ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
■ボーテミュイズン〔下界〕・教会《回想》
薄暗く、静寂が満ちる聖堂内
エルマ、席に腰かけ本を読んでいる
一人でポツンと、周りには誰もいない
果たして、内容こそ頭に入っているかどうか
エルマN「エルフ族が下賤種になって、神官の座は剥奪された。あの日以来、両親とこの教会に来ることもなくなった。それでも私は、家族で過ごしたあの時間が忘れられなくて……、縋りたくて、毎日一人で訪れていた」
エルマ「本……、取り返しに来てよ、パパ……」
エルマの呟き、静寂に溶け入る
涙は落ちない
だがその表情には、深い悲しみが宿る
その時、エルマの腹が大きな音を立てる
慰めるように、腹を優しく摩る
エルマN「生きていくのに必要な何もかもはほぼ全て上界に送られ、日々の食事さえままならなかった。元々この世界に存在していなかったのではないかと錯覚するほど、私達は世界から見放されていた。まだ私達が、魔法を使うことの出来る種族であることが不幸中の幸いだったけど」
エルマ、鳴りやまない腹を見て眉を顰める
その時、何かに気付いてふと顔を上げる
ピョンと席を降り、祭壇へ駆け寄る
少し高いところに、小さな盃が飾られている
背伸びをして、その中身を覗こうとするエルマ
肉だ、何かの肉が入っている
それを見て、ハッと目を見開く
× × × × ×
いつかの昔、まだ下界に堕ちる前
暖かな光が差す聖堂内
マーリフ、膝に乗るエルマに語り聞かせる
マーリフ「教会にはね、エルフ族の偉い人が祀られているんです」
エルマ「偉い人?」
マーリフ、祭壇を指さして―
マーリフ「魔人・エヴァリナが、パパの召喚を見守ってくださっているんですよ」
エルマ「そうなんだ~。じゃあ、次は成功するね!」
マーリフ「ふふっ、そうですね」
× × × × ×
盃の肉を見つめるエルマ
無意識に、腕が伸びている
もはや、抗えない
エルマ「今は、龍人さん、だよね……」
■エルフ族の森・エルマの家《回想》
食卓を囲むマーリフとエルマ
並ぶ料理は、しかし豪勢なものでは全くない
ものの数秒で食べ終わるほど、質素なもの
黙々と食べ続ける2人
暫くの無言の後、マーリフが優しげに―
マーリフ「エルマは、今日は何をしていたのですか?」
エルマ「……えっと、教会に……」
マーリフ「エルマ、今あの教会は龍人族のものだから、行ってはダメだと言いましたよね?」
エルマ「ごめんなさい……、でも……」
マーリフ「また、ママと楽しいこと見つけましょう、ね?」
エルマ「うん……」
エルマN「母は、変わらず優しかった。いや、今思えば、きっとかなり衰弱していたと思う。それでも私の前では、普段通りの母でいてくれた」
ガチャリ、扉が開く
同時に、バタンと床に何かが倒れる
思わず立ち上がるマーリフ
倒れるエリーツを見て、瞠目する
マーリフ「あなた……っ!」
マーリフ、エリーツに駆け寄る
体を抱き、優しく揺する
しかし、反応はない
意識は混濁し、口も開かない
ただ、それ以上に気になることは―
マーリフ「まさか……、嘘でしょう……?」
真っ黒な血管が無数に蠢く腕と足
まるで、何かの呪いに侵されたよう
背中には、刺々しく鱗が逆立っている
触れたマーリフの指から血が伝う
口から伸びるのは、鋭い牙
巨大な肉食獣が有しているそれだ
もはや、ただのエルフの姿ではない
エルマN「父は、母と違い目に見えて衰弱していた。病んだ精神と空腹に耐えきれず、龍人の肉を口にしたのだ。父の体質が、私が龍神の肉に順応できた理由だったが、それでも父の体は龍の力に侵され、まともな生活を送ることは出来なくなった。この日、私達の知る父は、私達の前から姿を消した。いや、もうとっくに、いなくなっていたか……」
マーリフ、エリーツに顔を埋めている
嗚咽を溢し、泣いているのだ
エルマは、それをただただ見つめるだけ
■ボーテミュイズン〔下界〕・教会《回想》
ポツンと、祭壇に腰を下ろすエルマ
手には、龍の肉を持っている
ただ、それを見つめ続ける
× × × × ×
マーリフ、膝の上のエルマに語り掛ける
微かに眉を寄せ、ピンと人差し指を立てて―
マーリフ「龍人さんのお肉は、決して口にしてはいけませんよ?」
エルマ「どうして?」
マーリフ「恐ろしい病気に罹ってしまうからです。そうしたら、もうパパとママに会えなくなってしまいます」
エルマ「じゃあ食べない!」
