ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●龍人族の洞窟〔第18階層〕
勇也たち、呆気に取られている
恍惚とした顔でこちらを見つめるアウール
特に、女性陣の体をジロジロと舐め回す
アウール「ぅん、いいねぇ」
バスティ「な、何なのこいつ……」
ピリオネ「私に見惚れるのも、無理はないデス!」
エルマ「……」
カタカタと震えるナーチ
ふと、アウールと目が合ってしまう
獲物を見つけた様にニヤリと笑う女神
ズイとナーチに詰め寄り―
アウール「キミ、かわいいねぇ」
ナーチ「か、かわ……!///」
勇也「あ、ちょろナーチ」
アウール「キミみたいな、まだ誰からの愛にも曝されていない純粋な子がボクは―」
ナーチ「『アベズグラーヴァ』……」
直後、斬撃が空を切り裂く音
剣を構えるナーチが、勇也の背後にいる
いつの間に
アウールと対面していたのに
瞬間、何かがゴトッと地面に落ちる
アウールの首だ
エルマ「アウール様……!?」
戦慄する一同
勇也は、しかし予感的中と言うように―
勇也「あ~、やっちゃった……」
バスティ「ちょ、ちょっとアンタ、何殺してんのよ!?」
ナーチ「お、おと……、男の人怖い……!」
ピリオネ「これ、死んだデス?」
アウール「ははっ、まさか」
近場に転がった女神の首、その口元が動く
瞬間、洞窟内を突風が駆け巡る
思わず顔を背ける一同
次に顔を上げると、アウールがいた
何事もなかったかのように、爽やかに目を細める
アウール「女神に生死の概念なんてないからね。でも、男の人ってのは心外だなぁ。これでも一応“風の女神”だからね。ボクは、歴とした女性さ」
ナーチ「見えない……」
ガンドルム「アウールって言ったか?俺でも、女神の試練を受けられるか?」
アウール「無理だね」
冷ややかに言い放つアウール
それに、ガンドルムは微かに目を剥く
アウール「試練の資格があるのは……、もっと言えば、神殿に足を踏み入れる権利があるのは、勇者とその一行だけだ。キミは違うだろう?」
女神の問いかけに、ガンドルムは答えない
アウール「もう少し早ければ……、いや、キミの召喚した彼が今も生きていれば、それも出来たかもしれないけどね」
ガンドルム「ふんっ、冗談だろ」
アウール「おや?」
ガンドルム「女神の力があんな男に渡れば、それこそ本末転倒だ。むしろ、俺に権利がなくて安心したよ」
アウール「聞き分けのいい子だね」
ガンドルム「俺の役目は済んだ。後は、お前らに任せる」
歩き去るガンドルム
エルマは、その背に声を掛けられないまま
アウール、小さく嘆息し―
アウール「ちょっと怒らせちゃったかな?」
バスティ「仕方ないんじゃない?まぁ、アンタの話し方が鼻につくってのはあるかもしれないけど」
アウール「ふふっ、これもボクという存在の宿命かな」
バスティ「それで、次の試練は誰が受ければいいのかしら?」
勇也「え、何これ指名制?」
バスティ「アタシはまだ遠慮するわ」
ガンテ「はい!俺が行くぜ!」
バッと自信満々に挙手するガンテ
アウール、それにフッと微笑み―
アウール「どうやら、キミにもその権利はないようだね」
ガンテ「何でだよ!?俺だって勇者一行だぜ!?」
アウール「そうだな……、その必要はない、と言った方が正しいかもしれない。君はもう、過去を乗り越えている。当然、それだけが試練ではないけどね」
疑問符を浮かべるガンテ
それを横目に、アウールはナーチを見やる
視線が合った瞬間、大きく肩を跳ねさせる
アウール「はは、キミは無理そうかな」
吟味するアウール
次に視線が合ったのは―
ピリオネ「ワタシデスか?」
アウール「あぁ、君がいい。行こうか、ピリオネ」
紳士に手を差し伸べるアウール
それに、ピリオネは微かに目を細める
●風の女神の神殿・通路
石造りの内部は薄暗い
道標となる燭台も見当たらない
ただ、僅かな風がピリオネの背を撫でるだけ
ピリオネの先を歩くアウール
軽快な足取りのその背に―
ピリオネ「ワタシを指名するとはお目が高いデスが、何故デス?」
アウール「キミのことを、もっと知りたいと思ってね」
ピリオネ「ワタシを口説いているデスか?」
アウール「ま、そんなところかな。キミ、何か面白いことを隠していそうだと思ってね」
ピリオネ「はっ、生憎デスが、岩臭い女には興味ないデス」
