ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・森〔第二試験場〕
鬱蒼とした森
そこから、巨大な白龍が顔を出す
唖然とする一同
ただ、眼前の白龍を見上げている
ガンドルム「エルフが、龍化した……?」
ヴァラー「エルマ……」
呟くヴァラー
しかし、その声は届かない
白龍、眼前の大百足を見つめる
鋭く睨み、そして飛びつく
大百足、無数の触手を振るう
しかし、頑健な鱗に傷一つ付けない
外骨格に牙を立てる白龍
容易に噛み砕き、肉を露出させる
そのまま、鋭い牙で肉を噛みちぎる
グチョグチョ、生々しい音が木霊する
やがて、大百足の胴が真っ二つに割れる
青色の血、雨のように降り注ぐ
ガンドルム「なんて力だ……」
武子「は……、ははっ、あ、ありがとな、エルフの嬢ちゃん。俺たちを、助けてくれたんだろ……?流石に、あんなの手に負えねぇからな~、ははっ……」
武子、乾いた笑みを漏らす
しかし、白龍が元の姿に戻る気配はない
ただ、じっと武子を見下ろしている
落ちる沈黙、風がそよぐ
冷や汗が、ツーと頬を伝う
その瞬間、ドンッと突き飛ばされる
重い体が、地面に倒れ込む
肌が熱い、ジリジリと焼けるよう
ふと、顔を上げる
眼前、白龍が炎を吐いている
草木、燃える間もなく灰と化す
その渦中に、ガンドルムの姿
武子「ぁ、おい……っ!」
真っ黒に焼け焦げたガンドルム
地面に倒れ込む、動かない
ギロリ、白龍がこちらを向く
武子「ヒッ……!」
短く悲鳴を上げる武子
タッと走り出し、ガンドルムの側へ
武子「こ、こんなとこで死んでたまるか……!」
杖を構え、地面に突きつける
瞬間、地面に描かれる魔法陣
武子、光に包まれどこかへ消える
倒れるガンドルムを、その場に残して
ヴァラー「……っ!」
息をのむヴァラー
何故か
白龍が、こちらに牙を剥くからだ
ヴァラー「も、もしかしてこれ……、暴走、ってやつ……?」
後退るヴァラー
白龍、容赦ない咆哮を浴びせる
体が吹き飛びそうな勢い
同時に、意識も飛んでいきそうだ
腰が抜け、地面に座り込む
その寸前―
フリザンディア「はぁっ!」
黄金の騎士、白龍の額を打つ
否、額ではなくそこに埋められた小さな宝石
金属のかち合う、甲高い音が耳を劈く
戸惑いに、言葉の出ないヴァラー
やがて、白龍の体が縮んでいく
刺々しい鱗は消え、角も折れ落ちる
そこには、一人の少女が倒れているだけ
フリザンディア、エルマを抱き上げる
座り込むヴァラーに差し出し―
フリザンディア「お前の神官だ」
ヴァラー「……あ、ありがとう、ございます」
ただ、その言葉しか出てこなかった
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・宿屋
とある一室
エルマ、ベッドに眠っている
隣のベッドには、ガンドルムの姿
その傍ら、勇也が見守っている
木製の椅子に腰かけながら
静寂、外も不思議と閑散としている
エルマ「ん……」
エルマの体、微かに動く
やがて、ゆっくりと目を覚ます
エルマ「ここは……」
勇也「んと……、おかえり、エルマ……」
エルマ「おかえr―」
ふと、隣に視線を動かす
ベッドに眠るガンドルムを見て、瞠目
エルマ「こ、これは……!?」
体は真っ黒に焦げ、所々肉が膿んでいる
死んではいない
死んではいないが、目覚めもしない
エルマ「まさか……」
顔を伏せるエルマ
信じられないというように、瞳が揺らぐ
心臓の脈拍が速くなる
勇也「エルマ……」
眉を顰める勇也
エルマ、やがて「ふぅ」と息を吐く
辛うじて落ち着きを取り戻しようだ
立ち上がるエルマ、ガンドルムの傍らへ
彼の体にそっと手を伸ばし―
エルマ「『イスツェーリエ』……」
掌から、暖かな光が溢れ出す
それが、ガンドルムの体を包み込む
火傷を直し、肉を再生させる
やがて、目を開けるガンドルム
