遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
カルテシアの身を包んでいた《烙印》の力が、スプライトの雷光によって力を失い世界を照らす陽光の中に溶けて消えてゆく。
砕けたステンドグラスの羽が、多くの聖女の祈りがカルテシアを守る為に使った力の欠片が水泡となり、カルテシアから剥がれ落ちて、明けの空にもう一つの光源を造り出してゆく。
それは、その輝きは、世界の始まりを知らせる祝福の様であり、世界の終わりを告げる絶望の様であった。
しかし、彼にとってはそのどちらでもない。
そう。この世界に落ちて、初めてアルバスという名を、存在を与えられた少年にとって世界などどうでも良い存在なのだから。
ただ一人、輝きの中心にいる少女だけが、アルバスにとって大切な物なのだから!
「エクレシア!!」
世界を照らす赤の光の中で、アルバスは少女の名を叫び手を伸ばした。
蒼き雷光の影響で意識を失っている少女にはアルバスの声は届かないのか、ただ地に向かって落ちてゆくだけだ。
しかし、それでも、それでも!! 少年は叫び続けた。
少女はいつだって、少年にそうやって手を伸ばしてくれたから。
その手がアルバスを救い続けてきたのだから!
「エクレシア!」
そして、その声が届いたのか少女の落ちてゆく速度が僅かに遅くなり、閉じられた瞼が震え、開かれてゆく。
「……アルバス、くん?」
僅かな間だ。
ほんのひと時別れていただけだというのに、互いの姿に、声に、カルテシアとアルバスは落ちながら涙を流した。
「手を伸ばせ! エクレシア!」
その声にカルテシアは落ちながらアルバスに向けて両手を伸ばし、カルテシアの体を少しでもアルバスに近づけようと、終わりの聖女であるカルテシアを慈しんできた多くの聖女が、カルテシアの体を支える。
それはまさに奇跡の体現であった。
『エクレシア!』
『ほら! 頑張って! もう少しで届くよ!』
「っ! みなさん!」
『君を縛る呪いの鎖は砕かれた』
『もう、幸せになって良いんだ。エクレシア』
『さぁ。お行きなさい。貴女を望む、貴女が望む人の所へ』
エクレシアは多くの姉たちの願いを受けて、赤き呪いからその身を解き放った。
未練がましく、エクレシアに纏わりつこうとする、力を聖女たちが振りほどいて、彼女を蒼き空に解き放った。
「アルバス君!!」
「エクレシア!!」
かくしてカルテシアはエクレシアへと戻り、アルバスの腕の中に帰還する。
数多の欲望を断ち切って、ただ一人、心に願った愛する人の下へ。
「エクレシア! ずっと、ずっと会いたかった。君をこうして抱きしめたかった!」
「アルバス君。私も……ずっと、貴方と、お話がしたかったです。こうして……」
燃える大気の中で、アルバスとエクレシアは抱き合いながら落ちてゆく。
しかし、そんな二人をただ静観出来ない者達も存在していた。
エクレシアのすぐ傍で未だ諦めず蠢いていた
しかし、エクレシアはアルバスに抱きしめられたまま冷静にグランギニョルへと手を伸ばすと、微笑んだ。
「もうあなたも、苦しまないで下さい。世界には憎しみ以外もあります」
その言葉は、体を憎しみで構成し、恨みで形を保ち、呪いで進んでいたグランギニョルを止める程の力はなかった。
しかし、それでもグランギニョルは、グランギニョルの中に眠る多くの聖女の魂は、おそらくその言葉をずっと待っていたのだ。
エクレシアの中で、真っすぐに光へ向けて歩く姿を見ながら、同じ様にありたいと願っていた。
故に血と呪いの力が導く《烙印》から、世界を照らす明けの光の様な《烙印》になりたいとエクレシアの中に再び宿る。
