ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●リーシェティムサバト
コトコト、足音が響く
暗く、冷たく、そして静か
キュバラー、気だるげに溜息
??「気掛かりがあるなら言葉にしなよ。あからさまな行動で、相手に察することを強要しないで」
キュバラー「何よ、冷たいわねん」
キュバラー、席に腰かけ―
キュバラー「ナーチが、勇者の坊やに尻尾振りまくりなのよん。心配だわ、家族として。大切に育ててきたのよん?」
??「……よく言うよ。まぁ、もしそうなっても、端から素質がなかった、ただそれだけの話し。魔王様に仕える器じゃなかったんだ」
キュバラー「そうねん。……復活の時も近い。ここが、頑張り時よねん」
??「見え透いた忠誠心の君が、今更何を」
キュバラー「アーシの話しはいいのよん。それより、アータは上手くやってるのかしらん、コートヴァ?」
円卓、椅子が立ち並ぶ
その一つに、何かが座っている
人形だ
何の変哲もない、無機質な
その真っ黒な瞳で、キュバラーを見つめる
コートヴァ「当然だよ。俺は、君と違って悪ふざけはしないから」
キュバラー「……相変わらず、感じ悪いわねん」
エルマ(声)「『ヴズリーブ』!」
直後、爆発音が響く
壁、激しく砕け散る
パラパラと落ちる瓦礫
そこに、ザッと足音
勇也一行、乗り込んでくる
ヴァラー「エルマ、監視は任せた」
エルマ「はい」
キュバラー「あら、勇者の坊やじゃないのん。随分と、派手なご登場ねん」
ヴァラー「いつもそっちから来てもらってるから、偶にはこっちから顔出さなきゃと思ってね」
キュバラー「お気遣いありがとう」
キュバラー、鋭く目を細める
キュバラー「ナーチ、アータの差し金ねん……?」
ハッと息をのむナーチ
だが、決然とした顔を上げ―
ナーチ「私はもう、リーシェティムには戻りません……!」
キュバラー「まさか、本当に裏切るなんて、困った子ねん。拾ってあげた恩も忘れたのかしらん?」
バトラー「俺たちが誘ったんだ。こいつに非はねぇよ、ババア」
キュバラー「結局、寝返っていたら同じことよん。いいわん、せっかく遊びに来てくれたのだから、楽しみましょ?後悔させてあげる……」
バトラー「にーちゃん、ここは頼んだ」
バスティ「アタシたちは、もう一体を追うわ」
ヴァラー「分かった。よろしく」
バスティとバトラー、走り去る
奥の暗闇へと姿を消す
ヴァラー、剣を抜き、飛び掛かる
ヴァラー「だぁーっ!」
容赦なく叩きつけられる白刃
しかしキュバラー、それを片腕で受け止める
身を翻し、飛び掛かるヴァラー
壁を突き破り、サバトの外へ
ヴァラー「『ヴラシューダ』!」
ヴァラー、高速回転
キュバラーに突撃する
だが、それを小指で止めるキュバラー
ヴァラー「……!」
キュバラー「忘れたのかしらん、勇者の坊や?アーシは淫鬼族……、“鬼”なのよん?そんな短小極細貧弱な剣で、アーシに傷がつけられるとでも?」
キュバラーの蹴り、ヴァラーに炸裂
地面を抉り、吹き飛ぶ
ヴァラー「な、な~んかメンタルにも来るな~……」
ヴァラー、立ち上がり―
ヴァラー「『カピーチ』」
強大な力、剣に集約
紅の力のオーラを発する
ヴァラー「馬鹿力には馬鹿力だ!『リダミール』!」
剣を振り抜くヴァラー
紅の巨大な斬撃が飛翔
キュバラーを刈らんと空を穿つ
しかしキュバラー、それさえ片手で掴み止める
グッと拳を握る、斬撃が弾け散る
ヴァラー「……!」
瞬間、キュバラーの顔、目の前に
華麗な縦回転、踵落とし
ヴァラーの後頭部を打つ
ヴァラー「がっ……」
ヴァラー、地面に顔面を叩きつける
微かに痙攣している
キュバラー、それを悠然と見下ろし―
