遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第34話【ドラグマトゥルギー】

氷水(ヒスイ)相剣師(そうけんし)たちの諍い(いさかい)を空から見下して、確実に勝てるのだと余裕の表情で相剣師(そうけんし)たちの住まう山々まで来た凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)は、予想もしていなかった事態に焦っていた。

 

アルベルがアルバスと一つになり世界を破壊せんと暴れている事も。

 

エクレシアが単独でデスピアの凶劇(アドリビトゥム)たちを蹴散らす事が出来ているのも。

 

自分とデスピアン・クエリティスが、たかが一匹と吐き捨てた純鈞(ジュンキン)に押されているのも。

 

その全てが想定外であり、あり得ない……起こりえない事態であった。

 

故に。

 

凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)は、もしもの時の為にと用意しておいた切り札を、妖眼の相剣師(エクレシアの姉)を盾に、この戦いを止めようとしていた。

 

しかし、その為には純鈞(ジュンキン)を排除する必要があった。

 

何故なら、この強者が居続ける限り、エクレシアは容易く投降しないだろうと考えられたからだ。

 

だが、それが出来ない。

 

理由は簡単だ。

 

純鈞(ジュンキン)が強者であるという事が全てである。

 

単純に仕留める事が出来ない。

 

「デスピアの凶劇(アドリビトゥム)! 犬を仕留めなさい! 早く!! 何をしているの!?」

 

「この方々は私が倒しました!」

 

「バカな……! デスピアの凶劇(アドリビトゥム)たちは、どれほどの傷を負おうとも立ち上がる狂戦士……まさか、もう目覚めているというの? 赫の烙印(あかのらくいん)に? いや、でもそんな事は」

 

「何を仰っているのか分かりませんが、私はこれまでに出会って来た多くの人達との思い出と共に戦っています。皆さんの想いが、私の背中にはある! だから、どんな人が相手でも負けません!」

 

「っ! その考え方が! その願いが! アルベルを傷つけたのだと! 死してなお理解していないの!? カルテシア!! お前はアルベルだけを見て、アルベルだけを愛すれば良いのよ!!」

 

「私はエクレシアです」

 

凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)は歯嚙みし、怒りのままにエクレシアへと手を伸ばそうとしたが、純鈞(ジュンキン)からの妨害があり、近づくことさえ出来ない。

 

状況は時間と共に悪くなってゆく。

 

こうなれば、一か八かだと捕えていた妖眼の相剣師(エクレシアの姉)をエクレシアに見せつけようとした。

 

この際、敗走で良い、エクレシアさえ手に入ればそれで……と。

 

しかし。

 

「これを! 見なさい!! エクレシア!!」

 

「……?」

 

凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)が振りかざした手と共に開いたホールの先には何も存在していなかった。

 

ただ赤い空間が広がるばかりで、そこには何もない。

 

「っ!? バカな!? 消えた!?」

 

「なんだかよく分かりませんが、もう止まって貰います!」

 

「何故! どうして!! 私は……!」

 

凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)……いや、クエムはエクレシアと純鈞(ジュンキン)の猛攻を受けながら、必死にそれを捌き、生を求める。

 

ここまで全てうまく行っていた。

 

行っているはずだった。

 

しかし、何故か自分たちは追い詰められている。

 

計画は壊れようとしている。

 

全てはあの日、アルバスが天から落ちて来た事で、全てが壊れてしまったのだ。

 

アレが無ければ、エクレシアは何の疑いもなく、何も知らず、アルベルの事だけを想って生きていっただろうに、と。

 

クエムは叫びながら、ドラゴンと化したデスピアン・クエリティスの腕を振り下ろし、二人を倒そうとした。

 

しかし純鈞(ジュンキン)も、エクレシアも、その悪あがきを容易くかわすと、凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)に最後の一撃を与えようとして……何かに吹き飛ばされて、地面を転がる事になった。

 

「っ!?」

 

「何が!?」

 

「お、お前は……」

 

「皆さん。何をその様に驚いているのですか? 別にはじめまして、という訳でも無いでしょう」

 

この場に居た者達はエクレシアたちと凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)の間に現れた者に驚き、目を見開いた。

 

仮面をつけ、デスピアの凶劇(アドリビトゥム)の様な鋭い爪を両手に持ち、バカにする様な喋り方をする男――

 

「生きていたの? ……マクシムス」

 

