ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ボーテミュイズン〔下界〕・森
木々の生い茂る森
一面、緑に覆われている
木々の隙間、暖かな木漏れ日が差す
ザッザッザ、草を踏む音
勇也、陰鬱とした足取りで歩いてくる
ふと、立ち止まる
ゆっくり顔を上げ、辺りを見回す
スッと息を深く吸い―
勇也「元の世界に帰してくれーっ!」
叫ぶ勇也
しかし、葉の騒めきに掻き消される
その願いを聞き届ける者はいない
勇也「はぁ~……」
〔回想〕
ヴラガロード「全ては、魔王を取り逃がした能無しの勇者の責任じゃ!」
× × × × ×
ヘルト、勇也の顔を覗き込み―
ヘルト「もう、お前いらないよ」
勇也M「知ってるよ、俺は無能だ……。そんなこと、誰に言われなくても、自分が一番知ってる……。だって、今までそうやって生きてきた。いきなり変われなんて、無理に決まってるだろ……」
勇也、鼻を鳴らす
嘲笑するのは、自分自身だ
勇也M「有能勇者ね……。何だよ、有能って……」
勇也「何なんだよ、勇者って……」
俯く勇也
その時、背後から音がする
ガサガサ、草を掻き分ける音
怪訝に眉を顰める勇也
恐る恐る、近づいてみる
ヒョコっと、猫が顔を出す
勇也「……なんだ、猫か。そういや、この世界に来た時の初エンカも猫だっt—」
安堵の溜息をもらす勇也
ふと視線を上げる
そして、言葉を失う
少女の顔面、視界の全てを覆う
長い二又の舌、勇也の頬をペロリ
ナーチ「あ、ちょっとおいし―」
勇也「ひぎゃあぁぁぁぁぁっ!!!」
勇也の絶叫、森中に木霊する
空は、青く澄んでいる
× × × × ×
猫、バスティの腕で眠っている
バスティ、それを撫でながら―
バスティ「驚き過ぎよ」
勇也「あんな叫び声、リアルで出るんだ……」
ナーチ「ご、ごめんなしゃい……!」
勇也、地面に体育座り
バスティたちと目を合わせようとしない
座り心地は悪いが、今はそれも我慢だ
勇也「てか、何でここに?」
バスティ「市場で、偶然アンタを見かけてね。今まで見たことないくらいの陰オーラ発してたから、何かあったんじゃないかと思って」
ナーチ「バスティしゃんが、教えてくれたんでち」
勇也「ガンテとピリオネは?」
バスティ「アイツらなら、エルマの方に行ってもらったわ」
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・森〔第二試験場〕
サクサク、草を踏む音が響く
鬱蒼とした森
ガンテとピリオネ、辺りを見回す
ガンテ「……おい、迷ったんじゃねぇだろうな?」
ピリオネ「まさか、優秀なワタシに限ってそんなことないデス。それに、いずれにせよ試験には介入できないデスから、ここで迷ったって何の問題も無いデス」
ガンテ「そういうことじゃねぇよ」
ピリオネ「あ、来たデス」
上空を見上げるピリオネ
視線の先、一機のドローン
二人の元に降りてくる
ガンテ「んだ、それ?」
ピリオネ「小型ドローンデス。試験の様子を、撮って来てもらったデス」
ガンテ「介入できねぇんじゃねぇのかよ」
ピリオネ「バレなきゃ犯罪じゃないデス」
ドローン、ヴォンとモニターを表示
そこには、大魔獣と戦うエルマの姿
ピリオネ、それを見てフンスと鼻を鳴らし―
ピリオネ「さぁ、ワタシたちも己の役目を果たすデス!」
ガンテ「何すんだよ?」
ピリオネ「これ持てデス」
ピリオネ、ポケットから何やら取り出す
ハチマキと、ペンライトだ
眉を顰めるガンテ、渋々受け取る
× × × × ×
ピリオネ「ハイハイハイハイハイッ!」
軽快な音楽、草木に木霊する
腕を半円にブンブンと振るう
腰を落とし、ペンライトを天に掲げる
グルグルと腕を回し、円を描く
