ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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●:柱
◆:柱《回想》
二文字開け:ト書き
○○M:モノローグ
○○N:ナレーション
○○Ⅴ:声のみ
×××××:カットバック(場面転換・時間経過)
〔回想〕:閃光回想(フラッシュバック)



一章 俺が勇者で仮面ライダー!?
第一幕 陰キャ、召喚


●??・教会

 

  聳える崖の眼下に広がる平原

  平原にポツンと教会が建つ

  老朽化により、大部分の壁面が崩れている

  聖堂内は暗く、冷たい風が吹き抜く

  椅子や柱が崩れ落ち、雑然としている

  もはや、教会としての機能を果たしているのか

  この不気味さには、野生動物も住み着かない

  しかし、そこには一人の少女の姿があった

  聖堂内の最奥、祭壇に佇んでいる

  手に持つ杖を天に掲げ、祈る

 

??「この世界は、再び魔王の手に堕ちようとしている……。どうか、お救いください……。異界の勇者……、『仮面ライダー』よ……!」

 

  直後、杖が煌びやかな光を発する

  まるで、少女の祈りを聞き届けたが如く

  やがて光は、聖堂内を覆いつくし―

 

●??・魔王城

 

  煮え滾るマグマのような空

  その元、漆黒の巨大な城が聳える

  玉座に座る巨躯の男

  2本の角が鋭利に光る

  ニヤリ、邪悪に口角を上げる

 

●儚田宅・勇也の部屋(朝)

 

  カーテンが閉められた暗い部屋

  本やゲームが散乱、雑然としている

  モニターの前、椅子に座る一人の青年

  高校生・儚田勇也だ

  画面の明かり、彼の顔を無機質に照らす

  呆然と見開かれた、赤く充血した瞳

  画面の向こうの世界に釘付け

  カチャカチャ、小気味良いコントローラーの音

  その時、スマホのアラームが鳴り響く

  ふとスマホを手に取る勇也

  7時10分の表示

 

勇也「あぁ、学校行かなきゃ」

 

●高校・教室(同日・午前)

 

  勇也、椅子に座っている

  窓側最後列の席

  所謂、主人公席だ

  頬杖をつき、ぼんやり外を眺める

  ノートには、いくつかのキャラの落書き

  それ以外は、まるで白紙

 

勇也「……」

 

  お経のような教師の声が、眠気を誘う

 

× × × × ×

 

  昼休み

  勇也、一人席に座っている

  一人であり、独りなのだ

  空になった弁当箱をしまい、教室を出る

  恒例の、教室↔︎トイレ間の往復が始まる

 

× × × × ×

 

  ジャーと水が流れ、トイレから出てくる

  教室の入り口で、ふと立ち止まる

  勇也の席の周りで、生徒がたむろしている

  当然のように、勇也の席に腰かけている

 

勇也「……」

 

  文句など言わない

  否、言えないのだ

  怖いから

 

× × × × ×

 

  ジャーと水が流れ、トイレから出てくる

  教室の入り口で、ふと立ち止まる

  ここまで、先程と全く同じ

  また別の生徒、勇也の席を占領している

  何の臆面もなく、机を尻に敷いている

 

勇也「はぁ~……」

 

  深い溜息は、しかし虚空に消え去る

  トボトボと、どこかへ歩き去る勇也

  残り数十分の、宛てのない旅路へ

  その背中は、実に小さく哀れだ

 

●高校・生物部室(同日・放課後)

 

  ただの空き教室だ

  一つの机に四つの椅子が並ぶ

  理科実験室のような様相

  棚の上、大きな水槽が一つ

  何匹かの金魚が泳いでいる

  椅子に座る勇也

  テーブルに腕を乗せ、漫画を読む

  その対面に座るのは、勇也の唯一の友人

  因みに、名前はまだない

  机の上のパソコンにのめり込んでいる

  勇也、まるで独り言のように—

 

