ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
武子N「手のひら返しといえば、年末の日本を思い出す。24日までは、街はイルミネーションで溢れ、気味の悪い鈴の音や恋人の会話が耳障りだ。にも関わらず、一度聖夜が明ければ、店先に置かれた門松が目を引き、駅の魚屋はおせち食材一色になる。これまでの当たり前を、さも端から何もなかったかのようにぶち壊す……、手のひら返し甚だしい。そんなどうでも良いことに注目するほど、俺は日々のイベント事には無頓着だったわけだが……、まぁ、そんな話」
◆中学校・空き教室(30年前・午後)《回想》
壁に叩きつけられる、男子生徒の横顔
その表情は、苦悶と苦痛に歪んでいる
それを見て、笑い声をあげる男子生徒たち
下劣な笑みが、薄暗い教室に響く
男子の髪を引っ張り上げ、顔を覗き込む
財布を漁り、小銭を抜き取る
札がなくて不機嫌になり、床に叩きつける
その内の一人に、武子がいる
制服を身に纏った、中学生の武子だ
武子N「周りと馴染めない奴に、居場所はない。勉強ができない、空気が読めない、そんな無能に価値なんてない。俺たちはそんな奴に、制裁を与えてやってる。社会の役に立たない奴らに、俺たちなりの罰を与えてやってるんだ。教師でさえ、誰も俺たちを止めることは出来ない。だって、俺たちが正義なのだから。何もかも、お前らが悪いのだから」
唸り声と笑い声、混ざり教室に反響する
◆中学校・教室(数日後・午後)《回想》
授業中
教科書に目を向ける教師
生徒たち、静かに授業を受けている
しかし、武子と数名の男子生徒は違う
机に脚を乗せ、そっぽを向いている
目配せし、コソコソと笑い声を立てている
教師「じゃあ次の人、ここ読んで」
男子「は、はい……」
とある男子生徒、立ち上がる
教科書を持つ手、震えている
小さな声で、教科書を読み始める
誰にも聞こえないくらい、小さな声だ
教師「もう少し、大きn―」
武子「おいっ!」
武子、ガンッと机を蹴る
震える男子生徒に詰め寄り―
武子「全然声聞こえねぇんだけど?」
男子「ご、ごめん……」
武子「そんなに声小せぇってことは……、お前、アソコも小せぇんじゃねぇの?」
ニヤリと笑う武子
男子生徒のズボンを引っ張る
必死に抵抗する男子生徒
しかし、武子の力の方が少し強かった
ビリビリと、制服のズボンが音を立てて破ける
男子生徒の性器が、周囲に晒される
悲鳴の上がる教室
顔を赤らめ、涙目の男子
その傍らで、武子は大笑いだ
武子「はははっ!マジで小せぇじゃん、コイツ!それでも男かよ、ははっ!なぁ、コイツやばくね!?」
武子、同じいじめっ子グループに笑いかける
しかし、一切の反応も返って来ない
ただ、冷ややかな目で武子を見つめるだけ
武子「……おい、何だよ?」
男子「お前さぁ、今授業中だろ?空気、壊すなよ」
武子「……はぁ?」
◆中学校・トイレ(数日後・放課後)《回想》
ゴボゴボと、水の中で叫び声がする
便器に沈められる、武子の顔
下劣な笑い声が、水中でも聞こえる
× × × × ×
個室、床に座り込む武子
顔も制服もずぶ濡れ
立ち込める悪臭の中、呆然としている
鞄から抜かれた財布には気づいていない
武子M「なんて、手のひら返しだ」
◆嗤田宅・武子の部屋(28年前・朝)《回想》
ベッドに蹲る武子
体全部を布団で覆っている
その表情、瞳に活気はない
部屋の外、母親の声がかかる
母親「ねぇ、今日くらいは高校、行ってみない?」
しかし、武子は口を噤んだまま
ただ、そっと目を閉じるだけ
今日も、一人だけの世界に閉じこもる
武子N「人間不信になった俺は、入学した高校も指で数えるくらいしか行かず、結局中退となった」
◆とある会社・オフィス(24年前・午前)《回想》
武子N「それでも、年がら年中鬱だったわけではない。この数年間で辛うじて心を持ち直した俺は、とある無名の中小企業の事務に就職した」
重なる内線の音
忙しなく行き交う人々
絶えない話声
上司、武子の肩をポンと叩いて―
