ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ストヴァーニェ・広場
バスティとガンテ、歩いている
ガンテ、手を頭の後ろにやり気怠げ
バスティ「この街も、随分見慣れたわね」
ガンテ「ちっ、買い物とかめんどくせぇ。しかも、ねーちゃんと一緒とか」
バスティ「それはこっちの台詞なんだけど?」
ガンテ「ちゃんと金、持ってきたのかよ」
バスティ「当然よ」
バスティ、金の入った袋を手に持つ
重く、大きく膨れている
ガンテ「にしても、随分溜まったなぁ」
バスティ「魔族や獣族の討伐報酬として稼いだ分よ」
ガンテ「全部、菓子に使おうぜ!」
バスティ「エルマにどやされるわよ」
ガンテ「はぁ~。ま、にーちゃんがあんなんだから、仕方ねぇか」
バスティ「……」
◆ストヴァーニェ・宿屋《回想》
武器を磨くガンテ
バスティ、窓際で香箱座り
そこに、エルマがやってくる
エルマ「お二人とも、少しよろしいですか?」
バスティ「どしたの~?」
エルマ「お二人に、お遣いを頼みたいのですが」
バスティ「アタシ、日光浴で忙しいからパス~」
ガンテ「にーちゃんに行かせろよ。買い出しも、勇者の使命だろ?」
エルマ「それが、ですね……」
◆ストヴァーニェ・宿屋・寝室《回想》
ベッドに仰向けの勇也
まるで意識がないように、一点を見つめる
瞳は絶望の黒に染まり、酷く無機質
ガンテ、愕然として―
ガンテ「そんな、嘘だろ……。まだ俺、にーちゃんとこの世界、旅したかったのに……!にーちゃん、にーちゃん……!うわあぁぁぁぁっ!」
勇也に泣きつくガンテ
エルマ、至って冷静に―
エルマ「まだ死んでいません」
バスティ「どうしたのよ、コイツ」
エルマ「私も、よく存じ上げないのですが……。どうやら、今までの冒険譚を物語?として書き留めていたらしく。それで、以前の女体化した日のことを執筆していたところ、己の行動の愚かさに気付き、それがトラウマとなって酷く心を痛めてしまった、という感じでしょうか……」
バスティ「何やってんのよ」
エルマ「私は、勇也様のお世話をしなければなりません。お金は預けます。今晩はお二人の好物をお作りしますので、どうかお願いします。ゆめゆめ、無駄遣いはなさらないように。お菓子もほどほどにしてくださいね?」
視線を逸らすガンテ
下手くそな口笛を響かせる
●ストヴァーニェ・広場
バスティ「ったく、アタシはいつになったら盟友の証石を渡せるのかしら……」
ガンテ「にーちゃんって、結構繊細だよな」
バスティ「面倒臭いって言うのよ」
ガンテ「……」
〔回想〕
・バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」
・バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」
ガンテM「……柔らかかった」
ガンテ、強く胸を握り締める
不服そうに歯を鳴らして―
ガンテ「ねーちゃん」
バスティ「ん?どうし―」
重い衝撃、周囲に波動が広がる
バスティに拳を打ち込むガンテ
それを片手で受け止めるバスティ
バスティ「……何、ここでやろうっての?」
ガンテ「……ちげぇよ」
バスティ「じゃあ何よ、急に」
ガンテ「何かイライラすんだよ、ねーちゃんといると……!イライラして、この辺がムズムズして……」
バスティ「アンタそれ、もしかして……」
ガンテ「……」
バスティ「風邪でもひいてるんじゃない?アンタも、勇也と一緒に宿屋で―」
ガンテ「ちげーよ!バーカ!」
ガンテ、飛び出して行ってしまう
バスティ「ガンテ!」
屋根を飛び伝って遠くへ
あっという間に姿が見えなくなる
バスティ、怪訝そうに首をかしげて―
バスティ「ったく、変なやつ」
× × × × ×
息を切らすガンテ
ガンテM「あん時からだ……。ねーちゃんといるとイライラして、モヤモヤして……。なのに―」
胸を強く握りしめて―
