遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第45話【復烙印(ふくらくいん)

終わらない夢の世界で、苦しみ嘆くエクレシアを見て、アルベルは小さくため息を吐き、口を開いた。

 

「もう、終わりにしよう」

 

「良いの? アルベル。もう少しでエクレシアも」

 

「これ以上エクレシアを傷つけたくないんだ。今のエクレシアに僕の記憶はない。これ以上は無駄だよ」

 

「そう……?」

 

クエムこと凶導の白聖骸(ドラグマのアルバス・セイント)は愛する息子であるアルベルの言葉に戸惑いながらも、エクレシアの夢に干渉するのを止めた。

 

そして、デスピアン・クエリティスを呼び出す。

 

「じゃあ、エクレシアにカルテシアの魂を集めるけれど、良い?」

 

「あぁ」

 

アルベルは半ば投げやりになりながら、クエムの提案に頷いた。

 

遠い過去の記憶だと。

 

もう過ぎ去ってしまった物は取り戻せないのだと。

 

吐き捨てる様に言葉を乱暴に放つ。

 

 

 

そして、アルベルの言葉を合図として、クエムは665の聖女の魂を集めたデスピアン・クエリティスでエクレシアを包み込み、その中に眠る魂とエクレシアの魂を一つにしてゆく。

 

赤い巨大な円形となったソレに、アルベルは空虚な目を向けながらため息を吐いた。

 

「……これが物語の世界だったら良かったのにね。エクレシア」

 

「そうすれば、僕も君も愛し合う事が出来たと思うよ」

 

「でも、現実はそうじゃないから。僕は抜け殻となった君を抱こう」

 

「もうそこにカルテシアの魂が無くても、君は確かにカルテシアだから……」

 

やや離れた場所から、遠い昔に消えてしまった少女に言葉を贈っていたアルベルは、儀式の終わりに視線を空から正面に戻した。

 

赤い球体はドロドロに溶けて、中から一人の少女を生み出した。

 

見た目はエクレシアとそれほど変わりはない。

 

ただ耳が尖り、体はややエクレシアよりも成長し、大人の女性に近づいた様に見える。

 

そう。かつてアルベルが白の世界で出会ったカルテシアと同じ様に。

 

「……っ」

 

期待などしていないと言いながら、想いながら、考えながら、それでもアルベルは唾を飲み込んで少女をジッと見つめた。

 

そして、アルベルやクエムの視線を受けながら、少女は緩やかに瞼を開き、周囲を見渡す。

 

「……ここは」

 

「あ、あぁ。目が覚めたかい? エクレシア」

 

「エクレシア?」

 

緊張しながらも放ったアルベルの言葉に少女は首を傾げた。

 

純粋で透明な、まだ何も映していない瞳で。

 

「私の名前はカルテシアですよ。もしかして、もう忘れてしまったのですか? アルベル」

 

クスクスと、本当におかしな事でもあるかの様にカルテシアと名乗るエクレシアによく似た少女は朗らかに笑う。

 

そんなカルテシアに、アルベルは目尻に涙を浮かべながら抱き着いた。

 

「カルテシア!!」

 

「あら。どうしたのですか? アルベル。そんな、子供の様に抱き着いて……って、あら。私裸じゃないですか。服はどこかしら」

 

「もう離さない……!」

 

「あの、いえ? それは嬉しいのですけれど。服をですね。私もこのままというのは恥ずかしくて……アルベル? 聞こえていますか? あの! 少し時間を下さい! アルベルさん!」

 

 

 

それから。

 

どれだけ訴えても離してくれないアルベルをカルテシアは突き放し、驚愕に固まったアルベルをお説教してからカルテシアは近くにあった布で体を包んで、とりあえず肌の露出を減らすのだった。

 

「まったく。アルベル様ももう大人になられたのですから、あまり子供の様な姿を見せるのは良くないですよ」

 

「ごめんよ。カルテシア」

 

「まったくもう! まったくもうですよ!」

 

「怒っているのかい? カルテシア」

 

「えぇ。えぇ。怒っておりますとも。この怒りは早々簡単には消えませんよ!」

 

「そうか……」

 

カルテシアの記憶の中では、アルベルの愛が暴走し、カルテシアが恥ずかしい目にあった時は、こうして怒っているアピールをして、アルベルに反省して貰う様にしていたのだが。

 

どうにも様子がおかしい事に首を傾げた。

 

そして、床に座り込んで困ったような笑みを浮かべているアルベルの隣に座る。

 

「どうかされたのですか? お気分が優れないとか」

 