上司「何か分からないことがあったら、何でも聞いてくれていいから。これから、よろしくね!」
武子「は、はい……!」
武子N「希望を持っていた。そうだ、俺はこんなとこで終わる人間じゃない。俺は、無能に誅を下す絶対的な強者なんだ……!」
× × × × ×
武子、上司の元へ
手に持つ資料を指し示して―
武子「あの、ここなんですけど―」
上司「あ~、ここ?こんくらいはさ、自分で考えてやろうよ。今まで、勉強してこなかったの?」
武子M「お前が聞けって言ったんだろ……」
武子「分かりました……」
× × × × ×
武子、席でパソコンに向かっている
そこに、上司がやってくる
バンッと机に資料を叩きつけて―
上司「おい、嗤田!」
武子「は、はい……!?」
上司「これやったのお前だろ!なんで勝手にやるんだよ!分からなかったら聞けって言っただろ!」
ハッと目を見開く武子
ボソッと、唇が動く
武子「これ、リアルでも言われるんだ……」
上司「あぁ!?」
武子M「あぁ、もういいや」
武子、ガタッと席を立つ
そのまま、オフィスを後にする
◆嗤田宅・武子の部屋(数日後・夜)《回想》
暗い部屋
パソコンとマウスを操作する武子
画面では、広大な世界をキャラが駆ける
無機質な光、充血した瞳を照らす
武子M「手のひら返し、手のひら返し……。この世界は、理不尽に溢れている。あまりにも、理不尽が過ぎる。俺は、こんなんじゃない。悪いのは、周りと馴染めない奴、勉強できない奴、空気が読めない奴……」
武子、ふと気づく
画面に映る自分を見る
髪はボサボサ、髭は生え散らかしている
気づけば、豚のように肥えた体
傍らには、ジャンクフードのゴミが散乱
部屋は物で雑然とし、悪臭が立ち込める
武子「俺じゃん……」
ふと、言葉が漏れる
掠れた声、震えている
しかし、歯をギリッと鳴らし―
武子M「違う……!全部、あいつらが悪いんだ!簡単に手のひらを返して、理不尽を押し付けてくるあいつらが悪い!だったら、俺も理不尽でいてやる!お前らが俺にそうしたように、俺もお前らに無意味に理不尽を押し付けてやる!」
激しくタイピングを打つ
打ち込まれる、罵詈雑言の数々
打ち込み終わり、背を凭れる
天を仰ぎ、溜息
武子「……クソッ」
◆嗤田宅・武子の部屋(数日前・午前)《回想》
床に寝そべる武子
ダラダラとスマホをスクロール
流れてきた同級生の投稿に唾を吐く
武子「はっ、結婚?あいつが?自分から人生の牢獄に囚われに行くとか、ドMかよ。あ、でも嫁綺麗だな……」
起き上がる武子
部屋を見回し、ティッシュを見つける
武子「……シコろ」
× × × × ×
床に散らばる大量のティッシュ
何かを擦る音、部屋に響く
荒い息遣いの武子
スマホを凝視している
武子「うっ……!」
やがて、果てる
股間を抑えるティッシュに染みが着く
武子「ふぅ……」
無気力に溜息を吐き、ティッシュを投げる
直後、インターホンが鳴る
2度、3度、鳴りやまない
武子M「ちっ、そういや今日、家に俺しかいねぇんだった」
気だるげに溜息をつく武子
ノッソリと重い体を持ち上げ歩き出す
武子「うおっ、足に力入んねぇ……」
直後、ティッシュを踏み、足を滑らせる
武子「やべっ」
体勢を崩し、後ろ向きによろける
後頭部から、地面に倒れていく
その先、棚の角が迫る
このまま刺されば、確実に死ぬ
だが、その寸前―
??(声)「どうかお救いください。異界の勇者……、『仮面ライダー』よ……」
武子M「は?仮面……、何て?」
眩い光、全身を包み込む
◆ボーテミュイズン〔上界〕・教会《回想》
整然と並べられた座席
その中央、赤いカーペットが駆ける
最奥の祭壇に、武子の姿
よろけ、尻から倒れる
武子「ちっ、って~……。何だ、ここ……」
??「嗤田武子様」
ふと、自分を呼ぶ声に振り向く
ガンドルム、こちらに跪いている
武子、その光景に唖然
だって、見るからに同じ人間ではない
ガンドルム「お待ちしておりました」
武子「お、お前は……?」
ガンドルム「私は、龍人族の神官、ガンドルム」
武子「龍人……、神官……?お前、頭大丈b―」
