遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第30話【氷水呪縛(ヒスイジュバク)

相剣軍師(そうけんぐんし)龍淵(リュウエン)が攻め込んできた事で、氷水帝(ヒスイテイ)コスモクロアが氷水艇(ヒスイテイ)キングフィッシャーに乗り込み、氷水(ヒスイ)たちと共に戦いの場へと向かった。

 

そんな中、突如として現れた凶導者(きょうどうしゃ)アルベルがエクレシアを狙い、戦いを仕掛けて来た為、アルバスことアルビオンと争いになりその影響で氷水底(ヒスイテイ)イニオン・クレイドルは崩壊寸前である。

 

かつてはそのあまりの美しさから、水の中にある楽園などと呼ばれた氷水(ヒスイ)達の住処が今はもう見る影もない。

 

しかし、だからと言ってこれで終わりではないのだ。

 

何故ならイニオン・クレイドルも龍淵(リュウエン)との戦いで斬られている氷水(ヒスイ)たちも、この美しい世界の何もかもが、コスモクロアさえ居ればいくらでも再生可能だからだ。

 

だが、逆に言えばコスモクロアが失われてしまえば、全てが終わりという事でもある。

 

 

 

「……母様」

 

エジルは、激しい戦闘が行われている水底の世界を動き回り、母であるコスモクロアを探していた。

 

この状況をどうすれば良いのか、まだ幼いエジルには何も分かっていなかったが、それでも母であるコスモクロアが居れば何とかなる。

 

何とかして貰える。

 

そう信じていたからだ。

 

そして、その純粋さが求めるままにコスモクロアと共に戦っていた承影(ショウエイ)を見つけ、エジルは母の居場所を聞こうとした。

 

純粋に、自分が出来る事をして、母を助けようと思ったのだ。

 

しかし、その様な幼い感情を戦場に持ってきてしまった事が全ての過ちであった。

 

必死に荒れ狂う戦場の中を進んでいたエジルの目には承影(ショウエイ)の姿しか見えておらず、背後から迫っている龍淵(リュウエン)には少しも気づいていなかった。

 

故に――

 

氷水(ヒスイ)のエジル。お前を残せば面倒だ。ここで消えろ」

 

「えっ!?」

 

背後から聞こえて来た憎しみに染まったおぞましい声に、エジルが振り返った時には全てが遅かった。

 

龍淵(リュウエン)は黒に染まった相剣(そうけん)に強大な力を込めており、それをエジルに向かって振り下ろしたのだ。

 

並の氷水(ヒスイ)では一瞬で蒸発する様な凶悪なその一撃は、例え未来の氷水(ヒスイ)の主となる存在であるエジルであっても助からない。

 

まず間違いなく滅びてしまう。

 

そういう一撃であった。

 

しかし、激しい衝撃を受け、水底を転がり、傷つき、痛めつけられても……エジルは生きていた。

 

確かに全身に痛みはあるが、それだけだ。

 

命が危ぶまれる様なものではない。

 

だが、龍淵(リュウエン)の放った一撃の威力を全てでは無くとも理解していたエジルは自分が何故無事なのか分からず、その理由を求めて目を開いた。

 

嗚呼。

 

いっその事、目を開かなければ良かったのかもしれない。

 

「……かあ、さま?」

 

何もせずイニオン・クレイドルの残骸に隠れて全てが終わるまで震えていれば良かったのかもしれない。

 

どちらにせよ、龍淵(リュウエン)に押されていたコスモクロアと承影(ショウエイ)に未来は無かっただろうが、それでも自分を庇い、傷つく母を見ずに済んだのだから。

 

「どうして……母様!」

 

「エジル。痛い所は、ない?」

 

「ない! ないよ! 母様より痛いところなんて、何も、ない……!」

 

「そう、良かったわ」

 

ボロボロと体の一部が崩れてゆくコスモクロアはひび割れた顔でエジルに微笑んだ。

 

最期に泣いている姿など見せたくなかったから。

 

しかし、そんな笑顔を向けられた所で、エジルに返せる物など何もない。

 

ただ、辛さを顔に出して、苦しさを全身で示して母に縋りたい気持ちを必死に抑えているだけだ。

 

 

 

そう。エジルも分かっているのだ。

 

もう母が終わっているという事実が。

 

ただ、それでも抱き着いてしまえば、触れてしまえば、そこから崩れてしまう事が恐ろしい。

 

