陰キャ女子がギャルにカードゲームを教える話 作:LUNARCLOWN
一週間後。
…………え? 特訓の描写ですか? ありませんよそんなの。ただ一つ言えることは…………
『え、ゲームで見たけど灰流うららって自分のカードにもうてるんだよね?』
それになんの意味があるんですか!
『で、このカードを使えば…………あれ? デッキにブルーアイズがいないや』
凡ミス過ぎるでしょう……。
『あれ? このカードの効果って今使えるんだっけ?』
テキストを良く確認しましょうね……。
……といった感じで、(私にとって)地獄でした。……でも、まあ、神引さんも頑張ってましたけどね。一週間であのデッキを使いこなせるに至ったんですから、カードゲームを始めてた一ヶ月経っていないなんて信じられないです。あとはお互いの引き次第……とまでは言わないが、まあ、善戦はできるだろう。
勝てなければ意味はないのかも知れない…………だけど、私達は確かに…………。
「よく、逃げなかったなと褒めるべきかな? それとも、身の程知らずと蔑むべきか……」
……なんか、ラスボスみたいな雰囲気出してきましたねこの人。だけど、どんだけ雰囲気出しても見た目は地味メガネですからね? 見た目の描写しましたからね?
「逃げるわけない! 私達は、勝つために此処に来たんだから!」
おー、かっこいいけど、その自信は何処からくるのか……。まあ、自信がないよりはましか。
「では、さっそく始めようか……」
「オッケー! 絶対に勝つ!」
こうして、二人のデュエルが始まった。此処からは私は手助け出来ない……神引さん……頑張って……。
「「デュエル!」」
デュエルが始まった。
先攻はコイントスの結果部長。ルールは11期マスタールールに則って行う。マッチ戦ではなく一戦のみ……これが吉と出るか凶と出るかである。
「では、私の先攻だ。私はまず手札から永続魔法【王の棺】を発動する」
【王の棺】!? 【青眼ホルス】か! 相変わらずこっちの予想を裏切ってくる人だ。ホルスは墓地からの特殊召喚が容易で、その性質からリンク召喚やランク8のエクシーズに繋げやすいデッキだ。確かにレベル8帯の多い青眼との相性は悪くない……。
「私は永続魔法【王の棺】の効果を発動。手札を一枚墓地に送って、デッキからホルスモンスターを墓地に送る」
「よし来た! 私は手札から【灰流うらら】を発動!」
あ、これは良くない。
「【灰流うらら】の効果で、デッキからカードを墓地に送る効果を無効にするよ!」
あちゃー……やっちゃった。手で顔を覆う私に気付いた神引さんがこっちを見る。
「……どうしたの、一ノ瀬さん?」
「…………【王の棺】のデッキからホルスモンスターを墓地に送る効果は一ターンに
「えぇ!? そんなのずるい!」
確かに、ずるいですよね。でも、ホルスデッキは墓地にホルスモンスターを送ることから始まる。故にそれを防がれると無力なのだ。しかし、だからこそ、一回や二回防がれたところで問題ないように出来ている。そして、それ故に強力なのだ。
「続けるぞ? 私は墓地の【救いの架け橋】の効果を発動。このカードを墓地から除外して、デッキからフィールド魔法と宝玉獣モンスターを手札に加える。私が手札に加えるのは【王墓の石壁】と【究極宝玉獣レインボードラゴン】を手札に加えよう」
「え、待って【青眼デッキ】なんですよね? ブルーアイズのブの字も出てきてないんですけど?」
まあ、神引さんの疑問はごもっともだが、亜種とはいえこれも【青眼デッキ】なのだ。
「さらに手札から【トレード・イン】を発動。手札の【究極宝玉獣レインボードラゴン】を捨ててデッキから二枚ドローする。さらに手札から【ドラゴン・目覚めの旋律】を発動、手札から【伝説の白石】を捨てて、デッキから【ブルーアイズジェットドラゴン】と【青眼の亜白龍】を手札に加えよう。さらに、捨てられた【伝説の白石】の効果で【青眼の白龍】を手札に加える」
キレイにコンボがつながる。見事に計算されつくしたデッキだ。どうやら、手加減する気などはないようだ。
「な、なんか手札捨ててるハズなのに手札増えてない?」
分かる。こういうデッキの動きを見ると、不思議な気分になりますよね。
「さらに、手札の【青眼の亜白龍】の効果。手札の【青眼の白龍】を相手に見せて特殊召喚する。……さて、では再度【王の棺】の効果で手札を捨てて墓地に【ホルスの栄光-イムセティ】を墓地に送る。墓地の【ホルスの栄光-イムセティ】はフィールドに【王の棺】があれば墓地から特殊召喚できる」
フィールドにレベル8モンスターが二体…………くるか?