マーリフ「ふふっ、いい子です」
マーリフ、エルマの頭を優しく撫でる
ふと、物思いに耽るように虚空を見つめて―
マーリフ「……ただ、肉体が受け入れれば、凄まじい魔力を手に入れることもできる。両種族が力を合わせれば、召喚も魔王討伐も、さらに円滑に進むと思うのですが……」
誰に言うでもなく呟くマーリフ
エルマ、それを不思議そうに見上げる
× × × × ×
小さな手で、ギュッと肉を握る
その間も、腹は不躾に鳴り続ける
そして、それを口元へ
カタカタと震えている
そして、魅惑の塊を口にしようとした直後―
エルマ「……!」
遠くから悲鳴が聞こえた
森の方角からだ
エルマ、立ち上がり教会を後にする
■エルフ族の森・集落《回想》
破壊された人々、倒れる人々
瓦礫や血溜まりが、辺りに散乱している
火の手が上がり、それが森にも広がっている
まるで、夕焼けを一身に受けているかのよう
立ち尽くすエルマ、瞠目する
もはや、それ以外にない
エルマ「パパ……、ママ……」
それに返ってくる声はない
ただ呟きながら、集落を徘徊する
ある時、ふいに何かを蹴る
呆然としながらも、足元に視線を向ける
エリーツと、マーリフだ
エルマ「パパ……、ママ……」
囁くが、それに反応はない
うつ伏せに倒れるマーリフ
開かれたままの瞳は、もう動く気配はない
ただ、エリーツの体はまだ微かに息をしている
エルマ「パパ、パパ……!」
叫び、必死に体を揺する
涙を流すことさえ忘れながら
その時、エルマに影が落ちる
2つの、人型の影だ
??「……君が、神官の子?」
??「……じゃあ、殺さなきゃ」
見上げるエルマ、その先
白いワンピースを着た、2人の少女
無機質な瞳と表情で、エルマを見下ろす
エルマ「あ……、あ……」
声が出ない、体も動かない
2人の少女が、エルマに手をかざす
透明な力が集約し、それが放たれる
その寸前―
エルマ「あ……っ!」
体を突き飛ばされるエルマ
ゴロゴロと地面を転がる
やがて顔を上げると、ハッと目を見開く
こちらに手を伸ばす、エリーツの姿
否、エルマの体を突き飛ばしたのだ
己の命を賭して、娘を守るために
エルマ「パパ……」
エリーツ(声)「エルマ、神官になるんだ……、パパとママと同じ。そして必ず、魔王を滅ぼせ……」
震える声、脳に直接響く
エルマ、思わずエリーツに手を伸ばし―
エルマ「パパ、パp―」
直後、弾ける
エリーツの頭が、粉々に
血飛沫と肉片、地面に飛び散る
震えるエルマの瞳
ジワリと、涙を押し出す
涙が地面に弾ける、その寸前―
ゲスティアナ「あなたは、どうして平気なの……?」
ゲスティアナ、一歩踏み出す
同時に、世界の時が止まる
立ち昇る炎を背に、佇む幼き女神
その紅の瞳が見つめるのは、今のエルマだ
幼き日の自分の隣に立ち、見下ろしている
ゲスティアナ「世界が敵になって、家族も故郷も失って……。それなのにどうしてあなたは、歩いて行けるの……?私だったら、耐えられないよ……」
目を伏せるゲスティアナ
今にも、涙が零れそうな瞳
しかしエルマは、それに毅然と答える
エルマ「……戻れるなら、戻りたい。あの、幸せだった頃に……。でも……、だからこそ、大切な思い出を……、2人の想いを受け継ぎたい。例えそれが、私を永遠に縛り付ける呪詛でも構いません。そしてこの体は、父の言葉と、母の想いがあった証……。私は2人の想いを受け継ぎ、必ず魔王を討伐する。ただ、それだけです」
エルマ、力強く笑って見せる
それに、優しく微笑み返すゲスティアナ
ゲスティアナ「そっか……、あなたは強いんだね。おめでとう、試練は突破したよ」
エルマ「試練……?」
その問いに、答えは返って来ないまま
光の粒子となり、2人は消える
そして、再び世界は動き出す
ポツン、涙が地面に弾ける
それを皮切りに、幼きエルマが口を開く
エルマ「……パパ、ママ、ごめんなさい……。私はもう……、純粋なエルフでは、いられません……」
そう言って、懐から何かを取り出す
肉だ、龍人の肉だ
それを、口に含む
力強く咀嚼し、飲み込む
胃に落ちていく感覚が分かる
直後、心臓が強く高鳴る
凄まじい魔力の奔流が、込み上げてくる
エルマ「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
エルマの絶叫が、森に響き渡る
魔力の波動が地を揺らし、木々を薙ぐ
龍の力に侵され、体の内部が蠢く
それを見つめる、2人の少女
エルマにかざした手から、何かを射出
