遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
少年はずっと戦ってきた。
多くの理不尽に、少年を傷つける運命に。
少年はずっと孤独だった。
母に捨てられ、父は己を利用するだけの存在だった。
そして、少年は一人の少女に出会った。
「カルテシア」
「エクレシア」
同じ魂を持ち、同じ顔で笑い、同じ声で少年の名を呼ぶ少女に、少年は恋をした。
愛を知った。
守りたいと思った。
共に在りたいと願った。
しかし、その願いは叶わなかった。
それは少年が力なく弱い存在であったから起こった悲劇だ。
力さえあればと、どれほど願っただろう。
どれほど祈っただろう。
そして、彼らは……力を手に入れた。
「認めよう。アルバス。君こそ真の王だ。僕も、白き竜王も見つけられなかった真なる王の輝きを手に入れたのだから」
「……」
「だから……その力と共に白き世界へ帰れ。エクレシアを置いて」
「断る!」
「何が不満だというんだ! 世界の全てが手に入るんだぞ!」
「そこにエクレシアが居ないのなら、何の意味も無い!」
「っ!」
アルバスの叫びは、アルベルにとって酷く納得できるもので。
それはアルベルがかつてそう在って欲しいと願った未来の形だった。
「お前だって同じじゃないか!」
「なに?」
「お前だって王の力を目覚めさせたんだろう!?」
アルバスの叫びに、アルベルは右手にアルバスと同じ様な短剣を作り出した。
《烙印》の力を使って生み出した剣にはドラゴンの力が込められている。
「なら、お前が王になれば良いじゃないか」
「フン。それに僕が頷くと思うのか?」
「思わない」
「なら無意味な話という訳だ」
アルベルはアルバスの話を一蹴し、剣を構えた。
その目に鋭い殺意が宿る。
「俺を殺しても、エクレシアがお前に付いていくとは限らないぞ」
「何も分かっていないな。アルバス。僕と君を分けたのは紙一重だ。ほんの少し、後少し何かが違えば変わっていただけの立場に過ぎない」
「……」
「それはお前も分かっているんだろう?」
「あぁ」
アルバスは静かに頷きながら、エクレシアを一瞬見た。
そして、震える手を握りしめているエクレシアから視線を外し、再びアルベルに向ける。
「一つだけ、約束して欲しい」
「保証は出来ないぞ」
「大丈夫だ。お前は必ず頷く」
「……聞こうか」
「もし、お前が勝ったら、エクレシアを大切にしてやってくれ。もう二度と傷つかない様に」
「当然だ」
「なら、良い」
アルバスはアルベルの言葉に納得して、自らの剣を生み出して構える。
そして、覚悟を決めたアルバスにアルベルは笑いながら同じく言葉を投げた。
「では僕からも一つ」
「なんだ」
「もしお前が勝った場合は、エクレシアと共にどこまでも広がる世界を巡ってくれ。それがエクレシアの望みだ」
「分かってるさ」
「なら良い」
アルベルはアルバスの言葉に満足して、穏やかな空気を散らすと、アルバスを強く睨みつけた。
そしてアルバスも同じ様に臨戦態勢に入る。
「じゃあ」
「行くぞ!!」
アルバスとアルベルは人の姿を保ったまま相手の懐に飛び込み、斬り合い、その命を一撃で奪うべく刃を向ける。
ただ一人だけが未来を手に入れるのだと、命を掛けて挑み続けるのだった。
目の前に立ちはだかる障害に。
似ているようで違う。
まるで違う様で、どこか同じ物を見ている。
そんな二人は、出会い方さえ違えば友になれたかもしれなかった。
兄弟の様に在れたかもしれない。
しかし、どの道変わらないだろう。
どの様に出会い、どの様に絆を深めても、同じ世界を見ている二人は結局エクレシアを求めて戦うだけなのだ。
だから、どんな命に生まれてもやはりここに来て、奪い合う。
そして、二人の戦いはいくつかの攻防を経て、アルベルの短剣が弾き飛ばされた事で決着した。
荒い呼吸を繰り返しながら、アルベルを見つめるアルバスと。
