ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン・平原
新緑の草原が陽に照らされ輝く
爽やかな空気が、体中を駆け巡る
ズンズンと歩を進めるバスティ
上機嫌に、尻尾がクネクネと動く
ある時、ふと振り返り―
バスティ「そういえばアンタ、さっき誰とh―」
勇也「家に帰りたい~っ!」
一方、勇也は地面に這い蹲り中だ
四肢をゴキブリのようにカサカサと動かす
それに、冷たい視線を送るバスティ
こんなもの、誰が見たって呆れる
勇也「ベッドに寝転がってアニメ見たい~!モニターの無機質な明かりが恋しい~!自然光とか体が蒸発する~!」
バスティ「吸血族みたいなこと言ってるわね……」
思わず溜息をつくバスティ
勇也の腕をグイと引っ張り―
バスティ「ほら、立ちなさいよ!教会行くんでしょ!」
勇也「うぅ……、ちょっと気が強めの獣人少女だ……」
しぶしぶ立ち上がる勇也
目に涙が滲み、ウルウルと揺れる
瞬間、その目をハッと見開く
自分の手を凝視して―
勇也M「女の子に、手を触ってもらえた……。生まれて、初めて……」
戦慄し、バスティを見やる
その頬は僅かに赤く、息は荒い
勇也「もしかして、君がメインヒロイン……?」
バスティ「何言ってるのか分からないけど、余計な期待はしないことね」
× × × × ×
歩を進めるバスティ
その後ろを、勇也がトボトボと歩く
身を竦め、遠慮がちな声で―
勇也「バ、バスティちゃん……?バスティさん……、はエルマちゃん……?エルマさんって知ってますか……?」
バスティ「……」
ふと立ち止まるバスティ
ジト目で勇也を見つめる
勇也「バ、バスティちゃんさん……?」
バスティ「そんなに言い淀むなら呼び捨てでいいわよ。それと、敬語は禁止。余所余所しいの好きじゃないのよね」
勇也「あ、う、うん……、そのつもり、だったんだけど俺も、その……」
バスティ「なによ?」
勇也「せ、正式に許可を貰わないと、不快感を与えてしまうかな~と……」
バスティ「考え過ぎよ」
× × × × ×
バスティ「で、そのエルマって人は、何族なの?」
改めて、バスティが振り返り問う
それに、勇也は悩まし気に―
勇也「エルフ族って言ってた。神官をやってるって」
バスティ「エルフで神官……?変ね、たしかエルフって……」
バスティ、ボソボソと何かを呟く
眉を寄せ、何か思案しているようだ
勇也、それに疑問符を浮かべて―
勇也「何がおかしいの?」
バスティ「いえ、こっちの話しよ。それでアンタは、この世界に召喚?されてきたってことね」
勇也「そうそう。って、そんな簡単に受け入れられないんだけど……」
バスティ「アタシだって、異世界人と会ったのはこれが初めてよ。でも、いくつか伝承は聞いたりしてるから、本当だったんだ~って感じね」
勇也「にしては、小慣れてる感じだけど……」
バスティ「ねぇ、アンタがいた世界ってどんななの?アタシ、気になるわ」
勇也「俺がいた世界……」
呟き、思案する勇也
やがて、瞳に影を落として応える
しかし、口元には陰気な笑みを浮かべて―
勇也「暗くて、散らかってて、じめっとしたところ、かな……」
バスティ「え、何それ。キツ」
勇也「でも、俺にとっては天国だったんだよ~。あ~、涙がちょちょ切れそう……」
バスティ「ったく、情けないわねぇ」
身を竦める勇也
バスティ、それに溜息をついて―
バスティ「そんなアンタに、いいもん見せてあげるわよ」
勇也「いいもん……?」
バスティ「前、見てみなさい」
バスティに促され、正面を見る勇也
その光景に、瞠目する
パッと、表情に華が咲く
バスティ「アタシのお気に入りの景色よ」
どこまでも広がる大地
大きな湖、太陽を反射し輝く
しかし、崖上から見たものとは異なる点が
視界の中央、巨大な樹木が聳える
天を貫き、その樹冠は遥か雲の上
まさに、幻想的な光景
平原を、爽やかな風が吹き抜ける
勇也、ゴクリと息をのみ―
勇也N「俺だって、憧れがなかったわけじゃない」
◆儚田宅・勇也の部屋《回想》
暗く雑然とした部屋
モニターに向かう勇也
勇也N「オタク友達に教えてもらったゲームで、俺は広大な世界を旅して、仲間との絆を深めて、勝利の喜びを知った。あのゲームが、俺のファンタジーへの扉だった。それから一時期、数々の異世界モノを見漁った。まぁ、友人には叶わなかったけど。それでも、あの感動を、あの喜びを、俺が、俺自身が味わえる……、そんな現実が本当にあるなら……!」