「いや、違うよ。数百年分の想いがぶつかって、どう処理したら良いか分からないんだ」

 

「あら。私にはよく分かりませんが。でも、一つ安心な事があります」

 

「……なんだい?」

 

「それは、私がアルベルのすぐ隣に居るという事です! 貴方が望む限り。私は貴方の隣で支えますよ」

 

「はぁ」

 

「えぇぇええ!? なんでこの流れでため息なんですかっ!」

 

「自分の胸に聞いてみなよ。何が僕の望む限り傍に居る、だ。消えた癖に」

 

「え? え? えぇ? 消えた?」

 

「君は何も覚えていないんだな」

 

「えと、えと……その、ごめんなさい!」

 

「何が悪いのかも分からずに謝られてもなぁ」

 

アルベルの言葉にカルテシアはあわあわと慌て、どうにか機嫌を直そうと様々な言葉や行動をアルベルに向けるのだった。

 

そんなカルテシアにアルベルは笑みを零し、カルテシアもアルベルが笑ってくれたと安心して微笑む。

 

幸福だ。

 

この世界には幸福が満ちている。

 

 

 

ようやく望んだ全てを手に入れたクエムは、音を出さない様にしながら部屋の外へ出て、ホッと息を吐いた。

 

その顔には愛する子供がようやく救われたのだと安堵する母親の顔がある。

 

「どうやら全て上手く行ったようですね。聖女クエム」

 

「そうね。マクシムス。あなたのお陰だわ」

 

「いえいえ。この程度、当然ですよ」

 

「そう」

 

「えぇ」

 

「じゃあ、一応。あなたはまだ、私たちの味方って事で良いのよね?」

 

「無論ですよ。私の望みは変わらない。この世界の平和と安寧ですから」

 

「フン。そう、なら良いけどね」

 

クエムはマクシムスとの会話を早々に終わらせて、衣装室へと急ぐのだった。

 

戻ってきたカルテシアに相応しい服を探そうと、喜びを全身で示しながら。

 

 

 

そして、そんな浮かれたクエムの背中を仮面の奥に隠された目で追いながら、マクシムスことデスピアの大導劇神(ドラマトゥルギア)は、部屋の中から聞こえてくるカルテシアとアルベルの声を聞いて嗤う。

 

「全ては計画通り進行しています。エクレシアは赫の烙印(あかのらくいん)を取り戻し、白の聖女(しろのせいじょ)から赫の聖女(あかのせいじょ)へと転じた」

 

「ふ、しかし【赫の聖女(あかのせいじょ)カルテシア】ですか。実に愚かしいものですね」

 

「過去の幻影にいつまでも囚われている哀れな方々。エクレシアはあなた方が思う程弱くない」

 

「必ずや自分を取り戻すでしょう」

 

「その時、彼女がどの結末を選ぶのか。私はそれが楽しみですよ」

 

「ねぇ? フルルドリス」

 

マクシムスは廊下を歩きながら、独り言を呟き、最後には誰も居ない暗闇に向かって語り掛けた。

 

その言葉に応える者は居なかったが、マクシムスは特に気にした様子も見せないまま教会の奥にある祈りの間へと向かってゆく。

 

 

 

偽りの世界。

 

偽りの王。

 

そして、踏みにじられた人々の平穏。

 

マクシムスはデスピアを見下ろす祈りの間から世界を見て、両手を広げた。

 

これから世界を舞台とした、凶劇の幕が上がると、世界に知らしめる様に。

 

「さぁ、これより全てを終わりにする戦いが始まる」

 

「異界より与えられた力を己の力だと思い込み、世界を踏みにじる愚かな者達に鉄槌を下す戦いが」

 

「だが、私は神より与えられた力など望まない」

 

「異なる世界を一つとする力も!」

 

「願いを束ね、速度の限界を超える力も!」

 

「重なる想いが別次元の可能性を引き出す力も!」

 

「閉ざされた未来を開き、その先へ導く力も!」

 

「私は望まない! ただ一点。ただ一つ。私が望むのはこの世界に存在する力」

 

「この世界で生まれ、この世界が望んだ力」

 

マクシムスは世界に向けて叫んだ。

 

神より与えられた偽りの力を振りかざす者達へ、数百年分の願いを込めて。

 

「願いという名の星を集め、私はここに示そう。この世界の可能性を」

 

そしてマクシムスの声に応え、教会の上部にあった建物の外壁が一部破壊された。

 

内部に溢れる力を解き放つ為に……。

 

 

 

戦いの時は近い――

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