ガンテ「気ぃ抜くと、ニヤけちまいそうだ……」
●ストヴァーニェ・花屋前
ガンテ、一人ほっつき歩いている
ガンテ「することねぇな~。でも、今はまだねーちゃんのとこには帰りたくねぇ……。かと言って、宿屋に戻ったらエルマにどやされそうだしな~」
その時、ふと何かに気付く
花屋の影から、遠くを覗く巨躯
ガンテ、それに訝しげな顔をする
ズンズンと近づいて行って―
ガンテ「おいお前、怪しいな!」
少年「え……、き、君は……?」
振り向く巨躯、慌てている
図体の割に幼い顔立ち
ガンテ、胸を張って―
ガンテ「俺様は、この世界を守る勇者一行の戦士だ!」
少年「ゆ、勇者一行……!」
ガンテ「お前、巨人だな?こんなとこで何してんだぁ?」
少年「え、えっと……、その、僕は……」
少年、目を泳がせオドオド
ガンテ「言えねぇってことは、後ろめたいことがあるってことだな!これは一発、この俺が制裁を―」
少年「わ~、待って待って!」
ガンテ「んだよ」
少年「じ、実は―」
少年、手に持つ花束を掲げて―
少年「このお花を、あのお店の人にあげたいんだ……」
ガンテ「あん?」
ガンテの視線の先
店頭に、一人の人間族の女性
ガンテ「渡しゃいいじゃねぇか」
少年「そ、そんな簡単に……!」
遣る瀬無さそうに俯く少年
その頬は赤く、体は微かに震えている
ガンテ「もしかしてお前、あの女のこと好きなのか?」
少年「え、いやっ、そ、そんなこっ、とっ、いやっ、ばっ、まだっ、なんでっ―」
ガンテ「はははっ!お前、分かりやすいな」
少年「う~……」
ガンテ「そーかそーか……。そういうことなら、この戦士様に任せろ!」
少年「え?」
ガンテ、花束をバッと奪う
× × × × ×
店頭に立つ女性
そこに、ダダダダダッと足音
ふと、その方向を見て唖然
ガンテ、花束を振ってこちらに走ってくる
少年、それを全力で引き留める
ガンテ「お~い!こいつがお前のこと好―」
少年「ダメダメダメダメダメ!」
ガンテ「んだよ、もうちょっとだったのに」
少年「いくら戦士様でも、パワープレイが過ぎるって!」
少年、ガンテを引きずって遠ざかる
それを見つめる女性、首をかしげる
× × × × ×
花屋横に腰かける少年
ガンテ、彼を見下ろして―
ガンテ「ったく、情けねぇ。男だったら、あんぐれぇバシッと決めろ!」
少年「戦士様みたいにはできないよ……」
ガンテ「にしても、巨人族と人間族か……。言うて、関りねぇだろ?」
少年「まぁね。ただの店員と客だよ。その……、まだ小さい頃に一目惚れして、それからずっと好きなんだ……」
ガンテ「ほ~ん?」
少年「だから、どうしても仲良くなりたい。けど、そうやって頑張ってる自分が気持ち悪くて……。どうしようもなく好きなのに、そんな自分が嫌になるんだ……」
ガンテ「何だそれ」
少年「そもそも、巨人族が人間族に……、なんておかしいよね。僕なんかがこんなの……、迷惑だよね……」
俯き、声音を低くする少年
しかし、ガンテ、あっけらかんと―
ガンテ「別に、んなことねぇだろ」
少年「え……?」
ガンテ「そりゃ、急に花束渡されたら、何だコイツってなるかも知んねぇけど」
少年「うぅ……」
ガンテ「でも、迷惑なんてことねぇよ。ましてや、異種族同士だからおかしいなんてこと、絶対にねぇ。それは、俺が一番よく分かってる」
真っ直ぐに少年を見つめるガンテ
強い意志が感じられる瞳
少年「……もしかして、戦士様も好きな人、いるの?」
ガンテ「え?」
●ストヴァーニェ・宿屋・寝室
ベッドに仰向けの勇也
絶望顔、より色濃くなっている
無機質に、口をパクパク
勇也「あ……、うぁ……」
エルマ「……よほど、心に深い傷を負ってしまわれたのでしょう……。ですが、このままずっとストヴァーニェに滞在するわけにもいきません。魔王の手は、今も世界樹に迫りつつあるのですから……」
エルマ、杖を構えて―
エルマ「『ポッドゾナース』」
エルマの体、光り輝く
やがて、光の粒子となり散る