「――【ホルスの栄光-イムセティ】と【青眼の亜白龍】でオーバーレイネットワークを構築! 現われよ!【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】!」
……やりやがった……厨二病全開の召喚口上。これには神引さんもドン引――
「えー、何今の、カッコいい!」
――いてない? 薄々勘づいていたけど、神引さんも結構な厨二病患者?
しかし、これはまずい……。【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】は相手の発動した魔法効果を無効にして自身のエクシーズ素材にする効果を持つ。初手で出されるとなかなかに厄介な相手だ。
「さらに【王の棺】の効果。手札から【ホルスの祝福-ドゥアムテフ】を捨てて、【ホルスの加護-ケベンセヌフ】を墓地に送る。墓地のドゥアムテフとケベンセヌフの効果で自身を特殊召喚し、その二体でオーバーレイネットワークを構築! 銀河創生のビッグバン!!その波動こそが私を導く覇道となる!!【No.90 銀河眼の光子卿】エクシーズ召喚!!」
いや、召喚口上完璧かよ……しかもまた神引さんが目をキラキラさせてるし……。
しかし、今度はモンスター効果を防ぐ効果か……本当に手加減する気はないみたいだ。フィールドには攻撃力3000で魔法カードを防げる【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】が攻撃表示、守備力3000でモンスター効果を防ぐ【No.90 銀河眼の光子卿】が守備表示で存在している。さらに手札には【青眼の白龍】と【ブルーアイズ・ジェットドラゴン】と【王墓の石壁】を握っていることは分かっている。青眼はともかく、ジェットドラゴンは厄介だ。破壊をトリガーに手札や墓地から特殊召喚されて、フィールドの他のカードを破壊から守ることができる。しかも攻撃する際に相手フィールドのカード一枚を手札に戻す事ができる強力なカードだ。
しかもあと一枚、情報のないカードを握っている。その一枚次第では、次の神引さんのターンは何も出来ずに封殺される……。
「……私はターンエンドするよ」
カードはセットしないか……残る一枚は罠カードではなかったようだ。しかし、油断はできない。【灰流うらら】や【エフェクト・ヴェーラー】だったら致命的だ。妨害札三枚を突破するならそれなりの手札じゃないと難しい。神引さん……大丈夫だろうか……。
「じゃあ、私の番だね。ドロー!」
神引さんがデッキからカードをドローして手札に加える。先程【灰流うらら】がほぼ無駄打ちになったため、手札は五枚。
その五枚の手札をジッと見る神引さん。良いカードを引いたのかな? どっちだ。あぁ、もどかしい……。
「えっ……と、これって手札から使えるんだよね?」
そう言って神引さんが場に出したカードは【無限泡影】だった。
「使えるね」
「使えますね」
私と部長の声が被る。部長の方をチラッと見てみたが、眉一つ動いてなかった。これくらいじゃ揺らがないか……。
「よし、じゃあ…………えー……こっちの子? に使います」
神引さんが指を差したのは【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】だ。
「構わないよ、これでタイタニック・ギャラクシーの効果は無効だ」
「やった! じゃあ手札から【青き眼の祈り】を発動!」
なるほど、これは確実に通したいカードだ。だからタイタニック・ギャラクシーを無効化した訳か。【青き眼の祈り】はデッキからレベル1の光属性チューナーと、テキストに【青眼の白龍】と書かれた自身以外の魔法罠カードを手札に加える効果だ。部長が動かないところを見るとさっきの一枚は【灰流うらら】や【ドロール&ロックバード】ではないようだ。少し警戒し過ぎたか……。
「えーと、手札を墓地に送ってと……私がデッキから持ってくるのは【白き乙女】と【青眼龍轟臨】だ!」
教えた通りの基本の流れだ。ただし、相手のフィールドにはモンスター効果を無効にする【No.90 銀河眼の光子卿】がいる。そのままでは【白き乙女】の効果は通してくれないだろうが……神引さん、どう出る?
