ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●獣人族の村
勇也一行、歩いている
人の気配はない、閑散としている
ジャリジャリ、砂の音が妙に響く
小さく、荒んだ家が立ち並ぶ
まるで廃村
ガンテ「ここがねーちゃんの故郷か~」
バスティ「まぁ、そんなところね」
静かに応えるバスティ
白のローブに、深々とフードを被る
勇也、あくびに涙を滲ませ―
勇也「にしても、何でこんな朝早く……」
ナーチ「眠い……」
バスティ「ゆっくり話せないからよ」
エルマ「……」
とある家に着く
所々に亀裂、苔が生えている
バスティ、ギシギシと扉を開く
中には、一人の男性
筋骨隆々、堀の深い顔
頭の猫耳には見覚えがある
バスティ、その人物に薄く笑いかけ―
バスティ「ただいま、お父さん」
勇也「お、お父さん!?」
??「バスティー!!!」
迫る巨躯、バスティを抱き上げる
頬擦り、摩擦で火が起こりそう
??「久しぶりだなー、5年振りか?ちゃんと食べてるか?猫耳の手入れは?パパ直伝の香箱座りは出来るようになったか?」
怒涛の質問攻め
バスティ、それにたじろいで―
バスティ「ちょ、お父さんやめて……!」
??「お父さん?いつもはパパって―」
バスティ「いいから下して!」
??「相変わらず我儘だな~」
男性、バスティを下ろす
ふと、勇也たちに気付いて―
??「お友達か?」
バスティ「えぇ。ラミア族のナーチ、マキナ族のピリオネ、エルフ族のエルマ、巨人族のガン―クソガキ」
ガンテ「おい!」
バスティ「そして、勇者の勇也よ」
勇也「ど、どうも~……」
??「勇者……?と、言うことは―」
バスティ「私、旅をすることになったの。勇者と一緒に、魔王を倒すために」
男性、ハッと眉を上げる
そして、静かに土下座
深々と、おでこを床に付ける
??「勇者様……」
勇也「ちょ……!」
??「バスティは、気は強いですが、どこまでも真っ直ぐで純粋な子です。あぁ、何たる僥倖……。私が、断腸の思いでバスティをこの村から逃がした意味が、今ようやく結ばれました……」
エルマ「……?」
??「まだまだ半人前ですが、どうかバスティを……、私が命をかけて愛し、育ててきた娘を、どうかよろしくお願いします!」
バスティ「パパ……」
勇也「は、半人前なんてそんな……!俺なんて、半人前にも満たない4分の1人前……、いや微塵切りにした内の一欠片にも満たない……」
エルマ「勇也様、お気を確かに」
ピリオネ「台無しデ~ス」
ダイゴーン「申し遅れました。私、獣人族のダイゴーンと申します。何もないところですが、どうぞごゆっくり」
勇也「あ、ありがとうございます」
その時、村に鐘の音が響く
一度、二度、そして三度
低く、唸るように鳴り響く
妙に、胸をざわつかせる音色
ダイゴーン「じゃあ、行って来るよ」
バスティ「……うん」
ダイゴーン、歩き去る
扉、静かに閉まる
勇也「おでかけ?」
バスティ「……見に行ってみる?」
首を傾げる勇也
その隣、静かに目を伏せるエルマ
× × × × ×
犬獣人、巨大な荷物を引いている
瓦礫、木の丸太など様々
いずれも、人の身で引くには過酷
遠方、広大な田畑
農作業をする羊獣人
ただひたすらに、農具を振るう
その顔、瞳に覇気はない
とある人間族、羊獣人を恫喝
毛皮を掴み、引っ張り回す
しかし羊獣人、一切の抵抗もない
むしろ、その気力がないようにも見える
村中、至る所に獣人族
その全てが労働をしている
服はボロボロ、黒ずみ汚れている
痩せぎすの体、顔や瞳はまるで死人
ポツポツ、雨が降ってきた
だが、誰も何も気にしない
ただ無機質に、機械的に作業をこなす
勇也、それを見て唖然
勇也「これが、獣人……?」
人間族「ふざけるな!」
直後、怒号が聞こえる
人間族、ライオン獣人を殴りつける
睨みつけ、怒鳴る
人間族「寝る暇があったら手を動かせ!お前ら獣人族如き、働けるだけでもありがたいと思え!」
しかし獣人、答える気力もない
人間族、拳を構え殴りかかる
直後、目の前にバスティ
獣人を守るように立ち塞がる
人間族「何だ、貴様……?」
バスティ、ローブのフードを取り―
バスティ「この子の責任はアタシが負うわ。だから、解放してあげて……!」
人間族「……あぁ、貴様が例の逃亡者か」