●ボーテミュイズン・平原
勇也「……エルフって、耳長いんだよな」
バスティ「え?」
勇也「美人が多いっていうし」
バスティ「まぁ、そうかしらね」
勇也「獣人って、まんま獣に変身できるんだよな!?」
羨望の眼差しをグイと向ける勇也
先程までの落ち込みはどこへやら
バスティ、その圧と輝きに目を覆い―
バスティ「そ、そういうのもいるわよ!アタシは出来ないけどぉ!」
勇也「よし、教会に向かおう!今すぐ向かおう!大冒険が、俺を待ってる予感がする!否、待っている!」
勇也、ズンズンと突き進む
バスティ、それに仕方なく溜息
バスティ「ったく、調子いいんだから……」
●ボーテミュイズン・教会前
勇也「これが、教会……」
勇也とバスティの見上げる先
石造りの小さな教会
大部分が苔に覆われている
壁面は崩れており、瓦礫が散乱
廃退的で、不気味な雰囲気
周囲が明るくても、それは変わらない
バスティ「えぇ、間違いないわ。にしても、しばらく見ない間に随分とまぁ」
呟きながら、中に入るバスティ
勇也も、その後ろをついていく
●ボーテミュイズン・教会・聖堂内
並べられた座席はボロボロに朽ちている
最奥の祭壇に伸びるカーペット
色褪せ鮮やかさはなく、擦り切れている
勇也、身を縮こませながら―
勇也「なんか……、出そう」
バスティ「大丈夫よ。そんな噂、一度も―」
その時、何かの声が反響する
どうやら、子供の泣き声だ
ビクッと肩を震わせる勇也
勇也「な、何……!?」
バスティ「驚き過ぎよ。ただの子供じゃない」
バスティ、傍らの席の足元を覗き込む
そこには、一人の少年の姿
蹲り、肩を震わせている
泣いているようだ
その顔までは見えないが
バスティ「いた。アンタ、こんなところで何し―」
少年の肩に触れるバスティ
その手に、何かが糸を引く
バスティ「これ……」
瞬間、ドロッと崩れる少年
その何かが、バスティに飛んでくる
寸前で身を翻すバスティ
青く、弾力と粘度のある何か
湿った音を立てて地面に弾む
バスティ、それを鋭く睨み―
バスティ「モンスターだったのね……」
勇也「もしかして……、スライム?」
バスティ「えぇ。子供に化けてたんだわ」
勇也「や、やっぱり初エンカはスライムって相場が決まってるんだ。流石の俺でも、あのくらいなら―」
バスティ「油断しないで」
勇也「え?」
バスティ「スライムは、触れた相手を取り込んで、その姿に化けることが出来るの」
勇也「え、何それ聞いてない」
バスティ「この世界では常識よ」
勇也「……ってことは、さっきの少年の姿は」
バスティ「可哀そうに、一瞬だったでしょうね……。それに、さっきアタシが触った時に取り込まれなかったのも奇跡みたいなものよ」
勇也「今まで葬ってきたスライムは数知れず。歴戦の勇者ゆえ、この戦いは君に任せよう、バスティ!」
威勢のいい表情の勇也
しかし、体は座席の裏で震えている
バスティ「逃げるの早っ!」
飛びついてくるスライム
バスティ、それを軽々と躱す
しかし、その表情は深刻だ
バスティ「格闘専門のアタシとは、相性最悪なのよ!次触れれば、一瞬で取り込まれるかもしれない。避けるのは簡単だけど、このままじゃ勝つことも出来ないわ!」
勇也「スライムと相性がいいのは、遠距離攻撃……」
バスティ「えぇ、魔法とかね。物理攻撃だと、それも取り込まれるわ」
勇也「俺はもちろん、バスティも魔法は使えないのか……」
勇也M「っていうか、俺は何が出来るんだ……?普通、異世界に召喚された勇者は、何か特別な力を持ってるってのが定石だけど……。俺のチート能力は、何だ?」
バスティ「危ないっ!」
勇也「え?」
目を伏せ考え込む勇也
故に、バスティの声に反応が遅れる
こちらに飛んでくるスライム
獲物を取り込まんと、大きく口を開く
眼前に迫る、もう避けられない
勇也M「あぁ、おわ―」
??「『ヴズリーブ』!」
直後、スライムが爆散
足元、小さく火があがる
唖然とする勇也、言葉が出てこない
バスティも、状況が呑み込めていないよう
その時、コツコツと足音が響く
??Ⅴ「お待ちしておりました、儚田勇也様」
勇也「だ、誰……?」
手に持つ長い杖
白いローブが、風にはためく
エルフ耳の少女、上品に微笑み―
エルマ「神官、エルフ族のエルマと申します。貴方様を、召喚させていただきました」