遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第59話【億年の氷墓(おくねんのひょうぼ)

戦いは終わった。

 

長く激しく、多くの命を奪った戦いが……。

 

 

 

後の時代まで語り継がれる事になるであろう戦いで大きく成長し、ただしく氷水(ヒスイ)の主として成った【氷水帝(ヒスイテイ)エジル・ラーン】は静かな水底で、傷ついた魂たちを癒す様に静かな歌を奏でる。

 

水に溶けて眠る魂たちは、エジルの歌に魂の澱みを少しずつ浄化しながら、次の転生を待つのだった。

 

そして、次の転生を待つ魂の中には、この地で失われた者達も含まれていた。

 

 

 

『結局、巡り巡って世界を覆う闇は消え去ったか』

 

『その様だな』

 

 

 

相剣師(そうけんし)であり、己が魂の形を知っている承影(ショウエイ)は、魂だけになった状態で世界をジッと見据えていた。

 

隣には龍淵(リュウエン)が同じく魂だけの状態で立っており、承影(ショウエイ)と並びながら世界を見据えている。

 

裏切った者。

 

裏切られた者。

 

立場は違えど、目指す先は同じであった事に、承影(ショウエイ)は複雑な気持ちを抱えていた。

 

しかし、承影(ショウエイ)は、龍淵(リュウエン)の弟子であり、娘の様な存在であった莫邪(バクヤ)の願いを聞き、龍淵(リュウエン)を無へと向かわせず、再び氷水(ヒスイ)の地へと呼んだのだ。

 

 

 

『それで? お前はこれからどうするつもりだ。龍淵(リュウエン)

 

『さて。どうなるかな』

 

『……』

 

『世界は自らの足で歩み始めた。これから少しずつ未来を望む者達の手で変わってゆくだろう。そこで私が出来ることなど、何も無い』

 

『そうだな』

 

『だから、私たちに出来る事は、若者たちに先を与える事くらいだろう』

 

 

 

龍淵(リュウエン)は僅かに喜びの感情を混じらせた様な声で、承影(ショウエイ)に語り、承影(ショウエイ)もまたそんな龍淵(リュウエン)の言葉に喜びを落とす。

 

そしてそんな二人の会話をやや離れた場所で聞いていた赤霄(セキショウ)は軽い笑みを混じらせた声で、状況を二人に伝えた。

 

 

 

『話は済んだみたいだな。こっちの準備も終わったぞ』

 

『そうか。助かるよ赤霄(セキショウ)

 

『大した事じゃねぇさ。まぁ、あの混乱している状況の中で殺した様に見せて、仮死状態のまま意識を失う様にしてたどっかの誰かさんよりは楽な仕事だ』

 

 

 

赤霄(セキショウ)の言葉に龍淵(リュウエン)は己の事だと理解しつつも、何も言わずエジルに語り掛ける。

 

 

 

氷水帝(ヒスイテイ)エジル・ラーン』

 

「なに? 龍淵(リュウエン)

 

『こちらの話は終わった。彼女たちに再び生命の息吹を』

 

「分かったよ」

 

 

 

龍淵(リュウエン)の言葉にエジルは生まれたばかりの氷水(ヒスイ)の子達に指示を与えて、あの日から仮死状態となり、眠り続けていた二人の体を連れて来た。

 

一人は相剣師(そうけんし)泰阿(タイア)

 

そしてもう一人は相剣師(そうけんし)莫邪(バクヤ)である。

 

莫邪(バクヤ)は一時的とはいえ、氷水(ヒスイ)の存在と魂で同化していた為、元の状態へ戻す為には時間がかかったが、今はしっかり元の莫邪(バクヤ)に戻っている。

 

それを確認してエジルは二人の魂を肉体に戻すのだった。

 

 

 

「……? れ?」

 

「ここは……?」

 

「目を覚ましたみたいだね。若き相剣師(そうけんし)達」

 

「っ! 貴女は」

 

「私はエジルだよ。莫邪(バクヤ)。少し成長したから分からないかな」

 

「いえ。そのお心には確かに覚えがあります」

 

「そう。良かったよ」

 

 

 

微笑みながら話をするエジルと莫邪(バクヤ)の会話をただ聞いていた泰阿(タイア)は何も分からないまま周囲を見渡した。

 

天から降り注ぐ光が、水の世界を照らし、静かな時の流れる水底を。

 

 

 

「ここは、氷水(ヒスイ)の? 俺は、何が」

 

泰阿(タイア)

 

