遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
その日、
闘技場が始まった日から一度たりとも挑戦者に敗北した事のないセリオンズ“ブルズ”アインが敗北したのだ。
その衝撃たるや、容易く言葉では表現できないだろう。
しかし、どれだけ驚いていようとも敗北という事実に変わりはない。
自慢のアインが敗北した事で、セリオンズ・リングに住まう神たちは怒り、次なる手を考えるが……当のセリオンズ達はアインの敗北を然程気にしてはいないのだった。
「フハハハ。まさかアインが敗北するとはな」
「サルガス殿がそれほどの者だったという事だ。レギュラス」
「そうか……! それは楽しみだな。俺を相手にどこまで立っていられるか!」
セリオンズの王であるレギュラスはアインの話を聞いて、楽しそうに笑い、アインもまた笑う。
そんな二人のやり取りに不満を漏らしたのは、ファムであった。
「ちょっとちょっと! 気が早すぎ! 次の相手はこのファム様なんだからね! そのサルガスだっけ? それもここで終わりだよ!」
「ふっ、そう上手くいくかな」
「アインはどっちの味方なのさ!」
ファムはプリプリと怒りながらアインに迫り、アインは子供を相手にする様に軽く笑う。
そんな子供扱いにファムは飛び跳ねながら怒りを表現するのだった。
しかし、そんなどこか和やかな空気も、神より指示が来た事で一変する。
「ふむ。どうやら次の対戦相手が決まった様だな」
「ファム! ファムでしょ!? ファムで決まり!」
レギュラスが神からの指令を受け取って、確認している間、ファムははしゃぎながら自分をアピールしていたが、レギュラスの笑みに何かを察して不満を漏らす。
「ちぇー! 面白くないのー!」
「そうなのか?」
「当然だよ! だって次の相手はどうせユールなんでしょ?」
「……」
ファムの言葉にユールと呼ばれた者は巨大な体を持ち上げて、両手を叩いた。
戦う意思を示しているのだろう。
しかし、まだキングの言葉は終わっていないと、ボレアが口を挟んだ。
「レギュラス。対戦相手は本当にユールなの?」
「あぁ。それは間違いない」
「……それは? それは、とはどういう意味だ」
アインの疑う様な言葉にレギュラスはニヤリと笑みを深めると、セリオンズ・リングの支配者である神から下された指令を伝えた。
「『次の対戦相手は【セリオンズ“デューク”ユール】』」
「……」
「『そして【セリオンズ“リーパー”ファム】だ。挑戦者を排除せよ』との事だ」
「はぁぁああああああ!? 何それ! バカにしてんの!?」
神からの指令にファムは怒りを示し、レギュラス以外の者たちもやや不満を表情に出す。
しかし、レギュラスだけは余裕の表情のままファムに言葉を返すのだった。
「神の指令だぞ」
「そんなの!!」
「無視すれば、死が待っている」
「っ!」
レギュラスの脅しにファムはキュッと小さな体をより小さくして、動きを止めた。
しかし、レギュラスはそんな怯えたファムに優しい言葉を掛けて笑いかける。
「だからな。出場は二人でしろ。出場は、な」
「……? あ!! そういう事か! ユール! 最初はファムがその挑戦者と戦うけど! 良いよね!?」
「……」
ファムの言葉にユールは緩やかに頷き、それを見て、ファムはくふふと笑った。
そしてアインを指さしながら、高らかに宣言する。
「アイン! 君の敗北はファムが勝利に塗り替えてあげるよ!」
「……下らん」
「どこに行くのさ!!」
「言う必要を感じないな」
アインはあっさりとした言葉を残して部屋を出てゆき、残されたファムは怒りのままに暴れるのだった。
そして、翌日再びサルガスは闘技場に姿を現す。アインの縦とランスを手に持ちながら。
「あー!! ズルいズルいズルい!」
「ズルいって言われてもな。俺様は2対1だぜ?」
「む、むむ。でもそれはファム関係ないモン!! それに、お前なんかファム一人で倒しちゃうから! 2対1なんかにはならないよ!」
「そうかい。なら、良いか」
サルガスはファムに言われた事で、アインから戦士の誓いだと預けられたランスと盾を置いた。
しかし、それを見た瞬間、またファムが怒り始める。
「なんでアインの武器を置くのさ!」
「えぇぇえええ!? お前がズルいって言ったからだろ!?」
「その程度ハンデにもならないから、持てば良いでしょ」
「そうかい。何だか面倒な奴だな」
サルガスは小さな声で愚痴を言いながら、ファムに向き合った。