ガンドルム「あなたには勇者となり、この世界を魔王の手から救っていただきたいのです」
平然と伝えるガンドルム
武子、自分の胸を抑える
いつもより、脈が速い
武子M「何だこれ、おかしい……。だって、さっきまで俺は……。こんなの、絶対におかしい……。なのに、何なんだ、この胸の高鳴りは……?俺が勇者……?この世界を救う……?もしかして、これって―」
武子、ニヤリと口角を上げる
黄ばんだ前歯を晒しながら―
武子「俺の時代、来た……?」
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・城門
歩いている武子、聳える城門に着く
そこには、1つの大きな扉と、隣に兵士
武子、訝し気に眉を寄せて―
武子「これが、最終試験か?」
兵士「左様でございます」
武子「はっ、どんな無茶振りされるかと思ったけど、もうこれ勇者内定確定ってこと?前の就活より全然楽だわwww」
扉を潜る武子
異常も違和感もなく、ただ潜り抜ける
こんなものか、と息を吐く
直後、背後からダッダッダと足音
振り返り、眉を上げる
眼前、息を切らす勇也の姿
勇也「あの……、俺も最終試験、受けられますか……?」
武子「はっ、そりゃ無理だろガキんちょ。お前は、途中で泣いて逃げ出したんだから」
兵士「いえ、儚田勇也様から正式な辞退の手続きはされておりません。よって、試験に参加する権利は有しています」
安堵に眉を上げる勇也
それを聞いて、武子は舌打ち
勇也、息を整える
深呼吸して、一歩踏み出す
阻まれることなく、扉を潜り抜ける
勇也「え、これで終わり……?」
武子「あぁ、そうみたいだな。見たところ、残ってるのは俺たち2人だけか……。だけど、この世界に勇者は2人もいらない、そうだろ?そもそも、見限られたお前の代わりに、俺が召喚されたんだからなぁ」
勇也「……」
武子「丁度いいや、また決闘で勝負しようぜ。今度は手加減なしだ。再起ふのぅnis縺?※繧?s繧―」
言葉が崩れる、聞き取れない
同じように、体も崩れていく
口元が溶け、顎が落ちる
眼球がコロッと落ちて蒸発
体全体がドロドロに溶け、原型を留めない
液状化した武子、地面に飛散
まるで、高所から水を落としたよう
勇也その姿を見て、平然と―
勇也「これは……」
ガンドルム「この扉は、使用者が体内に宿す勇力を測定する魔道具だ」
ガンドルム、勇也の傍らに現れる
ガンドルム「勇力を一定以上保有していない者が通れば、体がその魔力に適応できず、やがて崩壊する」
勇也「この人は、必要な勇力を持っていなかった……」
ガンドルム「あぁ、その結果がこれだ」
勇也「知ってたの……?こうなるって……」
口を噤むガンドルム
同じく、勇也も口を開かない
ただ、武子だったものを見下ろす
目を伏せることも、眉を顰めることもない
勇也N「不快感も、恐怖心もない。ただ、安堵した」
ガンドルム「これで、全ての試験は終了した。おめでとう、儚田勇也。君が勇者だ」
兵士「ヴラガロード様がお待ちです。どうぞ、こちらへ」
勇也「は、はい……」
勇也、兵士に連れられ城へ消える
ガンドルム、液体の傍らに転がる杖を拾う
かつて、武子が持ち去ったものだ
ガンドルム「前進を諦めた者に、未来はないんだよ、嗤田武子……」
武子だったものを見つめ、平然と―
ガンドルム「君は、勇者の器ではなかった」
●ヴァースタトリスタ〔上界王都〕・王城・玉座の間
ドッカリと、玉座に鎮座するヴラガロード
その対面、緊張の面持ちの勇也
体が強張り、肩が上がっている
背後では、エルマたちがそれを見守る
ヴラガロード「お主は全ての試験を突破し、勇者としての資格を得た。賞賛に値する」
勇也M「けっ、とんだ手のひら返しだぜ」
心の中で毒付く勇也
それを見透かしたか、王は色を正し―
ヴラガロード「もう、失敗は許されぬぞ……?」
目を細めるヴラガロード
勇也、それにゴクリと息をのむ
ヴラガロード「今度こそ魔王を完全に打ち滅ぼし、この世界に真の平和と安寧をもたらすこと、お主に期待しておる」
勇也「……はい!」
眉を寄せ、口を結ぶ勇也
決意に満ちた表情で、王を見つめる