キュバラー「まだまだ、レベル不足ねん」
その時、ザッと足音
ふと顔を上げるキュバラー
ナーチ、こちらを睨む
鋭い目つき、だが体は―
キュバラー「震えてるじゃない」
ナーチ「……」
キュバラー「最後のチャンスよん。今戻ってくるなら、許してあげるわん」
しかしナーチ、決然とした表情を崩さない
ナーチ「絶対に、戻らない……。私は、勇也しゃんと一緒に魔王を倒す……!そしてこの世界で、普通の女の子として生きる!」
キュバラー「……そ、残念」
キュバラー、ギロッと目を見開いて―
キュバラー「ならアータも、ここで終わらせてあげる」
× × × × ×
タッタッタと足音、空虚に響く
バスティとバトラー、辺りを見回している
何もない、長方形の空間、暗い
バトラー「もう一人いたはずだ」
バスティ「えぇ、話し声が聞こえたわ」
その時、ふと立ち止まるバスティ
正面、何かを見つける
バスティ「あれ……」
バトラー「ん?」
バトラー、視線を向ける
正面、中央に椅子、ポツンと
そこに一つの人形、座っている
真っ黒な瞳、二人を見つめる
バトラー「人形……?」
コートヴァ「君、獣人だよね?」
バトラー「……!」
バスティ「喋った……!」
コートヴァ「人形族、知らないかい?」
バスティ「聞いたことないわ……」
コートヴァ「……まぁ、それもそうか」
バトラー「おい、俺もいんだぞ、無視すんじゃねぇ!」
コートヴァ「そうだね。でも今は、獣人の彼女と話したいんだ。邪魔をしないでくれるかな?」
バトラー「ちっ、だとよ」
バスティ「別に、アタシはアンタと話すことなんて―」
コートヴァ「君の故郷、少し弄らせてもらったよ」
バスティ「……え?」
コートヴァ「今頃、面白いことになってるかもね」
無表情に伝えるコートヴァ
その声は、不気味な笑みを孕んでいる
バスティ「……パパ……、みんな……」
ブツブツと呟くバスティ
グルグルと視界が回り、歪む
様々な感情、思考が入り乱れる
頭が混乱し、胸が詰まる
バトラー「おい、大丈夫か!」
バッと顔を上げるバスティ
正気に戻る
バスティ「……えぇ、平気よ。それより、今すぐ殺りましょう」
バトラー「あぁ、あんな人形ぽっち、俺の拳で簡単に―」
コートヴァ「無理だよ」
バトラー「あぁ?」
コートヴァ「君たちに、俺は殺せない……」
バトラー「そんなん、やってみなきゃ分か―」
直後、コートヴァ、蠢く
グニグニと、奇妙な変形を繰り返す
やがて、人の形を作る
そして、現れたのは―
バスティ「……!」
バトラー「にーちゃん……!」
コートヴァ―否、勇也、二人を見る
邪悪に口角を上げて笑う
× × × × ×
ナーチ、高速で地を駆けている
残像がいくつも見えるほどの速度
手に持つデュアルダガー
構えて、キュバラーに斬りかかる
しかし、それを見逃さないキュバラー
ナーチの首を掴み、持ち上げる
ナーチ「ぐっ……!」
キュバラー「いつもワンパターンなのよん、アータは。初めてアーシと会った時も、そんな風に襲ってきて……。優しく、愛情深く育てて上げたのに……、恩を仇で返すような子に、ママは育てた覚えはないわよん?」
ナーチ「誰が……、ママ……!」
キュバラー、首を握る力を強める
ナーチ、苦痛に顔がひしゃげる
キュバラー「そんなんだから、勇者の坊やなんかに手懐けられるのよん。本当、どこまでも醜く浅ましい子……。勇者と旅をする?魔王を倒す?普通の女の子になる?アータみたいな下賤種が、そんな人生送れるわけないでしょ。精々、道端で餓死するのが関の山よ。まだ、アーシみたいな心の広い鬼に出会えて幸せ者だって言うのに……。はぁ、調教が足りなかったかしらねん。いいわん、今からたっぷり―」
直後、腕を斬りかかる剣
