ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・森〔第二試験場〕
リヴァイアサンの聳える湖
地面、横たえるハーピーと巨人を見下ろす
既に死体だ、もう動かない
瞬間、けたたましい音が響く
大地を揺るがす、鈍く響く音
やがて、巨大な何かが地面から飛び出す
長く、太い肢体を這わせている
それを覆う外骨格が黒く光る
ウゾウゾと蠢く、何十、何百もの足
ゆっくりと、リヴァイアサンの体に巻き付く
気配を殺し、静かに
それでいて、確実に仕留めようと力強く
まるで、標的に迫る暗殺者のよう
気づいたときには、もう遅い
リヴァイアサン、全身の骨が砕ける
立ち上がる巨大な水飛沫
湖の奥底の闇に消えていく
× × × × ×
獣道を歩くエルマとフリザンディア
大地を揺らす、異質な音に気付く
エルマ「これは……?」
フリザンディア「……」
ただ、耳を澄ますフリザンディア
瞬間、ハッと目を見開く
バッと背後に振り返り―
フリザンディア「来る……!」
木々を薙ぎ倒し、巨大な何かが迫る
無数の足を動かし、こちらに疾駆する
フリザンディア「大百足―センチピード!」
飛び退けるエルマとフリザンディア
縦横無尽に大地を駆け巡る大百足
その跡には何も残らない
フリザンディア「恐らく、あれが最後の大魔獣だろう。先程から、交戦の音が聞こえない」
エルマ「他の参加者が討伐したのですね」
フリザンディア「それか、大半の参加者が息絶えたか……。他の大魔獣を、奴が道なりに殺した可能性もある」
エルマ「戦いましょう、フリザンディア様」
フリザンディア「あぁ」
立ち上がる二人
センチピード、体を起こし威嚇
耳を劈くような、巨大な咆哮
長い体を、地面に叩きつける
飛び上がるフリザンディア
剣を大百足の体に叩きつける
しかし、容易に弾かれてしまう
フリザンディア「硬い……!」
エルマ「下がってください!」
杖を掲げるエルマ
エルマ「まずは、外骨格を破壊します!『メチェオール』!」
濃紺に淀む空、無数の光が瞬く
やがて、小型の隕石が襲来
大百足の体に容赦なく降り注ぐ
砕ける外骨格、肉が剥き出しになる
フリザンディア、そこに剣を突きつけて―
フリザンディア「『ポールヌィ・ラズレーズ』!」
そのまま、円を描くように剣を回転
まるで、満月を模るかのよう
奇声を上げるセンチピード
真っ二つになった胴から、青い血を流す
エルマ「やりましたね……」
フリザンディア「あぁ」
死骸を見つめるフリザンディア
その時、違和感に気付く
フリザンディア「いや、まだだ……」
大百足の切断面、蠢いている
そこから、無数の触手が飛び出す
フリザンディア「……っ!」
剣で逸らすが、その勢いは緩まない
真っ二つの胴、それぞれ起き上がる
切断面から、欠落した胴体が発生
フリザンディア「どうなっている……」
唖然とするエルマとフリザンディア
眼前、2体の大百足が立ちはだかる
胴体中央、無数の触手が蠢いている
エルマ「センチピードに、このような生態はなかったはずです……」
フリザンディア「有事が起きていることは、間違いないようだな。エルマ、もう一度外骨格を―」
フリザンディア、エルマに振り向く
しかし、隣に彼女の姿はない
ただ、大量の百足がいるのみ
視界を蠢き、埋め尽くす
百足の群衆、まるで壁のように聳える
フリザンディア「分断された、か……」
呟くフリザンディア
眼前、聳える大百足を見やる
フリザンディア「俺は勇者でこそないが、それ以前に王国の騎士……」
キッと剣を構えて―
フリザンディア「この程度の苦境、退くに値しない……!」
× × × × ×
エルマ、眼前のセンチピードを見上げる
杖を握る手、微かに汗をかいている
ゴクリ、息をのむ
瞬間、無数の触手が襲来する
エルマ「『ザシータ』……!」
魔法壁で辛うじて防ぐ
しかし、大きく身を反らされる
エルマM「触手による無数の近接攻撃……。いや、むしろここは、自ら……!」
エルマ、ダッと地を駆ける
触手を華麗に躱し、その上を走る
杖を構えて―
エルマ「『イグラー』!」
エルマの正面、魔力の結晶が出現
先端が鋭く、鋭利に輝いている
それを、光の如き速さで射出
大百足の外骨格に当たる
エルマ「押し込んで……!『グラヴィータ』!」
魔力結晶に強力な重力がかかる
やがて、外骨格にめり込む
大きな亀裂が見えて―
エルマM「あそこに、打撃を―」
その時、何かの気配に気づく
無数の光弾、飛翔してくる
明らかに、エルマに狙いを定めている
エルマ、身を翻し避け、地面に着地
光弾の方向、上空を見上げる
エルマ「あなたは……!」
こちらに杖を構える、ガンドルムの姿
傍ら、武子が不細工な笑みを浮かべている
武子「やぁやぁ、エルフの嬢ちゃん。俺の考えた最強モンスターは、お楽しみいただけているかな?」
エルマ「あなたの、考えた……?」
武子「生物の生態も弄れるなんて、ホント魔法って便利だよな~。魔王倒したら、土産に魔法の杖貰ってくことにするわ」
