遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
マグナムートによってドラグマから遠く離れた森へ捨てられたアルバスは、落下の衝撃を上手く消しながら着地して、空を見上げる。
無事アルバスが着地した事を確認したマグナムートは呑気な欠伸をしながらドラグマへ向けて飛び去って行った。
そんな姿を見ながらアルバスは大きなため息を吐いて、地上に視線を落としもう一度ため息を吐くのだった。
無論アルバスがマグナムートに飛び移る事はまだ可能であるし、《烙印》の力を使えば自らの体をドラゴンに変え、空を飛ぶことも可能である。
だからどの様な手段を取るにせよ、アルバスがドラグマに戻る事は容易なのだ。
しかし、アルバスはそれでも、ドラグマに戻ろうとはせず、トボトボと森の中を歩き始めた。
行き先も決めないまま意味もなく森の中をさ迷い続けるのだった。
そして、数刻の間さ迷っていたアルバスは、何かに導かれる様にその地へと来た。
そう。
「……」
「ん? なんだ、お前。ここに何か用か?」
「いや……俺は」
アルバスは、
そして、困惑しているアルバスに
「ルガル隊長。話していた奴はコイツです」
「おう。って、お前! アルバスじゃねぇか!」
「アルバス?」
「あぁ、お前は知らねぇか。アルバスは前の戦いで俺達と一緒に戦った戦士だよ。あの世界を照らしたドラゴン。あれがアルバスだ」
「なっ! そ、そうだったのですね。そうとは知らず、申し訳ございません」
その若き戦士はアルバスに頭を下げ、非礼を詫びたがアルバスは特に気にした様子はなく、いやとだけ言って話を終えた。
そんな、どこか覇気のないアルバスの様子に、ルガルは違和感を覚え、とりあえず話を聞こうと里の中に連れて行くのだった。
ルガルはひとまず落ち着いた場所でアルバスと話をしようとしたのだが、アルバスの事を知っている
「アルバス。久しぶりだな。元気にしていたか?」
「……あぁ」
「元気ないみたいだね。まぁいきなりドラグマで国の運営を手伝うなんて事になったら当然か」
「まぁ、な」
「ならここに居る間くらいはのんびりしなよ。それくらいは出来るんでしょ?」
「あぁ」
覇気のないアルバスの様子に、シュライグやフェリジットも違和感を覚え、ならちょうどいい場所があると、アルバスを里の奥に案内するのだった。
そこはこの里の中で最も重要で、最も大切にされている場所。
そして、アルバスと同じ様にあの日から元気を無くしてしまった少女の部屋だ。
「キット」
フェリジットは少女の部屋をノックしながら所在を確認し、小さく声が返ってきた事で安心して扉を開く。
「キット。調子はどう?」
「うん。悪くないよ。最高」
「最高って顔じゃないわね」
「……ごめん」
「別に怒ってるワケじゃないわ。貴女を責めてるワケじゃないの」
フェリジットはベッドの上で力なく笑っているキットを抱きしめて、微笑んだ。
その表情からキットを慈しんでいる事がよく分かる。
アルバスはそんなキットの様子を見て、驚きに目を見開きながら口を開いた。
「キットはどこか悪いのか?」
「怪我や病気という意味でなら、何もない。健康そのものだ」
「なら……なんで」
「お前たちには言って無かったが、あの戦いでサルガスとレギュラスというキットが懐いていた男達が散った」
「っ!? サルガスが!? でも、誰もそんな事!!」
「あの戦いでお前も、エクレシアも傷ついていたからな。これ以上、犠牲は見たく無いと泣いていた。だからキットはお前たちを悲しませたくないと、隠したんだ」
「……っ」
アルバスは自身の右手を強く握りしめながら、唇を噛み締める。
「一応まだ希望は残っているから、《スプリガンズ》や《スプライト》の連中がゴルゴンダでコアを探しているが、正直難しい。見つからないままという可能性の方が高いだろう」
「何か! 何か俺に出来る事は無いのか!?」
「っ!? だれ?」
「あ」
シュライグの言葉に感情を走らせて叫んだアルバスは、部屋の中に居たキットに声を聞かれ気まずい思いをしながら、一応顔を見せた。
アルバスの姿にキットは別れた時と変わらない朗らかな笑顔を浮かべてアルバスの名を呼ぶ。
「アルバス。来てくれたんだ。エクレシアは?」
「いない。今日は俺だけで来たんだ」
「そっか。なんだー来るなら来るって言ってくれれば良いのに。今日はちょうどキャプテンもみんなも遠くに行っててさ」
「話は聞いた」
「え?」
「サルガスとレギュラスって奴の事、聞いたよ」
「……」
アルバスの言葉に、キットは固まって、唇を僅かに震わせた後、小さく謝罪をしてから涙を零した。
ポロポロと止める事の出来ない涙を流し、何度も謝罪を繰り返す。
そんなキットをフェリジットは抱きしめながら、慰めるが、キットの涙を止める事は出来なかった。
そして、ひとしきり泣いて、泣きつかれて眠ってからフェリジットはキットの部屋を出て、アルバスに向き直った。
「すまない。フェリジット」
「良いよ。むしろキットもちゃんと泣けたから少しはスッキリすると思う」
「……」
「それにさ」
「……?」
「良い顔に戻ったね。アルバス。やっぱり男の子はそういう顔をしている方が良いと思うよ」
フェリジットはアルバスの頭を撫でて微笑むと、遠くを見据えた。
森からは見えないが、
「アルバス」
「……なんだ。シュライグ」
「一つ頼みごとをしても良いか?」
「あぁ」
「サルガスの体とレギュラスの魂であるコアが未だ
「それを見つけ出して、キットに届ければ良いんだな?」
「……あぁ。手伝って貰えるか?」
「当然だ。俺たちは
「助かる」
エクレシア、アルベルと共に過ごす中で、己の存在意義を見失い、何をすれば良いか分からなくなっていたアルバスに、小さな火が灯る。
かつてこの世界に落ちて来た時、泣いているエクレシアを助けたいと願った時の様に。
大切な人を失い、悲しみに震えている少女の為に、アルバスは己の成すべき事を再び見出した。
そう。一度アルバスは終わったのだ。
アルベル達との決戦で、アルバスとエクレシアの物語は一度終わった。
だが、再び始めればいい。
ここから、また。
何度だってエクレシアの手を取って、歩き出せばいい。
未来は見えないけれど、それでもエクレシアと手を取って進む事が出来るのであれば、それが最も幸せな事なのだから。
「シュライグ。俺は一度ドラグマに戻る」
「あぁ」
「今度は
「分かった」
アルバスはシュライグ達に別れを告げて、《烙印》の力を呼び起こし、巨大な白き竜となって空に飛び上がった。
世界を照らした希望が、今度は小さな少女の希望となれる様に、大空の彼方に向けて飛んで行く。
「……エクレシア! 俺は! 君とまた始めたい。俺たちの物語を!」
咆哮と共にアルバスは叫び、夜明けを目指して進んでゆくのだった。