「…………私は手札から【青眼龍轟臨】を発動して、デッキから【青眼の白龍】を特殊召喚するよ」
これでフィールドに【青眼の白龍】がでたが、ここから展開するにはどうしても、光子卿が邪魔になってくる。ここを突破する方法は用意してあるのだろうか?
「墓地の【青眼龍轟臨】を除外して効果を使うよ」
【青眼龍轟臨】は墓地から除外することによって手札フィールドのブルーアイズモンスター含むカードで融合召喚できる効果を持っている。という事は……。
「手札の【青眼の白龍】二体とフィールドの【青眼の白龍】で融合召喚! いでよ! 【真青眼の究極竜】!」
なるほど、まずは打点で勝る【真青眼の究極竜】を出して戦闘破壊を狙うつもりか。このカードは自分フィールドの表側表示カードがこのカードのみならばEXデッキから融合モンスターを墓地に送って追撃が可能で、その効果で厄介な二体を処理してしまおうということか……ちゃんと考えられてますね神引さん。……ただ、こっちをチラチラ見ながらドヤ顔してくるのはやめていただきたい。可愛いけど。
「バトルフェイズに入るよ! 【真青眼の究極竜】で……えっと、なになに? 【No.90 銀河眼の光子卿】? を攻撃!」
よし、厄介な効果を持つモンスターを破壊できたのは大きい。ただ、“破壊された”ということは……。
「なるほどね……【No.90 銀河眼の光子卿】が破壊された時、手札から【ブルーアイズ・ジェットドラゴン】の効果を発動。このモンスターを特殊する」
ですよね……。正直かなり厄介なモンスターだ。コイツの効果は三つ、一つ目は今行われた破壊をトリガーに特殊召喚する効果。これは効果破壊戦闘破壊問わず出てくる。特に、戦闘破壊された時に発動した場合はダメージステップ中の発動になるため、基本的にはカウンタートラップ以外の対処方法がない。
二つ目はコイツがフィールドにいる限り他のカードを効果破壊出来ない効果。【サンダーボルト】のような全体除去カードを使っても、コイツ一体が破壊されるだけで他は生き残る。
そして、三つ目が戦闘を行う時に相手のフィールドのカードを一枚手札に戻す効果だ。これが厄介で、ダメージステップ開始時に発動する効果の為、先程同様基本的に防ぐ手立てがない。さらに、手札に戻す効果の為、破壊された場合などをトリガーとする効果が使えないことだ。【ブルーアイズ】カードのクセにことごとく【ブルーアイズ】カードをメタるような効果を持っているカードで、ミラーマッチの際には一番気を付けなくてはならないカードだ。
「……やっぱり、そうくるよね。【真青眼の究極竜】の効果! EXデッキから【青眼の究極竜】を墓地に送ってもう一回攻撃する! ……えーっと……こっちの子を攻撃!」
微妙にしまらないなぁ……まあ、始めたてだからカード名を覚えてないのは仕方がないか。神引さんが選択したのは当然【No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー】だ。
攻撃力3000でに対してこちらの攻撃力は4500だ。この勝負で初のダメージは神引さんが与えたことになる。
部長LP8000→6500
しかし此処で神引さんの動きが止まる。効果上さらに追撃はできるが、それをすればジェットドラゴンの効果で【真青眼の究極竜】がEXデッキに戻されてしまう。……現状ではそれはマズイ。