アウール「そういうキミだって、ずっと森の中に引きこもっていただろう?それとも、マキナ族はそういう習性でもあるのかな?」
アウールの軽口が反響する
それに、ピリオネがギリッと歯を鳴らし―
ピリオネ「オマエ、口を慎めデス……!」
アウール「ほら、すぐ怒るんだから」
ピリオネ「誰を侮辱しても構わないデスが、ワタシにだけは許さないデス!」
アウール「……ボクの神殿に来る途中、周りの視線が気になったりしなかったかい?」
ピリオネ「ワタシに質問するなデス!」
アウール「いいから、答えてよ」
ピリオネ「……確かに、軽蔑するような視線は感じたデス。デスが、ワタシたち一行の大半は下賤種。どの面下げて高貴種の住処に足を踏み入れているんだと言われても仕方ないデス」
アウール「そういうところだよ」
ピリオネ「何デス?」
アウール「ボクは、キミのその性格を指摘してあげているんだ。その集められた忌避の視線が、それが事実か否かに関わらず、あわや自分に向けられたものだったかもとは、キミは思わないのかい?」
ピリオネ「どうしてワタシが、そんな風に見られなければいけないのデス?周りに格下を引き連れていれば、ワタシの高貴さがより際立つのも必然デス」
アウール「傲慢だね、キミは」
ピリオネ「……これ以上口を開けば、この神殿諸共―」
アウール「このままじゃ、エルマちゃんに嫌われちゃうよ?」
ハッと目を見開くピリオネ
思わず、言葉に詰まる
未だ、神殿内通路を歩く2人
最奥は、まだ遥か先だ
アウール「キミのお気に入りだもんね。でも、彼女だけじゃない。キミのその、性悪な言動が続く限り、キミは常に彼らから見放される可能性を持ち続けている。これまで、どの種族にも認知されてこなかったキミが、最も恐れていることだ」
ピリオネ「……それがワタシの試練、デスか?」
アウール「風を起こそう。もしもの世界に、キミを連れて行ってあげる」
バッと腕を薙ぐアウール
直後、空気が震える
背後から、何かが迫る気配
突風が通路を、ピリオネの側を駆ける
バサバサ、ピリオネの髪がひしめく
■魔王城・謁見の間
ブラディカ「……儚、田……、勇、也……」
ブラディカ、顔面から倒れる
もう動かない
傍ら、肩で息をするヴァラー
変身解除、鎧を脱ぐ
震える手を見やる
勇也「……」
段々と、胸に熱いものが込み上げてくる
喉の奥から激情が沸き上がる
全身が疼き、体に力が入る
やがて、深く息を吸い込んで、吠える
勇也「やっだぁーっ!!!」
同時に、バッと抱き着いてくる一行
満面の笑みを浮かべる者
感動に涙を流す者
不安と安堵の混在に眉を顰める者
思い思いの感情を、その表情に宿す
勇也「あはっ、みんな、めっちゃ元気じゃん……!」
バスティ「凄いわっ!アタシたち、本当に魔王を倒したのよっ!この世界を救ったのよっ!」
ガンテ「あぁ、俺たちが救世主だぜ!」
ナーチ「よがった……、よがった、でしゅ……」
ピリオネ「いや~、今まで多くの勇者を見てきたデスが、オマエたちがやるとは思ってなかったデス!」
直後、空気がシンと静まり返る
歓声や啜り泣きはどこへやら
一同の冷たい視線が、ピリオネに集約する
ピリオネ「な、何デス……?」
ガンテ「お前さ、なんでそんな言い方しかできねぇんだ?」
勇也「俺、頑張ったんだけど……、うん、ちょっと、ね……」
ピリオネ「な、何を今更言ってるデス……?これがワタシじゃないデスか!」
ナーチ「正直、嫌でしゅ……」
ピリオネ「そ、そんなこと今はどうでもいいデス!あの魔王を討伐したデス!ワタシたちの勝利を祝うべきデス!」
バスティ「“アタシたち”、じゃないでしょ?」
ピリオネ「え?」
バスティ「“オマエたち”、よね?」
ピリオネ「な、何言って―」
勇也「だってピリオネ、言ってたじゃん。ピリオネは、俺たちの仲間じゃないんでしょ?」
〔回想〕
ピリオネ「高貴種が下賤種を支配する。獣人族は、奴隷であることを強いられている。この世界が始まって以来、種族間に刷り込まれた覆しようのない常識デス。オマエらが勇者一行でも、こればかりは手の出しようがないデス」
ゴクリ、息をのむピリオネ
伝うはずのない汗を頬に感じる
そして、エルマに縋るように―
ピリオネ「エ、エルマ、オマエから何とか言うデス……!オマエ、あの時言ってたデス……!」
〔回想〕
エルマ「私は、ピリオネ様に勇者一行の一員になっていただきたいと思っています」
エルマを強く見つめるピリオネ
エルマ、しかしその視線に首を傾げて―
