ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・闘技場〔第一試験場〕
ベージュの壁で覆われた通路
そこに立ち尽くす勇也、目を伏せている
その表情は、些かの悲しみを孕んでいる
〔回想〕
ヴラガロード「貴様は、魔王を討伐するどころか、この世界を更なる危機に追いやった!このような事態は、前代未聞じゃ!これならば、恐怖にうずくまり、何もせぬ方がまだ良いというもの!」
勇也「……第二形態とか知らないし……。最初から教えといてくれないですかね……?すぐ逃げられたし、どうすりゃええねん……。椅子に座ってないで、自分でどうにかすればええんちゃいますの……?」
ブツブツと、呪言を漏らす勇也
そこに、コツコツと足音が近づいてくる
エルマ「勇也様、具合はいかがですか?」
勇也「うん、ちょっと吐きそうだけど大丈夫だよ」
エルマ「それは何よりです」
勇也「あれ、みんなは?」
エルマ「バスティたちは宿屋に向かいました。することがなくて暇、だそうです」
勇也「暢気だな~。まぁ、試験のルール的に、仕方ないか」
エルマ「出場権は、勇者とそれを召喚した神官に限る、ですね」
勇也「ほんと、エルマが一緒で心強いよ。俺一人だったら……、おえっ」
エルマ「後方支援はお任せください。ここで、勇者の任を降ろされるわけにはいきませんから……」
勇也「うん、そうだね。頑張ろう」
エルマ「それにしても、予想以上に集まりましたね」
辺りを見回す勇也とエルマ
待機所、様々な種族が集う
巨人、巨大な拳を突き合わせる
ラミア、長い舌を出し悠然とした佇まい
獣人、己の牙を研いでいる
オーク、金棒を掲げて誇らし気
矮人、胸を張り周りに威嚇
直後、何者かに踏み潰され死亡
微かな血溜まりと、肉片だけが残る
エルマ「各種族の勇者志望や、王都に仕える騎士団の方々、ですね」
勇也「こんだけいると、見知った顔もありs―」
その時、ドンッと背中をぶつける
振り向く勇也
眼前、黄金の甲冑を身に纏った人間族
身長は、勇也の倍以上ある
ギロリ、こちらを見下ろしてくる
勇也、即座におでこを地面と接吻させ―
勇也「す、すみませんっしたぁっ!次からは背中にも目ぇつけておきますぅっ!」
??「こちらこそ、すまない」
黄金の甲冑、歩き去る
勇也、高鳴る心臓を抑え―
勇也「く、食われるかと思った……」
エルマ「何だか、先行きが不安になってきました……」
勇也「うん、俺も……」
その時、背後から声がかかる
??「お前さんか?無能の勇者ってのは」
ザッと、誰かの足元
勇也、それに振り返る
まず目を引いたのは、ドンッと突き出た腹
ギチギチと、シャツのチェック柄が伸びている
それを、ベージュのジーンズと合わせている
典型的なオタクファッションだ
毛量の多い、ボサボサの黒髪
黒縁眼鏡の向こうに、腫れぼったい一重
丸く、髭の生え散らかした頬
臭いそうな鼻息をフンスと鳴らし―
武子「俺は、
石畳に反響する濁声
周囲はそれを気にも留めない
勇也、眉を上げ思考する―
勇也M「この文言、どっかで……」
〔回想〕
ヴァラー「俺の名前は、儚田勇也。元の世界ではモブ陰キャオタク……。そして、この世界のたった一人の勇者だ!」
勇也M「俺、こんな恥ずかしいこと言ってたの……!?」
バッと屈み込む勇也
耳まで赤く染めている
武子「んだよ、ただのクソガキじゃん」
勇也「っていうか、その名前、その服装……、あなたも召喚された……!」
武子「だからそうだって。日本語通じる?」
勇也、目をキラキラと輝かせ―
勇也M「同郷の仲間、初めて見た~っ!」
勇也「お、同じ勇者として、これから仲良く―」