「――ッ……バトルフェイズを終了するよ」
当然だ。現状突破力があるのはこのカードだけだ。失うには惜しすぎるが……部長相手にそれが得策だったかは怪しいところとも思える。
「メインフェイズ2で、手札の【白き乙女】の効果を発動。デッキから【真の光】を表側でフィールドに置く」
光子卿を破壊した今、モンスター効果を邪魔するものはいない。ここから神引さんはさらに展開するつもりだ。
「……さらに【真の光】の効果を発動。墓地から【青眼の白龍】を特殊召喚する」
【真の光】の効果。墓地か手札から【青眼の白龍】を特殊召喚出来る。さらに……。
「もう一つ! 【青眼の白龍】が特殊召喚されたことで、墓地の【白き乙女】を特殊召喚!」
そう、【青眼の白龍】がフィールドに特殊召喚されると、墓地にいる【白き乙女】は特殊召喚できる効果を持っている。これでフィールドにはモンスターとチューナーモンスターが揃った……いける。
「レベル8の【青眼の白龍】にレベル1の【白き乙女】をチューニング! 現われよ! 【青眼の精霊龍】!」
見事な召喚口上とともにシンクロ召喚されたのは【青眼の精霊龍】だ……いや、だからこっち見てドヤ顔するな、はいはいカッコ良かったカッコ良かった。
【青眼の精霊龍】はお互いに二体以上のモンスターを同時に特殊召喚できなくする効果と、墓地でカードの効果が発動した時にその効果を無効にするという効果を持っている。
そして、もう一つ、自分・相手ターンに自身をリリースしてEXデッキから光属性ドラゴン族のシンクロモンスターを特殊召喚する強力な効果を持っているモンスターだ。特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズに破壊されてしまうが、それでも強力な効果に違いはない。
「……私はターンエンドします」
フィールドに強力なカードは出したものの手札はゼロ……流石にこれ以上は動けないだろう。正直、神引さんがここまで戦えるとは思ってなかった為、驚きと感動が入り混じってちょっと泣きそうである。……いや、泣かないですよ? 比喩表現です。
「ふむ、では私のターン、ドロー…………ほう」
ドローしたカードを見て、部長がニヤリと笑う。何を引いたのかは気になるが、当たり前だが、私の位置からは何も見えない。
「メインフェイズ……私は墓地の【ホルスの栄光-イムセティ】の効果。墓地から特殊召喚する」
「じゃ、じゃあ【青眼の精霊龍】の効果を」
……いや、それは無理だ。
「神引さん、イムセティの効果は“分類されない効果”と言われるもので、精霊龍の効果では無効には出来ないんです……」
「そ、そんな……」
そんな私達のやり取りを見て、部長が薄く笑う。
「続けるよ? 私はさらに墓地の【ホルスの祝福-ドゥアムテフ】と【ホルスの加護-ケベンセヌフ】の効果。その二体を特殊召喚する!」
いや、効果の発動は個々に行いなさいよ。ルール違反ではないけどマナー違反よ? まあ、その方がカッコイイとかそんな理由なんだろうけど……。
二体のモンスターが特殊召喚されるのを見て神引さんがこっちを見るので、私は軽く首を横に振った。この二体の効果も“分類されない効果”だ。つまり、【青眼の精霊龍】では無効にできない。
あっという間にフィールドに四体のモンスターが揃った。次はどう出るつもりだ?
