遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第44話【烙印の命数(らくいんのセントラル・ドラグマ)

アルバスやエジルを救う為、もうこれ以上誰も傷つけない為に、アルベルの手を取ったエクレシアは、あの日からずっと自室に閉じこもって、変わり果てたドラグマの街を見下ろしていた。

 

白く清浄であった街は今や赤い狂気に包まれている。

 

「……アルバス君」

 

ベッドに座り、窓の向こうに広がる景色の更に向こう。

 

エクレシアの居る場所からでは見えない遠くの景色に一人の少年を思い浮かべて、エクレシアは小さくその名を呼んだ。

 

しかし名前を呼んですぐにエクレシアは膝を抱えて顔を隠してしまうのだった。

 

自らの手で傷つけた相手に救いを求めるなど……愚かな行為だと自分を追い詰める。

 

今のエクレシアはまるで迷宮に迷い込んだ子供の様だ。

 

出口を探し歩く事にも疲れ、迷宮の真ん中で泣いている。

 

親が、愛する人が助けに来てくれる事を信じて。

 

 

 

そうして、エクレシアがいつもの様にベッドの上で自分の中に閉じこもって、どれだけの時間が経っただろうか。

 

不意にエクレシアの部屋のドアがノックされ、開かれた。

 

「まだ寝ていたのか? エクレシア」

 

「……お姉様」

 

「まったく、しょうがないな。エクレシアは」

 

部屋の中に入ってきたフルルドリスは、ベッドの横にある椅子に座ると、小さく丸まっているエクレシアの頭を撫でた。

 

そして以前と何も変わらない笑みを浮かべながら、エクレシアに向かって口を開く。

 

「しかし、そんな事ではアルベル様を困らせてしまうぞ。エクレシア」

 

「……お姉様は」

 

「ん? どうした? エクレシア」

 

「いえ」

 

エクレシアは穏やかで落ち着いた笑顔を浮かべるフルルドリスを見て、酷く傷ついた顔をしてからまた顔を隠した。

 

この狂気の世界から自分を守る為に。

 

しかし、その願いは叶わない。

 

それもエクレシアはよく知っていた。

 

「さぁ。起きよう。エクレシア。お前には役割がある。そうだな?」

 

「……はい」

 

エクレシアはフルルドリスの言葉に、フラフラと立ち上がると、着替える為に自らの服に手を掛けた。

 

しかし、これもまたいつもの様に、フルルドリスに止められる。

 

「エクレシア。お前は王妃になるんだ。そういう事は全て人に任せれば良い」

 

変わらない。

 

この言葉もいつもの事だ。

 

「お姉様。私、昔の何も出来ない私では無いんです。フェリジットさんに髪の結い方を教えて貰いました。キットさんに色々な服の選び方を教えて貰いました。だから……!」

 

「エクレシア。お前は王妃になるんだ。そういう事は全て人に任せれば良い」

 

「……お姉様」

 

話をしても無駄だと分かっていても、エクレシアはフルルドリスに言葉を向ける。

 

短い間ではあったが、自分の意思で歩いた世界の事を。

 

しかし、フルルドリスの言葉はいつも変わらない。

 

何度繰り返しても、変わらないのだ。

 

 

 

それからエクレシアは、フルルドリスの言葉で部屋に入ってきた侍女に服を着替えさせて貰い、髪を整えて、化粧をし、部屋の外に出た。

 

「うん。綺麗になったな。エクレシア」

 

「……そうでしょうか?」

 

「あぁ。アルベル様の花嫁に相応しい姿だ」

 

エクレシアはフルルドリスの言葉にどんな反応をすれば良いのか分からず、曖昧に笑ってフルルドリスが差し出す手を取った。

 

そして、フルルドリスと共に教会の奥にある、玉座の間へと向かう。

 

愛する人を傷つけた男の元へ。

 

 

 

やたらと広い部屋の中、一番奥にある玉座に座った少年アルベルは、エクレシアを見て笑みを深める。

 

「やぁ、エクレシア。気分はどうだい?」

 

「……はい。問題ないです」

 

「そうか。まだ駄目か」

 

玉座に座る少年アルベルはエクレシアの反応を見てやや気落ちしていたが、すぐに笑みを作るとエクレシアを手招きした。

 

そして玉座の隣にある椅子へと座る様に言う。

 

「……」

 

「そう。それでいい」

 

エクレシアは大人しくアルベルの言葉に従って椅子に座るが、正直な所エクレシアにとってこの場所はあまり好ましい場所では無かった。

 

