水(ヒスイ)の湖の外へと吹き飛ばすのだった。

 

「っ!? エジルさん!!」

 

「逃げて! エクレシア! 貴女さえいれば、世界は……」

 

加速しながら水面に向かってゆくエクレシアにもはやエジルの声は聞こえない。

 

そして、アルバスとアルベルの戦いも遠く、視界の向こうに消えて行って……湖から弾き出されたエクレシアはエジルによって近くまで来ていた莫邪(バクヤ)に受け止められて意識を闇の底に落としてしまうのだった。

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