ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~   作:であであ

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第一四幕 大きな胸に芽生える蕾

●ストヴァーニェ・広場

 

  バスティとガンテ、歩いている

  ガンテ、手を頭の後ろにやり気怠げ

 

バスティ「この街も、随分見慣れたわね」

 

ガンテ「ちっ、買い物とかめんどくせぇ。しかも、ねーちゃんと一緒とか」

 

バスティ「それはこっちの台詞なんだけど?」

 

ガンテ「ちゃんと金、持ってきたのかよ」

 

バスティ「当然よ」

 

  バスティ、金の入った袋を手に持つ

  重く、大きく膨れている

 

ガンテ「にしても、随分溜まったなぁ」

 

バスティ「魔族や獣族の討伐報酬として稼いだ分よ」

 

ガンテ「全部、菓子に使おうぜ!」

 

バスティ「エルマにどやされるわよ」

 

ガンテ「はぁ~。ま、にーちゃんがあんなんだから、仕方ねぇか」

 

バスティ「……」

 

◆ストヴァーニェ・宿屋《回想》

 

  武器を磨くガンテ

  バスティ、窓際で香箱座り

  そこに、エルマがやってくる

 

エルマ「お二人とも、少しよろしいですか?」

 

バスティ「どしたの~?」

 

エルマ「お二人に、お遣いを頼みたいのですが」

 

バスティ「アタシ、日光浴で忙しいからパス~」

 

ガンテ「にーちゃんに行かせろよ。買い出しも、勇者の使命だろ?」

 

エルマ「それが、ですね……」

 

◆ストヴァーニェ・宿屋・寝室《回想》

 

  ベッドに仰向けの勇也

  まるで意識がないように、一点を見つめる

  瞳は絶望の黒に染まり、酷く無機質

  ガンテ、愕然として―

 

ガンテ「そんな、嘘だろ……。まだ俺、にーちゃんとこの世界、旅したかったのに……!にーちゃん、にーちゃん……!うわあぁぁぁぁっ!」

 

  勇也に泣きつくガンテ

  エルマ、至って冷静に―

 

エルマ「まだ死んでいません」

 

バスティ「どうしたのよ、コイツ」

 

エルマ「私も、よく存じ上げないのですが……。どうやら、今までの冒険譚を物語?として書き留めていたらしく。それで、以前の女体化した日のことを執筆していたところ、己の行動の愚かさに気付き、それがトラウマとなって酷く心を痛めてしまった、という感じでしょうか……」

 

バスティ「何やってんのよ」

 

エルマ「私は、勇也様のお世話をしなければなりません。お金は預けます。今晩はお二人の好物をお作りしますので、どうかお願いします。ゆめゆめ、無駄遣いはなさらないように。お菓子もほどほどにしてくださいね?」

 

  視線を逸らすガンテ

  下手くそな口笛を響かせる

 

●ストヴァーニェ・広場

 

バスティ「ったく、アタシはいつになったら盟友の証石を渡せるのかしら……」

 

ガンテ「にーちゃんって、結構繊細だよな」

 

バスティ「面倒臭いって言うのよ」

 

ガンテ「……」

 

  〔回想〕

  ・バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」

  ・バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」

 

ガンテM「……柔らかかった」

 

  ガンテ、強く胸を握り締める

  不服そうに歯を鳴らして―

 

ガンテ「ねーちゃん」

 

バスティ「ん?どうし―」

 

  重い衝撃、周囲に波動が広がる

  バスティに拳を打ち込むガンテ

  それを片手で受け止めるバスティ

 

バスティ「……何、ここでやろうっての?」

 

ガンテ「……ちげぇよ」

 

バスティ「じゃあ何よ、急に」

 

ガンテ「何かイライラすんだよ、ねーちゃんといると……!イライラして、この辺がムズムズして……」

 

バスティ「アンタそれ、もしかして……」

 

ガンテ「……」

 

バスティ「風邪でもひいてるんじゃない?アンタも、勇也と一緒に宿屋で―」

 

ガンテ「ちげーよ!バーカ!」

 

  ガンテ、飛び出して行ってしまう

 

バスティ「ガンテ!」

 

  屋根を飛び伝って遠くへ

  あっという間に姿が見えなくなる

  バスティ、怪訝そうに首をかしげて―

 

バスティ「ったく、変なやつ」

 

× × × × ×

 

  息を切らすガンテ

 

ガンテM「あん時からだ……。ねーちゃんといるとイライラして、モヤモヤして……。なのに―」

 

  胸を強く握りしめて―

 

ガンテ「気ぃ抜くと、ニヤけちまいそうだ……」

 

●ストヴァーニェ・花屋前

 

  ガンテ、一人ほっつき歩いている

 