尾を引くペンライトの光
まるで、夜空を駆ける流星のよう
ガンテとピリオネ、見事なオタ芸を披露する
ガンテ「おいっ、何だこのダンス!?」
ピリオネ「以前、勇也が夜な夜な一人で踊っていたのをこっそりトレースしたデス!これで、エルマを全力で応援するデス!」
ガンテ「何か分かんねぇけどいいな、これっ!」
●ボーテミュイズン〔下界〕・森
勇也「それで、二人は俺のとこ来たのか」
ナーチ「はいでしゅ」
バスティ「アンタ、試験はどうしたのよ?もしかして、本当に抜け出してきたの?」
勇也、口を噤んでいる
暫し、沈黙が落ちる
風が吹き、木々が騒めく
勇也、静かに口を開いて―
勇也「俺は、いらないんだって」
バスティ「え?」
勇也「試験会場で、もう一人の勇者に会ったんだ。俺と同じ、異世界に召喚されたっていう。そいつがもう、凄く強くて……。力も、知識も、何も叶わなくて……。もう、手も足も出なくなっちゃって……。これまでの全部を否定されたみたいで……、もう、嫌になっちゃって……。エルマだって、俺の味方、してくれなかった……」
〔回想〕
エルマ「逃げるのですか?」
勇也「いいよね、俺なんかいなくたって。凄いんだよ、試験会場。色んな種族から勇者志望の人たちが集まってきて……。あれだけこの世界を守りたいって人がいれば、安泰だよね。だってこの世界は、俺には関係ないし。何で、関係ない世界を守らなきゃいけないの?あんな罵られて馬鹿にされて……、何も分からないなりに、俺なりに一生懸命やってんのに……!あんなこと言われながらこの世界を守る義理、俺にはないよ」
心臓の鼓動が早い
涙が出そうになるのを、必死で堪える
声は震えるが、想いは止まない
言葉は、徐々に熱量を増す
勇也「そもそも、約束が違うんだよ……。魔王を倒したら、元の世界に帰るはずだったのに、時間外労働もいいところだ……。もういいじゃん。無能一人が消えたところで、この世界は何も変わらない。俺の代わりなんて、いくらでもいるって分かったし。無能が消えて、有能勇者様が世界を救う。はっ、これでみんな満足なんでしょ?」
ナーチ「勇也しゃん……」
眉を顰めるナーチ、低く呟く
しかし、バスティはそうではない
眉を上げ、あっけらかんと―
バスティ「つまりアンタ、いじけてるのね」
勇也「……は?」
バスティ「自分は頑張ってるのに、周りがそれを認めてくれなくて、酷いこと言われて、いじけてるんでしょ?」
勇也「いじけ……、って、そんな幼稚な―」
バスティ「だってそうじゃない。気に食わないことツラツラ溢して。耳曲げた子獣人みたいよ」
勇也「……何言ってんのか分かn―」
ナーチ「勇也しゃんは無能なんかじゃないでしゅ!」
声を上げるナーチ
思わず、視線を向ける
ナーチ「勇也しゃんは、処刑されそうになっていた私を助けてくれまちた!勇也しゃんがいなかったら、今ここに私はいないんでしゅ!小説だって、あんなに面白いのが書けましゅ!だから私は、勇也しゃんのこと無能だなんて思ったことありましぇん!」
勇也「ナーチ……」
ナーチ「って、ごめんなしゃい。こんな時しか、言葉に出来なくて……」
バスティ「でも、ナーチの言う通りよ」
バスティ、辺りを見回す
優しい瞳、過去を愛おしむよう
バスティ「懐かしいわね。最初にあった頃は、スライム相手に隠れてたかしら。それ以前に、家に帰りたい~って地面に這いつくばってたわね」
ナーチ「そうだったんでしゅか……!?」
勇也「うっ……」
バスティ「でも今は、あの魔王も退けて、アタシの村も救ってくれた……。ちょっと、盟友の証石出してみなさい」
勇也「え?う、うん……」
勇也、懐から盟友の証石を取り出す
掌、色とりどりの宝石が並ぶ
バスティ「アンタのそれが、その証拠でしょ?」