「私はフィールドの【ブルーアイズ・ジェットドラゴン】と【ホルスの栄光-イムセティ】をリリースして、手札から【銀河眼の光子竜】を特殊召喚する!」
「ちょっと待った!」
「何かね?」
いや、いやいやいや、ホルスにブルーアイズに銀河眼ってどんなデッキだよ! いや、実際に目の前で出てきてるからそうなんだろうけどさ! 相変わらず訳のわからないデッキを使いやがる……。
「なにもないなら続けるぞ?」
「……どうぞ」
別にルール違反をした訳ではないが、【青眼デッキ】という縛りはどうしたんだと言いたい。まあ、どうせ言ったところで「【青眼の白龍】なら入ってるだろう?」とかしたり顔で言われるだけなので無駄なのだが……。
「さて、邪魔が入ってしまったが続けようか……私は【ホルスの祝福―ドゥアムテフ】と【銀河眼の光子竜】でオーバーレイネットワークを構築! 現れろ! 銀河究極龍、No.62! 宇宙にさまよう光と闇、その狭間に眠りし哀しきドラゴンたちよ。その力を集わせ、真実の扉を開け! 【No.62銀河眼の光子竜皇】!」
……またもや完璧な召喚口上だ……そろそろなんの感想も出てこない。もしかして、全部の召喚口上を覚えてるのか、この人? あと、神引さん。目をキラキラさせない。その人を真似ても痛いだけですよ?
「あ、そ、そうだ! 特殊召喚時に【青眼の精霊龍】の効果! 自身をリリースしてEXデッキから【青眼の究極霊竜】を特殊召喚!」
目をキラキラさせてた神引さんだったが、我に返って慌てて精霊龍の効果を発動した。特殊召喚したのは【青眼の究極霊竜】。自分の墓地のカードを相手が除外できなくなる効果と、フィールドで発動した効果を無効にして自身の攻撃力を1000上げる効果を持っている。精霊龍で呼び出したため、エンドフェイズに破壊されてしまうが、その際には三つ目の効果が発動する。このカードが戦闘効果で破壊された場合【青眼の究極霊竜】以外の墓地の光属性ドラゴン族を特殊召喚できるのだ。
「なるほどね……だがこの程度とは思わないで欲しいものだ。私は【No.62銀河眼の光子竜皇】一体でオーバーレイネットワークを構築する! 逆巻く銀河の混沌よ!! 真実の光となりて希望の扉を開け!! 【CNo.62 超銀河眼の光子龍皇】エクシーズ召喚!!」
……【CNo.62 超銀河眼の光子龍皇】厄介すぎるカードだ。このカードの大きな特徴は他のモンスターの効果を受けないことにある。さらにエクシーズ素材にしているモンスターのレベル・ランク✕100分攻撃力を上昇させる。つまり、今の攻撃力は……。
「攻撃力6400!? ず、ずるい!」
ズルいかズルくないかで言えばズルいのだが、そういう効果なので仕方がない。さらにこのカード、エクシーズ素材を取り除くことで三回まで相手モンスターに攻撃できる効果も持っている。本来は結構出すのが面倒なモンスターなのだが、専用構築でもないのにこんな物がポンと出てくるあたり変態デッキである。
「いくよ、バトルフェイズ……バトルフェイズの開始時にエクシーズ素材を一つ取り除く。これでこのモンスターは三回までモンスターに攻撃できる」
「じゃ、じゃあ【青眼の究極霊竜】で……」
「神引さん、【CNo.62 超銀河眼の光子龍皇】は相手のモンスター効果を受けません。究極霊竜じゃ止められないです」
「うっ……ど、どうぞ」
私達のやり取りに何故か満足げに頷く部長。
「では……まずは【ホルスの加護-ケベンセヌフ】で【青眼の究極霊竜】に攻撃する」
「え? その子の攻撃力よりウチの子の守備力の方が高いけど?」
違う。狙いはそうじゃない。
