ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・森〔第二試験場〕
鬱蒼とした森
果てしなく、木々が生い茂っている
空は、雲一つない晴天が広がる
そこに、大きな砂煙が立ち昇る
兵士(声)「第二試験は、森に生息する大魔獣の討伐!生き残った者が、最終試験へと臨む権利を手にする!」
エルマ、獣道を走っている
息を切らし、疾走する
背後、凄まじい轟音が迫る
巨大な咆哮、天に轟く
三又の妖犬―ケルベロスだ
木々を薙ぎ倒し、エルマに迫る
エルマ、振り返り杖を構えて―
エルマ「『レグプルーヤ』!」
無数の光弾、放たれる
しかし、ケルベルスの体にかすり傷一つ付けない
エルマ「ならば―」
エルマ、杖を地面に突きたてて―
エルマ「『トスパーリャ』……!」
足元の地面が沼に変質
ケルベロスの足を呑み込み離さない
フッと息を吐く、それも束の間
ケルベロス、三匹の妖犬に分身
エルマに牙を光らせる
エルマ「……!」
咄嗟に杖で弾くも後退
鋭い牙、容赦なく襲ってくる
エルマM「素早い……!それに、この近接戦……、魔法を使えば私も巻き込まれる……。魔法主力の私と、相性が悪すぎる……!」
エルマの周りを疾駆する三匹の妖犬
その一体、死角から迫る
避けられない、腕に牙が突き立つ
その寸前―
??「『アドニーム・ウダーラム』」
空気が爆ぜる
同時に、ケルベロスの頭が落ちる
目を見開くエルマ
眼前、黄金の鎧を纏う男が佇む
剣にこびり付いた血を掃う
エルマ「あ、あなたは―」
??「来るぞ」
呟く男、エルマも意識を向ける
二匹の妖犬が融合
二又の巨大なケルベロスに変容する
エルマ「足止めします!」
エルマ、一歩前に出て―
エルマ「『スヴィアーズィ』!」
空間に無数の魔法陣が発生
そこから、数多の鎖が伸びる
妖犬の足を、胴を縛る
ケルベロス、唸るが動けない
男、剣を天に掲げ―
??「『モッシュ・メチョーム』!」
剣先から、超極の光線が発生
男、それを二又のケルベロスに突きつける
うねり渦巻き、妖犬の腹を貫く
森に響く轟音と、上がる砂煙
ケルベロスの巨体、地面に崩れ落ちる
剣を鞘に納める男
朴訥に、こちらに振り返る
エルマ「ありがとうございました。私一人では、どうなっていたか……」
??「構わない。こちらも、偶々見かけただけだ」
エルマ「確か、あの時―」
〔回想〕
その時、ドンッと背中をぶつける
振り向く勇也
眼前、黄金の甲冑を身に纏った人間族
身長は、勇也の倍以上ある
ギロリ、こちらを見下ろしてくる
勇也、即座におでこを地面と接吻させ―
勇也「す、すみませんっしたぁっ!次からは背中にも目ぇつけておきますぅっ!」
??「こちらこそ、すまない」
黄金の甲冑、歩き去る
フリザンディア「フリザンディアだ。王都で、騎士をしている」
エルマ「私は、エルフ族のエルマと申します」
フリザンディア「知っている。第一試験で、何やら只ならぬ状況だったからな」
エルマ、口を噤んでいる
フリザンディア「勇者はどうした?」
エルマ「……試験を、辞退したと思います。その後の行方までは……」
フリザンディア「そうか」
エルマ、そっと顔を伏せ―
エルマ「少し、感情的になっていました……。それで、あのようなことを……」
フリザンディア「果たしたい使命、か……。異界から召喚した勇者の使命は、魔王を撃ち滅ぼし、この世界に安寧をもたらすこと。それ以上の使命も、期待も、押し付けるべきではない。きっと彼らには、荷が重すぎるのだ」
エルマ「ですが、私は私の想いを撤回するつもりはありません。そのために、勇者と旅を……、いいえ、それ以前に神官となったのですから」
エルマの、真っ直ぐな瞳
決然とした表情
その意志は、固いと見える
フリザンディア、それにフッと微笑み―
フリザンディア「それは、語る相手を間違えているだろう」
エルマ「……そう、ですね」
フリザンディア「なぁエルマ、俺と協定を結ばないか?」
エルマ「協定……?」
フリザンディア「お前は、勇者がいなくなったことで近接戦闘に苦戦している。同じく神官のいない俺は、遠距離の攻撃手段を持たない」
エルマ「互いに弱点を補い合おう、ということですね」
フリザンディア「そうだ」
エルマ、ふと目を伏せて―
エルマ「私でいいのでしょうか……。下賤種の私で……。それに、あのような啖呵を切ったのに、この始末……」
フリザンディア「構わない」
エルマ、顔を上げる
フリザンディア、平然と―
フリザンディア「苦境に陥った者を光へと導く……、それが俺の、勇者としての信念だ」
× × × × ×
森の中、広大な湖
水飛沫、高く立ち昇る
リヴァイアサンの咆哮、森に木霊する
オーク「うわぁぁぁぁぁ!!!」
オークの戦士、金棒を投げ捨て逃げる
その体を、リヴァイアサンの尾が打つ
潰されるオークの体、原型はない
龍人「喰らえ、『デス・フレイム』!」