弾き飛ばされた手を見つめて、小さくため息を吐くアルベル。
二人はやはりどこまでも別々の道を歩んでいた。
「……殺せ」
「アルベル」
「もはやエクレシアの居ない世界に未練はない。生きる意味も、何も……っ!?」
アルベルは静かな表情でアルバスに語っていたが、そこに一人の少女が突っ込んできて、勢いよくアルベルの頬を叩く。
そして、そのまま振り返ってアルバスの頬も勢いよく叩いた。
「……ですか!」
「エクレシア……?」
「泣いているのか?」
「なんなんですか! さっきから! 二人で勝手に話を進めて! そんなに二人の世界が良いなら、二人でお付き合いすれば良いじゃないですか!」
ボロボロと涙を流しながら、エクレシアは二人の少年に訴えた。
「私は、アルバス君が好きです。独りぼっちで寂しくて、悲しくて、どうしようもなかった気持ちを救ってくれた人だから!」
「……エクレシア」
「でも! 私の中にはカルテシアだった時の記憶もあるんです! アルバス君を選んだ以上! 貴方の手を取る事は出来ない! けれど、貴方の事を嫌いになった訳じゃないんですよ! アルベル!」
「カルテシア……いや、エクレシアか」
エクレシアの叫びにアルバスもアルベルも目を伏せながら、落ち込んでいく気持ちを何とか繋ぎとめた。
「どうしてそんな風に、自分の命を簡単に捨てちゃうんですか! どうして!」
「それは」
「私が原因だというのなら、こんな命! 私は要りません!!」
エクレシアは
しかし、その手は、その刃にはアルバスとアルベルの手が強く握られていて、エクレシアは少しだって動かす事は出来なかった。
「頼む。エクレシア。それだけは止めてくれ」
「僕らが悪かったから」
アルバスとアルベルの強い瞳で見つめられてエクレシアは大人しく短剣を消し、ジッと二人を見つめた。
そして、二人の手を握ると、再び口を開いた。
「じゃあ約束して下さい。もう二度とこんな事しないって」
「……あぁ」
「分かったよ」
大人しく頷く二人にエクレシアはひとまず安心と息を吐きながら、己の内から聞こえてくる姉の様な聖女達の声に耳を傾ける。
そして、二人にとって衝撃的な言葉を投げた。
「それと、アルベル」
「何かな。エクレシア」
「私は人として生まれました。お二人ほど長くは生きられないでしょう」
「あぁ、そうだろうね。無論君が永遠を望むのならば方法はあるだろうが」
「いえ。私はお父様の願った通り、人として幸せに生きて死を迎えたいと思います」
「……そうか」
「ですが、私の命は既に世界から外れ、王の力を持つ方に惹かれてゆく」
「ん?」
エクレシアは頬を赤くしながら二人から目を逸らし、ポツリと呟く様に言った。
「ですから、次に生まれ変わった時は、カルテシアの時の想いを……繋ぐかもしれません」
「それは!」
アルベルはエクレシアの言葉に目を見開いて、涙を一粒零した。
しかし、そんなエクレシアの言葉にアルバスは別の意味で目を見開く。
「勿論、アルベルが良いのなら、ですけど」
「当然じゃないか。僕は何年だって待ってるよ」
「……アルベル」
「は!?」
アルバスは二人のやり取りに、大きな危機感を覚え、エクレシアに向かって手を伸ばした。
そして両腕を掴みながら、震える体で問う。
「エクレシア!? 今のは」
「あ、いえ。えと……私は貴方を愛していますよ。アルバス」
「何故だろう。今その言葉を聞くと不安しか感じない」
「なんだ。エクレシアを信じられないのか? ならもう消えて良いぞアルバス」
「黙れ! エクレシアは俺と共に生きるんだ。これから先、何度生まれ変わっても!」
「はいはい。分かった分かった。なら、そう信じていれば良いさ」
「こいつ……!」
それから再びアルバスとアルベルは醜い争いを始めたが、二人が生きるという選択をしたことに、エクレシアは嬉しさで涙を流しながら微笑むのだった。