そして一応離れた所にいるユールにも意識を向ける。
「ちょっと! よそ見しないでよ! そんなんじゃ! すぐに負けちゃうよ!?」
ファムがそう叫んだ瞬間、司会が試合の開始を合図し、同時にファムが突っ込んでくる。
アイン程ではないが、十分な速度で距離を詰めると、サルガスの攻撃を誘いながらスッと距離を取り、自立型の攻撃ユニットを背中から展開した。
ファムの体から飛び出してきた自由に動き回る砲塔は上下左右と自由に動き回り、あらゆる場所からサルガスを攻めるのだった。
「ほらほら! 逃げ場なんか無いよ!」
「くっ! しょうがない!」
サルガスはアインから借り受けた盾を正面に構えると、そのまま真っすぐに走る。
その無謀ともいう様な行動にファムは一瞬驚き動きを止めてしまったが、すぐにサルガスを止めるべく正面から攻撃を集中させた。
だが、その全てはアインの盾で弾かれてしまい、ハッと気がづいた時には全てが遅く、ファムの正面にアインのランスがあるのだった。
ファムに当たる直前で止められたランスは、あと一歩サルガスが進むだけでファムの顔を傷つける事が出来るだろうが、サルガスはそれをしない。
「子供の、綺麗な顔に傷つけちゃ悪いからな。降参しな」
サルガスの言葉にファムはへなへなと地面に座り込み、真っ赤になりながらリングから飛び出して行ってしまうのだった。
そして、残されたのはユールとサルガスのみ。
「俺様はキャプテン・サルガス! お前は」
「……ユール」
「そうか。じゃあユール!! 勝負だ!!」
それからサルガスは地面が陥没するほどの勢いで踏み込み、ユールへと迫った。
十分なパワーで踏み出された一歩はアインには及ばないまでもかなりの加速があり、正面からその突進を受け止めたユールは足場を破壊しながらも何とか踏みとどまる。
「うぉっ! これで倒れないのか!」
「……!」
そして、サルガスに向かって巨大な腕を振り下ろし、先日の戦いでサルガスがアインにやった様に地面を砕いてサルガスの動きを制限しようとする。
しかし、サルガスもまた地面を踏み砕きながらユールの攻撃を正面から受け止めており、そのまま硬直状態へと突入した。
「っ!」
「力は互角か……! だが、まだ俺には拳が残ってるぜ!!」
サルガスはユールの攻撃を受け止めていた盾とランスを滑らせる様に地面に落とすと、盾やランスと共に両腕を地面に落としてしまったユールに拳を振りかぶり、放つ――
その、空間を歪ませる様な一撃は確かにユールの体に突き刺さり、アインの様に吹き飛ぶ事は無かったが、その場にダウンしてしまうのだった。
二日目もまた、サルガスの勝利であった。
それから闘技場を出てキット達と共にエクスブロウラーへと向かっていたサルガスは、試合を見ていたであろうアインに出会い、盾とランスを返した。
「良いのか? 試合はまだ続くぞ」
「まぁ、な。借りを借りっぱなしってのもあんまり気分が良くねぇ。今回は2対1だから借りただけだ」
「そうか」
アインはサルガスの物言いに笑みを零すと、そのまま盾とランスを受け取った。
そして、また別れの言葉を向けようとしたのだが、そこに空気を読まない明るい声が響く。
「ならば……」
「てーい!」
「なんだァ!?」
遥か上空から降ってきて、土煙を上げながら立ち上がったのは、先ほどまで戦っていたファムであり、体は洗ってきたのか綺麗になって、光っていた。
「もーサルガスってば帰るの早すぎー」
「は、はぁ?」
「せっかちだなぁ。ま、そういう所も恰好良いけどさっ!」
モジモジと体を小さく揺らしながらサルガスの近くで喋るファムは、ふとサルガスの肩に乗っている少女に気づいた。
「……え?」
「えと?」
キットは自分と目が合っているという事に気づき、声を掛けるが、ファムは硬直したまま動かない。
しかし、少ししてから再起動したのか、再び動き始めた。
「ねぇ。貴女、名前は?」
「え? 私、【スプリガンズ・キット】」
「そう。キットね。それで? 貴女、サルガスとはどういう関係?」
「どうって、仲間だよ。大切な仲間」
「っ! 大切な!! 仲間!!」
キットの返答にファムは突然大声を上げると、キットを指さして更に叫ぶ。
「サルガス! 私とキット! どっちが大切なの!?」
「どっちって言われたらキットだ。決まってるだろ」
「キー!! サルガスのバカぁ! 今に見てなさいよ!」
サルガスの言葉にファムはまた叫び、そのまま去っていってしまうのだった。
「なんだったんだ? アレは」