何故なら、この場所に座るだけでエクレシアとアルベル以外の世界全てが遠い物になり、泣き出してしまいそうな孤独を感じるからだ。

 

玉座とは、世界と己に大きな境界線を引く場所なのだとエクレシアは認識していた。

 

だから。

 

「……アルベル様は」

 

「ん? どうした? エクレシア」

 

「寂しくはないですか?」

 

「っ!?」

 

それは、アルベルにとってあまりにも衝撃的な言葉だった。

 

目を見開き、エクレシアを見つめる。

 

「カルテシア……!」

 

その、エクレシアが放った何気ない一言にアルベルはエクレシアの知らない少女の名前を呼び、エクレシアに手を伸ばす。

 

しかし、当のエクレシアは何が起きているのか分からず、混乱したままアルベルにとって拒絶となる言葉を吐くのだった。

 

「わ、私は、エクレシアです」

 

「っ!」

 

アルベルの傷ついた顔に、エクレシアはアルバスを重ね、思わず手を伸ばしそうになるが、アルベルへの恐怖が上回りそれも出来ない。

 

一人きりの世界で固まってしまったエクレシアに、アルベルは深いため息を吐きながら腕を振るった。

 

終わりの合図だ。

 

それが。

 

そのアルベルの行動が何に繋がっているのかをよく知っていたエクレシアは、止めようと椅子から立ち上がろうとしたが、既に遅い。

 

もう儀式は始まっていた。

 

「エクレシア!!」

 

玉座の間が開き、アルバスが、エジルが、キットが、サルガスが、シュライグが、フェリジットが、武器を構えながら部屋の中に乱入してきた。

 

争いが始まる。

 

「駄目です!! 皆さん! 駄目!!」

 

エクレシアの叫びも虚しく、戦いを始めたアルバスたちは、玉座の間に居た者たちを傷つけてゆく。

 

武装していない兵士も、ただエクレシアの傍で身の回りの世話をしているだけの侍女も。

 

全てを傷つけ世界を赤く染めてゆく。

 

「やめて……止めて下さい」

 

エクレシアはもう何も見たく無いと目を閉じ耳を塞ぐが、この世界の支配者がそれを許しはしなかった。

 

『目をそらしてはいけない。これは貴女の罪』

 

「いや……いやです」

 

『アルベルを拒絶したから、世界は絶望へ向かってゆく』

 

「わたし、は……!」

 

『彼が王となれば、貴女と共に世界を支配すれば、全て救われるのに』

 

「っ!」

 

『貴女が何も見ようとしないから』

 

エクレシアの意思に反して、エクレシアの手が膝の上に置かれる。

 

そして両目はゆっくりと開かれて、目の前の惨状を映し出した。

 

この場に居た罪なき者達を傷つけたアルバス達が赤く染まった体でエクレシアをジッと見つめていた。

 

『彼らは皆、貴女を恨んでるわ。だから貴女の幸せを壊そうとする』

 

「あ、ぁあ」

 

『貴女の幸せを壊すのが彼らの望み。貴女を利用する為に』

 

「アル、バスくん」

 

『貴女を本当に愛しているのはアルベルだけ。断じて、汚い娼婦の子では無いわ。そうでしょう? エクレシア』

 

「わたしは、アルバス君を」

 

『はぁ……強情な子。しょうがないわ。貴女は『今回も』それを選ぶのね』

 

エクレシアの頭に直接響く声が呆れた様な色を見せた瞬間、アルバスが右手に鋭利な刃物を持ってエクレシアに突撃してきた。

 

そして、エクレシアを守る為にフルルドリスが立ちふさがり、アルバスの刃がフルルドリスの胸を貫く。

 

赤い血が白いドレスを身に纏うエクレシアを赤く染める。

 

「おねえ、さま……」

 

フラフラと立ち上がり、地面に倒れたフルルドリスの亡骸を抱き上げて、エクレシアは叫んだ。

 

何度繰り返されても、何度繰り返しても、変わらない結末にエクレシアの心はまた少し、ひび割れた。

 

 

 

そして、世界は暗転し再びエクレシアはベッドの上で目を覚ました。

 

もう何度目かも分からない繰り返しの中で、また見慣れた部屋の中から、見慣れない街並みを見下ろす。

 

終わりの見えない。

 

出口のない迷路の中で、エクレシアはただ静かに膝を抱えて救いを求めるのだった。

 

身勝手にも、自分が傷つけた少年へ。

 

「……アルバス君」

 

この夢の世界で。

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