遊戯王OCGデュエルモンスターズ【白の物語】 作:とーふ@毎日なんか書いてる
《スプライト》の暴走とも言うべき行動にアルベルは怒っていた。
それはもう怒り狂っていた。
アルベルの怒りで周辺の大地にはヒビが入り、やや離れた場所では崖崩れが起こっていた。
そう。まぁ当然と言えば当然な話であるが、アルベルにとってエクレシアは聖域なのだ。
誰にも触れさせたくはない。
見る事さえさせたくない。
そんな中、アルバスだけは嫌味を言いつつ許したのは、他でもないエクレシアが望んでいたからである。
おそらくはアルベルとアルバスが争わない未来を、エクレシアが望んでいたからだ。
だから、アルベルは地上が見えない程、高い崖の上から飛び降りる様な気持ちでアルバスにエクレシアを託した。
だというのに!!
突如現れた者達がワケの分からない理由を掲げながらエクレシアを攫ったのだ。
許せることではない。
アルベルの怒りは今、頂点に到達しようとしていた。
しかしアルベルの怒りはそれ以上先に行く事は無かった。
何故なら、アルベルが怒りに震えている間に、アルバスは《烙印》の力を解き放って空に飛んでいたからだ。
何の迷いもなく、作戦も立てず、ただ真っすぐにエクレシアに向かって飛んで行く。
その姿を見て、アルベルは先ほどまで感じていた怒りをどこへやったのか、フッと笑うと騎士たちに帰還の命令を出すのだった。
「よろしいのですか?」
「当然だろ。アルバスが行ったんだ。すぐに解決するだろうさ」
「承知いたしました!!」
騎士達はアルベルの言葉に返事をすると、そのままドラグマへ向けて進行を開始した。
そんな騎士たちを見ながら、先ほどと同じ言葉をクエムもアルベルに向ける。
『良いの? アルベル』
「……あぁ。まぁ、約束だしね」
『本当に優しい子ね。ま、私は貴方が決めた事なら何も言いませんけど』
「ありがとう。母上」
『良いのよ。私は貴方が幸せになってくれる事が一番だから。あなたが玉座を求めるのなら、玉座を、愛を欲するのなら、愛をあなたが手に入れられる様に手伝うだけ』
「そうだね」
アルベルはクエムの言葉に遠くの空を見ながら考えて、ゆるやかに口を開いた。
「まぁ全てを手に入れる事も悪くは無いけど、今はまだ何も欲しくはないかな」
『……』
「まずは僕が壊してしまったエクレシアの大切なモノを直して、ただ幸せだったと言える終わりを迎えてくれれば一番だ」
『そう』
クエムは穏やかな母の顔でアルベルを見据えると、静かに目を伏せた。
母は常にアルベルの事を考え、生きて来た。
だから、それがアルベルの強がりなのだとしても、クエムはそうアルベルが望むのならば何も言わない。
ただ、支えるだけだ。
「ただ、まぁ。次エクレシアが生まれ変わったら、もう遠慮はいらないからね。今度こそ全力で奪いに行くさ」
『そうね。その時は私も協力するわ』
「ありがたいね」
『じゃあ、私もそろそろドラグマに帰るわね。久しぶりに動いて疲れちゃったわ』
「うん。じゃあまた後で」
『えぇ』
ニコリとアルベルに微笑んでからクエムはフルルドリスの体から出て行き、フルルドリスの体には再びフルルドリスの魂が宿った。
「終わったか」
「あぁ、助かったよ。フルルドリス」
「いや、構わない。これもエクレシアの望みだからな」
「君はブレないねぇ」
「当然だ」
自分の体に戻ってきたフルルドリスは体を動かしながら、アルベルと言葉をかわし、フルルドリスの護衛として残っていたテオやアディンと視線をかわす。
そして、再びアルベルと同じ遠くの空を見据えると大きなため息を吐くのだった。
「結局、あの小僧をエクレシアは選ぶのか」
「まぁ当然だと思うけど」
「ハァー。どうしてあの小僧なんだ。エクレシア」
「君は本当にブレないね。どう考えてもエクレシアが君を選ぶ事は無いでしょ?」
「何!? 私はエクレシアのお姉ちゃんだぞ! 選ぶなら私しか居ないだろう!」
「姉だから選ぶ可能性は無いって言ってるんだけど、まぁ良いや。僕の言葉は人にしか届かないからね」
「くぅー! エクレシア!!」
「……もういいや。僕は先に帰るよ。君らも適当に帰ってくれ」
「りょーかい」
「分かりました」
「エクレシアァァアー!! 私は! お前の! 愛する! お姉ちゃんなんだぞー!!!」
アルベルは呆れた様な息を吐きながらドラグマに向けて飛び、その後ろではいつまでもフルルドリスが叫んでいるのだった。
そして、そんなアルベル達から遠く、砂漠の上空を呑気に飛んでいた《スプライト》たちは、些細な事から言い争いを始めていた。