「っ! そのお声は、赤霄(セキショウ)様!? しかし、お姿が」

 

『残念だが、俺はもう死んでいる』

 

「そんな! いったい何が!?」

 

『覚えてないのか?』

 

「恥ずかしながら、いつもの見回りをして、赤霄(セキショウ)様に報告をして……? 気が付いたらここに居た様な」

 

『そうか。ならそのままの方が良いかもしれないな』

 

「はぁ……?」

 

 

 

赤霄(セキショウ)の言葉に泰阿(タイア)は疑問を頭に浮かべつつ、赤霄(セキショウ)譲りの楽天家な性格でひとまず疑問を流した。

 

そして、魂となってしまった赤霄(セキショウ)に再び問う。

 

 

 

「ところで赤霄(セキショウ)様。イニオン・クレイドルも崩壊しておりますし、コスモクロアの姿も見えません。もしや襲撃か何かがあったのでしょうか」

 

『まぁ、そうだな。どこかのアホが一人で思い詰めてやらかした事はあった。だが、まぁそれはもう解決したよ』

 

「そうでしたか」

 

『だが、一つ問題があってな?』

 

「……はい」

 

『その戦いで俺たちは死んでしまった。残された相剣師(そうけんし)はお前と莫邪(バクヤ)だけなんだ』

 

「なっ!!? では承影(ショウエイ)様と龍淵(リュウエン)様も!」

 

『あぁ。ここに魂として存在はしているが、体は既に滅んでいる』

 

「……!」

 

『だから、これから先の事はお前たちに託したいんだ。泰阿(タイア)。引き受けてくれるか?』

 

 

 

赤霄(セキショウ)の言葉に、泰阿(タイア)は深い悲しみをグッと堪えながらも、頷き相剣師(そうけんし)の未来を確かに受け取った。

 

 

 

そして赤霄(セキショウ)泰阿(タイア)が話をしている頃、莫邪(バクヤ)もまた龍淵(リュウエン)と言葉を交わしていた。

 

龍淵(リュウエン)様……私」

 

『気にするな。お前のお陰で私は今もここに在る事が出来る』

 

「……」

 

『どれほどの言葉を尽くせば良いのか、分からないがな』

 

「言葉なんて、そんなに必要ないんじゃない?」

 

『エジル・ラーン』

 

「必要なのは想いを伝える事でしょ?」

 

 

 

エジルの言葉に龍淵(リュウエン)はやや困った様な反応を示したが、莫邪(バクヤ)が勇気を振り絞り、龍淵(リュウエン)を呼ぶ。

 

 

 

龍淵(リュウエン)様!」

 

『なんだ』

 

「その、頭を撫でて貰っても、良いですか?」

 

『それは、構わないが』

 

 

 

莫邪(バクヤ)の言葉に龍淵(リュウエン)はやや戸惑いつつも魂を操って元の自分を作り出す。

 

そして、慎重に莫邪(バクヤ)の頭を撫でるのだった。

 

 

 

「……っ、無礼を、お許しください」

 

『む?』

 

「その、一度だけでも良いので、父上……とお呼びしたいと」

 

『あぁ、その程度の事か。好きにしろ。一度と言わず何度でも呼ぶと良い』

 

「っ! 父上!」

 

『不甲斐ない父であったが、お前の歩みが止まるまで、私はここでお前を見守っていよう。莫邪(バクヤ)。我が娘よ』

 

「……! ありがとうございますっ!」

 

『そして、この剣は再び、お前の手に戻そう。お前自身の相剣(そうけん)を見つけるまで使うと良い』

 

「はい!」

 

 

 

龍淵(リュウエン)が奪い取った相剣(そうけん)を再び莫邪(バクヤ)に宿らせ、龍淵(リュウエン)は少女の未来を見据えて静かに笑みを浮かべるのだった。

 

龍淵(リュウエン)莫邪(バクヤ)という不器用な親子を見つめて承影(ショウエイ)は数百年ぶりに穏やかな顔で笑う。

 

 

 

『……承影(ショウエイ)

 

『君か』

 

『えぇ。もうかつての私ではないけれど、ここにまだ私の意思は残っているわ』

 

『そうか』

 

『共に見守ってゆきましょう。この世界の未来を』

 

『そうだな』

 

 

 

承影(ショウエイ)はエジルの、そしてこの世界や氷水(ヒスイ)の者達にとっての母と共に、いつまでも終わらない幸せな世界を見ているのだった。

 

何も変わらない静かな水底で。

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