遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第53話【導かれし烙印(みちびかれしらくいん)

遥かな昔、一人の男の絶望と引き換えにエクレシアという少女の持つ大いなる力を狙った白き竜王(アルバス)の蛮行により、エクレシアという名の少女の魂は本来の形とは異なる流れで転生を繰り返す事となった。

 

その結果、本来は氷水(ヒスイ)の楽園で穢れと傷を癒す筈の魂は記憶と力の蓄積を繰り返し、人の限界(エクレシア)を超えて神の頂(カルテシア)へと届こうとしていた。

 

しかし、カルテシアの体は未だ成熟には至っておらず、しばし時を待つ状態であり、それを知っていた白き竜王(アルバス)は静かにその時を待っていたのだが、その前に白き竜王(アルバス)からカルテシアを奪い取った者がいた。

 

そう。アルベルである。

 

白き竜王(アルバス)は長い月日を掛けて作り上げた計画が、アルベルによって奪われようとしていると知った時、一つの国を滅ぼしてしまうほどに怒り、一度はアルベルを殺そうとした。

 

だが、それを実行した際に、アルベルに心を宿しているカルテシアが何をするか、彼女の始まりであるエクレシアという少女を見て知っていた為、静かに激しい怒りを飲み込んだ。

 

そして、如何にしてエクレシアに拒絶されずその力を奪うかと考えた。

 

そうして思いついた策が、自らの子として王の下にやってきた少年を利用する事であった。

 

 

 

未熟ながら王の力を持つ少年は、王と小さいながら繋がりがあり、それを使えば少年を操る事が出来たのだ。

 

更に言うのであれば、この当時の少年は自我が希薄であり、その精神を乗っ取るのは酷く容易い事であった。

 

故に、白き竜王(アルバス)は容易く少年の体を乗っ取り、アルベルとクエムをカルテシアから王の権限で引き離してからカルテシアに接触した。

 

疑うという事を知らぬ純白の少女は、偶然を装って出会えば、容易く内側に入り込む事が出来た。

 

そして、少年の記憶を読み、如何に己が孤独であったかを語れば、カルテシアは何の疑いもなく少年に同情し心を寄せた。

 

いや。

 

竜王として世界の者達と戦い続け、必要だからと力を求めても、常に深淵の獣(ビーステッド)という恐怖が傍にあった白き竜王(アルバス)にとって、孤独という境遇は真実だったのかもしれない。

 

白き竜王(アルバス)の偽らざる真実が、言葉の中にあった。

 

故に、少年と白き竜王(アルバス)の孤独に寄り添おうとするカルテシアの想いは、確かに白き竜王(アルバス)に届いていた。

 

もしかしたら、己が欲していたのは力などではなく、無限に終わらない孤独の世界で共に生きてくれる者だったのかもしれない。

 

と考えてしまうほどに。

 

 

 

しかし、その願いがもはや叶わない事を白き竜王(アルバス)は理解していた。

 

何故なら自分という存在は神の器(カルテシア)の中に眠る人間の魂(エクレシア)にとって、敵であるからだ。

 

彼女を愛する両親から引き離した力に呪われた竜。

 

そして、カルテシア自身も今はアルベルと想い合っている。

 

白き竜王(アルバス)ではどう足掻いても、手の届かない存在だ。

 

そう。

 

今までの白き竜王(アルバス)であれば、その様な遠慮の様な事はしなかっただろう。

 

他人の気持ちを思いやるなど、しなかった。

 

だが、カルテシアの心に惹かれてしまった、その温かさを理解してしまった白き竜王(アルバス)は、彼女を無理矢理自分の物にするという行為の虚しさも理解してしまったのだ。

 

故に、カルテシアに理由も言わず別れを告げ、胸の奥に生まれた小さな想いと共に全てを終わりにしようと思った。

 

王として、せめてカルテシアの未来を守ろうと、全ての気持ちを捨てようとしたのだ。

 

しかし、それでも王は、僅か、ほんの少し、運命という物の姿を見たくなり、カルテシアの隣に居る者を何も分からぬ運命に委ねる事にした。

 

 

 

彼女と己の間にある呪いを外し、アルベルに死の運命を差し向ける。

 

 

 

それは、酷く身勝手な思考であった。

 

しかし、今まで傲慢に、己が世界の中心であるかの様に振舞っていた白き竜王(アルバス)にとっては彼の思う通り、譲歩した考えなのかもしれない。

 

先んじてカルテシアに近づいたアルベルの有利を平らにする。

 

そんな気軽な思考で死の運命を向けられたアルベルは、白き竜王(アルバス)の胸の内に眠る歪んだ願いに従って、行方不明となった。

 

それは、白き竜王(アルバス)にとって最も望むべき展開であった。

 

完全なる死を迎えてしまえば、カルテシアが後を追ってしまうかもしれない。

 