「フィールドの【王の棺】の効果。ホルスモンスターと相手のモンスターが戦闘を行う時、その相手モンスターを墓地に送る」
そう、【王の棺】の効果での除去。この効果は、破壊ではなく“墓地に送る”の為、破壊耐性を持つモンスターを除去できるのが強みだ。しかも、究極霊竜の“破壊された場合”の効果もすり抜ける。
「えっ!? じゃ、じゃあ【青眼の究極霊竜】の効果で無効、無効!」
神引さんが慌てて究極霊竜の効果を発動する。これで【王の棺】の効果は無効になるため、普通に戦闘を行う事になる。部長にまたもダメージが通る。
部長LP6500→5000
「流石に防ぐか……」
「と、当然!」
いや、アレは結構な舐めプだろう。神引さんが気づかなかったらそのまま除去してたろうし。
「では本命といこう。私は【CNo.62 超銀河眼の光子龍皇】で【真青眼の究極竜】に攻撃」
「うっ……」
これで神引さんは初ダメージとなる。
神引LP8000→6900
「さらに続けて【青眼の究極霊竜】に攻撃」
「……【青眼の究極霊竜】の効果。私は……」
正直な話、発動するだけ無駄である。出せるのは墓地にいる【青眼の白龍】【真青眼の究極竜】【青眼の精霊龍】のみだ。いずれも【CNo.62 超銀河眼の光子龍皇】の打点に遠く及ばない。
「………………【青眼の白龍】を守備表示で特殊召喚」
彼女が選んだのはこのデッキのメインとも言える【青眼の白龍】だった。まあ、壁くらいにしかならない訳だが……。
「墓地の【白き乙女】の効果。このカードを特殊召喚します」
自身の効果で特殊召喚される【白き乙女】。こちらも現状では壁にしかならない。
「ふむ、では続けて【青眼の白龍】に攻撃」
無残にも戦闘破壊される【青眼の白龍】。ライフポイントでは勝っているが、現状勝機はない。次のドローで逆転の一手を持ってくるのは難しいだろう。まさしく、彼女の名前の通り“神引き”でもしなければだ。
「……私のターンは終了だ」
「……エンドフェイズ時に【真の光】の効果……墓地から【青眼の白龍】を特殊召喚する」
神引さんはなお、【青眼の白龍】を特殊召喚する。これが自身の相棒だとでも言うように。
「ふん、無駄なあがきだね」
小馬鹿にしたように笑う部長が腹立たしいが、さっきも言った通り逆転の一手覇見えない。
「……私のターン、ドロー……」
ノロノロとした動きでデッキからドローする神引さん。その目に一瞬、光が宿った。
「……このカード……」
ドローしたカードを見てしばらく考え込んでいたが、唐突に強気な笑顔を浮かべた。
「負けない……! 私は【白き乙女】一体でリンク召喚! 来いっ! 【青き眼の精霊】!」
【青き眼の精霊】? 確かに悪くないカードだが、現状を打破できるとは思わない。このカードの効果はリンク召喚時にデッキから【光の霊堂】を手札に加える効果と、このカードをリリースして墓地からブルーアイズモンスターを特殊召喚する効果だ。墓地にいるブルーアイズモンスターを出したところで、先程と同じで打開策にはなり得ない。どうするつもり?
「【青き眼の精霊】のリンク召喚時にデッキから【光の霊堂】を加える。そして、【青き眼の精霊】をリリースして墓地から【青眼の白龍】を特殊召喚! さらに、墓地の【白き乙女】を自身の効果で特殊召喚!」
これでフィールドには【青眼の白龍】が二体と【白き乙女】だ。エクシーズか、シンクロか……。
「私は、墓地の【光の霊堂】を除外して【滅びの爆裂疾風弾】をデッキから手札に加える!」
ひ、【光の霊堂】!? いつの間に墓地に行ってたの!? ……あ、
『えーと、手札を墓地に送ってと……』
あの時の【青き眼の祈り】のコスト!? そんな重要カードをコストにするな! でも、ナイス!