勇也「どうして陽キャは、他人の机を勝手に使うんだろう」

 

友人「自分の縄張りを広げたいんでござるよ」

 

勇也「野生動物じゃん」

 

  妙に納得してしまった

  タイピング音が鼓膜を叩く

 

勇也「それ、どこまで行った?」

 

友人「レベル、素材カンスト。収集要素もコンプリート」

 

勇也「まじか、やることないじゃん」

 

友人「まさか。この広大な異世界を歩き回っているだけでも、ファンタジーの世界に浸れるでござるよ」

 

勇也「ほんと好きだよな、異世界モノ」

 

友人「勇也殿も、このゲームをプレイしているなら同じでござる」

 

勇也「俺はなんか、そこまでのめり込めないんだよなぁ。やっぱり、現実に生きてるっていうか?他のオタクとは違うっていうか?なんてね」

 

友人「……教室では空気みたいに扱われ、放課後は暗い空き教室で、名ばかりの生物部として金魚を横目にゲームや漫画という家でも出来るようなことを繰り返す毎日……」

 

  友人、ゆっくりと勇也に視線を上げる

  光のない瞳が、まるで死んだ魚のよう

  金魚の水槽に入れてやろうか

 

友人「こんなリアルにまだ生きる希望を見いだせてる勇也殿は、魔王より断然強いでござるよ……」

 

勇也「……やめてくれ、悲しくなる」

 

●下校路(同日・夕方)

 

  勇也、スマホを片手に歩いている

  もちろん一人だ

  友人は、先に帰ってしまった

 

勇也M「俺は、今の生活に特別不満があるわけじゃない。誰に気を使って、調子を合わせて愛想笑いをして過ごすくらいなら、一人でアニメや漫画を嗜んでいる方がよっぽどマシだ。俺は、この現実が割と好き。それこそ、もし異世界になんて飛ばされてしまったら、ホームシックで涙がちょちょぎれる自信がある」

 

勇也「お、このアニメ二期決定してる……」

 

  交差点に差し掛かる

  歩行者信号は赤

  しかし勇也、気づかず道路に出る

  直後、顔面を照らす明かり

  大型トラックのヘッドライトだ

  クラクションが大きく鳴り響く

  バッと振り向く勇也

  しかし、もう遅いのだ

  何もかも、全て

 

勇也M「歩きスマホによる死亡事故は、年々増加している。その中でも、特に多い事故の発生場所は“道路”。はい、今の俺で~す。死にたくないけど、これも自業自得か……。加害者にならなかったのが不幸中の幸いだな。……轢かれるまで割と時間あるなぁ。新キャラのキャストでも予想しとく?いや、流石に無理か……」

 

  諦めて目を閉じる

  迫る轟音に、鼓膜と体が震える

  訪れる痛みと衝撃を覚悟する

  瞬間、どこからか声が聞こえる

  否、脳に直接語り掛けてくるのだ

 

??Ⅴ「どうかお救いください……。異界の勇者……、『仮面ライダー』よ……!」

 

勇也「え、なんて?」

 

  思わず目を開ける勇也

  その視界は、既に眩い光に覆われていた

 

× × × × ×

 

??Ⅴ「忌々しい……!異界送りじゃ……!」

 

??Ⅴ「こんにちは、私たちの子……!」

 

??Ⅴ「……ごめんね」

 

  光の中、様々な声が聞こえる

  憎悪、慈愛、哀憐

  しかし、その正体を知る術などない

  そして―

 

●??・森

 

  目を覚ます勇也

  ぼんやりと、光が入り込んでくる

 

勇也「ここは……」

 

  ゆっくりと体を起こし、辺りを見回す

  一面、緑に覆われている

  木々の隙間から微かな木漏れ日

  どこか、幻想的な風景だ

 

勇也「……これが天国。まぁ、悪くないな、うん」

 