エルマ「あなた、神官としてこの事態を見過ごせるのですか……?」
ガンドルム「俺は神官の命に従い、嗤田武子を勇者にする。ただ、それだけだ」
平然と口にするガンドルム
エルマ、悔しそうに息を漏らす
武子「あのガキんちょがいなくなったおかげで、楽に足引っ張れたな~。ま、別の男が付いてたのは誤算だったけど」
不服そうに眉を寄せる武子
瞬間、空気が爆ぜる
百足の壁、粉々に砕け散る
その向こう、フリザンディアの姿
地面に崩れ落ちる大百足を足にひいている
エルマ「フリザンディア様……!」
武子「やばっ、もう倒しちゃったの!?」
狼狽する武子
フリザンディア、それに剣を構えて―
フリザンディア「外道っ……!」
ドンッと飛び出す
上空の二人に迫る
武子「じゃ、ガンドルムくんよろしく~」
フリフリと手をあおぐ武子
ガンドルム、杖を向けて―
ガンドルム「『スパーチ』」
フリザンディア「……!」
エルマ「杖を見ないでください!」
叫ぶエルマ
しかし、時すでに遅し
地面に不時着するフリザンディア
動かない、眠っている
エルマ「あっ……!」
直後、エルマがガクンと体を落とす
地面にへたり込む
体が動かない、力が入らない
エルマM「神経系を操作する魔法……っ?」
狼狽するエルマ
そこに、武子が迫る
ワキワキと手を動かしている
その頬は紅潮し、息は荒い
武子「おっ、俺、エルフのえっろい体触るの、夢だったんだよな~、デュフッ」
そっと伸びる、武子の手
やがて、ローブ越しにエルマの胸を掴む
エルマ「んっ……!」
武子「ぶほほっ!いいねぇ、その声~!ふおぉ、指が胸の肉に埋まるぅ~!最高の揉み心地だ~!こりゃ、魔王倒したらエルフハーレム建設不可避っ!下賤種も捨てたもんじゃねぇな~!」
思うままに胸を揉みしだく武子
エルマ、そんな彼を睨んで―
エルマ「キ、キモい、んだよ……っ!」
武子、ニヤリと口角を上げる
武子「ふへへっ、マゾ豚の俺にはご褒美だブ~。けど―」
パチンッ、乾いた音が響く
武子、エルマの頬に掌を振り抜く
大きく口を開け、唾を飛ばしながら―
武子「誰に口利いてやがんだ、この半魔がぁ!おい、ガンドルム!」
武子、ガンドルムに振り向く
何かを命じているかのような眼力
直後、エルマの体に電流が走る
エルマ「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
ガンドルム「……」
ぐったり、地面に崩れるエルマ
武子、彼女の頬を掴み―
武子「そうやって、俺を蔑むからいけないんだ……。あんたの勇者様には世話になったからなぁ。俺が満足するまで、羞恥凌辱パーティの開幕だぁ!」
武子、目をひん剥きニヤリと笑う
× × × × ×
ドローンのモニター、エルマを映す
ガンテとピリオネ、それにのめり込んでいる
ガンテ「……おいおい、やべぇんじゃねぇか!?」
ピリオネ「嫌な予感がするデス……」
ガンテ「ってか、こんなの卑怯だろ!試験なんて言ってる場合じゃねぇ!俺が助けに―」
言いかけて、二人に影が落ちる
見上げるガンテとピリオネ
二人を飛び越える、金赤の鎧が見える
背を向け、そのまま奥へと走り去っていく
ガンテ「にーちゃん、やっときた!」
ピリオネ「……」
× × × × ×
疾駆するヴァラー
心も気持ちも、僅かに逸る
ヴァラーM「俺がいなくなって、エルマ、きっと苦労してる……。互いに悪かったところがあるにせよ、謝る謝らないは後にして、まずは試験を―」
その時、ふと立ち止まる
眼前、エルマの姿をとらえる
傍らには、武子の姿も
ヴァラー「エルマ!」
エルマ「勇也様……!」
ヴァラー「助けに来たよ!」
駆け寄るヴァラー
エルマ「勇也様……」
エルマ、それにフッと微笑み―
エルマ「……見ないで」
勇也「え……?」
直後、轟音が響く
地鳴りが起きる、激しい
ガタガタ、立っていられないほど
??「う゛、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
聞いたことのない唸り声
その発生源は、エルマだ
エルマ「う゛あ゛ぁ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……」
ローブが裂け、体が膨張していく
刺々しい鱗が、肌に逆立つ
口元から、鋭く大きな牙が伸びる
ギロッと見開かれた目
その形、色は明らかに人のものではない
額には、樹木のような角が2本
エルマ「う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!」
森に落ちる巨大な影
そこにいる全員が、それを見上げている
否、目を逸らすことなど、到底できない
勇也、瞠目し呟く
勇也「エル、マ……?」
否、そこにいるのは、白龍だ
巨大な咆哮、耳を劈く
大地を揺らし、木々を薙ぐ
× × × × ×
モニターを見つめるガンテとピリオネ
ガンテ、口を開け唖然としている
その傍ら、ピリオネが声音を落とし―
ピリオネ「嫌な予感、的中デス……」