「手札から【滅びの爆裂疾風弾】を発動! フィールドのモンスターを全て破壊する!」
「なっ……」
ここで初めて部長の表情が歪んだ。
「……だが、墓地のジェットドラゴンの効果を発動させてもらう。ジェットドラゴンを特殊召喚」
また厄介な……。これを突破するカードがあるのか、神引さん?
「私はレベル8の【青眼の白龍】にレベル1の【白き乙女】をチューニング! シンクロ召喚! 【飢鰐竜アーケティス】!」
アーケスティス!? なんで? アーケスティスの破壊効果でジェットドラゴンを破壊するとか? いや、それだと次のターンでまたホルス達が蘇ってきてやられてしまう……何を考えてるの?
【飢鰐竜アーケティス】の効果は手札を二枚墓地に送ってフィールドのカードを破壊する効果と素材にしたチューナー以外のモンスターの分だけドローする効果。だけど、たった一枚で状況を覆せるはずが……
「……大丈夫、デッキは応えてくれるよ」
神引さんはそう呟いてカードを一枚引いた。
「私は手札から【究極融合】を発動! 手札の【ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン】と墓地の【青眼の究極竜】をデッキに戻して【究極竜魔導師】を融合召喚する!」
【究極融合】……嘘でしょ……そんな引き、あり得ない……。だが、事実だ。フィールドに降り立った究極の竜にまたがった黒い魔術師のカード。【究極竜魔導師】の効果は魔法・罠・モンスター効果をそれぞれ一ターンに一度ずつ無効にする効果だ。そしてこれは、“ダメージステップ時にも発動できる”
「【究極竜魔導師】で、【ブルーアイズ・ジェットドラゴン】に攻撃!」
「くっ、ジェットドラゴンの効果……!」
「【究極竜魔導師】の効果で無効にする!」
【究極竜魔導師】の攻撃が通り、【ブルーアイズ・ジェットドラゴン】が戦闘破壊される。フィールドには【王の棺】を残すだけとなった。
部長LP5000→3000
「…………参った、サレンダーだよ」
部長の言葉に神引さんが首を傾げる。
「え、されんだー? てなに?」
「降参って意味ですよ神引さん」
そう伝えると、彼女はしばらく呆然としていたが、急に立ち上がって私に抱きついて来た。
「――――ッ!?」
「やった! 勝った! 勝ったよ一ノ瀬さん!」
「わ、分かりました! 分かりましたから、離れてください!」
急なスキンシップに陰キャの心臓は耐えられるように出来てないのですよ!
なかなか離れてくれない神引さんを引き剥がそうと四苦八苦していると、部長が立ち上がって拍手を送ってきた。
「Congratulations……流石だよ」
無駄に発音が良いのが腹立つな……。
「約束通り、神引さんの入部を認めよう。後日で良いから入部届けを持ってきたまえ」
「あ、はい」
「それでは、私はこれで……」
「あっ、待ってください……!」
私は神引さんを押しのけて、キザったらしく立ち去る部長の後を追った。
「……部長!」
「……なんだい? せっかく敗北の余韻に浸っていたというのに」
相変わらず厨二臭いセリフを吐く部長を無視して私は詰め寄る。
「最後まで使わなかったカード……手札誘発だったんじゃないですか?」
「……なんのことだか」
白々しい。あくまで私の予想ではあるが、アレは【灰流うらら】だったんじゃないだろうか。
「使えば負けることはありませんでした。何より、使うカードが違えば部長が勝ってたはずです」
適当なランク8モンスターの効果を囮に使って【青眼の究極霊竜】の効果を使わせて【No.97 龍影神ドラッグラビオン】で【No.100 ヌメロン・ドラゴン】を出してしまえば攻撃力17000でワンターンキルだ。だが、それをしなかった。
「……初めから負ける気だったとか……?」
「あり得ないよ、デュエリストとして」
きっぱりそう言い切った部長の表情は普段の気持ち悪い笑顔ではなく、晴れやかな笑みだった。
「ただ、次があるとしたらもう少し容赦なくやらせてもらうがね」
しかし、そんな爽やかな笑みをすぐに掻き消して、意地の悪いニヤリとした笑みを浮かべた。そして、そのまま
……ん? 部長の性別ですか? 女性ですよ。言ってなかったかな?
