遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
今まで一度も使った事がない防具を身に纏い、状況がどうなったかとフルルドリスが去ったバルコニーから外を見たエクレシアは、その光景に息を呑んだ。
驚きに目を見開くエクレシアの瞳に映ったのは、無惨にも破壊されたドラグマの街並みと、その残骸の上で燃え続ける炎。
そして、今まさにバスタードの一撃を受けて、多くの建物を破壊しながら吹き飛ばされていくフルルドリスの姿だった。
「お姉様!!」
そのあまりにも衝撃的な光景に、エクレシアは従者たちの制止も聞かず、フルルドリスと同じ様にバルコニーを乗り越えて教会の外へと飛び出した。
「エクレシア様!?」
「皆さんは、教会で待機を……ゃ!?」
「エクレシア様!!」
空を飛行する力を持たないエクレシアは当然の様に、地面へ向けて吸い込まれるが、聖痕の力を使い上がった身体能力で教会の壁を削りながら減速し、何とか地面へと降り立つのだった。
それからまだふらついている体で、バスタードが居る場所に向かって走ってゆく。
その足取りは騎士たちに比べると決して早い物では無かったが、それでも騎士ではない従者たちが追いつけるものではない。
故に彼らは急ぎ
従者たちの話を聞いた
その部隊の名は【
ドラグマを守護する為に結成された《教導騎士団》とは違い、裏の仕事を専門として行う部隊である。
主な仕事はドラグマに仇なす邪教徒を殲滅する事なのだが……。
「まずはフルルドリスの安全確保と回収を、もし彼女が継戦可能であれば、そのまま共にバスタードの元へ向かって下さい」
『マクシムス。まずはバスタードの確保ではなくて? エクレシアも向かっているのでしょう?』
「えぇ。分かっておりますよ。ですが、今はエクレシアよりフルルドリスの方が危険ですからね。まずはフルルドリスです」
『……あなた、何をするつもり? マクシムス』
「何を、と言われましても。この国を守るために行動するだけですよ」
『それなら、良いのだけれどね』
「えぇ、何も心配はいりませんとも」
マクシムスは仮面で表情を隠しながら、マクシムスに言葉を向ける
『まさか《烙印》の力を使うつもりじゃないでしょうね?』
「その様な事はしませんよ。あの力は我らが王の為に存在する力。この様な争いで使う事はあり得ません」
『それなら良いのだけれど』
「えぇ」
感情の見えない声でテトラドラグマからの声に頷いたマクシムスは、そのまま祈りの間を出て行こうとした。
『どこへ行くつもり?』
「無論、戦場へ……エクレシアの元へ行きますよ」
僅かに返事を待っていたが、これ以上の言葉は無いのだろうと判断して、
手には戦槌を持ち、聖痕の力を使いながら少しでも早くと駆ける。
「誰か、誰かいませんか!? 教会騎士団の者です! 誰か!」
そしてエクレシアは走りながら無事な人間は居ないかと声を上げるが、エクレシアの声に応える者は居ない。
その意味をエクレシアも理解しているが、歯を食いしばり、溢れる涙を振り払って前へと走った。
これだけの争いが起きて、これだけの破壊がされている以上、この炎に満ちた戦場の中で今するべき事は嘆く事ではなく、バスタードを止める事なのだから。
しかし、エクレシアはバスタードが落ちたと思われる場所までたどり着いてから首を傾げた。
バスタードがどこにも居ないのだ。
遠く離れた教会からでもハッキリと見えたその巨大な姿が何処にもない。
「……何処かへ飛び去ったのでしょうか」
独り言を呟きながらもあり得ないと首を振る。
そう。エクレシアはバスタードがこの地に落ちてから、一瞬たりとも目を逸らさず、真っすぐにこの地を見ながら走って来たのだ。
バスタードが飛び去ったのならば、間違いなくそれに気づくだろう。
故に、エクレシアは自分の言葉を自分で否定しながらも、バスタードの姿を探す。
「……っ」
「だ、誰ですか!?」
エクレシアはバスタードを探す中不意に聞こえてきた声に、思わず手に持っていた戦槌を向けながら怯えた様な声を出す。
そして、緊張に汗を流しながら、その炎の中に倒れ、今まさに起き上がろうとしている少年に目を向けるのだった。
「あ、あなた……!? 巻き込まれたのですか!? 怪我は」
「……ぅ、お、前は」
「私はエクレシア。教導騎士団の者です。怪我をされているのですね。すぐに教会へ運びます」
左目が傷ついた黒衣の少年にエクレシアが手を伸ばした瞬間、その手は少年によって払いのけられた。
「俺に、触るな……!」
しかし、エクレシアは一瞬触れた時に感じた事で目を見開き、真っすぐに黒衣の少年を見据える。
そして、両手を胸の前でキュッと握りしめながら恐る恐る言葉を少年に向けるのだった。
「ぁ、貴方様は……まさか、白の世界の王様、でしょうか?」
「なんだ、それは」
「えと、あの……空にある天界への門から地上へと降りてきて、私たちを救って下さる御方の事です。そ、そして……その、この身を捧げる御方だと、その……」
「知らん」
「えぇぇえ!? では、貴方はいったい」
「俺は……」
少年はエクレシアの問いに答えようとして、苦悶の表情を作ると頭を押さえながらうめき声を上げた。
その余りにも苦しそうな様子にエクレシアは思わず駆け寄って、その体に触れる。
「……ぐっ、おれに、触れるな」
「ですが、これほど苦しそうですのに」
「お前には! 関係ない!」
「そうかもしれません。でも、目の前で苦しんでいる方を見捨てる事は出来ません」
エクレシアはとにかく少年の傷を何とかしようと、いざという時の為に持っていた薬を少年の顔に付いた傷、そして腕や足など見えている傷に塗っていくのだった。
そして、特に酷い傷を負っている腕に持っていた綺麗な布を巻きつけて止血する。
「……」
「すぐに治らないという話ですが、それでも安静にしていれば治るはずです」
少年の手を取りながら笑顔で、柔らかい声でそう告げる少女エクレシアに少年は向けていた敵意をやや落ち着かせながら、小さく頷くのだった。
「……なまえ」
「え?」
「お前の……名前、まだ聞いてなかった」
「そういえば、そうでしたね。私はエクレシアと申します」
「俺は……おれは」
「……?」
「俺の名前は、分からない」
目を伏せながら辛そうな顔で唇を噛みしめる少年に、エクレシアは少し戸惑っていたが、すぐに自分を取り戻して微笑みを浮かべ、少年の手を握った。
「……エクレシア?」
少年は迷子の子供の様な表情でエクレシアを見つめるが、エクレシアの表情は変わらない。
少年を安心させる様な、聖母の様な微笑みを浮かべたままだ。
「では、貴方様が本当の名前を思い出すまで、貴方様に御名前を贈らせていただいても良いですか?」
「俺の名前を?」
「はい。名前が無いと苦労も多いでしょう。とは言っても仮の物ですから、いずれ必要がなくなりましたら捨ててください」
少年に気を遣い、そんな風に言ったエクレシアであるが、少年はエクレシアから視線を外しフッと笑う。
まだ出会って僅かな時間しか過ごしていないが、少年はもうエクレシアから贈られる物を酷く楽しみにしており、それを捨てるなどあり得ないと感じているからだ。
しかし、そんな少年の考えなど知らず、エクレシアは空を見ながらうーんと唸り、考えているのだった。
少年はそんなエクレシアを落ち着いた笑顔で見つめていた。
ただ静かに。