「えぇ。ですが一点修正すべき事項がありますね。私はもはや教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)ではありません。デスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)。以後お見知りおきを」

 

「ま、教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)……」

 

「……エクレシア。やはり貴女は勉学が少し足りませんね。その様な事ではこの世界を導く聖女としてはまだ未熟。言ったでしょう。私は……」

 

「答えて下さい! 教導の大神祇官(マクシムス・ドラグマ)! 貴方が連れている子は!」

 

「あぁ。この少女が気になっていましたか。ここに来る途中、ちょうど良いので連れてきました」

 

デスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)の手には、その巨大な手で首を掴まれ持ち上げられている氷水(ヒスイ)のエジルが居た。

 

痛めつけられているのか、酷く弱っている様子だ。

 

「エジルさんを離してください!」

 

「えぇ、えぇ構いませんとも。ただし……分かるでしょう?」

 

仮面に隠されてデスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)の視線は分からない。

 

だが、その言葉の意味はエクレシアも純鈞(ジュンキン)にも理解出来た。

 

故に、エクレシアは俯きながら手に持った戦槌を手放そうとする。

 

しかし、それに待ったを掛けたのは、今まさに人質とされているエジルと純鈞(ジュンキン)であった。

 

純鈞(ジュンキン)はエクレシアの正面に立ち首を振る。

 

そしてエジルもまた、新たな氷水(ヒスイ)の主となった者の矜持でエクレシアを守るべく叫ぶ。

 

「エクレ、シア! 駄目だ! 逃げろ! もう、エジルは、エジルのせいで、傷つく人をみたくない」

 

「エジルさん……」

 

純鈞(ジュンキン)……! エクレシアと一緒に、逃げて。アルバスは、エジルが……なんとかするからっ!!」

 

幼い身でありながら、覚悟を決めたエジルの言葉に純鈞(ジュンキン)は力強く頷き、エクレシアを連れて逃げようとした。

 

しかし、既に遅い。

 

全てがあまりにも遅すぎた。

 

何故なら、デスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)がエジルを掴んでいる手とは逆の手を空に翳し、ソレをエクレシアに見せつけたからだ。

 

「お、ねえさま?」

 

赤の世界で囚われているエクレシアの姉、フルルドリスの姿を。

 

「エクレシアの、姉さま? そんな、そこまでするのか、お前たちは」

 

「えぇ。使える物はなんでも使う。当然ですね」

 

「ぐっ、うっ、うぅ……」

 

「エジルさん!!」

 

デスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)はエジルの驚愕を軽く流し、右手に力を込めて、エジルを痛めつける。

 

そんな姿を見せつけられて、エクレシアは戦う事など出来なかった。

 

「……わかりました」

 

エクレシアは一粒の涙と共に戦槌を地面に置いて、震えながらデスピアの者達を見つめた。

 

「物分かりがよくて大変よろしい。ではまずこの子は返しましょう。約束は守る主義ですから」

 

デスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)はエジルを純鈞(ジュンキン)の元へ投げ、純鈞(ジュンキン)は必死にエジルに衝撃を与えない様に背中で受け止める。

 

その様子に安堵するエクレシアだったが、純鈞(ジュンキン)もエジルもどうする事も出来ぬまま進んでゆく戦場に、焦っていた。

 

エクレシアの頭は決して悪くはない。

 

エジルを返したデスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)の行動の意味をよく理解している。

 

「ではエクレシア。戻ってきますね? 我らの国へ」

 

「はい」

 

「その様に暗い顔をしなくても大丈夫ですよ。エクレシアが自分の意思で戻るというのなら、私たちはこの場に居る者達をこれ以上傷つけないと約束しましょう」

 

「……ありがとうございます」

 

穏やかな優しい声で告げられたその言葉に、エクレシアは安堵を示しながらデスピアの者達へ向けて歩く。

 

その歩みに迷いはなく、聖女としての意思で、争いを止める為に進んでゆく。

 

例えその道の先に待っているのが地獄だとしても……。

 

「エクレシア!!!」

 

しかし、歩み続けるエクレシアの足が不意に止まった。

 

それはエクレシアにとって、最も大切な人の声が聞こえたからだ。

 

「行くな! エクレシア!!」

 

ボロボロになり、頭から血を流してもなお、エクレシアに燃える様な瞳を向けている少年の声がエクレシアの心を繋ぎとめたからだ。

 

「……アルバス君」

 

そして、エクレシアはアルバスに振り返った。

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