遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
第52話【
もはや忘れてしまったが、
仮面を付けず、妻と一人娘と穏やかに幸せに生きている時があった。
そう。遠い昔の話だ。
実直で、穏やかで、いつも笑顔で居たその男は、妻と娘を溺愛しており、妻が病死した際には一晩中その亡骸を抱きしめて泣いていた程であった。
しかし、妻が遺した娘を不幸にする訳には行かぬと気持ちを奮い立たせて、人類国家ドラグマの神官として、歯を食いしばりながら働いた。
辛さも、悲しみも全て胸の奥に閉じ込めて、愛する娘……エクレシアの幸せを願い、生きていた。
だが、神は。
人類国家ドラグマが信仰する神は、彼を救う事は無かった。
白の世界と呼ばれるホールの向こう側からやってきた
この世界の人間には分からぬ事であったが、エクレシアには《烙印》と呼ばれる強大な力が眠っていたのだ。
その力に目を付けた
例えその身が滅びても、魂は必ず竜王の力を持つ者の前に現れる様にと、未来を穢したのだ。
そして、エクレシアは自らの未来が絶望に覆われていると知ってなお、最期の時には男に微笑みかけて、短い間だったが幸せであったと告げた。
嗚呼。
悲しみと呼ぶには生温い。
怒りと呼ぶには遠すぎる絶望の中で、男は叫んだ。
体が砕かれてしまいそうな感情に身を委ねながら叫び続けていた。
それから男はただ生きていた。
意味もなく、目的もなく、何をするでもなく……生きていた。
死すれば、妻や娘に会えるかもしれないという希望はあったが、それだけだ。
自らの意思ではなく命を落とした二人に、自分の命を捨てる様な行為をしてはいけないという想いもあった。
そんな中、男は命が巡る場所の話を聞き、
数十年ぶりに男は満たされていた。
しかし、自分と話している妻の顔が曇っている事に気づき、どうしたのかと問うと、心がえぐり取られる様な事を聞いた。
男の絶望はまだ終わっていなかった。
それから男は、父の様に慕っていた師を白き竜王に殺された男と親交を重ね、共に一つの計画を立てた。
そう。
白の世界にいる白き竜王を滅ぼす計画である。
男は親友と別れ、ドラグマに戻ると、再び神官として活動を始めた。
今のままでは何も出来ぬと知っていたからだ。
そんな中、男にある転機が訪れた。
白の世界からクエムと呼ばれる白き竜王の妻が追放されてきたのだ。
どうやら白の世界も一枚岩では無いらしいと男は考えながら、発狂した様に叫ぶクエムの話を辛抱強く聞き、彼女の協力を取り付けた。
「カルテシアは白き竜王に殺されてしまった。でも、白き竜王は言っていたわ。カルテシアは再び竜王の力を持つ者の前に現れるって! なら、白き竜王を殺せば、アルベルが王になる。カルテシアとも幸せになれるわ!!」
狂気に満ちた笑顔でそう語るクエムに、男はエクレシアが白の世界で生まれ変わった事を理解し、呪いから解き放つべく行動を開始した。
表向きはクエムに協力しながら、力をためて時を待つ。
白き竜王に対抗する為に、多くの罪無き少女たちを巻き込む事は、男の心を痛めたが、エクレシアさえ救えれば全ての罪を背負うと、心を殺し、進み続けた。
そして、運命は再び交わる――
フルルドリスが、その少女を連れて来た時、男の胸にはどれほどの想いが溢れただろうか。
どれほどの長い時間、彼女の事だけを考え、待ちわびていただろうか。
もはや喜びすら苦しみになってしまう様な中、男はエクレシアに手を差し出して微笑んだ。
無論、この頃には既に仮面をつけていたから、その表情は分からなかっただろうが、それでも、エクレシアは男の手を取って微笑む。
先ほどまではフルルドリス以外の全てに警戒していたというのに、一瞬でエクレシアは男の事を信用し、身を預けたのだ。
これまでの多くの苦悩が救われた様な気がした。
だが、まだ終わっていない。
男の戦いはこれからが始まりであった。
エクレシアに最大限の幸せをと、教会の中で出来る最高の環境を与え、騎士団にはエクレシアを守らせ、蝶よ花よとエクレシアを守り続けた。
そして、アルベルの事に関しては一応クエムとの約束もある為、表面上はエクレシアにそういう教育をしつつ、いつかエクレシアが愛する者と結ばれればそれが一番だと考え、アルバスが現れた際には、外の世界へ行ける様にしたのだ。
全てはエクレシアの為。
生まれ変わったエクレシアが、いつまでも幸せである様にと、それだけを願って男は戦い続けた。
だから……。
「後はエクレシアを縛る鎖を断ち切り、呪いをここで終わらせるだけです」
男は……いや、もはや人としての名も姿も、魂も捨てたデスピアの
この世界に存在する全ての感情と願いを束ねて、この戦場にある多くの祈りをその身に宿し……叫んだ。
「さぁ、全てを終わらせ、始めましょう!! この身を最後の贄と捧げ! 儀式は完遂する!! 目覚めよ!! 【
デスピアの
天に届く様な巨大な姿で、悪魔をかたどった様な凶悪な姿で、一歩、また一歩と戦場に向けた歩いてゆく。
そして、デスピアの
狙う対象は決まっている。
そうだ。何千年も前からずっと、決まっていたのだ。
アルバ・ゾアは雲の向こうにあるホールの中から一体の巨大な白き竜を引きずり下ろすと、地面に叩きつけ、そのまま踏み殺す。
それから、完全に息の根を止めた白き竜王をその巨大な口で喰らい始めたのだった。
呪いを破壊する為に。
まずは呪いを作った体を取り込んで、身の内で破壊するのだ。
そして、アルバ・ゾアは身の内でエクレシアに纏わりつく呪いが完全に破壊された事を知り、歓喜の声を上げた。
その声はもはや呪いを振り撒く悪魔の声にしか聞こえないが、確かにアルバ・ゾアと化した男は喜んでいた。
これで全てが終わったと。
そう。これで男がやるべき事は全て終わった。
アルバスか、アルベルか、そのどちらをエクレシアが選ぶのか、それは分からないが……その先の未来はエクレシアが選ぶ事だ。
だから男はこのまま白き竜王の力と共にホールの向こう側へ向かい、消える事にした。
だが、男の願いは、遠い昔から願ってきた想いは、再び神によって阻まれる。
男の中に取り込んだ、白き竜王の意思が、怒りが、憎しみが暴走を始めたのだ。
歴代の白き竜王が、心を捨て力を求めた時と同じように。
男はアルバ・ゾアの中で心を砕かれ、一匹の獣として目覚めようとしていた。
人ではない獣の声で空に咆哮しながら、アルバ・ゾアは一匹の心なき獣へと堕ちる。
空を覆う、白き姿はアルバ・ゾアが竜と化した姿の様であり、もはや生命と呼ぶには難しい姿であった。
【
男の願いは、力への渇望に押し流されて、今ここに災厄の獣を生み出したのだ。
もはや誰の声も届かない。