  満足げな表情の勇也

  その時、ガサッと背後から物音

  思わず立ち上がり身構える

  草むらから、1匹の猫が飛び出す

 

勇也「その可愛さ、もしかして君が天使かな?」

 

  ホッと安堵し、軽口を叩いてしまう

  尻を向け、どこかへ走っていく猫

  道中、チラチラとこちらを振り返る

  まるで、何かをアピールしているかのよう

 

勇也「もしかして、着いて来いってこと?」

 

  小首を傾げる勇也

  そっと、猫の後を着いて行く

 

× × × × ×

 

  森を抜け、崖の上に出た

  視界がバッと開け、一気に光が差し込む

  そして、目の前の景色に思わず瞠目する

 

勇也「すげぇ……」

 

  眼下に広がる広大な世界

  どこまでも続く新緑の平原

  大きな湖は、世界の写し鏡

  聳える巨山、その頂上は遥か雲の上

  優しい風がふと吹き抜ける

  まるで、少年の訪れを祝福するかのよう

 

勇也「オープンワールドのゲームみたいだ……」

 

  その時、足元から猫の鳴き声

  愛くるしい瞳で見上げてくる

  だが直後、飛び出す

  崖の上からだ

  その温度差に気が狂いそう

 

勇也「ちょ、あぶな―」

 

  咄嗟に手を伸ばす勇也

  しかし、猫は落ちない

  それどころか、空中を軽快に歩いている

  まるで、見えない階段でもあるかのように

  思わず、勇也は瞠目してしまう

 

勇也「いやいやいやいや、どうなってるんだ……!?」

 

  軽やかなステップを踏む猫

  その先、小さな集落が見える

 

勇也「い、行ってみる……?」

 

  勇也、崖の外にそっと足を伸ばす

  自分も、空中散歩を―

 

勇也「無理無理無理無理!」

 

  そんな度胸、勇也にはない

  バッと足を引っ込め、道に沿って走り出す

 

●??・獣人族の村

 

  やってくる勇也

  辺りを見渡して―

 

勇也「なんだ、ここ。村……、ってより廃材置き場みたいな……」

 

  人や動物の気配はない

  取り残された建物や木々の残骸

  その間を、風が吹き抜ける

  妙に乾燥し、閑散としている

  その時、ふと猫の鳴き声

 

勇也「お」

 

  正面、先ほどの猫だ

  勇也、近寄り猫を抱き上げる

 

勇也「お前、凄いな~。もしかして、本当に天使か?Xで見た眼球いっぱいのやつは、やっぱガセだったんだな~」

 

??「アンタが連れてきてくれたの?」

 

勇也「え?」

 

  ふと、正面から声がかかる

  一人の少女、こちらを見ている

 

勇也「あいや、連れてきたっていうか、連れてきてもらったっていうか……」

 

??「どっちでもいいけど、とりあえず礼を言うわ。急にいなくなって、探してたのよ」

 

  猫、ピョンと腕を抜け少女の元へ

  少女、猫を抱き上げて頬擦り

 

??「もう、勝手にいなくなっちゃ駄目でしょ~?」

 

  思わず口角が緩む、和やかな光景

  勇也、その少女をじっと見てしまう

  実にエジプシャンな、露出多い深緑の衣装

  金の装飾が、陽の光を反射して眩しく輝く

  ボブカットは、毛先に連れて緑がかっている

  額には、一際大きな金の装飾が目を引く

  まるで、体育祭で鉢巻をつける女子だ

  しかし、それ以上に、何より目を引くのは―

 

勇也M「ね、猫耳……!?」

 

勇也「き、君は……?」

 

バスティ「アタシはバスティ、獣人よ」

 

  バスティ、腰に手を当て勇也に向く

  吊り上がった緑眼は、なるほど猫らしい

  勇也、その答えに狼狽して―

 

勇也「じゅ、獣人!?獣人ってあの、人と獣の混血の……!?」

 

バスティ「それ以外に何があるのよ。アンタは?」

 