武子「仲間?何言ってんの?」
勇也「へ?」
武子「俺は、勇者の称号を手に入れて、魔王を倒すためにこの世界に来た。仲良しごっこなら、そこの巨人とどうぞwww」
勇也、戸惑いに言葉が出ない
エルマ、一歩前に出て―
エルマ「あなた、召喚されたと言いましたか……?」
武子「はい、三度目~」
エルマ「この世界では、一度に存在できる異界からの勇者は一人と定められているはずです。今は、勇也様がそのお一人……。どうして……?」
??「ヴラガロード様のお達しだ」
低く、芯の通った声がする
やがて、一人の青年が姿を現す
エルマと同じ、純白のローブに身を包む
手には、荘厳な魔法の杖
肌は、龍の鱗のように刺々しく、青い
切れ長の目を鋭く細め―
??「獅子型の魔王討伐にあたり、新たに異界からの使者を召喚する許可を得た。つまり、儚田勇也……、あなたは勇者として見限られたわけだ」
勇也「……」
エルマ「あなたは……?」
ガンドルム「失礼、俺の名はガンドルム。龍人族の神官だ」
勇也「龍人族……」
〔回想〕
ピリオネ「因みに、この世界で魔法に精通している種族は2つあるデス。何かわかるデスか、オマエ?」
× × × × ×
ピリオネ「龍人族デス。それぞれ、魔法に対する認識が違うらしいデスが、そこら辺は興味ないので割愛するデス」
ガンドルム「納得のいかない様子だが、俺が一番不思議なのは君だよ。どうして下賤種のエルフ族が、今尚神官をしている?この時代、神官を務めるのは、我々龍人族のはずだ」
エルマ「……」
口を噤むエルマ
勇也、それに小首を傾げる
武子「まぁいいわ、んなこと。誰が召喚した勇者でも、俺が全員ぶっ殺してやるよ」
陰湿に口角を上げる武子
そのまま、踵を返して歩き去る
黙ってその背中を見つめる勇也
その時、会場に声が響く
兵士「これより、第一試験を開始する!」
エルマ「勇也様、気を取り直しましょう」
勇也「う、うん……、そうだね」
× × × × ×
楕円形の、開けた空間
周りには、大勢の観衆
試験参加者と野次馬が入り混じっている
その中央、玉座に腰かけるヴラガロード
ヴァラー、ハーピー族の戦士と睨み合う
兵士(声)「第一試験は、勇者同士の戦闘!勝ち抜いた20名が、第二試験へと進む権利を手にする!」
ハーピー、上空に飛び矢を乱射
それを華麗にかわすヴァラー
ヴァラー「『トルメール』!」
剣を横に薙ぎ払う
巨大な竜巻が発生
ハーピーを巻き込み、地面に叩きつける
兵士「勝者、仮面ライダーヴァラー!」
× × × × ×
剣を構えるヴァラー
巨人の戦士と相対する
兵士(声)「ただし、神官の助力は禁止とする!己の身一つで勝ち抜くのだ!」
ヴァラー「いきなり例外ルールかよ……」
ダッと飛び出すヴァラー
剣を振るうが、巨人の鎧に弾かれる
巨人「うおぉぉぉぉぉっ!!!」
巨人、両手を突き出しヴァラーを押す
盾で防ぐが、どんどんと押し戻される
ヴァラー「力だけなら、ガンテより上だ……!」
巨人の掌と壁に挟まれるヴァラー
身を翻し、その間を抜ける
高く跳躍、盾を正面に突き出して―
ヴァラー「『シート・ザシータ』!」
盾、巨大な波動を放つ
そのまま、巨人を押しつぶす
鎧を圧迫し、メキメキと破壊する
やがて、巨人の胸と腹も凹み、潰れる
巨人「ぐはっ……!」
巨人、吐血
白目をむき、動かなくなる
兵士「勝者、仮面ライダーヴァラー!」
× × × × ×
ヴァラー、一人佇んでいる
ヴァラーM「あれ、俺結構いけてる……?そりゃそうだよな、だって俺、神官に直々に召喚された勇者だもん!それに、あの魔王を一時的に退けた実績もある……!そこらの勇者志望に比べたら、圧倒的な経験と実力差!無能なんかじゃない……、俺がこの世界で、たった一人の勇者だ!」