人間族、陰湿に口角を上げて―
人間族「そこまで言うなら、逃亡の罰として働いてもらおう……。死んでも、逃れられると思うなよ……?」
ゴクリ、息をのむバスティ
頬を伝うのは、きっと雨
●獣人族の村・ダイゴーンの家
勇也一行、思い思いの場に腰かける
勇也「……勝手な思い込みだけど、獣人の住む場所ってもっと、ケモ耳パラダイスみたいな……」
ガンテ「はっ、んな楽園があったら、行ってみてぇな……」
勇也「ちょっと、まだ動揺してる……」
エルマ「勇也様……」
勇也「おかしくない?いくら下賤種だとしても、獣人族だけこんな……。他の種族は、何て言うか……、もっと無難に暮らしてたのに」
エルマ「……獣人族は、下賤種の中でも特段地位が低いのです」
勇也「え?」
エルマ「獣人族が、どの種族同士の混血かは、以前お話ししましたよね?」
勇也「確か、獣族と旧人間族の……」
エルマ「不幸なことに、その事実が何よりの原因なのです」
勇也「どういうこと……?」
ガンテ「獣族のことは、にーちゃんも知ってるよな。見境なく襲ってくる、土地を破壊する、当然話しなんて通じねぇ……」
勇也「……もしかして、同じ血の混じった獣人族も、そう見なされてるってこと……?」
エルマ「はい。獣族は、魔獣の一種。同じ血の流れる獣人族も、同様の待遇を受けているのです」
勇也「何だよ、それ……」
エルマ「さらに、その認識は上下選別以降、より強いものになりました。獣人族は、元々暮らしていた下界の村を破壊され、今はこの上界の小さな村で、人間族の管理のもと労働をさせられているようです」
勇也「あ……」
〔回想〕
勇也「なんだ、ここ。村……、ってより廃材置き場みたいな……」
人の気配はない
取り残された建物の残骸
その間を、風が吹き抜ける
ナーチ「でも、バスティしゃんは……」
エルマ「彼女だけは、逃れたようですね。恐らく、ダイゴーン様が手を回されたのでしょう」
〔回想〕
ダイゴーン「あぁ、何たる僥倖……。私が、断腸の思いでバスティをこの村から逃がした意味が、今ようやく結ばれました……」
ピリオネ「いや~、下賤種の中でも最下層に位置する奴らの見事な働きっぷり、実際に見て感動したデス!」
ガンテ「あぁ……?」
ピリオネ「もっと、クローンでも子供でも作って、今後も底辺からこの世界を支えて欲しいデス!」
ガンテ「おいてめぇ、言い方に気を付けろや!」
ピリオネ「なぜ、高貴種であるオマエがキレるデスか?私たちは、下賤種を蔑んで、使い潰す立場デス。奴らに同情するなんて、家畜や食い物に同情するのと同じデス。お門違いも甚だしいデス」
ガンテ「俺は、高貴種も下賤種も関係ねぇんだよ!俺の親父とお袋が、それを証明してくれた!」
ピリオネ「それは、オマエの親の話し、オマエの基準の話しデス。今この場において、そんな話に価値はないデス。これが、ボーテミュイズンの現状。高貴種が下賤種を支配する。獣人族は、奴隷であることを強いられている。この世界が始まって以来、種族間に刷り込まれた覆しようのない常識デス。オマエらが勇者一行でも、こればかりは手の出しようがないデス」
俯く勇也
その眉間、皺が寄っている
●獣人族の村・作業場
バスティ、ツルハシを振るう
息を切らし、汗を拭う
その背後、ザッと誰かの足元
??「バスティ」
自分を呼ぶ声
振り向くバスティ
??「さっきはありがとう、助けてくれて」
バスティ、それにフッと微笑んで―
バスティ「セクミィ、久しぶりね」
セクミィ「うん」
× × × × ×
地面に座るバスティとセクミィ
隣同士、肩を寄せ合っている
セクミィ「何年ぶりだろうね」
バスティ「たまに帰って来てるけど、前の時は会えなかったわね」
セクミィ「ずっと寂しかったんだから。私、バスティしか友達いないし……」
バスティ「ごめんごめん。でも、これからもっと忙しくなりそうなのよねぇ。それこそ、もう帰って来れるかも分からないわ」
セクミィ「勇者と、冒険することになったんだよね。ダイゴーンさんが言ってたよ」
バスティ「パパったら……」
セクミィ「すごいね、獣人族からは二人目じゃない?」
バスティ「あぁ、そんな話もあったわね。でも、別にそんな大層なもんじゃないわよ」
セクミィ「いいなぁ。私も、自由になりたいよ……」
バスティ「セクミィも、アタシたちのパーティに入る?」
