ヴァル・フ・ドルゴーム~チートスキル“仮面ライダー”とか異世界召喚3回目とかはどうでもよくて、俺みたいな陰キャでも勇者になれますか?~ 作:であであ
●ストヴァーニェ〔上界〕・宿屋
寝室、部屋の中央に1つのベッド
仰向けのナーチに、勇也が覆い被さる
部屋を淫靡に彩る、淡い色の照明
カタカタ、ベッドに突っ張る腕が震える
汗が頬を伝って、目の前の頬に落ちる
ナーチの唇が、静かに動く
ナーチ「勇也しゃんなら、平気でしゅ……」
ドキドキ、心臓が高鳴る
沸騰したように、脳内が熱い
視界が摩天楼のようにぼやける
勇也M「あ……、トラウm―」
瞬間、汗ばんだ手がベッドから滑る
体勢を崩し、ナーチへと落ちて行く
彼女の睫毛は、こんなにも長かっt—
●ボーテミュイズン〔上界〕・ヴァーガラー崖路
切り立った崖
その僅かな足場を進む一行
勇也「……っ!」
岩の削れる音で、心臓を吐き出しそう
バスティだけは余裕の表情を見せているが
崖下は霧がかかっていて先は見えない
しかし、落ちれば次はないことだけは分かる
眼下を飛ぶ翼竜の群れが、一行を誘っている
ぼんやりとした思考の中、そんなこt—
ピリオネ「ワッ!」
勇也「あっ」
ガクン、膝が崩れる
足場から足が外れる
勇也、真っ逆さまに落ちて行く
まるでスローモーション、何人かと目が合う
しかし、別れの言葉は出ないまま
『ヴァル・フ・ドルゴーム(略』《完》
バスティ「嘘でしょ?」
× × × × ×
切り立った岩の坂道
それを、懸命に登る勇也一行
頂上から、細かな石の塊が転がってくる
これでさえ、当たればひとたまりもない
ズボンを押さえ、足を引きずり歩く勇也
股間には、大きなシミができている
勇也「ねぇ……、替えのズボンない?」
エルマ「我慢してください☆」
ピリオネ「その歳でお漏らしとは、ワタシだったら恥ずかしくて崖下で一生暮らすデ~ス」
勇也「……ピリオネ、次の宿屋で食事抜きね」
ピリオネ「人の摂取するそれなど、ワタシには必要ないデス!その分金が浮くことを、ワタシに感謝しながら味わうがいいデス!」
バスティ「アンタも懲りないわね。散々笑い者にされたっていうのに」
ピリオネ「思い出させるなデス!あぁ、悍ましいデス……。憂さ晴らししないとヤッてられないデス!」
勇也「俺関係ないよねぇ!?」
バスティ「っていうか、いくら歩くって言ってもここまでとは思わなかったわよ」
ガンテ「情けねぇなぁ、ねーちゃん。後で尻尾揉んでやんから」
バスティ「き、気安く触らないでよねっ!///」
エルマ「文献の光がこの山、ヴァーガラー山頂を指しています。きっとそこに、新たな女神の神殿があるはずです」
文献から放たれる黄色い光
それが、遥か頂上まで伸びている
バスティ「これで神殿なかったら、その本引き裂いてやるわ」
ガンテ「ナーチは楽そうだな」
振り返るガンテ
ナーチ、ズリズリと蛇の尾で滑り登っている
片手間に読書をするほどの余裕
ナーチ「ち、ちょっと擦れて痛いでしゅ……」
勇也「はい、俺名案思いつきました!」
唐突に手を上げる勇也
股間のシミはもう隠さなくていいのか
勇也「女神の力を使おう!」
エルマ「え、ここでですか?」
勇也「アウールの、風の創世力!上手く行けば、ビューンって頂上まで連れてってくれるんじゃない?」
ガンテ「にーちゃん、天才か!」
勇也「ふっ、これぞ勇者の頭脳さ」
鼻高に胸を張る勇也、ヴァラーに変身
剣を高々と掲げて―
ヴァラー「風の女神よ、俺に力を!」
その言葉に呼応し、文献が翡翠色に輝く
やがて、剣先から凄まじい竜巻が発生
ガンテ「にーちゃん、やっちまえ!」
ヴァラー「うおぉぉっ!」
ヴァラー、剣を横に薙ぎ払う
凄まじい暴風が周囲を埋め尽くす
そして、飛んでいく
ヴァラーだけ
頂上とは、反対方向に
エルマ「……」
バスティ「……」
ガンテ「……」
ナーチ「……」
ピリオネ「……www」
ガンテ「……助けに行くか?」
エルマ「いいえ、先に進みましょう」
バスティ「そうね」
遥か彼方の星となったヴァラー
一行、それには目もくれず歩を進める
●ボーテミュイズン〔上界〕・ヴァーガラー山頂
坂道が終わり、平たい場所に着いた
そこに、女神の姿が刻まれた石碑を見つける
バスティ「やっと着いた~!」
エルマ「これですね」
エルマ、石碑に杖を構えて―
エルマ「『ヴィプスク』」
杖の球体に、魔力の奔流が蠢く
それが、波を纏って石碑に注がれる