ヴァラー、その複眼に淫鬼を映し―
ヴァラー「ナーチを、虐めるな……!」
キュバラー「……アータは、もういいわよ」
キュバラー、ナーチを投げ捨てる
拳を構えて―
キュバラー「『デモニー・ルトヴァルダ』」
キュバラーの拳に力が集約
禍々しい赤紫のオーラを放つ
それが、ヴァラーの顔面を抉る
吹き飛ばされるヴァラー
地面をバウンドし、どこまでも転がる
ヴァラー「かっ……、あっ……」
ナーチ「勇也しゃん!」
駆け寄るナーチ
ヴァラーを覗き込む
瞳に涙をいっぱい浮かべながら―
ナーチ「勇也しゃん、勇也しゃん……!」
ヴァラー「……ナーチ……」
ナーチ「私は……、私なんかが、本当に仲間でいいんでしょうか……。私の力なんて、これっぽっちで……」
ヴァラー「……言ったでしょ」
ヴァラー、体を起こす
ヴァラー「ナーチは、俺たちが許す……。誰が何と言おうと……、あんな一人称クセ強おばさんが何と言おうと、関係ない……」
キュバラー「……?」
ヴァラー「これは、俺たちが決めたこと……。俺たちは、ナーチが欲しい……、ナーチの力が必要なんだよ……」
ナーチ「勇也しゃん……」
ヴァラー、重たい体を持ち上げる
立ち上がり、剣を構える
カタカタと、震える手足
キュバラー「カッコいいこと言うわね、勇者の坊や。でもね、そういうのはイケメンが言うから価値があるのよん?」
ヴァラー「そんなの、この十何年間生きてきて、重々承知してるよ……。でも、言葉にしなきゃ、端から伝わんないから……」
キュバラー「あら、耳が痛い。アーシも気を付けなくちゃねん」
キュバラー、拳を構えて―
キュバラー「じゃあ、おやすみ、坊や」
拳が迫る、ヴァラーの腹部に
微かに、風を感じる
しかし、何かがそれを受け止める
キュバラー「……?」
紫の宝石、ヴァラーの腹部で輝く
閃光、キュバラーの拳を弾く
宝石、ヴァラーの掌へ
勇也「これ、盟友の証石……!」
ナーチ「……勇也しゃんがそこまで言ってくれるなら、もう迷いません……。私なんかの力で良ければ、使い潰してくだしゃい!」
勇也「……よし!」
ヴァラー、ドライバーを反転
魔法陣に証石をかざす
紫の宝石、バックルに姿を変える
それを、手首のスロットに装填
バックルの双剣を弾く
脚部の鎧、上半身へ移動
暗殺者の鎧、脚部に装着
ヴァラー「止めてみろ、キュバラー……!」
ヴァラー、地面を蹴り飛び出す
これまでの比にならないスピード
到底、目で追えるようなものではない
ヴァラー「『ヴラシューダ』!」
繰り出される、高速の回転斬撃
いくつもの残像、キュバラーに斬りかかる
キュバラー、煩わしそうに喉を鳴らして―
キュバラー「小賢しいわねん……!『ラズローズムリエ』」
キュバラー、地面に両拳を打ち付ける
轟音と共に、粉砕する地面
禍々しいオーラが立ち昇る
足を取られたヴァラー、フラつく
そこに、キュバラーの蹴りが炸裂
吹き飛び、地面を転がる
キュバラー「結局、何も変わってないじゃないのん」
ナーチ「勇也しゃ―」
瞬間、目の前にキュバラーの姿
ナーチの耳元、そっと囁く
キュバラー「そうだ、最後に良い夢を見せてあげるわん」
ナーチ「……?」
直後、キュバラー、男性に性転換
驚くナーチを覗き込む
キュバラー「アータだって、年頃の女の子。男に興味を持つのは恥ずかしいことじゃないわん。もし普通に生きられていたら、恋愛とかも……、こんな風に」
キュバラー、ナーチにソフトキス
ハッと目を見開くナーチ
体が硬直、言葉が出ない
キュバラー、「うふふ」と笑い―
キュバラー「初心ねん。でも残念だわん、裏切り者のアータには、普通の恋愛なんて―」
ナーチ「『アベズグラーヴァ』……」
ナーチの姿がない
突然、目の前から消えた
振り向く