ガンテ「することねぇな~。でも、今はまだねーちゃんのとこには帰りたくねぇ……。かと言って、宿屋に戻ったらエルマにどやされそうだしな~」

 

  その時、ふと何かに気付く

  花屋の影から、遠くを覗く巨躯

  ガンテ、それに訝しげな顔をする

  ズンズンと近づいて行って―

 

 

ガンテ「おいお前、怪しいな!」

 

少年「え……、き、君は……?」

 

  振り向く巨躯、慌てている

  図体の割に幼い顔立ち

  ガンテ、胸を張って―

 

ガンテ「俺様は、この世界を守る勇者一行の戦士だ!」

 

少年「ゆ、勇者一行……!」

 

ガンテ「お前、巨人だな?こんなとこで何してんだぁ?」

 

少年「え、えっと……、その、僕は……」

 

  少年、目を泳がせオドオド

 

ガンテ「言えねぇってことは、後ろめたいことがあるってことだな!これは一発、この俺が制裁を―」

 

少年「わ~、待って待って!」

 

ガンテ「んだよ」

 

少年「じ、実は―」

 

  少年、手に持つ花束を掲げて―

 

少年「このお花を、あのお店の人にあげたいんだ……」

 

ガンテ「あん?」

 

  ガンテの視線の先

  店頭に、一人の人間族の女性

 

ガンテ「渡しゃいいじゃねぇか」

 

少年「そ、そんな簡単に……!」

 

  遣る瀬無さそうに俯く少年

  その頬は赤く、体は微かに震えている

 

ガンテ「もしかしてお前、あの女のこと好きなのか?」

 

少年「え、いやっ、そ、そんなこっ、とっ、いやっ、ばっ、まだっ、なんでっ―」

 

ガンテ「はははっ!お前、分かりやすいな」

 

少年「う~……」

 

ガンテ「そーかそーか……。そういうことなら、この戦士様に任せろ!」

 

少年「え?」

 

  ガンテ、花束をバッと奪う

 

× × × × ×

 

  店頭に立つ女性

  そこに、ダダダダダッと足音

  ふと、その方向を見て唖然

  ガンテ、花束を振ってこちらに走ってくる

  少年、それを全力で引き留める

 

ガンテ「お~い!こいつがお前のこと好―」

 

少年「ダメダメダメダメダメ!」

 

ガンテ「んだよ、もうちょっとだったのに」

 

少年「いくら戦士様でも、パワープレイが過ぎるって!」

 

  少年、ガンテを引きずって遠ざかる

  それを見つめる女性、首をかしげる

 

× × × × ×

 

  花屋横に腰かける少年

  ガンテ、彼を見下ろして―

 

ガンテ「ったく、情けねぇ。男だったら、あんぐれぇバシッと決めろ!」

 

少年「戦士様みたいにはできないよ……」

 

ガンテ「にしても、巨人族と人間族か……。言うて、関りねぇだろ?」

 

少年「まぁね。ただの店員と客だよ。その……、まだ小さい頃に一目惚れして、それからずっと好きなんだ……」

 

ガンテ「ほ~ん?」

 

少年「だから、どうしても仲良くなりたい。けど、そうやって頑張ってる自分が気持ち悪くて……。どうしようもなく好きなのに、そんな自分が嫌になるんだ……」

 

ガンテ「何だそれ」

 

少年「そもそも、巨人族が人間族に……、なんておかしいよね。僕なんかがこんなの……、迷惑だよね……」

 

  俯き、声音を低くする少年

  しかし、ガンテ、あっけらかんと―

 

ガンテ「別に、んなことねぇだろ」

 

少年「え……?」

 

ガンテ「そりゃ、急に花束渡されたら、何だコイツってなるかも知んねぇけど」

 

少年「うぅ……」

 

ガンテ「でも、迷惑なんてことねぇよ。ましてや、異種族同士だからおかしいなんてこと、絶対にねぇ。それは、俺が一番よく分かってる」

 

  真っ直ぐに少年を見つめるガンテ

  強い意志が感じられる瞳

 

少年「……もしかして、戦士様も好きな人、いるの?」

 

ガンテ「え?」

 

●ストヴァーニェ・宿屋・寝室

 

  ベッドに仰向けの勇也

  絶望顔、より色濃くなっている

  無機質に、口をパクパク

 

勇也「あ……、うぁ……」

 

エルマ「……よほど、心に深い傷を負ってしまわれたのでしょう……。ですが、このままずっとストヴァーニェに滞在するわけにもいきません。魔王の手は、今も世界樹に迫りつつあるのですから……」

 

  エルマ、杖を構えて―

 

エルマ「『ポッドゾナース』」

 

  エルマの体、光り輝く

  やがて、光の粒子となり散る

 

× × × × ×

 

  そこは、まるで海の底

  どこまでも暗い闇が、延々と続いている

  その中に、祈るように佇むエルマ

 