不可視のそれは、空を穿ちエルマに駆ける
しかし、彼女の腕がそれを容易に退ける
刺々しい鱗の逆立つ腕、手には鋭い爪
牙を蓄えた口から、白い息を吐く
半龍化したエルマ、2人の少女を睨む
直後、ドンッと飛び出し爪を振るう
それを、寸前で避ける少女2人
エルマ、凄まじい速度で急襲する
並のエルフでは、到底目で追えないほど
??「……エルフにこんな力」
??「……あったっけ」
2人の少女は、防戦一方だ
その時、エルマが再び絶叫する
エルマ「がぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!」
森に、空に木霊する
同時に、エルマの体が膨張していく
森に巨大な影を落とし、佇むその姿
完全なる白龍が、2人の少女を見下ろす
それに、少女たちは後退り
??「……さすがにこれは」
??「……部が悪いよね」
??「……でもまた、必ず殺しに来る」
??「……ブラディカ様を殺そうとする人は」
??「……誰だろうと、一人残らず」
そう言い残し、2人の少女は消える
残ったのは、破壊された集落と白龍だけ
咆哮が一つ、虚空に響き渡る
× × × × ×
エルマ、一人佇む
見るも無残な集落を見回す
やがて、スッと手をかざし―
エルマ「『ヴァズスターノヴァ』」
その囁きと共に、森が魔力に包まれる
そして、瞬きの間に修復
いつも通りの集落が、目の前に広がる
以前より、幾分か閑散としているが
エルマ「……」
とある家の壁に凭れる一人のエルフ
傷口を抑え、呻いている
エルマ、それにそっと手をかざし―
エルマ「『イスツェーリエ』」
エルマの手から放たれた魔力、傷口を包む
痛みが緩和されたのか、エルフの表情が和らぐ
それを横目に、エルマは歩き去る
■エルフ族の森・エルマの家・書斎《回想》
ギシッ、扉を開けて中に入る
書斎机と、その周りに山積みの本
木製の椅子には、白いローブがかかっている
それは、エリーツの着ていたものだ
エルマN「稽古など、もう必要ない。途方もない魔力を手に入れた今、やるべきことは、もう決まっていた」
〔回想〕
??「……でもまた、必ず殺しに来る」
??「……ブラディカ様を殺そうとする人は」
??「……誰だろうと、一人残らず」
ローブを手に掛け、バサッと翻す
そして、父親の形見をその背に纏う
立てかけられた杖を手に取る
その表情は、毅然としている
幸せだった頃の面影は、もうない
■ボーテミュイズン〔下界〕・教会〔回想〕
薄暗い聖堂内、その祭壇
杖を天に掲げ、佇むエルマ
力強い詠唱が木霊する
エルマN「何度も、何度も、何度も。成功するまで、杖を掲げ続けた。全ては勇者を召喚し、魔王を打ち滅ぼすため。両親の使命を、私こそが果たすため。そして―」
× × × × ×
エルマ「この世界は、再び魔王の手に堕ちようとしている……。どうか、お救いください……。異界の勇者……、『仮面ライダー』よ……!」
エルマの詠唱が響き渡る
直後、杖が光り凄まじい魔力を放つ
教会を突き抜け、天へと昇る
風が吹き荒び、教会が揺れる
エルマの瞳、その光を反射して輝く
●エルフ族の森・森奥
エルマN「ついに、貴方と出会った」
神殿から出てくるエルマ
それに気づいた勇也が、ふと眉を上げる
勇也「エルマ、お帰り」
エルマ「勇也様」
勇也「ん?」
エルマM「想いは、時を超える……。長い寿命の中で、この旅がただの通過点だとしても、関係ない……」
エルマ「私は、必ず魔王を打ち滅ぼします。だから、着いてきてくださいね」
勇也「ん?お、おぉ。仕事とられないように頑張るわ」
バスティ「それで、女神様はいたのかしら?」
エルマ「はい。火の女神・ゲスティア様が―」
瞬間、神殿の入り口、像が輝く
そこから放たれた何かが、エルマの文献に宿る
目を見開くエルマ、文献を開いて―
エルマ「これは……」
一同もまた、文献を覗き込む
とあるページ、5つの紋様が描かれている
そして中央には、一際大きな紋様
その内の1つ、火の女神の紋様に光が宿る
ゲスティアナ(声)「私の力、貸してあげる」
ふと、脳内に響く声
エルマだけに届いた声
それを愛おしむように微笑んで―
エルマ「ありがとうございます」
瞬間、文献が光を指し示す
緑色の光、森の外へと続いている
勇也「まただ、この光」
ガンテ「すげぇ~」
エルマ「……これは、世界に安寧をもたらす希望の光です」
囁くエルマに、一同の視線が向く
エルマ、毅然とした表情で―
エルマ「行きましょう。女神の力を、集めに」