エルマを見て、瞠目
ベッドから飛び降り、構える
ガンドルム「お、お前……、どうして……!」
エルマ「申し訳ありませんでした……」
ガンドルム「謝罪はいい、それより説明しろ……!どうしてエルフのお前が、龍化できる……!?」
フッと目を伏せるエルマ
エルマ「……分かりました。お二人には、知っていただきたいと思います」
エルマ、そう言ってローブに手をかける
ローブを脱ぎ、中の衣服もはだけさせる
勇也、その光景に赤面し―
勇也「ち、ちょっと、エルマさん……!?」
それを見て、目を見開く
後ろを向くエルマ
白く、美しい背中が見える
だが、その一部は異質だ
まるで、ヒビ割れたように刺々しい
逆立つ龍の鱗に変質している
エルマ「私は、エルフの身でありながら龍の肉を口にした……。半魔半龍、なのです……」
× × × × ×
勇也とガンドルムに対面するエルマ
既に、衣服は身に着けている
勇也「半魔半龍……」
ガンドルム「そうか……、ようやく違和感の正体が分かった。お前の膨大な魔力は、龍の肉を喰らった影響だったのか」
勇也「え……、肉を食うと、どうなるの……?」
ガンドルム「俺たち龍人とエルフは、この世界でも特に強い魔力を司る種族だ。その血肉には、他の種族と比べ物にならない程、膨大な魔力が宿っている」
勇也「そう言えば、ピリオネが掟とかなんとか……」
エルマ「はい。私たちエルフ族は『生涯で一つの魔法を極めること』」
ガンドルム「俺たち龍人族は『生涯でより多くの魔法に触れ、習得すること』」
エルマ「私は本来、治癒魔法の使い手です。ですが、龍の肉を食してからは、体内の魔力総量が急激に増え、一介のエルフでは到底使いこなせない、あらゆる魔法を習得することができるようになりました」
ガンドルム「本当だったら、龍の肉を食った者は、それに適合できず死ぬはずだ……。だがお前は適合した。あらゆる魔法を身に着け、習得もしている……。通りで、厄介だったわけだ」
勇也M「仮面ライダーヒール……。ヒーラーの役職のエルマが、どうして色んな魔法を使えるのか少し疑問だったけど、そういうことだったのか……」
ガンドルム「龍の肉なんて、どこで手に入れた?」
エルマ「まだ幼い頃……、飢えていた時に、下界の教会で……」
エルマ、ふと勇也を見やり―
エルマ「勇也様と初めてお会いした、あの教会です」
ガンドルム「まさかお前、龍人・カイゼリアンの肉を食ったのか!?」
エルマ「はい……」
勇也「え、あの教会ってそんなサービスもしてるの?」
ガンドルム「この世界には、上界と下界それぞれに、いくつか教会が建っている。そこには、俺たち両種族の始祖が眠っているんだ」
勇也「始祖……?」
ガンドルム「龍人族の始祖、龍人・カイゼリアンと―」
エルマ「エルフ族の始祖、魔人・エヴァリナです」
ガンドルム「両者の遺体が分断され、それぞれの教会に祀られているんだ」
勇也「な、何でそんなグロいこと……」
エルマ「神官は、己の種族の始祖が祀られている教会で、異界から勇者の召喚を行います。ですが、別世界から何かを呼び寄せるような大規模な魔法は、神官1人の魔力では到底足りません。故に私たちは、そこで祀られている始祖に宿る魔力を用いて、召喚を行っているのです。勇也様の召喚にも、あの教会に祀られている龍人・カイゼリアン様の魔力をお借りしました」
勇也「そうだったんだ……」
ガンドルム「エルフ族が下賤種になってからすぐ、あの教会は龍人族のものになったはずだ。どうしてお前が、あの教会に出入りしている?」
糾弾するようなガンドルムの目つき
エルマ、それにふと顔を伏せて―
エルマ「あそこは……、私にとって唯一の、憩いの場なのです……」
勇也「もっと、早く言ってくれればよかったのに……」
??「そうよ」
ふと、室内に声が響く
バスティたち、入り口に立っている
エルマ「……聞いていたのですか?」
バスティ「まぁ、軽くね」