× × × × ×
そこは、まるで海の底
どこまでも暗い闇が、延々と続いている
その中に、祈るように佇むエルマ
エルマM「勇也様の、数ある潜在意識。その中から、勇也様の心を蝕んだものを排除すれば、心を持ち直し、再び目覚めるはず……」
様々な記憶の断片が漂う
その中に、女体化時のものを見つける
エルマ「あれですね」
エルマ、杖を構えて―
エルマ「『ラズルーシェ』」
女体化時の記憶、砕け散る
エルマ、一息ついて―
エルマ「さて、戻りま―」
その時、何かに気付く
黒い淀み、目の前を過ぎる
ふと、視線を向ける
遠方、漆黒の何かが蠢き膨張している
エルマ「あれは……」
× × × × ×
勇也、ふと気づき体を起こす
勇也「……エルマ」
エルマ「おはようございます、勇也様」
勇也「え、もしかして俺、ずっと寝てた?」
エルマ「はい。それはもう、ぐっすりと」
勇也「うわ~、やっちまった~!」
エルマ、勇也に仕方なく微笑み―
エルマ「勇也様は、もう少し精神も鍛えなくてはなりませんね」
勇也「ん?あ、あぁ……、お、お手柔らかに……」
エルマM「……それにしても、あれは」
〔回想〕
・遠方、漆黒の何かが蠢き膨張している
エルマM「潜在意識の奥深くに、酷くこびり付いているような……。トラウマよりも、もっと大きな何か……」
エルマ、小さくため息をつく
エルマM「憶測の域を出ませんね……」
●ストヴァーニェ・広場
ベンチに座るガンテと少年
その手には、もう花束はない
少年「ありがとう、戦士様のおかげだよ!」
ガンテ「俺は何もやってねぇよ」
少年「これからもたくさん渡して、もっと仲良くなれるように頑張る!」
ガンテ「まぁ、ビビらせねぇようにな」
少年「それで、戦士様は誰が好きなの?」
ガンテ「あぁ?俺は別に、好きとかそんなんじゃねぇよ。ただ、一緒にいるとイライラして、モヤモヤして……、こう、変な感じになるだけだ」
少年「その人のこと、ずっと考えたりする?」
ガンテ「考えるってか、ずっと一緒だから考えざるを得ないような……」
少年「もし、その人が怪我とかしたら悲しい?」
ガンテ「あいつ、俺に負けず劣らずの実力だからな~。あんま考えらんねぇ」
少年「難しいね……」
ガンテ「ただ不思議と、あいつといると笑いそうになる……。自分の筋肉なのに、自分で抑えが効かねぇってのは変な話だけどよ」
少年、ハッと眉を上げる
少年「……それって、やっぱり好―」
バスティ「ガンテー!」
バスティ、小走りで来る
手には買い出しの大荷物
バスティ「ったく、急にいなくなるから探したじゃない」
ガンテ「んな大荷物抱えて、本当に探してたのかぁ?」
バスティ「もちろん、買い物ついでよ」
ガンテ「酷ぇ!」
二人のやり取りを見つめる少年
フッと笑い、立ち上がる
少年「じゃあ、僕は行くよ」
ガンテ「ん?おぉ、頑張れよ」
少年「うん。戦士さんも、頑張ってね!」
少年、ペコリとお辞儀
踵を返し、ドスドスと歩き去る
バスティ「あれ、巨人よね。知り合い?」
ガンテ「いんや?何か色恋沙汰に巻き込まれた」
バスティ「アンタが?似合わないわねぇ~」
ガンテ「んなことねぇだろ!」
バスティ「じゃあ、アンタは誰か好きな人でもいるの?」
ガンテ「俺は……」
〔回想〕
・バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」
・バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」
ガンテ「……さぁな!」
バスティ「ふ~ん?」
ニヤニヤと、ガンテを覗き込むバスティ
その時、悲鳴が上がる
ガンテ「今の……!」
バスティ「行きましょう!」
ガンテ「あぁ!」
バスティとガンテ、ダッと走り出す
× × × × ×
窓の外を覗くエルマ
エルマ「街が騒がしい……」
勇也「い、今の悲鳴って……!」
エルマ「はい。出番です、勇也様」
勇也「うん……!」
勇也、力強く頷く