ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●命の日巡り
エルマ「魔界とは、地名の総称ではない……。魔界とは、魔結界が影響を及ぼした特殊領域のこと……」
ピリオネ「魔結界は、発動した瞬間に世界に存在しる勇者を強制的に呼び寄せる……。それが、今のワタシたちデス」
エルマ「つまり―」
エルマ、天を仰いで―
エルマ「魔王が、目覚めた……」
× × × × ×
どこまでも広がる永遠の闇
四方八方を漆黒が覆う
空も地も、境なし
その中に一点、光がさす
遠方、地面に埋もれた光が半分顔を出す
ピリオネ「ここから抜け出せなければ、ユグドライドの力が魔王の手に渡り、この世界は文字通り“終わり”デス」
エルマ「私たちが固まってしまったのは痛手ですね。勇也様たちは、平静でいられるでしょうか……」
ピリオネ「にしてもオマエ、よく知ってるデス。この世界のこと」
エルマ「神官として、当然のことです。魔法、この世界の知識……、あらゆる研鑽を積んできましたから」
ピリオネ「そうデスね。それがオマエの強さの根源であり、同時におかしな点デス」
エルマ「おかしな点?」
ピリオネ「今の時代、神官は龍人族が務めているはずデス。オマエらエルフが下賤種に堕ちてから、神官の務めは龍人族に成り代わったはずデス」
エルマ「……ピリオネ様も、よくご存じですね」
ピリオネ「舐めるなデスッ。マキナ族の使命は、ボーテミュイズンの監視。これまで、あらゆる時代の、あらゆる姿のこの世界を、この目で見てきたデス。デスが、ここ500年、エルフの神官はオマエを覗いて一人も見たことがないデス」
エルマ「……」
ピリオネ「どうしてオマエは、エルフの身でありながら、今尚神官であり続けるデスか……?」
エルマ「それは―」
エルマ、伏せた顔を上げる
静かに、それでいて熱量の籠った声で―
エルマ「私には、果たすべき使命があるからです」
ピリオネ「果たすべき、使命……」
エルマ、真っ直ぐにピリオネを見つめる
ピリオネもまた、エルマを見つめる
互いの瞳が呼応し合う
無音、重い沈黙が落ちる
やがてピリオネ、「はっ」と鼻を鳴らし―
ピリオネ「ま、別にどうでもいいデス。誰が神官をやろうが、オマエの使命が何だろうが、ワタシに迷惑をかけない範囲で勝手にしろって感じデス」
あっけらかんと言い放つピリオネ
エルマ、それに溜息をつく
どこか、緊張の糸が解けた様子
しかし再び、空気が切り替わる
ピリオネ「そう、ワタシが気になるのはそこじゃないデス」
エルマ「え?」
ピリオネ「エルフ族と龍人族……、この世界の魔力を司る二大種族。確か龍人族は、『生涯で出来る限り多くの魔法に触れること』。そして、エルフ族は―」
エルマ「……『生涯で、一つの魔法を極めること』」
ピリオネ「あぁ、そうデスそうデス。で、オマエはどうなっているデス?」
エルマ「え……?」
ピリオネ「オマエが今まで使ってきた数多の魔法……。ワタシからすれば、オマエはどちらの種族の掟からも外れているように見えるデス……。一体その身に、どれほどの魔力を内包し、どれほどの魔法を極めているデスか……?」
ピリオネ、狂気に目を見開く
エルマを糾弾する目つき
沈黙、空気が張り詰める
エルマ、それにフッと微笑んで―
エルマ「私は、ただのエルフ。神官に憧れた、ただのエルフです。それ以上でも、以下でもございません」
ピリオネ「……そうデスか」
エルマ、パンッと手を叩いて―
エルマ「私の話しはおしまい。今度は、ピリオネ様のお話を聞かせてください」
ピリオネ「ワタシの、デスか?」
エルマ「えぇ。これまで、魔機学に関する文献もいくつか目にしました。私の中では、御伽噺のような感覚だったのですが、今こうして相対することができて、感動しています」
エルマと目を合わせないピリオネ
どこか、吐き捨てるように―
ピリオネ「はっ、嘘つくなデス」
エルマ「え?」
ピリオネ「ワタシたちは、魔機学の結晶として生まれてからずっと、この世界を監視してきたデス。誰とも、関わることもなく……。ワタシたちの存在を知っている種族など、いないに等しいデス。ましてや、感動だなんて、思ってもないこと言うなデス」
エルマ「ですがあなたは、勇也様と接触し、こうして行動を共にしている……」
ピリオネ「全ては利害の一致。演算が導き出した最善の選択デス」
ふいとそっぽを向くピリオネ
エルマと目を合わせようとしない
まるで、いじけた子供のよう
エルマ、それに小首を傾げて―
エルマ「……もしかして、寂しいのですか?」
ピリオネ「……は?」