彼女ならば、もうこの力を間違えた方には使わないと信じて。
いつか、救済の力に変わる事も出来るのだと、エクレシアに身を委ねた。
「ありがとうございます。皆さん。アルバス君! 飛びますよ!」
「えっ? あ、あぁ!!」
アルバスはやや驚きながらエクレシアの声に頷き、エクレシアが生み出したステンドグラスの翼で上空に舞い上がった。
『カルテシア!!』
そして、遥かな大空を飛び回るエクレシアに手を伸ばしながら叫ぶ巨体が一つ。
「アルベル……!」
『どうして! どうして、君は、ソイツを選ぶんだ!! 出会ったのも、君が手を取ったのも僕が最初だったじゃないか!! 僕が君の全てだった』
「そうですね」
『なら!!』
「それでも、私はこの世界で彼の手を取りました。どんな時も共に歩んでゆきたいと。この気持ちを、アルバス君の想いを裏切る事は出来ません」
『カルテシア!!!』
「それに……」
エクレシアは酷く悲し気な顔で
「私はもう、カルテシアでは無いのですよ。アルベル」
『違う!! 君はカルテシアだ!! カルテシアなんだ!!』
愛していた人が、己の行いで永遠に失われてしまった嘆きか、絶望か、アルベルは現実を、この世界を認められぬと叫びエクレシアを抱きしめているアルバスに憎しみの目を向けた。
そう。全てはアルバスが居なければ、こんな事には、ならなかったのだ。
白の世界でも。
この世界でも!!
故に、アルベルは自分の前に存在する障害を排除しようと咆哮と共に、全てを焼き尽くす一撃を放とうとした。
しかし、その為の力が自分の中から失われてゆく。
根源とでもいう様な何かが、奪われてゆく。
『これは……!?』
「その力は破壊の為の力じゃない。返してもらうぞ」
『また、また僕から奪うのか!! お前が、全てを持っていたお前が!!』
「奪うんじゃない。全てを元に戻すんだ。あるべき場所へ」
アルバスから奪い取った王の力……
そして、その姿を目で追いながら、アルバスは自分の中に戻った力に瞳を閉じる。
「アルバス君……」
「エクレシア?」
「一緒に、世界を」
「……あぁ、やろう」
アルバスは強く、エクレシアを抱きしめて、空に舞い上がる。
二人の行く末を見守る為にリンドブルムに乗っていたキットよりも、エクレシアを狙い近づいて来ていた
大気を切り裂いて、遥かな高みへと舞い上がり、二人は一つになった。
そして、二人が出会ってきた多くの命が願う明日へ進む為に、今ここにある絶望を希望の光で照らす。
長く、暗い夜を終わらせる為にその地平の果てまで、夜明けの光と共に光を届けるのだ。
より善き世界を願い生まれた《烙印》の力を、本来の願いの通りにアルバスとエクレシアは具現化してゆく。
それは言うなれば始まりの力だ。
【
真なる炎を宿し、正しき願いと、人を慈しむ気持ちが融合して、この世界に一つの力を産み落とす。
【
太古の昔に世界に光を生んだとされる伝説のドラゴンと同じ名を冠するその竜は、陽光を背負いながら世界にその力を示した。
それは、破壊の力ではない。
それは、呪いの力ではない。
そう。その力は、世界を救済する為の力だ。
アルビオンの放つ光は、デスピアの軍勢へと変貌させられた人々を、元の人に戻し。
この戦争で傷ついた者達の怪我を癒し。
命を落とした者達の魂を癒して
そして悪なる願いを秘めた者達の心から邪心を取り除き、浄化させてゆく。
太陽の熱に焼かれる様に。
しかし、その熱を受けても未だ戦いを諦めていない者達はいる。
むしろアルビオンが彼らすら癒してしまった為、終わらぬ戦いに身を投じてしまう者達が生まれてしまった。
故に、これから始まるのは全てを終わらせるための戦いだ。
長い間、執念と共に戦っていた者達を鎮める為の戦いが始まる。