「そうそう、兄君に次のデートはもうちょっとマシな格好で来てくれと伝えといてくれ」
「御免被ります! 自分で言ってください!」
……そして、我が兄の彼女でもある。納得がいかん……お兄ちゃんもあんなのの何処が良いんだか……。
「一ノ瀬さん?」
一人ブツブツ言っていたら、いつの間にか神引さんが後ろに立っていた。
「……聞いてました?」
「何を?」
「いえ……別に……」
お情けで勝たせてもらった可能性がある……なんて聞かれたくはない。勝ったときのあの彼女の涙ながらの笑顔に水を差すような真似はしたくない。
「……部長さん、美人さんなのに変な人だよね」
「何処が!? あの根暗おかっぱメガネが」
「おかっぱって……あれショートボブだよ?」
「そんなオシャレ用語は知りません! そもそも、美人だっていうなら神引さんの方が……!」
って、私は何を口走ってるんだ! とっさに口を閉じたがもう遅い。みるみるうちに神引さんの顔が赤くなっていく。
「あ、あはは、美人かな、私?」
何も言えず無言で頷く。いや、しかし、意外な反応だ。こんな言葉は神引さんなら言われ慣れてるだろうに……。
「そっかそっか……いやぁ、照れちゃいますなぁ」
そう言っておちゃらける神引さんだが、顔はまだ赤い。なんとなく気不味くなって私は踵を返す。
「あ、待って、一緒に帰ろうよ!」
マジかこの人……この空気でそれ言える? ただ、断る理由もないので一緒に部室まで行き帰り支度をする。部室にいる間神引さんがめちゃくちゃ他の部員に話しかけられていたが、あいも変わらずのらりくらりとかわされていた。……というか、今まで空気だったクセに急にしゃしゃり出てくるなよ……。
「じゃあ、祝勝会しよっか?」
帰り道、急に神引さんがそんな事を言い出す。
「まあ、良いですけど……何処にします? またマックですか?」
「今日はカラオケの気分♪」
「嫌ですよ、私歌ヘタですし……」
「大丈夫大丈夫、笑わないからさ」
「ヘタを否定しないのですね……」
「……………………」
急に神引さんが黙るので、彼女の方を見ると真っ直ぐ私の方を見ていた。
「……な、なにか?」
「んー、勝ったご褒美ちょーだい」
「ご、ご褒美? 何を買ってくれば……?」
「そんなパシリみたいなことしないって」
そう言ってカラカラと笑う。
「頭撫でられるのとか、私好きなんだよね」
「……へ?」
ヤバい、変な声出た。
「い、いや、それは……」
「えー、してくれないの?」
上目遣い……には私の方が背が低いのでならないけど、雰囲気そんな感じで聞いてくる。いや、だって、恥ずかしいし……。
しかし、無言で目を閉じて神引さんが頭を差し出してくる。しょうがない……腹をくくれ私。
そっと頭を撫でると、絹糸のように柔らかい髪が指に絡んだ。そっと彼女の表情を盗み見ると、気持ちよさそうに笑っていた。
「よし、このまま名前で呼んでみようか!」
「急に何を言い出すんですか貴女は!?」
「良いじゃん、私もゆーなちゃんって呼ぶからさ」
「え、あ~……う〜……」
家族以外に名前で呼ばれたことなどないから妙にくすぐったい。そして、他人を名前で呼ぶなど初の体験だ……。
「アオイ……さん」
「ん~、まあ、今はそれでいっか」
そう言って神引さんが私の手を取る。
「さっ、カラオケ行こっ」
「け、結局カラオケですか……」
少しドギマギしながら、神引さんに手を引かれる。
柄ではないことは分かっている。
だけど……願わくば……。
こんな日々が少しでも長く……。
終