エルマ、顔を伏せる
その表情は、悲しみと後悔に曇っている
まるで、己の存在を否定するかのように
エルマ「下賤の身でありながら、高貴な龍の肉を口にしてしまいました……。私はもう、純粋なエルフではない。穢れてしまったのです……。こんな醜い私を、知られたくなかった……」
肩を抱くエルマ
震える涙声、室内に溶け込む
ガンテ「いや、かっけぇだろ」
あっけらかんと口にするガンテ
エルマ、それに思わず顔を上げる
ガンテ、はしゃぎながら―
ガンテ「だって龍だぜ!?ドラゴンだぜ!?あの翼、あの牙、みんなも見ただろ!?俺も口から炎吐いてみてぇ~!」
バスティ「アンタ、会った時から色んな魔法使ってたからね。話聞いて、納得したわ」
ピリオネ「魔結界の中で襲われたときは、流石にオイルチビったデス」
ナーチ「むしろ、親近感湧きました!」
エルマ「みなさん……」
勇也「誰も、馬鹿にしたりなんてしないよ。第一、エルマが魔法使えてなかったら俺、初っ端スライムに取り込まれてたからね?」
〔回想〕
バスティ「危ないっ!」
勇也「え?」
考え込む勇也
故に、バスティの言葉に反応が遅れる
こちらに飛んでくるスライム
獲物を取り込まんと、大きく口を開く
眼前に迫る、もう避けられない
勇也M「あぁ、おわ―」
エルマ「『ヴズリーブ』!」
直後、スライムが爆散
足元、小さく火があがる
勇也、エルマに歩み寄る
微かに言い淀んで―
勇也「ご、ごめん、なさい……。途中で試験、投げ出したりして……。いじけて、自暴自棄になってた……」
頭を下げる勇也
エルマ、それに静かに微笑んで―
エルマ「私も、勇也様に個人的な事情を押し付けてしまい、ごめんなさい……。異界から召喚した勇者は、既に魔王を倒すという使命を背負っている。それ以上の何かを……、ましてや一個人の願望を無責任に託すべきではありませんでした……」
勇也「エルマ……」
エルマ「ですが、私はこの想いを曲げるつもりはありません。あの時の言葉に、嘘はありません。そのために、ここまで来たのですから……。それでも、勇也様は着いてきてくださいますか……?」
エルマ、勇也を見つめる
縋るような、不安げな瞳だ
勇也、その瞳を真っ直ぐ見つめ返す
勇也「うん。俺は、勇者をやるよ。改めて、自分が勇者なんだって、気づかせてくれたからね」
勇也、振り返る
澄まし顔で微笑むバスティ
照れ臭そうに頬を掻くナーチ
エルマ、それに安堵したように微笑み―
エルマ「そうですか」
勇也「でも、もうちょっと休みが欲しいかな~。見えてないところでも動き続けるのは、中々慣れないよ……」
エルマ「フフッ、考えておきます」
勇也とエルマ、微笑みを交わす
そして、ガンドルムに向き直り―
勇也「だから、あの勇者……、武子さんには、負けません」
勇也、ガンドルムを見つめる
緊張の面持ち
ガンドルム、それに溜息をつき―
ガンドルム「言うまでもなく、彼は最終試験で負けるだろう」
勇也「え、何で?」
ガンドルム「勇者の器ではなかった、ということだ。俺を、盟友の証石で脅してきたしな」
それを聞いて、一同が息をのむ
シンと、空気が静まり返る
勇也、それに戸惑い―
勇也「え、え?この空気なに?」
エルマ「盟友の証石は、魂の結晶。その人の命を具現化したものと言いましょうか……」
ガンドルム「つまり、壊されれば死ぬ」
勇也「うそん」
バスティ「アンタがどれだけ信用されてるかわかったでしょ?」
勇也「皆さん、俺の評価間違えてません……?」
ナーチ「ないでしゅ!」
その時、街中に声が響く
兵士(声)「これより、最終試験を執り行う!」
エルマ「勇也様、出番です……。いえ、貴方様のお力が、必要です」
勇也、僅かに顔を伏せて―
勇也M「儚いなんて聞こえがいい……。勇ましいなんて名前負けだ……。でも―」
グッと拳を握り、顔を上げる
その表情は、とても頼もしい
勇也「行かなきゃ……、勇者になるんだ……!」