だから、その一歩を踏み出す事が出来なかった。

 

 

 

そして、母と子の最期の別れを邪魔させない為に、多くの氷水(ヒスイ)たちがもはや再生できぬ体と知りながら、龍淵(リュウエン)に向かって武器を向けながら時間を稼ぐ。

 

一回、一言、一呼吸でも多く、コスモクロアとエジルに時間を与える為に。

 

龍淵(リュウエン)!!」

 

「邪魔を……するな!!」

 

「お前という奴は!」

 

「これが俺の選んだ道だ! もはや退路などない!! 理解しろ!! 承影(ショウエイ)!!」

 

 

 

エジルは、近くで行われている戦闘など一切見る事なく、ただ母を見て、母を想った。

 

多くの時間を母と共に生きて来た。

 

コスモクロアの生きてきた時間に比べれば刹那の時であったが、それでもエジルにとってはコスモクロアと過ごした時間が全てであったのだ。

 

だから、これで終わりなどと信じる事は出来ない。

 

「母様……!」

 

「生きて、あなたは、つよく……!」

 

そして、コスモクロアはたった一言を残し、崩れ去った。

 

初めからそこには何も無かったとでも言うように、粉々に。

 

「かあさまぁぁあああ!!」

 

エジルの叫びは水の中で響き渡り、その悲し気な叫びに、悔しさを噛み締めながら氷水(ヒスイ)たちも消えてゆく。

 

残された承影(ショウエイ)龍淵(リュウエン)を止めようとするが、龍淵(リュウエン)の猛攻は止まらず、承影(ショウエイ)を切り裂いて、エジルの元へ向かおうとするのだった。

 

しかし、そんな龍淵(リュウエン)に死角から襲い掛かってくる存在が居た。

 

そう。アルバスこと黒衣竜(くろごりゅう)アルビオンである。

 

アルバスはアルベルとの戦いを中断してでもエジルを救うために動き、そして龍淵(リュウエン)を遠くへ弾き飛ばしながらエジルの前に立ち、周囲を睨みつける。

 

これ以上は踏み込ませないとでも言うように。

 

そして、そんなアルバスを見て、エジルは泣きながら声を上げた。

 

「アルバス……! 母様が、母様が!」

 

アルバスは背後に目を向け、哀しみに震える少女を見据えた。

 

そして、器用にもしっぽでエジルを包み込み、熱を与える。

 

その熱は燃える様な熱であったが、エジルには傷一つ付ける事なく、ただ勇気をエジルに与えた。

 

コスモクロアを失って、このまま泣き続けるのではなく。

 

立ち上がり、戦う勇気をエジルに与える。

 

「……アルバス。エジルは、負けたくない」

 

「……」

 

龍淵(リュウエン)にも、あの白の世界から来た奴にも!!」

 

そして、エジルはアルバスから受け取った燃える様な瞳で、前を見据えた。

 

悲しみは未だエジルの中で暴れている。

 

振るえる手は未だ恐怖を捨てられない。

 

だが、それでも。

 

それでもとエジルは叫んで立ち上がるのだ。

 

「アルバス。私の中には、母様から託された力がある。それをお前に渡すから、あいつ等を全部、やっつけて!」

 

エジルの願いにアルバスは優しく笑うと、前を向いて、咆哮を上げた。

 

アルバスの視界には、一匹のドラゴンと、相剣(そうけん)を持つ危険な男。

 

だが、それがどうした。

 

どうしたのだ! とアルバスは叫んだ。

 

そう。アルバスの胸にはエクレシアが……そして、この世界で出会って来た多くの人たちがいる。

 

そして、エクレシアから向けられる想いが、エジルを通してコスモクロアから託された力がある。

 

アルバスは瞳を燃やし、全身に蒼く輝く氷水(ヒスイ)の力を纏わせながら飛翔した。

 

「……あれは、そうか。我らの希望はまだ」

 

傷つき倒れた承影(ショウエイ)に見つめられ、アルバスは勢いよくアルベルが変貌している烙印竜(らくいんりゅう)アルビオンに突撃すると、その体をイニオン・クレイドルの残骸に叩きつけ、瓦礫の下敷きにする。

 

そして、あまりの速さに驚き目を見開いていた龍淵(リュウエン)に向かっても突撃するのだった。

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