セクミィ「私なんて、足手まといになるだけだよ。それに、もう手遅れだし……」
セクミィ、目を伏せる
薬指、金の指輪が付けられている
バスティ、歯をグッと噛み締め―
バスティ「アタシが……!」
セクミィ「?」
バスティ「……いえ、何でもないわ」
バスティM「何ができるって言うのよ……、村から逃げたアタシに……」
ふと、空を見上げる
黒く、分厚い雲が視界を覆う
雨は、未だ強く降り続けている
バスティM「ほんと、役に立たないんだから……」
その時、ドサッと音がする
ふと、目を向けるバスティ
セクミィ、地面に倒れている
瞳孔が開いている
バスティ「セクミィ、どうしたの?」
首を傾げるバスティ、問いかける
しかし、反応はない
バスティ「……ねぇ、どうしたの?セクミィ?」
強く体を揺らす
しかし、反応はない
バスティ「セクミィ、セクミィ……!」
何度も呼び掛ける
やはり、反応はない
バスティ「……っ!」
瞳が揺れる、視界がぼやける
もう、言葉は届かない
もう、動かない
× × × × ×
横たえられた体、布がかけられている
その傍ら、呆然と立ち尽くすバスティ
冷たい雨が、鎧を打ち付ける
そこに、ザッザッザと足音
勇也一行、かけつける
バスティ、エルマに飛びついて―
バスティ「ねぇ、助けてよ!アンタ、治癒魔法使えたわよね!?」
今にも泣きだしそうな顔
エルマ、それに目を伏せて―
エルマ「治癒魔法は、負った傷を癒す魔法です……。機能を停止した体に、効果はありません……」
バスティ、ハッと眉を上げる
力なく、膝から崩れ落ちる
バスティ「……ママが死んじゃってから、ずっと一緒にいて、アタシを励ましてくれた……。なのに……、こんなのあんまりよ……!」
エルマ「……他にも、同じような事例がいくつも報告されているようです」
勇也「村で起きた、突然の不審死……」
ガンテ「しかも、こんな短時間で……」
ガンテ、思わず舌を打つ
その時、傍らからゴソゴソと物音
ポケットを弄るピリオネを見て―
ガンテ「おい、何してんだ」
ピリオネ「空気悪いのは嫌デスので、私が解決しようかと」
ガンテ「そんなことできんのかよ……!?」
ピリオネ「当然!魔機学の結晶、このピリオネ様に出来ないことはないデス!」
エルマ「そのポケットは?」
ピリオネ「数多の魔道具を収納できるポケットデス。中に、異次元空間が広がってるデス」
エルマ「凄いですね……」
勇也M「マジでドラ○もんじゃん……」
ピリオネ「お、ちょうどいいのがあったデス!」
ピリオネ、ナイフ形の道具を取り出し―
ピリオネ「テッテレ~『真犯人を殺す魔道具~』」
ガンテ「な、何だそれ?」
ピリオネ「馬鹿デスか?読んで字の如し、デス」
ガンテ「ちっ!」
ピリオネ「原因や過程をすっ飛ばして、真犯人の元にひとっ飛び!あっという間に解決して―」
勇也「それじゃダメだ」
ポツリ、呟く勇也
一同、彼に視線を向ける
ガンテ「にーちゃん?」
勇也「それじゃ、意味ないだろ。原因とか過程を調べないと、次同じことが起きた時、対処できなくなる……」
ピリオネ「何を言ってるデス?手っ取り早く真犯人ぶっ殺して、ハッピーエンドデス。終わりよければすべてよし、デス!」
勇也「……じゃあ、殺人事件は犯人が捕まりさえすれば解決なの?もし今、ピリオネの体をバラバラに壊した人がいて、それは犯人が捕まれば全部解決なの?」
ピリオネ「飛躍した理論デスが、答えはYesデス。結果さえ出せれば、それまでの過程も苦労も関係ないデス。良い結果、正しい結果こそが全てデス!」
勇也、目を伏せる
鼻で嘲笑して―
勇也「……そんな短絡的な思考しか出来ないんなら、魔機学も大したことないね」
ピリオネ「……下賤な人間風情が、デス!」
ピリオネ、目をひん剥いて―
ピリオネ「なら、どちらが先に真犯人を特定できるか、勝負するデス!過程か結果、どちらが重要か白黒つけてやるデス!」
勇也「勝負とか、失礼だろ。俺は、普通に犯人を捜すよ」
ピリオネ「認識の違いなどどうでもいいデス!崇高なマキナ族に盾突いたこと、後悔させてやるデス!」
ピリオネ、踵を返し歩き去る
ドスドスと、不機嫌な足取り
その背中を見つめる勇也
ガンテ「にーちゃん……」
勇也「……やろう」
勇也、バスティに向き直る
雨に潤んだその瞳を見つめ―
勇也「みんなで、獣人族の村を助けるんだ……!」