そこに、ドスドスと品のない足音
武子、腹を掻きながら現れる
武子「へっ、ガキんちょのくせに、勝ち上がって来てやがる」
ヴァラー「あ、あなたこそ……!」
武子「だけど、それもここで終わり……。お前のこれまでを、ただの夢オチにしてやるよ」
武子、クエストドライバーを装着
台座を反転、待機音が鳴り響く
無様に鼻を鳴らし―
武子「ぶふっ、変身!」
台座の剣を引き抜く
勇者の鎧、身に纏う
ギチギチと、今にも弾けそうだ
遠方、見守るガンドルムが呟く
ガンドルム「仮面ライダーヘルトlevel10……」
ヴァラー、身構える
ヴァラーM「大丈夫、鎧の色的にも俺の方がレベルは上だ……」
ヴァラー、深呼吸して―
ヴァラーM「行くぞっ……!」
ダッと飛び出し、ヘルトに剣を振るう
しかし、悉く弾かれる
足払いするも、跳躍して避けられる
ヴァラー「その腹で、どうしてそんな軽やかに……!?」
ヘルトの、物理的に重い一撃
寸前で、剣で受け止めるも後退
互いに見つめ合う二人の勇者
不安に高鳴る心臓を抑える
グッと、拳に力を入れ―
ヴァラー/ヘルト「『ヴラシューダ』!」
両者、回転斬りで鍔迫り合う
まるで、駒と駒がぶつかり合うよう
しかし逆回転のヘルト、ヴァラーを止める
ヴァラー「……!」
ヘルト「『ヴェル・ヴラシューダ』!」
ヘルト、縦回転の斬撃
ヴァラーを強く斬りつける
剣を地面に突き、息を切らすヴァラー
ヴァラーM「……おかしい、レベルは俺の方が上のはず……」
ヘルト「まぁ、互角ってとこかな」
ヘルト、懐からポーションを取り出す
ヴァラー「お、おい……!助力はなしだろ……!」
ヘルト「はぁ?助力じゃねぇよ。これは、俺の持ち物だ」
ヘルト、緑色のポーションを飲み干す
鎧についた傷、みるみる消えていく
ヘルト「さて、トドメといきますか~」
ヘルト、剣先をこちらに向け構える
まるで、フェンシング選手のよう
ヘルト「『メーチソニ・ウダーロフ』」
ヘルトの周囲に無数の剣の残像が出現
動きに合わせて、ヴァラーを突く
無数の剣による連続突き
ヴァラー、抵抗できずただ食らうだけ
ヴァラー「ぁ……」
鎧、弾ける
勇也、力なく地面に倒れ伏す
エルマ「勇也様!」
思わず叫ぶエルマ
それを横目に、ヘルト、勇也の頭を踏み―
ヘルト「あ~あ、残念だぜ先輩。この程度だから、無能だなんて言われるんじゃね?www」
勇也「どう、して……。レベルは……、俺の、方が……」
勇也、消え入るような声を出す
ヘルト、それに鼻を鳴らし―
ヘルト「決まってんだろ、俺が今までどれだけのファンタジー作品に触れてきたと思ってる。学生時代が終わってからの30年とちょっと……、その途方もない時間を、どれだけ異世界知識増強にあてたと思ってる。お前みたいなガキんちょとは、歴がちげぇんだよks」
勇也「なん、だ……、それ……」
ヘルト「異世界モノの王道、エルフが召喚した勇者って聞いたから期待してたのに……。やっぱ、下賤種?が召喚したからかwww」
勇也「エルフは……、下賤種は、関係ない、だろ……!」
ヘルト「じゃあ、正真正銘お前が弱いだけじゃん」
勇也「……!」
ヘルト「自分で自分の首絞めてて草www。もっと考えて発言した方が良いよ?」
勇也「……」
ヘルト「やっぱ、ヴラガロード様?ってのの言葉が正しかったんだな~」
ヘルト、勇也の顔を覗き込み―
ヘルト「もう、お前いらないよ」
勇也「……!」
ヘルト「勇者は俺がやるから、ガキんちょはとっとと消えろ」
ヘルト、勇也の頭を蹴りつける