エルマ「本当は相手にされたくて、構ってもらいたくて、あのような言動を……」
ピリオネ「確かに、ワタシはマキナ族の中でも感情を持った個体デス。デスが、ワタシは常に客観的な事実を基に発言しているデス!そんな、幼稚な感情に振り回されている訳じゃないデス!」
エルマ「それなら、先ほどの私の発言も、嘘ではありませんよ?」
ピリオネ「何デス?」
エルマ「ピリオネ様は、そう思っていないかもしれませんが―」
〔回想〕
ピリオネ「これが、ボーテミュイズンの現状。高貴種が下賤種を支配する。獣人族は、奴隷であることを強いられている。この世界が始まって以来、種族間に刷り込まれた覆しようのない常識デス。オマエらが勇者一行でも、こればかりは手の出しようがないデス」
エルマ「私は、ピリオネ様に勇者一行の一員になっていただきたいと思っています」
ピリオネ「はっ、ワタシにそんな義理はないデス。魔王とかどうでも良い、仲間ごっこならオマエらで勝手にやってろデス」
エルマ「そうですか……。でも、私の想いは変わりません。世界の監視者であるピリオネ様が加わってくだされば、きっと百人力です」
ピリオネ「百人力?」
エルマ「えぇ、魔王如き、私たちには手も足も出ないでしょう。きっとこの世界に、永久の安寧をもたらすことができる……」
ピリオネ「オマエ、どうしてそこまで……」
エルマ「私が、ピリオネ様を尊敬しているからです」
ピリオネ、ハッと目を見開く
ピリオネ「ま、まぁ、オマエがそこまで言うなら、考えてやってもいいデスけど……?」
エルマ「本当ですか!?」
ピリオネ「あと、“様”はいらないデス。気軽に“ピリオネ”と呼べデス……」
エルマ「ふふっ、ありがとうございます、ピリオネ」
ピリオネ「さて、そろそろ体が動かなくなってきたデス」
エルマ「そうですね」
暗闇の中の、一点の光
いつの間にか、反対側へ移動している
まるで、水平線に沈む太陽
エルマ「命の日巡り……。領域内に召喚した者の寿命を操り、強制的に死へと導く……」
ピリオネ「あの光が沈めば、ワタシたちも死ぬ……。まさに、魔王に相応しい卑劣さデス」
エルマ「ピリオネ様―」
エルマ、ピリオネに真っ直ぐ向き直り―
エルマ「お手合わせ、願えますか?」
ピリオネ、ニヤッと口角を上げ―
ピリオネ「面白いデス。勇者一行の魔法使いの実力、見せてもらうデス」
微笑むエルマ
柔らかく、そして勇ましい笑み
杖をバッと突き出して―
エルマ「『ヴズリーブ』!」
眼前、巨大な爆発
空気が弾け、揺れる
ピリオネ、身を翻し後退
ピリオネ「幕開けに相応しい派手さデスッ!」
ピリオネ、眼球から光線
無数のレーザー、一直線にエルマに飛ぶ
エルマ「『レフレークス』!」
魔法壁、レーザーを反射
四方八方に飛散
エルマ「……!?」
ピリオネがいない
ふと、影が落ちる
見上げる
頭上を飛ぶピリオネ
エルマ、杖を地面に突き立てて―
エルマ「『ゲイゼール』!」
地面から、無数の光柱
ピリオネ目掛けて突き昇る
身を翻し避けるピリオネ
手に持つは、無数のナイフ
エルマ目掛けて投げ飛ばす
その一本、エルマの手首を掠める
エルマ「……っ!」
カタン、杖が落ちる
ポタポタ、血が滴る
ピリオネ、悠然とした顔で―
ピリオネ「自分から喧嘩売ってきた割には、大したことないデスね。そんなんで、本当にこの世界を救えるデスかぁ?あぁ、それとも、自分には出来ないからワタシをパーティに誘ったデス?そういうことなら、喜んで加わってやるデス!オマエの後釜になって、オマエを嘲笑い、オマエが果たすべきポジションで、オマエを遥かに凌ぐ功績をあげ、オマエの代わりに賞賛されてやるデス!」
喧しく高笑うピリオネ
エルマ、それに歯ぎしり
エルマ「う、う゛ぅぅぅ……」
ピリオネ「何デスか?悔しいデスか?唸り声なんてあげて惨め、まるで獣人デス。オマエも、アイツらに紛れて肥溜めで働くといいデス!同じ下賤種同士、お似合いデス!」
エルマ「う゛、ぅあ゛ぁぁぁっ゛……!」
唸るエルマ
その声、徐々に大きく、猛々しくなる
やがて、ピリオネに落ちる影
それが、徐々に膨張していく
ピリオネなど覆いつくすほど巨大で奇体に
目を見開くピリオネ
微かに、眼球が揺らいでいる
やがて、乾いた笑みを溢して―
ピリオネ「……なるほど、これがオマエの、力の根源デスか……。これは、お手上げデs―」
× × × × ×
どこまでも広がる暗闇
一点の光、もうほとんど見えない
その中、一人佇むエルマ
天を仰ぎ、息を切らしている
魔法の杖、自分の首に突き立て―
エルマ「……『リダミール』」
真っ赤な華が咲く