やがて、魔力で満たされたそれが光り輝く
そして、大きな地鳴りが鳴る
一行が思わずよろけるほど、山全体が振動
石造りの構造物が、その全容を現す
ピリオネ「今度は変なヤツいないデスよね……?」
エルマ「さて、どなたが神殿に入りますか?」
バスティ「アタシはパス~」
その時、脳内に声が響き渡る
??(声)「おいでぇ、私のかわいい子ぉ……」
その声が届いたのはナーチだ
脳内に反響する、不思議な感覚
嫌な気分ではない、甘く沁み込むような
気付けば、口を開いていた
ナーチ「……はい」
ナーチ、フラフラと神殿へ歩いていく
その背中、通路の暗闇へと消えていく
ピリオネ「オマエが行くデス?」
バスティ「珍しくやる気ね」
ガンテ「あんま喋んねぇし、挽回したかったんじゃね?」
■ボーテミュイズン・ナーチの家
ナーチM「何だろう、これ……。あったかくて、懐かしい……」
??(声)「ナーチ……、ナーチ……」
ナーチM「この声、誰……?ずっと昔、どこかで……」
ゆっくりと目を開けるナーチ
ぼんやりと、光が入り込んでくる
??(声)「ナーチ、もう少しでご飯できるよ」
ナーチ「は~い……」
体を起こす
木製の長椅子の上だ
トントン、小気味よい音が鼓膜に響く
目を向けると、そこには女性の後ろ姿
ナーチと同じ、蛇の尾だ
ナーチ「……ママ」
× × × × ×
汚く、廃れた路地裏
地面は砂と砂利で満ちている
地べたに座る、何人かのラミア族
僅かばかりの食材を広げている
そこにやってくる、ナーチと母
母、その店主と会話し始める
朗らかに談笑する2人
話し始めると、中々終わらない
それを、ナーチはただ呆然と眺める
× × × × ×
ポツンと、井戸がある
そこから汲んだ水で、母が衣服を洗う
手洗いだ、冷たい水
水に浸かった手が、見る見る赤くなっていく
だが微笑みは崩さない、嫌な顔一つしない
その姿を、ナーチはただ見つめるだけ
× × × × ×
夜、食卓
家の扉が開き、男が入ってくる
ナーチの父だ
母、父とキスを交わし食卓へ促す
テーブルには、細やかな食事が並ぶ
決して、豪勢なものではない
それに、2人は舌鼓を打つ
食べながら、談笑もしている
暖かな空気が食卓に充満する
その光景を、ナーチはただ眺めるだけ
× × × × ×
寝室、ベッドの上で母と父がまぐわう
ギシギシ、木製のベッドが揺れる
その傍らに、呆然と立ち尽くすナーチ
ジッと、2人の行為を見つめている
その頬は、僅かに紅潮しているか
やがて、ベッドが一際大きく鳴り、そして静まる
部屋の僅かな明かりが消え、眠りにつく母と父
そこで、声が響いてくる
??(声)「うふっ、ちょっと見せすぎちゃったかしらぁ」
ナーチ「だ、誰……?」
アフィーナ(声)「私は雷の女神・アフィーナぁ」
ナーチ「女神、様……」
アフィーナ(声)「これが、普通の女の子ぉ」
ナーチ「え?」
アフィーナ(声)「あなたの求める“普通”よぉ。あなたにぃ、できるかしらぁ?」
ふと俯くナーチ
力なく首を振り―
ナーチ「……出来ない、でしゅ」
アフィーナ(声)「……そぉ。なら―」
ハッと顔を上げるナーチ
その瞳には、一筋の希望の光
●ボーテミュイズン〔上界〕・ヴァーガラー山頂
岩塊に腰かける一行
エルマだけは立ったまま
エルマ「ナーチ、遅いですね……」
ガンテ「にーちゃんもな」
勇也「ただいま」
ガンテ「どわぁっ!」
飛び跳ねるガンテ
その背後に勇也の姿、いつの間に
服は土に汚れ、木の葉が散乱している
勇也、髪をバサッと振り払いながら―
勇也「いや~、人生ゲームで振り出しに戻された気分。そのまま人生卒業しなくてよかったよ」
バスティ「何でちょっと爽やかなのよ」
ピリオネ「あんなヤツの力なんて使うべきじゃなかったデス!天邪鬼ヤロウは迷惑デス!」
勇也M「ピリオネがそれ言う?」
その時、神殿からナーチが出てくる
バスティ「ちょうど出てきたじゃない」
勇也「あ、今回はナーチだったんだ」
エルマ「おかえりなさい、ナーチ」
しかし、ナーチは俯いたまま
何も言わず、ただモジモジとしている
ガンテ「なんかあったのか?」
ピリオネ「また変なヤツに絡まれたに違いないデス!」
ナーチ「……ってくだしゃい」
勇也「え?」
ナーチ、バッと顔を上げる
赤い顔だ、しかし決意したように—
ナーチ「1日だけ、私の恋人になってくだしゃい!」
勇也「……ほえ?」
そんな、惚けた声しか出てこなかった