勇也「え、は、儚田勇也、です……。一応その、人間……」

 

バスティ「変な名前ね。それに、人間にしては変わった見た目……」

 

勇也「あ、もしかして君が天使?俺を天国に連れてってくれるの?」

 

バスティ「はぁ?何言ってんのよ」

 

勇也「何って……。俺、本当にどこに来たんだ……?」

 

バスティ「どこって、ここは―」

 

??Ⅴ「儚田勇也様、ですね?」

 

勇也「だ、誰……?」

 

  突然かけられる声

  否、それは脳に直接響いてくる

  思わず身構える勇也

  しかし、どこか聞き覚えがある

 

エルマⅤ「神官、エルフ族のエルマと申します」

 

勇也「エルフ……?」

 

バスティ「アンタ、誰と話してんのよ?」

 

  バスティ、怪訝に目を細める

  しかし、当の勇也はそれどころではない

 

エルマⅤ「貴方様を、召喚させていただきました」

 

勇也「……え、今なんて?」

 

エルマⅤ「トラックに轢かれそうになっていた貴方様を、召喚させていただきました」

 

勇也「……召喚って、どこに?」

 

エルマⅤ「ようこそ、異世界・『ボーテンミュイズン』へ!」

 

勇也「異世界?」

 

エルマV「はい」

 

勇也「日本じゃない?」

 

エルマⅤ「はい」

 

勇也「天国でもない?」

 

エルマⅤ「はい」

 

勇也「つまり、異世界召喚ってやつ?」

 

エルマⅤ「はい!」

 

  呆然とする勇也

  エルマの、威勢の良い声が頭に反響する

  やがて、肺いっぱいに息を吸い込み―

 

勇也「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

× × × × ×

 

  地面にベッタリと寝そべる勇也

  猫たちの溜まり場と化している

  その瞳に光はなく、呆然と唇が動く

 

勇也「分からない……。何も分からない……」

 

バスティ「アンタ、大人気ね……」

 

勇也M「どうして俺が、異世界召喚……?あの時、トラックに轢かれたんじゃないのか……?というか、こんなアニメみたいなこと―」

 

エルマⅤ「勇也様、大丈夫ですか?」

 

勇也「いや、全然大丈夫じゃないです……。ど、どうして、俺を召喚したんですか……?」

 

エルマⅤ「詳しいことは、直接お話しいたします。そのため勇也様には、私を見つけていただきたいのです。その地から程遠くないところに、小さな教会があります。私はそこで、貴方様の到着を待っています。どうか、お越しください……。この世界の、平穏のために……」

 

勇也「ちょ、もしも~し!?まだ話し終わってませんよ~!?」

 

  しかし、反応はない

  繋がりが途切れたようだ

  勇也、自暴自棄になり声を荒げる

 

勇也「はい切られた~!俺なにも分からな~い!もうおしまいだ~!」

 

バスティ「うるさいわね、この人間」

 

  項垂れジタバタとする勇也

  その尻の上で、猫が日向ぼっこ

  バシバシと頬を叩かれるが気にならない

  このコントラストが面白い

  バスティ、それに溜息をついて―

 

バスティ「仕方ないわね、アタシが連れて行ってあげる」

 

勇也「え?」

 

バスティ「探してた子見つけてくれたお礼よ。教会の場所ならアタシも知ってるし。別に、アンタが心配だからとかじゃないんだから、勘違いしないでよね……!」

 

勇也「め、女神……!」

 

バスティ「獣人!ほら、行くわよ」

 

勇也「あぁ、待って……!」

 

  ズンズンと歩き出すバスティ

  それに、勇也もヨロッと立ち上がる

  小走りで着いて行く様は、何とも情けない

 

勇也N「突然、異世界召喚された俺。まだ何も分からないことだらけだ。とりあえず、死ぬよりはマシかと思い直したけど……、俺の現実は戻ってくるのだろうか……?」

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