『さーて。家に帰ったらエクレシアには何をして貰おうかなー。膝枕とかー。添い寝とか色々あるしなー』
『ちょっとブルー。エクレシアと遊ぶのはアタシが先なんだからね。アンタは後!』
『はぁー! 何言ってるのさ! レッド! エクレシアは僕のお嫁さんなんだからね!』
『はいはい。そんなのアンタが勝手に言ってるだけでしょ。エクレシアはアタシが貰うから』
『ちょっとズルいよ! レッドはキットをお嫁さんにするって言ってたじゃないか!』
『そうよ? キットもエクレシアもアタシのだから』
『ズルっこは駄目! エクレシアもキットも僕のだぞ!』
『何がズルっこよ! アンタの方がズルっこでしょうが!』
そして、言い争いの中でレッドとブルーは腕を振り回しながらぶつかり合って、戦いを始めてしまう。
まぁ、戦いとは言っても子供じみた争いではあるが、それでも《スプライト》という強大な力を持つ者達同士の争いであればその規模はかなり大きい。
「あ、落ち着いて下さい。ブルーさん! レッドさん!」
『これはマズイ! エクレシア嬢。何とかします。ご協力を』
「はい!」
『はいはい。落ち着いて下さい。ブルー坊ちゃん。レッドお嬢さん。お嫁さんの前で、恥ずかしいですよ』
ジェットはエクレシアを解放し、ブルーとレッドを止めるべく近づいた。
そしてエクレシアもまた、二人を止めるべく前に一歩踏み出そうとしたのだが、その瞬間に、高速で近づく何かに攫われて空に舞い上がった。
「え?」
『『エクレシアー!?』』
『なんとー!?』
《スプライト》達を出し抜く形でエクレシアを連れ去ったアルバスはエクレシアを抱えたまま空を飛び、ドラグマへ戻るでもなく空を飛び続ける。
「アルバス君!? あの! 今ブルーさんとレッドさんが大変で……」
「エクレシア!!」
「は、はい!」
「俺は、エクレシアの事が好きだ!!」
「っ!」
エクレシアは突然の告白に顔を真っ赤にしながら、言葉を何とか生み出そうとした。
しかし上手く言葉を作ることが出来ず、あわあわとしながら、それらしい言葉を発する。
「えと、私も、その、好きですよ?」
「違う!」
「え」
「違うんだ。エクレシア。俺は、エクレシアが考えている様な、みんな大好きとか、友達とか、家族とかそういう好きじゃないんだ!」
「……」
「俺は、世界とエクレシアなら、エクレシアが良いんだ。他は何も要らない。エクレシアだけが居れば良い。そう思ってしまう。このままエクレシアを連れ去って、誰も知らない場所へ行きたいって、思ってしまうんだ」
アルバスは上空に舞い上がって、その場に留まりながらエクレシアに想いを、ありったけの気持ちを差し出す。
抱え続けていた想いを。
「でも、俺は」
だが、エクレシアは小さな翼を作り出して、アルバスの想いから逃げる様に手の中から脱出すると、焦るアルバスの手から逃れて自由に空を飛び回った。
「エクレシア……!」
「アルバス君」
そして、アルバスがエクレシアの声に動揺して動きを止めた瞬間に、アルバスの口に自分の口を重ねる。
「っ!?」
「アルバス君。私の想いは、アルバス君と同じですよ? 私だって、アルバス君と二人だけの世界に居たいと思う事だってあります」
「……エクレシア」
「それでも、私はこの世界で犯してしまった罪を償う為に、まずはドラグマを再生しようと考えました。それがアルバス君の負担になっていたと思うと、申し訳ない気持ちになります」
「違う。違うんだ」
「……」
「俺は、エクレシアみたいに綺麗じゃないんだ。もっと汚くて」
「同じだって、言ったじゃないですか」
「っ!」
「アルバス君の事、格好いいなって言ってる人は結構いるんですけど、私はそういう話を聞くたびに、私のアルバス君なのに! って思ってるんですよ? アルバス君はそうじゃないんですか?」
「……エクレシアも?」
「当然です。私だって、そんなに綺麗じゃないんですから」
悪戯っぽく笑うエクレシアに、アルバスは荒れていた気持ちが落ち着くのを感じて、竜化を解いた。
そして落下しながらエクレシアを抱きしめる。
「俺で良いのか?」
「アルバス君が良いんです」
「俺はアルベルみたいに器用じゃない」
「でもアルバス君は優しくて強くて、私の事を一番に考えてくれますよね?」
「……あぁ」
「私もアルバス君が大好きなんですよ。この世界にいる誰よりも」
「っ! エクレシア!!」
そしてアルバスはエクレシアを背に乗せたままドラゴンとなり大空へと舞い上がった。
抱えていた気持ちが消えていくのと同時に、どこまでも一緒に行くという気持ちを込めて。