勇也「でも、ピリオネのはエルマに―」
バスティ「細かいことはいいのよ!」
勇也「は、はい……!」
勇也、静かに息をつく
まるで、呟くように—
勇也「勇者って、何なんだろうね……」
バスティ「え?」
勇也「いや、本当は分かってるんだ。弱き者を助け悪を挫く、世界に平和と安寧をもたらす存在……、それが勇者だ。ゲームでもアニメでも、俺が出会ってきた勇者はみんなそうだった。でも、考えれば考えるほど、自分はそうじゃないって実感させられる……。むしろ、どんどん離れていって、凄く惨めになる……」
勇也、バスティとナーチを見上げて―
勇也「ねぇ、二人にとって、勇者ってなに……?」
縋るような瞳
バスティ、それにフッと微笑んで―
バスティ「アンタって、思ったより真面目なのね」
勇也「え……?」
バスティ「囚われてるのよ、こうあるべきっていう理想の勇者像に。良いじゃない、色んな勇者がいたって」
勇也「色んな……?」
バスティ「そうね……。ちょっと頼りないけど確実に成長していて、やる時はしっかりやる……、と思ったらちょっとズレちゃう勇者とか。アンタは?」
ナーチ「えと……。困っている人、弱い人を見捨てない、心優しい勇者、とか……」
バスティ「アンタの中には、理想の姿があるかもしれない。試験会場で会ったって人も、勇者の一つの形かもしれない。でも、誰が何と言おうと、アタシたちにとっての勇者はアンタよ」
バスティ、勇也を真っ直ぐ見つめて―
バスティ「アタシたちは、アンタしか知らない」
優しい声音のバスティ
勇也、それにハッと目を見開く
バスティ「理想を追い求める気持ちは分かるわ。でも、それに囚われて無理に変わる必要はない。アンタは、アンタなりの勇者であればいいのよ。変わらないことが、良いことだってあるんだから……」
勇也「バスティ……」
ナーチ、人差し指を立てて―
ナーチ「勇也しゃん、逆に考えてみてくだしゃい。もし、世界中の人たちが全員私だったら、気持ち悪いでしゅよね?」
勇也「……」
バスティ「……」
ナーチ「あ、そっか!そもそも皆しゃん、私になりたいなんて思わないでしゅよね!理論が破綻してました……!あはは、忘れてくだしゃい……」
肩をすくめるナーチ
徐々にテンションが落ちていく
その小さな背を、バスティが撫でる
勇也、それを横目に眉を上げる
心なしか、その表情は晴れている
勇也M「理想に囚われなくていい……。俺は、俺なりの勇者を……」
勇也「何か、分かった気がする……」
呟く勇也
その時、バタバタと音がする
一機のドローン、三人の元へ降りてくる
モニターの向こう、ガンテとピリオネの姿
ハチマキを付けたまま、こちらに語り掛ける
何やら、神妙な面持ちだ
ガンテ「にーちゃん、エルマが危ねぇぜ!」
ピリオネ「いつまでもいじけてないで、早く来るデス!これでエルマが死んだら、オマエも死刑に処すデス!」
勇也「……行かなきゃ」
ナーチ「勇也しゃんなら、大丈夫でしゅ!」
バスティ「勇者はアンタだって、見せつけてやりなさい」
力強く頷く勇也
ダッと走り出す
その表情は、決意に満ち満ちている
勇也M「完全無欠の勇者には、程遠いかもしれない。それでも、俺が俺でいることを許してくれるなら……」
森を抜けた、崖の上だ
目の前の絶景に、足がすくむ
いつもなら―
勇也「変身!」
勇也、崖を飛び出す
今は不思議と、怖くない
伝説の剣を抜き、鎧を身に纏う
金赤に輝く、正真正銘勇者の剣だ
ヴァラーM「少なくとも、手の届く範囲の人は全員護りたい!だって、俺を知ってくれている人がいる……。勇者は俺だって、言ってくれる人がいる……!」
ガシャンと着地
勢いを殺さず、走り続けるヴァラー
バスティとナーチ、その背を見守る
ヴァラーM「この世界はもう、無関係じゃないんだ」