エルマ「貴方、誰ですか……?」
ヒュッと息をのむ
瞠目、言葉が出てこない
震える唇、掠れる吐息
直後、ままならない指先でポケットを弄り―
ピリオネ「こんな世界、ぶっ壊してやるデスッ!魔王も勇者も世界樹も関係ないデスッ!ワタシのいない世界に、価値などないデスッ!」
唾を飛ばし、必死に吠える
ひん剥いた目から、ドス黒いオイルを流す
やがて、何かを取り出そうとする寸前―
アウール(声)「どうどう、落ち着いて」
脳内に響く声
そして、再び風が吹き荒ぶ
●風の女神の神殿・祭壇
ハッと目を開くピリオネ
祭壇に腰かけるアウールが、ニコリと笑う
アウール「おかえり、どうだった?」
ピリオネ「オマエ、やってくれたデス……」
アウール「可能性の世界。そして今後、キミがキミのままでいればいつか訪れる未来だ」
その言葉に、ピリオネは黙り込む
何かを言いたげに、唇が動く
しかし、いつまで経っても言葉は出ない
やがて、それを察したアウールが―
アウール「助けて欲しいかい?」
ピリオネ「ど、どうすればいいデス……!?」
アウール「簡単なことさ。ボクが伝授してあげるよ。今後も彼らと、仲良くやっていくための方法をね」
悪戯にニヤリと笑うアウール
それを疑いもしないピリオネ
ただ、期待と切望に目を見張る
●龍人族の洞窟〔第18階層〕
神殿前、待機する勇也たち
何故か追いかけ合うバスティとガンテ
欠伸をする勇也の隣、ナーチは読書中
ピリオネは杖を立て、ただ毅然と待つ
その時、神殿から足音が響いてくる
出てきたのは、ピリオネだ
勇也「ピリオネ、おかえり」
エルマ「どうでしたか?」
その問いに、ピリオネは答えない
ただジッと俯き、ボソッと―
ピリオネ「ラーニング完了、デス……」
その姿に、首を傾げる勇也たち
やがてピリオネ、ハッと息を吸い込み―
ピリオネ「ピリちゃん、みんなのこと大好きピリ♡これからも、一緒に冒険したいピリ♡だからピリちゃんのこと、嫌いにならないでね♡ラブチュッチュ♡」
瞳を潤ませ、投げキスを披露
作られた可愛さは、指先まで洗練されている
絶対的なあざとさが、そこにはあった
瞬く間に、空気は冷え込む
もしや、岩肌から外気が漏れているのか
やがて沈黙を破ったのは、ガンテの吹き出しだ
ガンテ「ぶははははっ!大好きピリ、だって、ぶははははっ!」
勇也「どうして笑うんだい?www彼女の可愛さは―www」
一同の反応に、ピリオネは口をあんぐり
予想していたものと違ったようだ
ピリオネ、バッと神殿に振り返り―
ピリオネ「おい、オマエが素直になればいいって言ったから、その通りやったデスのに、これはどういう―」
アウール「あははっ、あははははっ!」
涙を流して破顔するアウール
煽るようにピリオネを指さして―
アウール「まさか、本当にやるなんて……!やっぱり、キミは面白いなぁ……!君を選んでよかったよ……!」
ピリオネ「最初からこれが狙いだったデスか!?」
勇也「ラーニング完了www」
ピリオネ「殺すデス糞陰キャ!」
アウール「ごめんごめん、ボクなりに君を気遣った結果さ。試練は突破でいいよ」
バスティ「こんな適当でいいのかしら……?」
アウール「良いものを見せてもらったお礼だ。ボクの力、貸してあげるよ」
神殿の入り口、像が光る
そこから放たれた何かが、文献に宿る
捲られる、紋様の描かれたページ
風の女神の紋様が、翡翠色に輝く
エルマ「女神の力……」
アウール「あぁ。正確には、創世力だ」
エルマ「創世力……?」
アウール「忘れちゃった?君が自分で言ってたよ」
〔回想〕
エルマ「はい。この世界は、魔力、魔機力、創世力、闇力、そして勇力。以上、5つの力が拮抗して存在しています」
エルマ「これが、創世力だったのですね……」
アウール「その力があれば、この世界から魔王を完全に葬り去ることができる……、っていうのは些か過小評価かな。文字通り、世界を創った力だからね。その程度のことは容易いさ」
ピリオネ「信用に値しないデスッ」
アウール「まぁまぁ、そう言わずに。ゲスティアナの力は、もう持っているんだね」
エルマ「は、はい」
アウール「なら、全て集めるといいよ。全ての神殿を巡って」
バスティ「やっぱり、そうなるわよね」
アウール、神殿の外壁に寄りかかり佇む
キザに片目を閉じて見せて―
アウール「魔王討伐に困っているなら、ボクたちがキミたちの、最後の希望になってあげるよ☆」