エルマM「勇也様の、数ある潜在意識。その中から、勇也様の心を蝕んだものを排除すれば、心を持ち直し、再び目覚めるはず……」

 

  様々な記憶の断片が漂う

  その中に、女体化時のものを見つける

 

エルマ「あれですね」

 

  エルマ、杖を構えて―

 

エルマ「『ラズルーシェ』」

 

  女体化時の記憶、砕け散る

  エルマ、一息ついて―

 

エルマ「さて、戻りま―」

 

  その時、何かに気付く

  黒い淀み、目の前を過ぎる

  ふと、視線を向ける

  遠方、漆黒の何かが蠢き膨張している

 

エルマ「あれは……」

 

× × × × ×

 

  勇也、ふと気づき体を起こす

 

勇也「……エルマ」

 

エルマ「おはようございます、勇也様」

 

勇也「え、もしかして俺、ずっと寝てた?」

 

エルマ「はい。それはもう、ぐっすりと」

 

勇也「うわ~、やっちまった~!」

 

  エルマ、勇也に仕方なく微笑み―

 

エルマ「勇也様は、もう少し精神も鍛えなくてはなりませんね」

 

勇也「ん?あ、あぁ……、お、お手柔らかに……」

 

エルマM「……それにしても、あれは」

 

  〔回想〕

  ・遠方、漆黒の何かが蠢き膨張している

 

エルマM「潜在意識の奥深くに、酷くこびり付いているような……。トラウマよりも、もっと大きな何か……」

 

  エルマ、小さくため息をつく

 

エルマM「憶測の域を出ませんね……」

 

●ストヴァーニェ・広場

 

  ベンチに座るガンテと少年

  その手には、もう花束はない

 

少年「ありがとう、戦士様のおかげだよ!」

 

ガンテ「俺は何もやってねぇよ」

 

少年「これからもたくさん渡して、もっと仲良くなれるように頑張る!」

 

ガンテ「まぁ、ビビらせねぇようにな」

 

少年「それで、戦士様は誰が好きなの?」

 

ガンテ「あぁ?俺は別に、好きとかそんなんじゃねぇよ。ただ、一緒にいるとイライラして、モヤモヤして……、こう、変な感じになるだけだ」

 

少年「その人のこと、ずっと考えたりする?」

 

ガンテ「考えるってか、ずっと一緒だから考えざるを得ないような……」

 

少年「もし、その人が怪我とかしたら悲しい?」

 

ガンテ「あいつ、俺に負けず劣らずの実力だからな~。あんま考えらんねぇ」

 

少年「難しいね……」

 

ガンテ「ただ不思議と、あいつといると笑いそうになる……。自分の筋肉なのに、自分で抑えが効かねぇってのは変な話だけどよ」

 

  少年、ハッと眉を上げる

 

少年「……それって、やっぱり好―」

 

バスティ「ガンテー!」

 

  バスティ、小走りで来る

  手には買い出しの大荷物

 

バスティ「ったく、急にいなくなるから探したじゃない」

 

ガンテ「んな大荷物抱えて、本当に探してたのかぁ?」

 

バスティ「もちろん、買い物ついでよ」

 

ガンテ「酷ぇ!」

 

  二人のやり取りを見つめる少年

  フッと笑い、立ち上がる

 

少年「じゃあ、僕は行くよ」

 

ガンテ「ん?おぉ、頑張れよ」

 

少年「うん。戦士さんも、頑張ってね!」

 

  少年、ペコリとお辞儀

  踵を返し、ドスドスと歩き去る

 

バスティ「あれ、巨人よね。知り合い?」

 

ガンテ「いんや?何か色恋沙汰に巻き込まれた」

 

バスティ「アンタが?似合わないわねぇ~」

 

ガンテ「んなことねぇだろ!」

 

バスティ「じゃあ、アンタは誰か好きな人でもいるの?」

 

ガンテ「俺は……」

 

  〔回想〕

  ・バスティ「もう、アンタ急に可愛くなり過ぎよ!」

  ・バスティ「いいじゃない。今日が終わったら、またクソガキのアンタに戻っちゃうんだから」

 

ガンテ「……さぁな!」

 

バスティ「ふ~ん?」

 

  ニヤニヤと、ガンテを覗き込むバスティ

  その時、悲鳴が上がる

 

ガンテ「今の……!」

 

バスティ「行きましょう!」

 

ガンテ「あぁ!」

 

  バスティとガンテ、ダッと走り出す

 

× × × × ×

 

  窓の外を覗くエルマ

 

エルマ「街が騒がしい……」

 

勇也「い、今の悲鳴って……!」

 

エルマ「はい。出番です、勇也様」

 

勇也「うん……!」

 

  勇也、力強く頷く

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