真後ろにいた、いつの間に
嘲笑しようとする
声が出ない
構える双剣に血、誰のだ
ガクン、視界が急降下する
ゴロゴロと転がる、止まらない
止めようとしても、制御できない
止めようと動いている感覚がない
ふと視界に入る、倒れた体
首から上がない、動かない、血塗れ
そして気付く
キュバラー「アーシの、からd—」」
瞬間、フッと意識が途切れる
深い深い、闇の中へ堕ちていく
ナーチ「……」
双剣を構えるナーチ
フルフルと震えながら―
ナーチ「男の人、怖い……」
× × × × ×
勇也に変身したコートヴァ
こちらに近づいてくる
剣を抜き、力なく振るう
バスティとバトラーを挑発
コートヴァ「俺は、この目で見た全ての生物に化けることができる。どうだ、殴れないだろう?君たちの仲m―」
直後、大きく吹き飛ぶコートヴァ
二つの拳、コートヴァに炸裂
コートヴァ、目をかっ開いて―
コートヴァ「な、何で……!?」
バスティ「あ~、スッキリしたわ~!」
バトラー「むしろもっと殴って、にーちゃんには耐性つけてもらわなくっちゃな」
バスティ「今、アンタの方がレベル高いんだっけ?」
バトラー「あぁ!実質、俺が勇者だぜ!」
バスティ「調子に乗らないの」
コートヴァ、絶句している
バスティとバトラー、近づいてくる
バトラー「と、言うことで―」
二人、拳を構えて―
バスティ/バトラー「『ヴドヴァヨーム・モーロット』!」
拳の乱撃、コートヴァに炸裂
コートヴァ、勇也の姿を保てない
堪らず、人形の姿へ逆戻り
バトラー「それを待ってたぜ!」
バトラー、拳で人形を叩き潰す
潰れた人形、白い綿を露出
黒目がポロリと落ちる、もう喋らない
バトラー「今度、本気でにーちゃん鍛えてやるか」
バスティ「ほどほどにしてあげなさいよ?」
× × × × ×
合流する勇也一行
バスティ「アンタ、ボロボロじゃないの」
勇也「へへっ、意外と格闘系だった」
ガンテ「こりゃ、鍛え甲斐ありそうだぜ」
ナーチ「あ、あの……!」
声を上げるナーチ
一同の注目を一身に浴びる
ナーチ「みなしゃん、これからよろしくお願いしましゅ!」
ペコリと頭を下げるナーチ
その手には、紫色の宝石
バスティとガンテ、微笑んで―
バスティ「えぇ!」
ガンテ「よろしくな!」
それを見て、微笑む勇也
直後、エルマ、こちらに顔を出す
鬼気迫った表情で飛び出し―
エルマ「皆様、逃げt—」
直後、凄まじい衝撃、傍らを迸る
思わず顔を背ける勇也
勇也「エルマ、何があ―」
勇也、絶句
エルマ、体に大きな風穴
向こう側がハッキリと見えるほど
勇也「エル、マ……?」
ドチャッ、倒れるエルマ
広がる血だまり、もう動かない
開かれたままの瞳、光を失う
一同、その光景に茫然
勇也「エルマ……、エルマ……!」
駆け寄ろうと、一歩踏み出す勇也
直後、足音、静かに聞こえる
響く、こちらに迫る
やがて現れた、二人の少女
色白の肌、純白のワンピースに長い黒髪
ガンテ「だ、誰だ、お前ら……」
??「……こんなことしたら」
??「……ダメだよ」
勇也「え……?」
直後、キンと耳鳴り
そして、弾ける
何もかも、全て
× × × × ×
瓦礫の山、血がこびりついている
サバトなど、見る影もない
地面にポツンと落ちる何か
腕だ、細い腕
紫の宝石を握っている
冷たい風、吹き抜ける
眼球、コロコロと転がる
そこにザッと、誰かの足元
瓦礫の山を歩いている
やがて、何かを見つける
ボロボロに壊れた何か
クエストドライバーだ
辛うじて、形状は保っている
それを握る腕も、また一緒
誰か、その場にしゃがみこむ
その足は、白くて美しい
光沢があり、無機質に輝いている
笑みを孕んだ声で、呟く
??「間違えちゃったデスね」