しかし、行方不明である。

 

これならば、カルテシアの気持ちは中途半端に放置された事になり、そこにつけ入る隙が生まれる。

 

白き竜王(アルバス)はこれこそ運命だとほくそ笑んで、また少年の心に入り込もうとした。

 

 

 

だが、白き竜王(アルバス)の企みは思わぬ所でその足を止める事になる。

 

そう。カルテシアの言葉に、その想いに癒され、救われていたのは白き竜王(アルバス)だけでは無かったのだ。

 

名すら与えられる事もなく捨てられた少年もまた、彼女の心に光を見ていた。

 

故に、白き竜王(アルバス)は少年を操る事が出来なくなっており、少年は自らの意思でカルテシアに近づき始めた。

 

王の言葉を借りるのであれば、これこそまさに真の運命であったのだろう。

 

少年は、急速的にカルテシアとの距離を縮めていった。

 

その事に白き竜王(アルバス)は焦り、何か手を打とうとするが、結局少年の心は強く白き竜王(アルバス)を拒絶し、自身もカルテシアには近づけないまま時ばかりが過ぎていった。

 

 

 

そして、焦り続ける白き竜王(アルバス)の願いを聞き届けたのか、必死な思いで帰還したアルベルが、カルテシアに近づく少年を見て怒り、その命を奪おうとした。

 

しかし、白き竜王(アルバス)にはアルベルの愚行が導く未来が見えていた。

 

そう。カルテシアが目の前で愛する者同士が争う事を望む筈がない。

 

その原因が己であると理解しているのであれば……。

 

 

 

全てが終わり、それぞれの未来は閉ざされた。

 

アルベルは命を落としたカルテシアを抱きしめながら、白き竜王(アルバス)と少年に強い憎しみを向け。

 

白き竜王(アルバス)は全ての罪を少年に擦り付けて、次なる復活を待ち。

 

少年は罪を償う為に、カルテシアに関する記憶を奪われて時間の止まった地下深い牢獄に囚われる事になった。

 

 

 

そして、それから長い時が流れ、少年が遥か遠くの地で酷く懐かしい少女の気配を感じ、牢を破壊して脱出した事で再び世界は動き始める。

 

アルバスとアルベルと白き竜王(アルバス)

 

三者三様の想いを胸に、ここには居ない少女を奪い合って争い続ける。

 

それは遥かな昔、白の世界で行われた事の焼き直しであり、かの少女がその結果どんな運命を辿ったのかを忘れ、彼らは争い続け、そしてまた同じ運命を歩む。

 

そう。

 

カルテシアとしての記憶と、エクレシアとしての記憶を全て取り戻した少女が、愛した者達を守る為に、戦場へ向かったのだ。

 

 

 

「アルバス! リンドブルムなら! あの深淵の獣(ビーステッド)の再生力を上回れる!」

 

「分かった! キット!!」

 

『一度ならず二度までも!! 僕の邪魔をする! いい加減消えろ!! 名無しィィイイ!!』

 

リンドブルムに乗ったアルバスとアルベルの争いは激しさを増し、互いにその戦いが終わる時を探す。

 

そして、アルベルが巨大化してしまった故に生まれた大きな隙、攻撃を放って次の攻撃に移るまでの一瞬の硬直を狙って、アルバスはリンドブルムの雷を放った。

 

蒼く輝く雷光が、真っすぐにアルベルへと向かってゆく。

 

「これで終わりだ!! アルベル!!」

 

 

 

しかし、運命と言うのは残酷な物だ。

 

白き竜王(アルバス)が見ようとした運命に導かれたのか、一人の少女が戦場で大きくその腕を広げながら蒼く輝く雷光の前に立つ。

 

真っすぐにアルバスへ向けられた瞳には……。

 

アルベルを庇う様に広げられたステンドグラスの翼には……。

 

確かにこの争いを止めたいと願う少女の願いがあった。

 

「エクレシア!?」

 

『カルテシア!?』

 

ほぼ同時に放たれた少年たちの叫びは届かず、少女は蒼く輝く雷光に撃ち抜かれて、力なく地上へ落ちてゆく。

 

かつて白の世界で行われた悲劇とは逆の光景であるが、その舞台が結末は同じ物に思えた。

 

少女は地に落ちて、二人の少年の嘆きが世界を歪ませる。

 

どれだけ繰り返そうと、悲しみは変わらないのか。

 

 

 

否。

 

否である。

 

 

 

例え記憶を消されても、忘れられない想いが残った。

 

例え、生まれた時、何も持っていなくても、その手を包む温もりに勇気の火が生まれた。

 

そして今、地平に走る陽光と共に、光の世界へ手を伸ばす少年が一人。

 

空を飛ぶ機械から、青く輝く大空へと飛び出した。

 

 

 

「エクレシア!!!」

 

 

 

世界に夜明けが迫っていた――

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