龍人の戦士、口から炎を吐く
しかし、リヴァイアサンの水流に打ち消される
その勢いのまま、削られる上半身
下半身、血を吐き出し地面に倒れる
身構えるハーピーの女戦士
隣の、巨人の戦士を横目で見て―
ハーピー「アンタ、協力するよ!」
ハーピーM「こいつを倒したら、次はアンタの番だ!」
巨人「おぉ、一緒に倒すぞ!」
巨人M「後で油断させたところを、腹で押しつぶしてやる!」
リヴァイアサンと相対する二人の戦士
ガンドルム、それを木陰から観察している
傍ら、太々しい武子に―
ガンドルム「これで、全参加者が大魔獣とエンカウントしたようです。武子様は、戦わなくていいのですか?」
武子「俺がそんなへま、すると思う?」
ガンドルム「へま、ですか?」
武子「脳足りんのガンドルムくんに、俺が懇切丁寧に解説してやろう」
ガンドルム「……」
武子「この第二試験の通過条件は、魔獣の討伐だ。だけど、一人何体倒さなければいけない、なんてブラック企業の営業職みたいなノルマは設定されていない。証拠として、生き残った者が最終試験に望めると兵士は言ってた。ここから導き出される結論はたった一つ!ただ、生き残ればいい。態々、何十倍も体格差のある相手に喧嘩を売るなんて自殺行為、しなくていいんだ。大魔獣討伐は他の参加者に任せて、俺は最後のいいところだけ貰っちゃうぜ~」
下品に笑い声をあげる武子
ガンドルム、些か呆れて―
ガンドルム「……それで、いざ魔王を討伐する時、行動できるのですか?」
武子、目をカッと開いて―
武子「るっせぇな!俺に勇者になってもらいたいんだろ?だったら黙って、俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ!」
武子、懐から何かを取り出し見せる
掌には、紺碧に輝く宝石
武子「盟友の証石、壊されたくねぇだろ~?」
ガンドルム「……分かりました」
武子「つっても、そろそろ暇になって来たな~。何か、周りの足でも引っ張って遊ぶか~」
首を凭れ、天を仰ぐ武子
ふと眉を上げ、声を出す
武子「そうだ、エルフ族のあいつ……」
〔回想〕
エルマ「……彼は、端から勇者などではなかった」
俯くエルマ、バッと顔を上げて―
エルマ「私が、勇者に立候補します!」
武子「そういや今、一人だったよな?」
ガンドルム「……何をするつもりですか?」
武子、歪に口角を上げる
乾燥した唇、切れて血が滴る
武子「ライバルってのは、少なければ少ねぇほどいいのよぉ……」
× × × × ×
木陰に待機するエルマとフリザンディア
構えた剣、鈍く光る
辺りを警戒しているようだ
エルマ「段々と、様になってきましたね」
フリザンディア「あぁ、小型のモンスターがいい練習台になっている」
エルマ、ふと言い淀んで―
エルマ「あの、先ほど―」
〔回想〕
フリザンディア「苦境に陥った者を光へと導く……、それが俺の、勇者としての信念だ」
エルマ「あなたも、勇者志望で?」
フリザンディア「俺は、王都の騎士団で唯一、勇者候補に選ばれた人間だ。最も、まだ魔王討伐の旅に出たことは一度もないがな」
エルマ「勇者候補に、選ばれた……?」
フリザンディア「神官であれば、聞いたことはないか?異界からの使者に頼らず、この世界から純粋な勇者を輩出しようという試み。ヴァースタトリスタで行われているそれに、俺は選ばれたのだ。“純勇者”としてな」
エルマ「純勇者……、そのようなものが……。では、尚のこと最終試験まで残らなければいけませんね」
フリザンディア「……いや、残らない」
エルマ「え?」
フリザンディア「俺は、第二試験で生き残っても、最終試験は辞退するつもりだ」
エルマ「な、何故ですか……?」
フリザンディア「偶然耳にしたのだ、最終試験の内容を……」
その内容を話すフリザンディア
唇は動いているが、声は聞こえない
エルマ、それにハッと目を見開く
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・市場
様々な露店が立ち並ぶ
数多の人々で賑わっている
その中を歩く、バスティとガンテ
その背後に、ナーチとピリオネ
バスティ、チラと横目でガンテを見る
その頬は、ほんのり赤に染まっている
ガンテ、その視線に気づき―
ガンテ「何だ、ねーちゃん?」
バスティ「バカッ」
ガンテ「何でっ!?」
頬を膨らませ、ふいとそっぽを向く
物言いたげなガンテに知らん顔
その時、ふと見つける
遠方、市場を通り過ぎる勇也の姿
バスティ「あれ、勇也じゃない?」
ガンテ「お、本当だ」
ナーチ「でも、エルマしゃんがいないでしゅね」
ピリオネ「もしかして、抜け出してきたデスか~?」
背中は丸まり、横顔は暗い
見るからに、意気消沈している
やがて、路地に消えていく勇也
ガンテたち、露店に興味津々
既に、勇也への関心を失っている
バスティ、しかし彼から目を離せずにいる
バスティ「勇也……」