切れた額から血が滴る
痛い、だが抵抗する気力もない
ヘルト「はい、消えろ!消えろ!消えろ!消えろ!」
手拍子し、周囲に促すヘルト
触発され、会場中が口にする
この場にいる全員が、勇也の消失を望んでいる
心臓が不規則に揺れる、痛い
呼吸するのも忘れる、苦しい
目の前がグワングワンと蠢く、気持ち悪い
やがて、プツンと何かが切れる音がする
勇也「あ……、もう嫌だ……」
× × × × ×
トボトボと、歩く勇也
闘技場出口へと向かっている
消えろコールは、今も鳴りやまない
エルマ「勇也様!」
背後から、鈴の音が響く
振り向く勇也
エルマ、こちらを見ている
眉を寄せ、糾弾するような目つき
エルマ「どこに、行くのですか……?」
勇也「……見てたでしょ、負けたんだよ」
エルマ「いいえ……。勇也様が、これほど容易く負ける訳がありません」
勇也「何その期待……、重いんだけど」
エルマ「まだ、戦えるはずです」
勇也「もう嫌だよ……。痛いし、苦しいし、往生際が悪いのもダサいし……」
再び歩き出す勇也
エルマ「逃げるのですか?」
その言葉に、ピタッと足が止まる
拳を握る、強く震える
ギリッと、歯を噛み締めて―
勇也「逃げ、じゃない……。そもそも、無理だったんだ……。俺に勇者なんて、つとまるはずなかったんだ。今まで散々一緒にいたんだから、分かってるでしょ……?」
エルマ「……私には、果たすべき使命が……、約束があります……」
勇也「は……?」
エルマ「それを果たすためにも、ここで……、こんなところで負けられては……、諦められては困る……。そのために、私はあなたに無償で尽くしてきました。盟友の証石も、託しました……。戦ってください。痛くても、辛くても、負けても、惨めでも……。自ら勇者の任を捨てるなんて、そんな勝手なk―」
勇也「勝手なのはそっちだろ!」
勇也の声、闘技場に反響する
シンと、空気が静まり返る
勇也「勝手に俺を召喚して、勇者だって囃し立てて……!あのまま素直に死ねてれば、どれだけ楽だったか!こんな苦しい思いも、惨めな思いも、しなくて済んだのに!」
エルマ「勇也様……」
勇也「果たすべき使命……?そんなの知るか。エルマの個人的な事情に、俺を巻き込まないでくれ……」
エルマ、何も言わずただ眉を顰める
その傍ら、ヘルトは悠然とした佇まい
勇也、エルマに背を向けて―
勇也「……正直エルマだけは、本当にただ俺の味方をしてくれてると思ってたよ……」
エルマ「……私は、それほど純粋ではありません……。純粋では、いられません……」
勇也、歩き去る
ヘルト、下品な笑い声を上げて―
ヘルト「あ~あ、仲間割れしちゃった~。草超えて森超えて銀河なんだがwww」
兵士「嗤田武子殿!」
ヘルト「うぃ?」
兵士「試験内でのポーション、及びアイテム類の使用は禁止されています。よって貴殿を、失格処分とします!」
ヘルト「はぁ!?聞いてねぇんだk―」
エルマ「取り消してください」
一歩踏み出すエルマ
ヴラガロードを見つめる
エルマ「その代わり、私を第二試験に参加させてください」
ヘルト「おぉ、俺からも頼むよぉ、王様ぁ」
ヴラガロード「……お主の勇者は、今しがた立ち去ったが?」
エルマ「……彼は、端から勇者などではなかった」
俯くエルマ、バッと顔を上げて―
エルマ「私が、勇者に立候補します!」
ザワザワ、どよめく会場
ヴラガロード、暫し沈黙の後―
ヴラガロード「……良いだろう。ならば―」
立ち上がり、吠える
ヴラガロード「これより、第二試験を執り行う!」
湧き上がる会場
悠然と構えるヘルト
毅然とした顔を崩さないガンドルム
エルマ、その中で一人、決意に満ちる